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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第5部 巨神大戦
53/82

3.約束

「凄い、空を飛んでるよ!」


リンリが感嘆の声を上げる。

覚醒して戦闘中に空中移動はしたが、

龍神の背に乗り、遥か上空を飛ぶのとは大きく違った。

地上の物が小さく見え、大陸全体も見渡せる。

そして巨神の異常な大きさも実感する。


「あれをどうにかしないといけないんだな」


「人間にはどうしようも無いと感じられますね」


「まあデカいだけじゃがな」


ミルミも龍神の背から地上を見下ろしていた。


「もうすぐ着くから何かに掴まれ」


城との3日の行程が龍神ドドにより、

数時間に縮められた。

時間は少しでも惜しいので、助かったのは確かだ。

みるみる地上が近くなり、城が近くに見えてくる。


『誰か聞こえるか?

巨大な龍が飛んでくるが、敵ではない。

攻撃はするなよ』


『聞こえています、アミアさん。

おかえりなさいませ』


ユーカから返事があり、アミアは少しだけ安心した。

ドドは町の外の広いスペースに着陸し、

そこからアミア達は地上に降りる。

お迎えには候補生達6人の鎧と、

テルテのシウン、

そしてタンタの灰色の鎧ドークもいた。


「これが龍神か」


シウンが寄ってきて龍神の周りを興味深そうに歩く。

候補生達は警戒しているようで、

近くには寄ってこない。


「全員無事みたいで何よりだ。

タンタも王都に着けたみたいだな」


「はい、アミアさんが連絡してくれたので、

村人達もほぼ無傷で王都に来れました。

候補生には見知った顔もいて、

再会出来たのはあなた達のおかげです」


タンタは神聖鎧のまま再度頭を下げる。


「巨神の方に何か動きは?」


「アミアさんが言った通り、

日に数歩動くだけなのは変わっておりません。

ただ、たまに妖魔の群れが集団で逃げるのが確認されたり、

少し離れた場所ですが、

新しく崩落が起こったりしています」


ユーカが代表して答える。

想定通りだが、

巨神が近付くにつれ崩落が増えるのは危険だ。


「とにかく城で次の対策を練ろう。

ドド、人型になってもらっていいか」


「ああ、待ってろ」


龍神は大きな声で言うと、

姿を歪ませ、人間サイズの全身鎧姿になった。


「凄いな、それ。

時間が出来たらでいいから色々聞かせて欲しい」


テルテは龍神に興味深々だ。

ミルミもいつの間にかルミルになっており、

一行は城に場所を移した。



「じゃあ、過去にどうやって巨神を止めたか、

教えて欲しい」


城にある応接室の長テーブルに、

アミア達3人とエリエとルミル、候補生6人とタンタ、

そして龍神ドドが人型になった姿で座っていた。

ミルミも話に加わってもらうか考えたが、

まずは人間と龍神で話した方が早いだろうと、

このメンバーになった。

ミルミの件は候補生にも町人にも話してないので、

これ以上混乱させるのも良くないだろう。


「巨神だがな、過去も止めるのは不可能だった。

だから、力業で一旦動きを止め、

魔法で浮かし、海底にテレポートさせた。

深い海溝を登るのは不可能だし、

海底でのエネルギー摂取量は少ない。

封印出来たと思ったんだがな」


ミルミが言っていた、止めるのは不可能、

という認識は合っていたようだ。

しかし、動きを止めたり、

あんな物を魔法で浮かしたり、

テレポートしたりなど出来るのか。

と、アミアは以前戦ったフラーネが、

テレポートで逃げた事を思い出す。

アミアが知らない魔法などがあるのかもしれない。


「その方法は今ここにいる人達で、

出来る事なのでしょうか?」


「まあ無理だな。

あの頃はお主らの鎧も沢山いたし、

魔術師の連中もおった。

わしは動きを止める手伝いをした位だ」


ドドの言葉は一同の希望を砕く。

ここには10機ほどの鎧しかなく、魔術師もいない。


「じゃあ誰が巨神を海底から引き揚げたのかな。

テレポートで沈めたのなら、やっぱり魔術師?」


リンリは前々から気になっていた点を挙げる。

確かに過去にテレポートで沈めたなら、

その逆も出来る事になる。


「現在生きてる魔術師なんて、

数えるほどなんじゃないかな。

ラーラの知人に数人魔術師がいるのは知ってるけど、

大きな組織が残ってるとは思えない。

王国周辺とか、東の国はどうなの?」


「王国には数人の宮廷魔術師がいたと聞きますが、

王都が占拠された時に死に絶えたそうです。

周辺の町や村に魔術師がいたと聞いた事はありませんし、

私も今まで見た事はありません」


「東の国では『呪術師』として、

変わり者の武将が雇っていると聞いた事はあります。

また、機械武者の開発に呪術師が関わっている、

という噂も聞いていますが、事実かは分かりません」


3人の言葉にアミアは魔術師への不信感を少しだけ持つ。

元々恐れられ、嫌われた存在だったので、

それが刷り込まれているのは確かだが。


「わしには魔術師の仕業とは思えないな。

あいつらは頭のいい奴らだ、

わざわざ過去の災厄を再現する意味も無い。

どっちかというと悪魔か、

超越者の方が怪しいと思うがな」


ドドの言葉にルミルが飛んで非難するが、

エリエが撫でて慰める。


「犯人は止めようとすれば現れるか、

何かの痕跡が見つかるんじゃないかな。

それより今はどうやって止めるか、

または前みたいに海底に沈めるかを考えないと」


アミアはここで犯人捜しをしてもしょうがないと、

話を切り替えた。


「以前はどれぐらいの規模の戦力で対応したんですか?」


「わしと、鎧が約200機、魔術師が100人はいたかな。

まあ、あの頃は他に妖魔も悪魔も暴れとったし、

全員が巨神相手をした訳じゃない。

純粋に巨神を止めるだけなら、

鎧が60機、魔術師が30人もいれば、

再び海底に沈められると思うぞ」


テルテの問いにドドが必要数を答えた。


「タンタさん、他に生き残りの王国騎士はいるのか?」


「タンタでいいよ。

私が騎士団のメンバーと離れたのは2年前、

当時は王女を含めて10人いた。

しかし奇襲で3人は死亡、

候補生と共に行った3人も亡くなったと聞いてる。

残りは私を抜くと、王女含めて3人だが、

生きている者がどれだけいるか・・・」


タンタはこの中で最年長だと思われ(人外は除く)、

顔は少女より大人の女性寄りであり、

赤毛の短髪と黒い瞳は騎士としての凛々しさを感じさせた。


「タンタ様、

王国騎士に2重適合が出来た者はおりましたでしょうか?」


ここでエリエがアミアも気にしていた事を聞く。

その強さがあれば奇襲だろうと返り討ち出来ただろう、

とアミアも思っている。


「言葉としては聞いていたが、

当時はまだ若い騎士が多く、

そこに辿り着く者はいなかった。

・・・いや、違うな。

王女と副団長は交替して鎧に乗れた、

と確か言ってたな。

ただ、副団長は奇襲に対して身を挺して王女を守り、

あの場で鎧ごと破壊された。

出来るとしたら王女だけだろう」


王女がいた、という話は候補生達に聞いた事はあるが、

西側ではそんな情報は無く、

どこか絵物語のお姫様としか感じていなかった。

しかしタンタの情報から、

王女は王国騎士団として戦っていて、

かつ、その中でも秀でていたようだ。


「アミアさん、リンリさん。

西側で動作している不死鎧、神聖鎧はどれだけいますか?」


続いてエリエはアミア達に質問する。

何となく意図は分かってきたが、

果たしてそれが出来るかは別問題だ。


「不死鎧なら教団にリグムを含めて25機あった。

あたしが隊長をしていた時は18機が戦闘可能、

7機は訓練中だったな」


「神聖鎧は30機は格納庫にあったと思う。

デュエナを入れて、正式に騎士団に居たのは20機、

予備騎士がどれだけ動かせたかは分からないです」


エリエは聞きながら頭の中で何か考えている。

しばらくしてから再び口を開いた。


「トワの国にはアイシンを含めて、30機の神装があります。

これはわたくしが国を離れた際、全機健在なので、

巨神に破壊されていない限り、全機使えます。

ここの戦力として候補生とタンタ様の7機、

西側の神聖鎧を13機、不死鎧を10機集められれば、

合計60機の鎧が使える事になります」


「ちょっと待て。

巫女は国が襲われているから協力するかもしれないが、

西側は関係無いし、協力するとは思えないぞ。

特に邪教団が手を貸す筈がない」


「面白い案だな。

聖教団の方は可能性があると思うぞ。

邪教団は、わしが力を見せて、

力ずくで、というのも出来る」


確かに龍神なら力をモットーとする邪教団は、

大人しく従う可能性も無くはない。


「鎧はいいとしても、魔術師はどうするんだ?」


「テルテと言ったか。

お主、向こうにコネがあるんだろ?

わしは以前にドゼビム・ゲレーナという男と会った事がある。

奴は大異変を解決する方法を探してると言っていた。

まだ生きていれば魔術師を集める位出来るだろう」


「ドゼビムって、あの狂気の天才魔術師の事か?

それって何年前の話だ?」


アミアは大異変の原因とも言われた魔術師の名が出て、

少しだけ興味を持つ。


「うーん、年数を数えるのは苦手でな。

大異変が起こって少し経ってだから、

15年か16年か、それぐらい前だな」


「魔術師は長命と聞くけど、

それだとまだ生きてるか分からないな。

ラーラからその名を聞いた事は1度も無いし」


テルテの言う事はもっともだろう。

魔術師とは言え、こんな世界で長く生きるのは難しい。


「でも、他に案が無いのでしたら、

この城に鎧と魔術師を集め、

対応するしかないのではないでしょうか?」


エリエの言葉に一同頭を捻る。

アミア個人としては西側の連中と絡む事に拒否感がある。

邪教団にしては裏切り者で、

聖教団にしては仇なのだから。


「私はやってみてもいいと思うかな。

交渉は下手でもドドさんが居れば何とかなりそうだし、

そうしないと、

せっかくみんなが暮らしてるこの城も無くなっちゃうし」


リンリにも思うところはあるのだろうが、

現在の状況を壊される方が嫌なのだろう。

それをすぐに決断出来るのが羨ましい。


「うちも賛成だ。

魔術師がどれだけ残ってるかは分からないけど、

人が集まれば新しい案が生まれる可能性もある。

これが新しい1歩になるかもしれない」


テルテの言う、新しい1歩というのは、

この荒廃した世界の希望という意味だろう。

アミアは候補生達と出会った事で、

少しだけ人間の可能性を感じてはいる。

でも心のわだかまりは残ったままだ。


「あたしもみんながやる気なら、反対はしない。

力を貸そう」


結局アミアに言えたのは消極的な賛成だった。

タンタや候補生達はよくは分からないが、

城を守る為なら賛成する、という意見でまとまった。


「では、2手に分かれて対応しましょう。

アミアさん、わたくしと共に巫女の救出を手伝って下さい。

不死鎧の機能はそうした作戦に適しています。

リンリさんとテルテさんはドド様と共に、

西側の鎧と魔術師を集めて下さい。

ドド様がいれば交渉も戦いも大丈夫でしょう。

そしてタンタ様は候補生達と共に、

王都の警護と集まった人の受け入れをお願いします」


エリエが作戦を伝える。

ここに来て、

アミアはリンリと分かれて行動する事に不安を感じた。


「アミアちゃんと一緒に行く方法、

ってのは無いんだよね?」


リンリが同様の事を感じてか、質問する。


「申し訳ありません。

ドド様は大断層の上を飛ぶのに必要でしょうし、

教団との交渉、戦闘に欠かせません。

わたくしは東の国を周るのに必要ですし、

魔術師との繋がりがあるのはテルテさんだけです。

邪教団との交渉は可能性が低いので、

やはりリンリさんが聖教団との交渉を行い、

アミアさんが巫女を救出するのが最善策かと。

時間的に全員で回っていてはどう考えても間に合いません」


エリエの言う事は合理的で正しい。

感情で反論出来るところは何も無かった。

それからエリエは少しだけ細かい話をし、

それぞれの役目、大まかな日程を周知させる。

多少の問答はあったものの、

ほぼエリエが作戦を決めた形となった。


場は解散になり、それぞれ準備に移る。

少しだけリンリと話そうと動いた時、

アミアは呼び止められた。


「アミア。

改めて礼を言わせてくれ。

単純な私と一騎打ちをし、

手加減をしてくれて本当にありがとう」


タンタは頭を下げる。

真面目でいい人だな、と感じる。


「いや、頭を上げてくれ、タンタ。

あたしは交渉が下手だから、

ああするしかなかったんだ。

正直王国の事はよく分からなかったし、

生き残りがいれば候補生達も安心だろう」


「そうじゃないな。

あの子達はもうアミアに憧れてる。

私じゃなく、今後もアミアが見てやって欲しい、

そう私は感じている。

と、その為に呼び止めたんじゃなかった。

アミア、お前にしか頼めない事がある。

東の国に王女が囚われている可能性があるんだ。

もちろん今の使命は巫女を集める事。

でも、王女が捕まっている場所が分かり、

可能ならば王女も助けて欲しい」


タンタはより深く頭を下げる。


「分かった。

もちろん作戦に支障をきたすようなら、

助けはしない。

ただ、可能性があるならあたしは無理をしてでも、

王女を助け出そう」


「ありがとう、

そう言ってくれるだけで嬉しいよ。

本当は私が付いて行きたいが、

私はお前ほど強くない。

王女はこの国の再建の希望になる。

その事だけは知っておいてくれると嬉しい」


そう言ってタンタは離れていった。

王女が生きているかは分からない。

ただ、王国を再建させるのに必要な事は、

アミアにも理解出来る。


結局アミアは最後に応接室を出る事になった。

廊下に出て進もうとすると、

ローブの裾を後ろから引っ張られる。

振り返るとシルシが立っていた。

アミアが出てくるのを待っていたのかもしれない。


「どうかしたか?」


「・・・東は危険。

行かないで欲しい・・・」


小声でシルシが訴える。

ここまではっきりした意見を聞くのは初めてだ。


「危険は承知の上だ。

でも誰かが行かなくちゃいけない。

あたしが強いのは知ってるだろ」


「うん・・・。

でも、心配・・・。

約束して。

戻って来るって」


シルシの言葉を聞きつつ、

思い浮かんだのはリンリの事だった。

そして、シルシの気持ちが少し分かった。


「ああ、約束するよ。

絶対に戻ってくるから」


「・・・分かった。

頑張って・・・」


シルシは背伸びをし、アミアの頬にキスをした。

そして背を向けて走り去って行った。

彼女の好意は嬉しい。

でも、どんな好意であれ、

それを受け止める事は出来ない。

アミアは意を決して歩き出した。


「コンッコンッ」


「はーい」


部屋をノックするとリンリが顔を出す。


「あ、アミアちゃん。

入って、入って」


リンリに引っ張られて彼女の部屋に入る。


「しばらく別々になっちゃうね。

ずっと一緒だったのに・・・」


リンリが寂しそうな顔をする。


「リンリ」


「はい」


立って向かい合ったまま二人は見つめ合う。


「ここで再会した時、

リンリに言いたい事がある」


アミアは絶対に再会出来るよう、約束をした。


「うん、分かった。

じゃあ、お互い頑張ろう!」


リンリは笑顔を作り、無理に元気な声を出した。

身体が動き出しそうになるのを堪える。


「ああ」


アミアは心を隠し、静かに部屋を出て行った。

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