11.二人きりの夜
城の裏山は小さな虫の音が聞こえる位で、
寝静まっていた。
アミアとリンリは鎧を降り、布を敷いて、
昔のように二人してその上に寄り添って座る。
夜空は晴れており、
瞬く星と月明かりが2人を照らしていた。
「なんだか懐かしいね」
「そうだな。
本当に二人きりになるのは森で蜘蛛を退治して以来か」
二人は言葉少なに昔を思い出す。
アミアの頭にあったごちゃごちゃした思いも、
消えていた。
今はただ、隣の体温が温かく、愛おしい。
「何だかんだ言っても、
あたしもリンリもまだまだ子供なんだな」
「私は大人になったなんて、
思った事無かったよ」
ここ数ヶ月の経験が色々あり過ぎて、
一気に歳を取った気がしたが、
アミアはまだ16歳の少女で、
見た目はもっと子供に見られる。
頼られ、任され、動いているうちに、
そんな事を忘れてしまっていた。
「アミアちゃんは変わらず可愛いしね」
「・・・少しは気にしてるんだ。
見た目に関してはリンリに勝てる要素無いし」
「そんな事無いよ。
綺麗な髪も、大きな目も、可愛い顔も、
私には無いものだもん。
私の方が嫉妬してた位だよ」
そう言ってリンリはアミアの金髪を撫でる。
「結構伸びたよね。
また切り揃えてあげる。
背中まで伸ばしたら、
結構な美少女だと思うんだけどなあ」
「さすがにそれは鬱陶しいかな。
あたしはリンリの髪も好きだぞ」
そう言ってリンリの長い藍色の髪に手を伸ばす。
サラサラとして触っていると心地いい。
「あのね・・・、
私はもう、アミアちゃんのモノだよ。
心身ともに貰って欲しいかな」
「分かった。
・・・キスするぞ」
「うん・・・」
リンリは目を瞑る。
アミアはリンリの髪を掻き分け、
唇を近付け、そっと口付けした。
「んん・・・」
やがて、どちらともなく口を開き、
舌を絡ませる。
アミアはただ、リンリの体温が熱く、
狂おしい。
しばらくお互いの唾液を交換し、
そして顔を離した。
「脱いじゃおうか」
「そうだな」
ローブを脱ぎ、その下のスーツも脱ぐ。
月光に照らされるリンリの裸体は美しく、
アミアの心を揺さぶった。
「触っていいか?」
「うん、どこでも、好きにして」
アミアはリンリを抱き締め、
首筋、手首、鎖骨とあらゆる箇所にキスをし、
その身体を味わう。
「やっぱりアミアちゃんは、
そういう事したかったんだ・・・」
「リンリが可愛いから仕方がないだろ」
アミアは本当にリンリが愛おしくてしょうがなかった。
だから自分の所有物であると印を付け、
絆を結ぶ。
途中からリンリもアミアの身体にキスを始め、
二人は強く抱き合い、溶け合っていった。
「もっと早くこうすればよかった」
体力の限り愛し合い、疲れ果てた二人は、
夜空の下、毛布の中で抱き合い、
寝転がっていた。
「そうだね。
私はアミアちゃんが望んだなら、
喜んで受け入れたのに」
リンリの笑顔が眩しい。
「分かったと思うけど、
あたしは面倒くさい奴なんだよ。
自分の物じゃないと、手を出せないんだ」
「でも、浮気しなそうで、私は安心かな。
もちろん私も浮気なんてしないからね」
「分かってるよ。
それに、あたし無しじゃ、
生きられないようにしてやる」
「ふふっ、もうなってるよ」
そして二人して笑い合う。
二人は裸のままで抱き合って寝て、
外で朝日を浴びたのだった。
「帰ってきたか」
朝、誰もいない格納庫に2人が戻ってくると、
ミルミが姿を現した。
「ああ、おはよう」
「ミルミちゃん、おはよう」
鎧を降りて一応挨拶をする。
「大体エリエから聞いておる。
で、今後の予定は決まってないんじゃろ?
少しわらわに付き合わんか?」
「神様のところか?」
「そうじゃ。
お主らとて知っておきたいじゃろう?」
「そうだな。
国の今後は任せるとしても、
意図は知っておきたいな」
「私はアミアちゃんに付いてくから」
「なら決まりじゃな。
出発は今夜じゃ。
エリエも付いてくる。
戻ってくるつもりが無いなら、
城の奴らに別れの挨拶でもしておくんじゃな」
そう言ってミルミは消えていった。
「どうする?」
「全員じゃなくても、
ここを離れる事は話そうと思う」
「じゃあアミアちゃんに付いてくね」
「折角だから最後の入浴をするか」
「うん、賛成!」
そして誰もいない大浴場に二人で入った。
鎧に乗ってきたので、匂いや汚れは無い筈だが、
少し前まで二人で裸で抱き合っていたので、
そのまま他人の前に出るのが、
少しだけ恥ずかしかったのもある。
「トレスト村の温泉も二人で入ったよね」
リンリがアミアの身体を洗いながら言う。
以前のような気恥ずかしさは減ったが、
それでも身体を洗われるのはむず痒い。
「そうだな、いい村だったよな」
あれぐらい小さな村で、
静かに暮らせれば幸せなんだと考える。
今この世界にそんな場所があるかは分からないが、
それを探してみるのもいいかもしれない。
「じゃあ、次はアミアちゃん洗って」
「分かった」
やはり夜空で見るのと室内で見るのでは、
リンリの見え方が違う。
程よい肉感に立派な胸、
自分に無いものは羨ましく、愛おしい。
「やっぱりアミアちゃんって、
おっぱい好きだよね」
「リンリのだからな」
そう言いながら強く揉んでみる。
「これからはアミアちゃんだけのモノだから。
好きにしていいんだからね」
リンリはやや吐息を荒くして言う。
「ああ、好きにするよ」
そう言って背後から唇を奪う。
これから何度も何度もキスしてやろう。
そして、誰にも渡さない。
絶対に。
アミアは心の中で誓った。
風呂を出たタイミングで朝食になり、
その後、忙しいだろうクルクとナナを捕まえた。
「二人に話がある。
少しだけ時間をくれ」
「知ってましたよ。
ナナが予言していたので」
さすが大巫女だな、と感じる。
そして、この二人なら大丈夫だ、とも。
応接室に移動し、アミアとリンリ、
クルクとナナの4人だけで話をした。
「以前のクルクの誘いの返事だが、
あたしもリンリも回答は『いいえ』だ。
済まないがあの件は引き受けられない。
そして、今夜あたし達はここを出る」
「そうですか。
別に重要な役目に付かなくても、
ここに居て貰っていいんですよ。
それでも、駄目ですか?」
「ああ、これは決めた事だ。
あたし達は力を持ち過ぎた。
何もしないと言っても、影響が大き過ぎる。
そしてここにいれば、
黙って見ているなんて出来ないからな」
「わたくしの予言の通りです。
大丈夫、エリエも含め、
あなた達のここでの役目は本日で終わりです。
クルクとはそれを踏まえて今後の計画を立て、
進めておりました。
あなた達は十分わたくし達の為に、
尽くしてくれました。
本当はお返ししたいぐらいです」
ナナの予言がどこまで本当かは分からない。
ただ、そう言ってくれる事で、
ここを離れる罪悪感は多少なりとも薄れる。
「ナナからは大まかには聞いていました。
ただ、その予言が外れる事を願ってもいました。
本当に残念です。
この間の救出作戦で、
元王国騎士のイスイが戻って来たので、
騎士団を纏める人材も増えつつあります。
本当はアミアとリンリに任せたかったのですが、
こちらは大丈夫です。
あなた達のやりたいように生きて下さい」
「クルク、ナナさん、ありがとう。
あたしは巫女もいるし、
シルシとニギニがいるから大丈夫だと思ってる。
ドドもいるしな。
ここが平和になったら遊びに行くよ」
「クルクさん、ナナさん、ありがとうございます。
西側の人達の事も、お願いします」
「はい、もちろんです。
西側も含めて新たな国にするつもりです」
二人はこれから本当に大変だとは思う。
ただ、この二人なら大丈夫だろう。
「再度、トワの国の大巫女として、
お礼の言葉を言わせて下さい。
わたくし達を助けて下さり、
本当にありがとうございました。
そして、エリエの事もありがとうございます。
あの子もようやく本当の幸せを求めて、
旅立つ事が出来ます」
「それじゃあ、二人とも忙しいと思うし、
これで。
頑張ってくれ」
「クルクさんもナナさんと幸せにね」
「知ってたのですか?」
ここに来てナナが頬を染め、
狼狽える姿が初めて見られた。
「なんとなく。
ね、アミアちゃん」
「あたしはそこまでの仲かは知らないけど、
仲良いんだろうな、とは思ってたよ」
「私達の事はいいのです。
今はルナの国が大事ですし」
「でも、二人が仲良ければ、
更にいい国になるんじゃないか?
まさにシンボルになるし」
「公表はしないつもりです。
でも、本当に平和が訪れたら、
二人で隠居しようとは言ってます」
「クルク、そこまで言わないで」
「なんか、お邪魔みたいだし、
本当にこれで」
「それじゃあ、お元気で」
「はい、二人こそお幸せに」
「二人の旅路が平穏である事を祈っております」
アミア達は笑顔で部屋を出ていった。
訓練の休憩時間にアミア達は元候補生の4人を呼び出した。
正直何も言わずに行こうかとも思ったが、
さすがに酷かと考え直し、話す事にした。
「あたしとリンリは今夜、ここを発つ。
戻ってくる予定は無い」
訓練場の片隅で突然そんなことを告げられ、
4人ともショックを隠せない。
「そんな、二人ともなんて。
敵が来たらどうすれば・・・」
「他の騎士団のメンバーもいるし、
巫女も、魔術師もドドもいる。
それにニギニだってもう先輩で、
ここのリーダーだろ。
お前は辛い所を乗り越えて強くなった。
これからも強くなる事をあたしは保障する」
「ニギニちゃんは私より周りが見えてるし、
指揮官としてはアミアちゃんに次ぐと思ってるよ。
だから、もっと自信を持って」
「・・・分かりました。
わたしなりに頑張ってみます」
ニギニはリーダーの顔になった。
4人の中で一番成長したのはニギニだろう。
「本当に戻ってこないのか?」
「二人がいないと寂しいです」
「トリリトとトルルトはいいコンビだ。
お互いを守っていけば、誰にも負けない。
今後もこの国を守る一番の柱だろう」
アミアは双子の頭を撫でてやる。
互いを支え合える絆は大きな武器になるだろう。
「・・・リンリ。
一度だけ、いい?」
「うん、1回ならいいよ」
「・・・じゃあ、アミア、来て」
アミアはシルシのそばに行く。
するとシルシは顔を近付け、唇が触れ合った。
リンリとは違う、儚く微かな感触。
アミアは温かさと共に、罪悪感を感じた。
でも、後悔は無い。
「・・・幸せになって。
ボクも頑張るから」
「ああ、お前は一番強いから大丈夫だ。
あの子も守ってやれよ」
「・・・うん」
遠くから赤毛の少女がシルシを見つめていた。
シルシならもうすぐ覚醒まで達して、
やがては、自分すら追い抜くとアミアは思っている。
だから、この4人なら大丈夫だと思えた。
「みんな元気でね。
大好きだったよ」
「これからも大変な事があるかもしれない。
でも、4人で力を合わせ、
新しい候補生も育っていけば、
きっと大丈夫だ。
頑張れよ」
「「はい」」
アミアとリンリは次の世代に国を託し、
訓練場を後にした。




