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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第6部 決意
76/82

10.対決

(テルテちゃん、

本当に出てっちゃったんだなあ)


リンリは訓練場を眺めながら、ボーっと考えていた。

一夜明け、町は建国ムードを残しつつも動き始め、

城では新たな候補生の受け入れを始めていた。

クルクはアミア達からの返事を前に、

新たな鎧を見つけた事を公表し、

町から16歳以下の少女を募集していた。

魔法での適合者確認はクルク自らやるので、

アミアとリンリはとりあえず呼ばれた形で、

細かい作業は元候補生達がやっている。

予想よりも大勢の少女達が集まり、

中には褐色肌の東の国の少女も混ざっていた。


「完全に適合者のみを候補生とするんだな。

それでも既に10人以上もいるんだ」


アミアは思ったよりちゃんと見ているみたいだ。

昨日の件はまだ何も言ってきていないので、

多分話があるのは夜だろう。


「あ、あの子、シルシちゃんに懐いてた子だ。

適合者だったんだね。

それならシルシちゃんと一緒に居られる」


既に候補生に選ばれた子の中に、

救出作戦の帰りで拾った子を見つけた。

シルシもアミアの事を好きだったと思ったが、

最近はあまり一緒にいるのを見かけない。

何かあったのかな、ともリンリは思ったが、

その話題を自分が振るのも変だと思い、

何も聞いていなかった。


「一緒に戦場に出れるのと、

城で待っているのだったら、

どっちが幸せなんだろうな」


「私はずっと一緒の方がいいと思っちゃうな。

待ってるなんて辛そうだもん」


自分の考え方はおかしいのかな、

と、たまにリンリは考える。

戦場に慣れ、戦う事に慣れ、

強大な力に慣れてしまった。

超越者と戦った時は恐怖を感じたが、

ミルミにも慣れ、協力すれば勝てる事も分かった。

正直、アミアの言う、このままだと危険、

という考えがしっくりこないのだ。

多分、自分の方がおかしいのだろう。


「シルシなら、あの子を守ってあげられるかもな。

そうなればいいと思う」


「そうだね」


新たな候補生の子達を眺め、

昔の自分を少し思い出す。

聖教団の訓練は厳しく、

泣き出したり逃げ出したりする子もいた。

教官は決して甘やかさず、出来ない子は見捨てられ、

落ちこぼれの烙印を押された。

リンリは必死に努力しなくても、

それなりにこなし、鎧との同化が一番だったので、

聖騎士団に何とか残っていた。

救世主にしようという意図かは知らないが、

楽しい思い出は無かった。

だから、候補生の子達には、

何かいい事があればいいな、と思った。


「リンリ、呼ばれてるぞ」


「あ、うん、分かった」


どうやら集まった子の確認が終わったようで、

アミア達もクルクの元へと呼ばれていた。

アミアに続いてリンリも走っていく。



結局昼間は新しい候補生達のデータ取りや、

部屋割りなどの雑務に使われ、

リンリが部屋に戻ってきたのは夜だった。

しばらくくつろいでいると、

ドアをノックする音が聞こえる。


「はい」


ドアを開けると、予想通りアミアが立っていた。


「話がある。

ちょっと来て欲しい」


そう言ってリンリの返事も聞かぬまま、

黙って手を引っ張っていく。


「え・・・」


リンリはアミアの気迫に飲まれて、

そのまま引っ張られる。


(怒ってるわけじゃないよね。

・・・ちょっと強引なのもいいかな)


そんな事を考えていると、

城のバルコニーに着いていた。

人は誰もおらず、空には星が輝いている。


「リンリ、もう一度聞いて欲しい」


「うん」


「あたしはリンリの事が好きだ。

大事にしたい。

このままここにいるのは危険だ。

一緒に逃げてくれ」


アミアの表情は真剣だった。

アミアの願いだ、

聞き入れてあげたいとも思う。

でも、素直に受け入れる程、

リンリも自分を曲げられない。


「ちゃんとした理由があるんだよね?」


「ああ、説明する」


そしてアミアが話したのは、

ややこしく、信じ難い話だった。

話の内容では本当の黒幕が神様かどうかも分からず、

ただ責任を擦り付けてるようにも思える。


「疑いたくは無いけど、

ミルミちゃんに騙されてない?」


リンリはミルミの一連の行動を、

個人的には快く思っていなかった。

特にドゼビムの死は納得いかない。


「もちろんあたしも最初に疑ったさ。

でも、ミルミには出来ない事が起きてるし、

あたし自身も確認して、敵があえて手加減してると、

はっきりと分かったんだ。

あたしはそんなものに、

英雄に仕立て上げられるのは嫌だ。

自分の道は自分で切り開きたい」


「でも、絶対に勝てる敵しか出ないなら、

ここにいる方が安全じゃないかな。

みんなも守れるし、最終的には平和になるんでしょ?」


「いや、敵の意図が完全に分からないんだから、

そうとも限らない。

それに平和になるのがいつなのかは分からないし、

あたし達が鎧に乗れなくなるまで、

延々と戦わされるだけだと思う。

二十歳を過ぎて、鎧に乗れなくなれば、

あたし達の価値なんて市民と変わらなくなる」


「そうなったら、

候補生の子達に守って貰えばいいんじゃ。

それに乗れなくなるまで戦ったなら、

国で保護して貰えるよ。

前にクルクさんが言ってたよね。

権利とか褒美とか。

私はその方がいいと思う」


リンリにはどうしても、アミアがミルミに釣られて、

ここを抜け出す理由を作ってるとしか思えなかった。


「あたしは嫌だ。

邪教団の町のオクオに会っただろ。

あいつは鎧に乗れなくなっても生き延びる為に、

新しい部隊の子達に媚を売り、

金をバラまき、要職についた。

そんなまでして生かして欲しいとは思わない」


「それは環境が悪かったって、

アミアちゃんも分かってたよね。

それに私はオクオさんも後悔してて、

そんなに悪い人だと思えなかった。

アミアちゃんはどうしてもここを出たいみたいだけど、

その先はどうするつもりなの?」


「それは、二人でならどうにでもなるだろ。

鎧が有れば寝食には困らないし、

妖魔がいない場所を見つけて、そこで暮らせればいい」


「鎧に乗れなくなったらどうするの?

二人きりで素手で妖魔と戦うの?」


「それまでに妖魔がいない場所を見つけて、

安全な生活方法を確立すればいい」


言い合いをするつもりは無かったのだが、

何故かリンリも必死になってしまった。

こうなると言葉は止まらない。


「そんな出来るか分からない事より、

私はみんなで必死に作った、

この国に住む方がいいな。

なんでアミアちゃんは、

そんなにここを出る事にこだわるの?」


「それは、さっき言った誰かの思惑が・・・。

いや、違う。

全部話すよ。

あたしは思ったより嫉妬深いんだ。

このままここにいれば人が増える。

あたしより強い人が現れるかもしれないし、

男性とだって会う機会が増える。

リンリは今はあたしの事を好きかもしれない。

でも、もっと好きになる人が出てくると思う。

鎧に乗れなくなったら、

あたしの価値は下がって、

若い子や男性にリンリを取られるかもしれない。

そんなのは嫌なんだ」


リンリはアミアの言葉を受け取る。

そんなのは自分も同じだと思った。

でも、アミアはいつまでも好きでいてくれる筈。

自分はそう思うのに、

なんでアミアはそう受け取れないのだろう。


「アミアちゃんは私を信じてくれないんだ。

だから、そんな考えになる。

私はずっとアミアちゃんが好きだって言ってるよね。

どうして素直に受け取ってくれないの?

いいよ、アミアちゃんは私のモノにする。

もう戦わなくていいし、

今後の心配もしなくていい。

私が守るし、一生養ってあげる」


「それじゃあリンリがずっと危険なままだろ。

あたしはそれが嫌なんだ。

信じられなかったのは済まないと思う。

でも、リンリは優しいから、

どこかであたしより世界を選んでしまうんじゃないか、

そう思ったんだ」


「もういいや。

考えるの疲れちゃった。

こうしよう?

私が勝ったらアミアちゃんは私のモノで、

ここで一緒に暮らす。

アミアちゃんが勝ったら、

私はアミアちゃんのモノ。

好きにしていい。

分かり易いでしょ?」


リンリはバルコニーの外にデュエナを呼び出した。


「ああ、分かった。

本気で行くからな。

後悔するなよ」


アミアもリグムを呼び出した。


「負けないから大丈夫」


リンリはデュエナに飛び乗る。

アミアもリグムに飛び乗った。

2機は城の上空に昇っていく。


(色々考えられる前に攻撃しないと)


アミアは手強い。

リンリには思い付かない行動をし、

罠を張り、裏を突く。

鎧の動かし方なら負けてないが、

そういう戦い方はリンリには出来ない。


『始めるよ』


『どこからでもかかって来い』


カウンターは取らせない。

リンリはデュエナに出せるだけの腕を生やし、

速攻で決めるつもりで攻める。

リグムは動かず待ち構えている。

一切動かない。


(罠?)


リンリは本能で危険を感じ、

途中で腕を一本だけリグムに投げた。

するとリグムだと思ったものは弾け、

閃光を放つ。


(どこ?)


いつの間にかダミーを作り、

リグムは夜空に溶け込んでいた。

リンリは神経を集中し、敵の動きを待つ。


(下!)


気配を感じ、腕を下に投げる。

投げた腕は姿を現したリグムに弾かれ、

リグムはそのまま急上昇してくる。

今度はリンリがカウンター狙いで、

それを待ち構える。


(分身?)


リグムは途中で左右に分かれ、

デュエナを挟み撃ちする形になる。

だが、リンリは冷静に判断し、

左右それぞれに複数の腕で対処し、刃を叩き込む。

するとそれは先ほどと同じように破裂し、

正面から本物のリグムが光の刃で迫る。


『はっ!』


何とかデュエナは腕を犠牲にして刃を防ぎ、

カウンターをリグムに叩き込む。

しかし、リグムもそれを何とか避け、

再び距離を取った。


『小細工は効かないよ』


『そうだよな。

やっぱり、リンリは強い』


そうは言うものの、今はアミアのペースだ。

このままだと根負けしそうだ。

だから、リンリは考えるのをやめ、

本能で攻める事にする。


『本気で行くから。

もう止まらないよ』


『分かった』


デュエナは夜空を流星のように駆ける。

無心の刃が宙を斬る。

リグムの左肩から先が吹き飛び、

脇腹も大きくえぐれる。

デュエナの斬撃は止まらない。

リグムは光の刃で攻撃を防ぎ、

避け、何とか耐えようとするが、

身体は破壊されていき、

繭へもダメージが入っていく。


(早く降参して!)


頭の片隅にそんな思いが浮かぶが、

もうデュエナの動きは止まらない。


『はあああっ!』


アミアの叫びが聞こえた。

そして、リンリは一瞬、

全てが見えなく、感じられなくなる。

気付いた時にはデュエナの頭と四肢は飛び散り、

ボディだけがリグムの腕の中にあった。


『え?

何をしたの?』


あまりの事にリンリの戦意は失われていた。


『切り刻まれながら、

その破片を小さな刃にして、

周囲に散らしてた。

ギリギリの賭けだったけど、

あたしが意識を失う前に、

デュエナをバラバラに出来た』


『そっか、私の負けかー。

やっぱりアミアちゃんは強いや』


そうは言うが、悔しさは無かった。

別にどちらが勝っても良かったし、

リンリはアミアのモノになれるのなら、

それはそれで嬉しかった。


『もう大丈夫そうですね』


そう言って姿を現したのはエリエのアイシンだった。


『いつから居たんだ?』


『バルコニーでの話し合いから全部です。

ミルミ様がご心配されていたので。

しかし、お二人もただのバカップルですね。

しっかり報告させて貰います』


『ミルミの奴め。

まあ、いいや、ありがとうな』


『エリエちゃんも幸せにね』


『はい、ではおやすみなさい』


アイシンは離れていく。

リグムとデュエナは抱き合いながら、

ゆっくりと城の裏山へと落ちていった。

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