5.新たな敵
王都の城の外にある訓練場で、
2体の神聖鎧と2体の不死鎧が模擬戦を行っていた。
神聖鎧と不死鎧をパートナーとして組み合わせ、
今までと違う戦い方を覚えさせるのが目的だ。
アミア達が西側へ飛び立って2日、
まだ帰ってくる様子は無い。
「パートナーとなる鎧の特性を、
よく理解して下さい。
お互いの弱点を補い、
相手の弱点を狙って攻撃を」
指示を出しているのは元候補生、
現王国騎士団のニギニだった。
聖教団と邪教団から2名ずつ残った者を、
訓練させるよう命じられ、
主にニギニとトリリトが指示を出している。
特にニギニは一応の隊長という立場になり、
それに応えようと必死だった。
トリリトは足りない部分をサポートし、
シルシは技術的な部分のフォローや、
問題点の指摘などをしている。
1人蚊帳の外なのはトルルトだ。
トルルトにもそれなりの知識や技術はあるのだが、
他の3人で訓練を指導するには十分だった。
かといって自身の訓練を一人でする気も無く、
午前中の時間は見張りや偵察を、
町の人と魔術師でやっており、
わざわざそれを手伝いに行く気も無い。
なのでトルルトはボーっと訓練の様子を眺めていた。
「おお、やっておるな」
気が付くと横にミルミがいてトルルトは少し驚く。
ミルミという超越者の存在はすぐに広まり、
彼女は神出鬼没なので、
皆なるべく刺激を与えないように気を付けていた。
トルルトは特に恐怖感は無いのだが、
突然現れるとやっぱり心臓に悪い。
「ミルミ、さんがルミルだったんだよな?」
「無理してさん付けせんでもよいぞ。
そうじゃ、よくこの姿で遊んでたな」
そう言って妖精のルミルに変化する。
他の候補生と一緒に追いかけたり、
撫でたり叩いたりしていたけど、
よくよく考えると恐ろしい事をしてたと思う。
「2重適合には慣れてきたか?」
ミルミは再び少女の姿に戻って質問する。
こう見るとミルミはトルルトより僅かに背が高い位で、
見た目の年齢もそう変わらない気がする。
が、その根本にある存在感みたいなものは、
彼女が人間では無いと本能に訴えてきた。
「うーん、まだまだかなあ。
しばらく動いてると降りた後疲労が激しいし、
シルシは全然平気そうなのになあ」
自分より年下で、身長も低いシルシが、
戦いになると別人のようになるのは、
才能なんだろうな、と、トルルトは思っている。
自分もそれなりに出来るつもりだったけど、
訓練を始めてからその差に驚かされたものだ。
「あの子は特別じゃ。
比較などせず、自分のペースで進めればよいぞ」
「うん」
ミルミの意図は分からないが、
励まされてる気がして、素直に頷いた。
『敵襲です、装備を整えて、
正門まで来て下さい』
突如魔術師から魔法で連絡が来る。
「神聖騎士団、教団戦闘部隊の方は、
搭乗したまま待機していて下さい。
トリちゃん、トルちゃん、シルシちゃん、
2重適合で行きましょう」
「「はい」」
「ほぉ、面白くなってきたかな」
ミルミの笑顔は酷く邪悪に見えた。
「なんだ、これは?」
トルルトは魔導機から映し出された映像を見て叫んだ。
映っているのは整列して進軍する機械の兵士達。
先頭の1列は4足歩行している犬に近い形状の鎧。
身体は銀色の装甲で飾り気は無く、
顔はあくまで飾りのようで目も耳も口も無い。
次の1列は2足歩行の人型の鎧だが、
その表面は同じく銀色でつるつるしており、
神聖鎧や不死鎧のような装飾は無い。
手に武器は持たず、腕の先は筒状で指は無い。
頭もあくまで人に似せて乗っけているだけで、
目や口の凹凸も無く卵のようだ。
その上空には銀色の鳥形の鎧が飛び、
大きな翼があるが、顔は他と同じく飾りのようだ。
そんな3種類の組み合わせで何列も続いていた。
「私達も初めて見る鎧です。
人型の物は神聖鎧に似てるとは思いますが」
「距離と数はどうなんです?」
「距離はここから1500メートルほど、
あと5分ぐらいでここに到着します。
数は人型獣型鳥型がそれぞれ40機で、
合計120機います」
見張りをしていた魔術師二人が答える。
早期発見が出来たのは二人のおかげだろう。
トルルト達は王都の正門の内側で対策を考える。
「現在のこちらの戦力は、機械武者を除いて、
神聖鎧4機、不死鎧4機、魔導機9機の17機、
10倍近い敵を相手にする必要があります」
ニギニが計算しながら言う。
「相手が機械武者と同程度の能力なら、
2重適合の4機で十分じゃないか?」
「・・・そうだけど、
現状、敵の能力は不明。
油断したらやられる・・・」
トルルトの発言はシルシに否定される。
「まずは敵の能力が分からない事には、
対策も立てられません。
王都まで来られると手遅れになる可能性もあります。
わたしとシルシちゃんで1回攻撃してみましょう」
「・・・それでいいと思う」
ニギニの考えに反対の意見は無く、
まずはニギニとシルシで様子を見る事になった。
「魔術師の皆さんは、
王都の外で待機していて下さい。
トリちゃんとトルちゃんは、
わたし達の後ろで敵の動きの観察をお願い」
「分かった」
「はい」
とりあえずの配置が決まり、トルルト達は動き出す。
『トルちゃん、頑張ろうね』
『ああ、あたし達で守らないとな』
『一応味方の可能性があります。
200メートルまで近付いたら、呼び掛けてみます』
『・・・任せる』
トルルトは味方はありえないと思っていた。
整列しての行動に人間味を感じないからだ。
「この先は王都になります。
あなた達に戦う意思が無いのでしたら、
こちらも攻撃は致しません。
まずは移動を止めてもらえないでしょうか?」
ヴァールで2重適合したニギニは相手の200メートル前で、
音声を拡大して相手に伝える。
が、相手は何の反応も無く、そのまま進んでいく。
『反応は無いですね。
シルシちゃん、行きましょう』
『・・・分かった』
ヴァールと2重適合したシルシのベリンが進む。
2重適合でヴァールは緑色に変化し、
ベリンは逆に水色になっている。
100メートル位まで2機が近付いた時、敵側が動いた。
最初に攻撃してきたのは人型だった。
右手を前に突き出し、そこから光線を発射する。
光線は1直線に進み、
かすったヴァールとベリンの装甲を溶かす。
『魔法じゃない射撃兵器です。
等間隔で横に並んでいるので、避けるのは困難です』
ニギニが受けた攻撃を分析する。
シルシはベリンを走らせ、反撃しようとした。
が、その前に敵の獣型が動く。
低い位置から光の爪で攻撃し、
ベリンの刀での攻撃を素早く避ける。
そして、人型の2射目が発射され、
ベリンの行動が制限された。
『シルシちゃん、一旦引きましょう』
そう言うニギニの上空から鳥型が攻撃してくる。
急降下で翼についた光の刃で斬り付け、
攻撃すると即座に離れていく。
『撤退の援護をしよう!』
『はい』
トルルトとトリリトは魔法で、
鳥型と獣型を狙い、その一部を破壊する。
双子もそれぞれ2重適合し、
トルルトのアルーニは赤く、
トリリトのルークスは青く変化していた。
壊された敵は即座に後ろに下がり、
その傷を再生させていった。
『・・・少し確認する』
シルシのベリンは獣型を追い払いつつ、
人型に接近、それを攻撃しようとした。
すると人型は左腕を振り上げ、ベリンへと振り下ろす。
人型の左腕からは光の剣が出ていて、
それで斬り付けようとしていた。
危険を察知したシルシは横に避け、
刀で敵を斬り付けた。
腕を斬り落としたが、
すぐに再生が始まっているのが分かる。
『・・・大体分かった。
ボクも戻る』
ベリンは敵の攻撃を掻い潜りながら、
ニギニ達と合流した。
『2重適合状態でも、あの敵は厄介です。
人型が射撃で牽制し、
その隙を獣型が襲い掛かります。
獣型は高さが低いので、
人型の射撃は当たりません。
鳥型は空中からの急襲で、
攻撃、人型の守りと両方をカバーしています。
人型自体も左腕の光の剣で近接攻撃もしますし、
どの鎧も再生機能があり、
また、攻撃されても後ろの列と交替するので、
一気に破壊しないときりがないです」
ニギニが敵の特性と、組み合わせ、
隊列の意味を説明する。
『魔術師の魔導機をうまく使う、
という方法は無いかな』
『・・・いいと思う。
魔術師も含めて相談しよう』
トリリトの案にシルシが同意する。
トルルト達は魔術師と年齢が近いのもあり、
最近は少しだけ交流が始まっていた。
最初はこちらを警戒していた魔術師も、
徐々に城の面々に馴染んできている。
『敵の情報は分かりました。
魔導機で力を合わせて破壊の魔法を使います。
ニギニさん達は魔法が発動する場所への誘導と、
発動するまでの時間稼ぎをお願いします』
魔術師達と相談し、魔導機で増幅した魔法で、
一気に敵を殲滅する、という方法に決まった。
これなら再生する敵でも、1撃で破壊出来るようだ。
『あたし達も手伝わせてくれ』
そんな中やってきたのは神聖騎士と、
教団戦闘部隊の4機だった。
『陽動と時間稼ぎなら私達でも出来る』
『若い子だけに任せるのはどうかと思うしな』
『ありがとうございます。
それではこちら側をお願いします』
ニギニが礼を言い、左右の部隊にそれぞれを振る。
左側がニギニとシルシ、そして各教団から一人ずつ、
右側がトリリトとトルルト、
残りの一人ずつはこちらだ。
左右から相手を挟む形で攻撃しつつ、
魔術師達が準備している方向へ誘い込む。
後は魔法の発動タイミングに合わせれば、
倒せる、という作戦になった。
『あたし達は2重適合してるから、
ある程度のダメージも大丈夫だ。
そっちは光線でも繭に直撃したらマズイ、
なるべく距離を取って戦ってくれ』
『了解した、頼んだよお嬢ちゃん達』
不死鎧の搭乗者が返事する。
戦力の増加は嬉しいが、
危険に晒すのは嫌だとトルルトは思っていた。
『私はなるべく鳥型を狙います』
『助かります。
トルちゃん、行こう』
『ああ』
そして戦闘が開始した。
左右からの攻撃が始まると、
敵はそちらに隊列を合わせ、
横方向に等間隔で光線を撃ってくる。
ジャンプで避けると鳥型に狙われ、
しゃがめば獣型の餌食だ。
嫌らしい攻撃だと思いながら、
トルルトのアルーニは槍で獣型を貫く。
左側ではベリンが突破し、
人型を次々と破壊しているのが分かる。
悔しいがトルルトには真似出来ない。
(比較しないで自分のペースで、か)
先程のミルミの言葉を思い出し、
トルルトは自分らしく戦おうと思った。
『トルちゃん、上』
トリリトの言葉に反応し、
上空からの攻撃を槍で対応する。
2重適合のおかげで、全方向の攻撃は感知出来るが、
それでも集中して敵を攻撃していると、
別の敵の攻撃に対して無防備になる。
見ると助言したトリリトのルークスも敵に押され、
苦戦していた。
援護してくれる2機も鳥型と獣型と直接やり合い、
援護が出来なくなっている。
(もう少しで予定の位置なのに)
右側が苦戦しているせいで、
予定の進路から敵がずれてしまっていた。
左側も自分の部分が精一杯で、
こちらを援護する余力は無い。
『トリ、トル、何とか出来ない?』
ニギニの切羽詰まった声が聞こえる。
『したいのは山々なんだけど、ちょっと厳しい』
こんな時にアミアやリンリがいてくれれば、
なんて考えてしまう。
しかし、彼女達が帰ってくるのはまだ先だ。
『面白い玩具じゃな。
ちょいと貰ってくぞ』
そんな戦場に現れたのは少女姿のままのミルミだった。
手にはクリスタルのような物を持ち、
それを上に掲げると、10数機の敵が消えてしまった。
『ミルミ、ありがとう』
『なに、助けた訳ではない。
後は頑張るんじゃぞ』
そしてミルミは消えていく。
敵が一気に減った事で、右側も戦況が変わり、
トリリトとトルルトも攻めの姿勢になった。
『もう大丈夫です、みなさん離れて』
敵が予定位置に入り、魔術師から指示が出る。
魔術師の魔導機は並んで杖を掲げている。
トルルト達が離れると、
敵がいる位置に魔法陣が浮かび、
敵が動けなくなる。
『滅びよ!』
魔術師が叫ぶと魔法陣が赤く光り、
そして中の鎧達は崩れていった。
トルルト達は魔法陣からはみ出た敵を壊し、
何とか敵を全滅出来たのだった。
『みなさん、成功です。
お疲れ様でした』
ニギニの言葉にみんなも沸く。
神聖騎士も教団戦闘部隊も、
無理に敵に近付かなかったので、
大きな被害は無かった。
2重適合した面々も疲労で済み、
魔術師も魔力を使い切るだけで済んだ。
ただ、トルルトはミルミの行動が何だったのか、
少しだけ不安に感じていた。




