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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第5部 巨神大戦
56/82

6.三人の姫

『思ったより警備の数が少ないですね。

戦力の殆どを巨神対策に使っているのかもしれません』


エリエがアイシンで先導しながら言った。

クロマを倒してから2日ほど移動し、

アミア達は目的地近くまで到達していた。

徐々に人の生活圏に入ってきたが、

それでも機械武者との接触は2度程で、

その場で対処出来るレベルだった。

今は夜なので夜目がきく二人の鎧の方が有利であり、

敵に合う事は更に減るだろう。


『あえて警備を薄くして罠を張ってる可能性は?』


『防衛ラインが無くなり、

妖魔も入り込んでいます。

民衆を犠牲にしてまで罠を張る事は無い、

とわたくしは信じたいです』


エリエはそう言うが、

アミアは最悪の事態を考えないと、と思っていた。

東の国の都市部に入ると、

王国とは異なる形式の建物が増え、

独自の文化が形成されている事を知る。

そして遠くには石垣の上に作られた、

大きな城が見えた。

そこに大巫女が軟禁されていると聞いている。


東に移動した事で、

巨神は既に西にいる位置関係となった。

巨神の速度に変化はないものの、

なるべく早く巫女を集め、

王都に戻りたいと思えてくる。


『まずは近くにいる筈の、巫女の所に行きます』


いきなり城へ潜入するには情報が足りないので、

近くの巫女と接触するという案で進む。

闇夜に乗じて町の裏道を移動する。

リグムもアイシンも足音を消す魔法があり、

こういった行動は確かにリンリよりアミア向きだった。


『アミアさん、連絡が取れました。

安全な場所で合流出来るそうです』


しばらくしてエリエから念話が届く。

巫女には予言の力があるので、

こちらを出迎えてくれたのかもしれない。


アミアに先導されて都市部から離れた、

竹林の方へと進んでいく。

開けた場所に出ると、そこには小さな小屋があり、

その前に2体の神装が立っていた。

どちらもアイシンと同じく紅白を主体にした色使いで、

アイシンより軽装な形に見えた。


「エリエ、無事でよかった。

ここは軍の手の者にはバレていない場所です。

安心して下さい」


「アミアさん、一旦降りましょう」


エリエに言われ、センサーで見ても、

他に伏兵は居なそうなので、

搭乗姿勢をとってリグムから降りる。

前に立っている2機も同様に搭乗姿勢になった。


「メグリ、アミン!!」


エリエが駆け出す。

降りてきた二人も駆け寄り、エリエを抱き締めた。

2人ともエリエと同様の褐色肌で、

紅白の独特の衣装を身に付けていた。

エリエ程では無いが、スタイルはいい。


(東の国の女性は豊満なのか)


アミアはそんな余計な事を考えてしまう。


「エリエ、紹介してもらってもいいかな」


「はい。

ただその前に、

手を上げてもらってもいいでしょうか」


一瞬だった。

抱き合っていたと思った3人は、

アミアを囲い、手に武器を構えていた。


「魔法の射程にも入っています。

怪我はさせたくありません、

抵抗はしないでください」


そもそも3対1で体格差もある。

ルミルはいるが、協力は絶対に無い。


「どういう事か説明してもらっていいか」


アミアは手を上げ質問する。

単に巫女なりの安全対策かもしれない、

と少しだけ希望を持って。


「大巫女様の新しい予言を頂きました。

申し訳ありませんが、アミアさんには、

大人しく捕まってもらいます」


巫女の一人がアミアの腕を縄で縛る。

持っていた短剣も取り上げられた。


「他に説明は?」


「これ以上お話しする事はありません。

大人しくしていれば身の安全は保障いたします」


エリエの目は真剣だ。

しかし、彼女のミルミへの想いはどうなのだろう。

大巫女の予言よりミルミだったのでは?

いや、違う。

別にミルミは巨神対策を望んでいる訳じゃない。

アミア達の味方では無いのだ。

大巫女の言葉による離反もミルミには関係ない。

そんな事を考えていると、

ルミルは縛られたアミアの頭の上に乗っかった。

ただそれだけで、

何も言ってきたり動いたりはしない。


「エリエ、この妖精は?」


「“それ”に大した力は無いです。

彼女と共に牢に入れておけばいいでしょう」


そしてアミアは巫女の一人に引っ張られていく。

ルミルは逃げようと思えば逃げられるが、

そのままアミアの上に乗っかっていた。

エリエはミルミの動きを見ているのか、

それとも単に争いから避ける為に言ったのか。

しかし、数日間共に活動したアミア達を、

そんなあっさりと裏切れるのか。

違う、それはアミアから見た場合だ。

エリエは何年も巫女達と共にあった。

こっちが本拠地なのだ。


小さな小屋に連れていかれ、

その中の木の家具をどけると、

地下への入り口が姿を現した。

罪人を閉じ込める為の小屋か何かなのだろう。

1対1になったので、無理をすれば抵抗出来るが、

ここで暴れてもリグムにはたどり着けず、

下手をすれば殺されるだけだ。

何より、アミアはエリエに裏切られた事に、

少なからず衝撃を受けていた。


暗い階段を下りながら色々と考える。

エリエが前から裏切っていたか、

ここに来て裏切ったかは置いておこう。

城には王国の残りの戦力と、

西側の主要な戦力が集められようとしている。

東の国の戦力も巨神対策で動いている。


そして、前に言っていたエリエの言葉と繋がった。

巫女は東の国でも力を奪われていると。

もし巫女が巨神を復活させた黒幕、

もしくは黒幕と繋がっていた場合、

巨神は東の国の邪魔な機械武者を壊してくれる。

王都には西側の騎士や魔術師も集められ、

巨神を止められなければ一網打尽に出来る。

龍神が敵に回るのは巫女でも不味いのでは?

いや、龍神は『人間』を救う盟約をしたと言っている。

これが人間同士の争いだと分かれば、

龍神はどちらの味方もしないだろう。


アミアの中では最悪のシナリオが完成していた。

巫女の脅威である筈の覚醒した騎士の一人、

アミアはここで捕まった。

リンリ一人ではエリエと、

他の巫女達を倒す事は難しいだろう。

大巫女の予言が最初から敵対者を集める事だったなら、

それは見事に成功していると感じる。


いつの間にか地下の一番下まで降りたようで、

薄暗く、じめっとした場所に着いていた。

左右には鉄格子の牢が並んでいるが、

特に人影は見えない。

この大きさでは不死鎧は通れないだろう。


「ここで大人しくしていろ。

食事は日に1度持ってくる」


そう言うと巫女はアミアを一番奥の薄汚い牢に入れ、

縄を解き、鍵ををかけ出ていった。

灯りは牢の中には無く、

通路の離れたところにあるだけだ。

リグムを遠隔で動かすには距離が離れ過ぎで、

かつ、巫女にその対策もされたようで、

リグムがどこにいるかも分からなかった。


アミアはボロボロの木のベッドに座り、考える。

エリエがあえて裏切った振りをしている可能性は?

エリエの行動原理はミルミを除くと、

東の国の為と巫女の予言だった。

王国の民やアミア達に親しみを感じたとしても、

それが予言を上回るとは思えない。

ミルミの動きを待っている可能性は?

ミルミ第1主義なのは嘘ではないとアミアは思っている。

しかし、ミルミは人間などどうでもいいのがスタンスだ。

エリエが裏切ろうが面白い位の感想しかないだろう。

事実、別にここにいる必要は無いのに、

ルミルはアミアの横をふわふわ浮いている。


ミルミに助けを求める、というのは出来るだろうが、

したくないし、しても助けてくれないだろう。

他の誰かがここまで助けに来る可能性は0に等しい。

巨神を動かした黒幕を欺く為、巫女達が、

アミアと敵対している振りをしている可能性はある。

でも、それはアミアの希望でしかない気もする。

アミアは考える程に気力を失い、

場の澱んだ空気に飲まれ、脱力していった。


(リンリはうまくやってるかな)


離れてしまったリンリの事を考える。

今回離れ離れになったのは失敗だったのかもしれない。

今まで二人でならどんな困難も乗り越えられた。

しかし今は本当に一人になってしまった。

(まあ、ミルミはいるが)

アミアは一人きりだと、

自分はこんなに弱いんだな、と実感する。


『情けない顔をしておるのう。

そんなんじゃ好きな者一人も助けられんぞ』


そんなアミアを馬鹿にしてか、

いつの間にか横にはミルミが立っていた。

念話のように頭に話しかけてくる。

誰かが魔法か何かで見張っている可能性を考慮してか。


『完全にやられた。

今回の作戦はほぼエリエ主導だった。

エリエが裏切っていたのなら、

全て敵の手のひらの中だ』


『今までうまく行って少し調子に乗っていたか?

それとも好きな者の事で気が散っていたのかのう?』


ミルミの言葉でアミアはようやく気付いた事があった。

西側に協力を頼む事にあった拒否感。

あれは後ろめたさだけではなく、

過去と対面する事で、

リンリとの関係が変わる事が怖かったのだ。

過去の諍いが解決され、リンリが聖教団に戻る、

そんな可能性が少しでもある事が。


『その通りかもしれない。

やはりあたしは人の上に立つような人間じゃない』


そんなアミアを見てミルミは笑った。


『思ったより理想が高いんじゃな。

わらわにしてみれば人間なんて大差ない。

たまたま腕が立つ、運がいい、産まれがいい。

それだけで王にも、指導者にも、悪党にもなる。

本人が望むと望まないと、

自然とレールが出来ていたりするものじゃ。

だがな、わらわは思うのじゃ。

それに乗っかって人々が望んだ姿になる。

そんなものはつまらなんとな』


ミルミもそういえば姫という立場だったな、

とアミアは思い出す。


『アミア、

お前の好きという気持ちはそんな程度か?

取られたくない、奪われたくない、

そう思うなら全身全霊で抗えばいい。

お主にはその力があるし、

それがあれば何も恐れる事など無いわ』


『もしかして励ましてくれてるのか?』


アミアがそう答えた時、

頭の中にノイズが混ざった。


『・・・すみません・・・』


それは女性の声だった。


『誰じゃ?』


ミルミが警戒して周りを見渡す。

ミルミの姿も声も他の人には見聞き出来ない筈だ。

すると通路の向かい側の牢に人影が現れた。


『ごめんなさい。

寝ていたら『声』が聞こえてきましたので。

つい応えてしまいました』


ミルミが彼女も含めて声が聞こえるようにしたようだ。

暗くて顔や姿はよく見えないが。

声は若い女性のものだった。


『お主何者じゃ?

なぜ閉じていた会話が聞こえた?』


『多分、近しい血だからなのでしょう』


アミアが檻に近付いて凝視すると、

その顔がぼんやりと見えた。


『お姉ちゃん?』


痩せ細りやつれてはいるが、

それは在りし日の姉の顔によく似ていた。

長い金髪が美しい。


『お姉さんに似ていましたか。

嬉しいです。

私はクルク・デクスビア。

今は無きデクスビア王国の王女です』


牢獄の女性はそう名乗った。

まさか王女がこんなところにいるとは。


『面白い話になってきたのう。

お主、アミアとはどういう関係じゃ?』


『アミアという名前なのですか。

よい名です。

アミア、あなたのお母様の名前は、

ライア・イデムスですよね?』


『はい、しかしなぜそれを?』


『お母様の旧姓はライア・デクスビア。

私の母の妹です。

つまり、あなたは私の従妹であり、

現在の王位継承権第2位になります』


『そんな事って・・・』


アミアは突然の話で混乱する。

父は兵士だったと聞いていたが、

母は農家の産まれだと聞いていた。


『私の顔が姉に似ている事が証拠になりませんか?

それに、あなたが素晴らしい不死鎧の使い手なのは、

王家の血が濃く出ている証拠です』


『するとここにいるのは3人の姫か。

揃って牢に閉じ込められるとは傑作じゃな』


『あなたは超越者のお姫様でしたか。

先ほども名乗りましたが、私はクルクと申します。

どうぞよろしくお願いいたします』


『わらわはミルミじゃ。

まあ何かの縁じゃ、仲良くしようぞ』


ミルミは笑う。


『しかし、なぜこんな所に。

捕虜だとしても王族なら、

もう少しまともな所でもいいのでは』


『以前は城の地下の、

きちんとした部屋に監禁されていました。

しかし巨神が現れ、東の国も色々あったようです。

数日前に私は巫女の方に連れられ、

ここに移動させられました』


アミアは姫を生かしている事、

そしてここへ移動させた理由を考える。

生かす事のメリットは元王国民を、

奴隷として働かせる為の手段に使えるだろう。

ここへ移動したのはなぜか。

城で内乱が起きているか、巫女側が裏切って奪取した、

もしくは助ける為に連れてきた、とかか。

それは都合が良過ぎる考えか。


『アミア。

あなたの事、あなたが見てきた事を、

教えてくれませんか?』


王女クルクの願いに沿い、

アミアは自分のこれまでの道程を簡単に説明し、

王国がどうなっているかを話した。


『そうですか。

分かってはおりましたが、

西側は酷い状態だったのですね。

そしてアミア、候補生達を助け、

王都を取り戻してくれて本当にありがとう』


『いえ、成り行きですが、

あれはあたし達がやりたくてやった事です。

それに王女様が候補生達を残してくれたので、

成し遂げる事が出来たんだと思います』


『アミア、私の事はクルクと呼んで下さい。

今の私は王女ではありませんし、

そもそも従妹なのですから』


『分かった。

いつも通りの話し方になるけど許してくれ。

一つ、クルクに質問がある。

巫女達が騎士や魔術師を滅ぼそうと、

巨神を起動させた可能性はあると思うか?』


『私個人の意見では、無いと思います。

私が捕らえられてから大巫女様は、

私に目をかけて下さいました。

あの方が率いている限り、それは無いでしょう。

ただ、大巫女様を人質に取られ、命令されている、

というのでしたらあるかもしれません』


クルクの言葉はアミアにとって大きな意味を持った。


『ありがとう。

それなら希望が見える』


『いつもの顔に戻ったな。

さて、わらわもこんな所にいつまでもいるのは気が滅入る。

アミア、早く脱出させろ』


『そうは言ってもリグムはここまで来れないぞ』


『本当は分かっているんじゃないのか?

一度覚醒したお主なら』


アミアはそう言われて目を閉じる。

感じないと思ったリグムがどこにいるか分かった。

そして繋がる。


『来い、リグム』


念じるとリグムが近付いて来るのが分かる。

そして奥の牢の壁がリグムの拳で破壊され、

横にはリグムが空けた穴が出来ていた。


『クルク、出よう』


『はい、お願いします』


アミアはリグムに飛び乗ると、

牢の鉄格子を壊し、クルクを腕に抱く。

ルミルの姿に戻ったミルミもそこに座った。


「揺れるのでしっかり捕まって」


「はい」


細くて折れそうなクルクを抱いて、

リグムは地上へと穴を上がっていった。



「そこまでだ、大人しく王女を離せ」


地上では予想通りエリエのアイシンと、

2人の巫女の神装が待ち構えていた。

アミアはゆっくりと王女を離す。

すると2体の神装はそれを薙刀で逃がさないように囲む。


「アミアは覚醒が使えます。

2人は王女と“それ”が逃げ出さないよう、

しっかり見張っていて下さい。

アミアはわたくしが倒します」


「「心得た」」


2人の巫女はすんなりエリエの言葉を受け止めた。

エリエは巫女の中で2番目の実力者だったな、

とアミアは思い出す。


「時間はかけたくありません。

覚醒して、一気に勝負を付けましょう」


「ああ、一度エリエとは本気で戦ってみたかったんだ」


アミアにもう迷いはない。

リグムとアイシンは覚醒し、対峙した。

リグムはハルバードを、アイシンは刀を構える。

周囲には竹林が生え、闇夜には月が輝いていた。


「行きます」


先にアイシンが斬りかかった。

素早い斬撃だ、アミアは避けられないと実感する。

ハルバードの厚さを増し、

防御に特化させてそれを刃で受ける。

しかし刀はハルバードごと切り裂き、

リグムの肩にまで食い込んでいた。

ただ、それはアミアにとってもチャンスだ。

左手に隠していた短剣をアイシンの腰に叩き付ける。

アイシンは刀が食い込んでいて即座に離れられない。

それでも何とか致命打は避け距離を取った。


「やりますね」


そしてアイシンの動きが止まる。

刀を構えたまま静止していた。

カウンター狙いだ。

こちらの動きが読まれれば、一刀両断されるだろう。

かといって攻めないアミアではない。

アミアはリグムを上空へ飛ばす。

それでもアイシンは動かない。

アミアは急降下しつつハルバードを構え、

それを途中で投げ飛ばした。

ハルバードは回転しつつ、アイシンへと迫る。

と、アイシンの姿が消えた。


「上か!」


アイシンは急スピードで回避してから上昇し、

上から刀を振り下ろそうとしていた。

が、その前にハルバードがアイシンを襲う。

アミアは見えない細さのワイヤーをハルバードに付けて、

それを操ってアイシンへと方向転換させていたのだ。


「くっ」


刀でハルバードを弾くが、速度を緩めただけで、

その刃はアイシンの胸を傷付けた。


しばらく空中で2機の攻防が続く。

地上の二人の巫女と王女とルミルは、

それを凄まじいと眺めていた。

と、巫女の神装のセンサーに新たな反応があった。


『もういいですよ』


アミアとエリエに優しい声の念話が届く。

見下ろすとそこには大量の神装が並んでいるのだった。


「こんなもんかな」


「そうですね、お疲れ様です」


2人は武器を収め、

覚醒を解いて地上へと降りていった。

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