3.約束
「凄い、空を飛んでるよ!」
リンリが感嘆の声を上げる。
覚醒して戦闘中に空中移動はしたが、
龍神の背に乗り、遥か上空を飛ぶのとは大きく違った。
地上の物が小さく見え、大陸全体も見渡せる。
そして巨神の異常な大きさも実感する。
「あれをどうにかしないといけないんだな」
「人間にはどうしようも無いと感じられますね」
「まあデカいだけじゃがな」
ミルミも龍神の背から地上を見下ろしていた。
「もうすぐ着くから何かに掴まれ」
城との3日の行程が龍神ドドにより、
数時間に縮められた。
時間は少しでも惜しいので、助かったのは確かだ。
みるみる地上が近くなり、城が近くに見えてくる。
『誰か聞こえるか?
巨大な龍が飛んでくるが、敵ではない。
攻撃はするなよ』
『聞こえています、アミアさん。
おかえりなさいませ』
ユーカから返事があり、アミアは少しだけ安心した。
ドドは町の外の広いスペースに着陸し、
そこからアミア達は地上に降りる。
お迎えには候補生達6人の鎧と、
テルテのシウン、
そしてタンタの灰色の鎧ドークもいた。
「これが龍神か」
シウンが寄ってきて龍神の周りを興味深そうに歩く。
候補生達は警戒しているようで、
近くには寄ってこない。
「全員無事みたいで何よりだ。
タンタも王都に着けたみたいだな」
「はい、アミアさんが連絡してくれたので、
村人達もほぼ無傷で王都に来れました。
候補生には見知った顔もいて、
再会出来たのはあなた達のおかげです」
タンタは神聖鎧のまま再度頭を下げる。
「巨神の方に何か動きは?」
「アミアさんが言った通り、
日に数歩動くだけなのは変わっておりません。
ただ、たまに妖魔の群れが集団で逃げるのが確認されたり、
少し離れた場所ですが、
新しく崩落が起こったりしています」
ユーカが代表して答える。
想定通りだが、
巨神が近付くにつれ崩落が増えるのは危険だ。
「とにかく城で次の対策を練ろう。
ドド、人型になってもらっていいか」
「ああ、待ってろ」
龍神は大きな声で言うと、
姿を歪ませ、人間サイズの全身鎧姿になった。
「凄いな、それ。
時間が出来たらでいいから色々聞かせて欲しい」
テルテは龍神に興味深々だ。
ミルミもいつの間にかルミルになっており、
一行は城に場所を移した。
「じゃあ、過去にどうやって巨神を止めたか、
教えて欲しい」
城にある応接室の長テーブルに、
アミア達3人とエリエとルミル、候補生6人とタンタ、
そして龍神ドドが人型になった姿で座っていた。
ミルミも話に加わってもらうか考えたが、
まずは人間と龍神で話した方が早いだろうと、
このメンバーになった。
ミルミの件は候補生にも町人にも話してないので、
これ以上混乱させるのも良くないだろう。
「巨神だがな、過去も止めるのは不可能だった。
だから、力業で一旦動きを止め、
魔法で浮かし、海底にテレポートさせた。
深い海溝を登るのは不可能だし、
海底でのエネルギー摂取量は少ない。
封印出来たと思ったんだがな」
ミルミが言っていた、止めるのは不可能、
という認識は合っていたようだ。
しかし、動きを止めたり、
あんな物を魔法で浮かしたり、
テレポートしたりなど出来るのか。
と、アミアは以前戦ったフラーネが、
テレポートで逃げた事を思い出す。
アミアが知らない魔法などがあるのかもしれない。
「その方法は今ここにいる人達で、
出来る事なのでしょうか?」
「まあ無理だな。
あの頃はお主らの鎧も沢山いたし、
魔術師の連中もおった。
わしは動きを止める手伝いをした位だ」
ドドの言葉は一同の希望を砕く。
ここには10機ほどの鎧しかなく、魔術師もいない。
「じゃあ誰が巨神を海底から引き揚げたのかな。
テレポートで沈めたのなら、やっぱり魔術師?」
リンリは前々から気になっていた点を挙げる。
確かに過去にテレポートで沈めたなら、
その逆も出来る事になる。
「現在生きてる魔術師なんて、
数えるほどなんじゃないかな。
ラーラの知人に数人魔術師がいるのは知ってるけど、
大きな組織が残ってるとは思えない。
王国周辺とか、東の国はどうなの?」
「王国には数人の宮廷魔術師がいたと聞きますが、
王都が占拠された時に死に絶えたそうです。
周辺の町や村に魔術師がいたと聞いた事はありませんし、
私も今まで見た事はありません」
「東の国では『呪術師』として、
変わり者の武将が雇っていると聞いた事はあります。
また、機械武者の開発に呪術師が関わっている、
という噂も聞いていますが、事実かは分かりません」
3人の言葉にアミアは魔術師への不信感を少しだけ持つ。
元々恐れられ、嫌われた存在だったので、
それが刷り込まれているのは確かだが。
「わしには魔術師の仕業とは思えないな。
あいつらは頭のいい奴らだ、
わざわざ過去の災厄を再現する意味も無い。
どっちかというと悪魔か、
超越者の方が怪しいと思うがな」
ドドの言葉にルミルが飛んで非難するが、
エリエが撫でて慰める。
「犯人は止めようとすれば現れるか、
何かの痕跡が見つかるんじゃないかな。
それより今はどうやって止めるか、
または前みたいに海底に沈めるかを考えないと」
アミアはここで犯人捜しをしてもしょうがないと、
話を切り替えた。
「以前はどれぐらいの規模の戦力で対応したんですか?」
「わしと、鎧が約200機、魔術師が100人はいたかな。
まあ、あの頃は他に妖魔も悪魔も暴れとったし、
全員が巨神相手をした訳じゃない。
純粋に巨神を止めるだけなら、
鎧が60機、魔術師が30人もいれば、
再び海底に沈められると思うぞ」
テルテの問いにドドが必要数を答えた。
「タンタさん、他に生き残りの王国騎士はいるのか?」
「タンタでいいよ。
私が騎士団のメンバーと離れたのは2年前、
当時は王女を含めて10人いた。
しかし奇襲で3人は死亡、
候補生と共に行った3人も亡くなったと聞いてる。
残りは私を抜くと、王女含めて3人だが、
生きている者がどれだけいるか・・・」
タンタはこの中で最年長だと思われ(人外は除く)、
顔は少女より大人の女性寄りであり、
赤毛の短髪と黒い瞳は騎士としての凛々しさを感じさせた。
「タンタ様、
王国騎士に2重適合が出来た者はおりましたでしょうか?」
ここでエリエがアミアも気にしていた事を聞く。
その強さがあれば奇襲だろうと返り討ち出来ただろう、
とアミアも思っている。
「言葉としては聞いていたが、
当時はまだ若い騎士が多く、
そこに辿り着く者はいなかった。
・・・いや、違うな。
王女と副団長は交替して鎧に乗れた、
と確か言ってたな。
ただ、副団長は奇襲に対して身を挺して王女を守り、
あの場で鎧ごと破壊された。
出来るとしたら王女だけだろう」
王女がいた、という話は候補生達に聞いた事はあるが、
西側ではそんな情報は無く、
どこか絵物語のお姫様としか感じていなかった。
しかしタンタの情報から、
王女は王国騎士団として戦っていて、
かつ、その中でも秀でていたようだ。
「アミアさん、リンリさん。
西側で動作している不死鎧、神聖鎧はどれだけいますか?」
続いてエリエはアミア達に質問する。
何となく意図は分かってきたが、
果たしてそれが出来るかは別問題だ。
「不死鎧なら教団にリグムを含めて25機あった。
あたしが隊長をしていた時は18機が戦闘可能、
7機は訓練中だったな」
「神聖鎧は30機は格納庫にあったと思う。
デュエナを入れて、正式に騎士団に居たのは20機、
予備騎士がどれだけ動かせたかは分からないです」
エリエは聞きながら頭の中で何か考えている。
しばらくしてから再び口を開いた。
「トワの国にはアイシンを含めて、30機の神装があります。
これはわたくしが国を離れた際、全機健在なので、
巨神に破壊されていない限り、全機使えます。
ここの戦力として候補生とタンタ様の7機、
西側の神聖鎧を13機、不死鎧を10機集められれば、
合計60機の鎧が使える事になります」
「ちょっと待て。
巫女は国が襲われているから協力するかもしれないが、
西側は関係無いし、協力するとは思えないぞ。
特に邪教団が手を貸す筈がない」
「面白い案だな。
聖教団の方は可能性があると思うぞ。
邪教団は、わしが力を見せて、
力ずくで、というのも出来る」
確かに龍神なら力をモットーとする邪教団は、
大人しく従う可能性も無くはない。
「鎧はいいとしても、魔術師はどうするんだ?」
「テルテと言ったか。
お主、向こうにコネがあるんだろ?
わしは以前にドゼビム・ゲレーナという男と会った事がある。
奴は大異変を解決する方法を探してると言っていた。
まだ生きていれば魔術師を集める位出来るだろう」
「ドゼビムって、あの狂気の天才魔術師の事か?
それって何年前の話だ?」
アミアは大異変の原因とも言われた魔術師の名が出て、
少しだけ興味を持つ。
「うーん、年数を数えるのは苦手でな。
大異変が起こって少し経ってだから、
15年か16年か、それぐらい前だな」
「魔術師は長命と聞くけど、
それだとまだ生きてるか分からないな。
ラーラからその名を聞いた事は1度も無いし」
テルテの言う事はもっともだろう。
魔術師とは言え、こんな世界で長く生きるのは難しい。
「でも、他に案が無いのでしたら、
この城に鎧と魔術師を集め、
対応するしかないのではないでしょうか?」
エリエの言葉に一同頭を捻る。
アミア個人としては西側の連中と絡む事に拒否感がある。
邪教団にしては裏切り者で、
聖教団にしては仇なのだから。
「私はやってみてもいいと思うかな。
交渉は下手でもドドさんが居れば何とかなりそうだし、
そうしないと、
せっかくみんなが暮らしてるこの城も無くなっちゃうし」
リンリにも思うところはあるのだろうが、
現在の状況を壊される方が嫌なのだろう。
それをすぐに決断出来るのが羨ましい。
「うちも賛成だ。
魔術師がどれだけ残ってるかは分からないけど、
人が集まれば新しい案が生まれる可能性もある。
これが新しい1歩になるかもしれない」
テルテの言う、新しい1歩というのは、
この荒廃した世界の希望という意味だろう。
アミアは候補生達と出会った事で、
少しだけ人間の可能性を感じてはいる。
でも心のわだかまりは残ったままだ。
「あたしもみんながやる気なら、反対はしない。
力を貸そう」
結局アミアに言えたのは消極的な賛成だった。
タンタや候補生達はよくは分からないが、
城を守る為なら賛成する、という意見でまとまった。
「では、2手に分かれて対応しましょう。
アミアさん、わたくしと共に巫女の救出を手伝って下さい。
不死鎧の機能はそうした作戦に適しています。
リンリさんとテルテさんはドド様と共に、
西側の鎧と魔術師を集めて下さい。
ドド様がいれば交渉も戦いも大丈夫でしょう。
そしてタンタ様は候補生達と共に、
王都の警護と集まった人の受け入れをお願いします」
エリエが作戦を伝える。
ここに来て、
アミアはリンリと分かれて行動する事に不安を感じた。
「アミアちゃんと一緒に行く方法、
ってのは無いんだよね?」
リンリが同様の事を感じてか、質問する。
「申し訳ありません。
ドド様は大断層の上を飛ぶのに必要でしょうし、
教団との交渉、戦闘に欠かせません。
わたくしは東の国を周るのに必要ですし、
魔術師との繋がりがあるのはテルテさんだけです。
邪教団との交渉は可能性が低いので、
やはりリンリさんが聖教団との交渉を行い、
アミアさんが巫女を救出するのが最善策かと。
時間的に全員で回っていてはどう考えても間に合いません」
エリエの言う事は合理的で正しい。
感情で反論出来るところは何も無かった。
それからエリエは少しだけ細かい話をし、
それぞれの役目、大まかな日程を周知させる。
多少の問答はあったものの、
ほぼエリエが作戦を決めた形となった。
場は解散になり、それぞれ準備に移る。
少しだけリンリと話そうと動いた時、
アミアは呼び止められた。
「アミア。
改めて礼を言わせてくれ。
単純な私と一騎打ちをし、
手加減をしてくれて本当にありがとう」
タンタは頭を下げる。
真面目でいい人だな、と感じる。
「いや、頭を上げてくれ、タンタ。
あたしは交渉が下手だから、
ああするしかなかったんだ。
正直王国の事はよく分からなかったし、
生き残りがいれば候補生達も安心だろう」
「そうじゃないな。
あの子達はもうアミアに憧れてる。
私じゃなく、今後もアミアが見てやって欲しい、
そう私は感じている。
と、その為に呼び止めたんじゃなかった。
アミア、お前にしか頼めない事がある。
東の国に王女が囚われている可能性があるんだ。
もちろん今の使命は巫女を集める事。
でも、王女が捕まっている場所が分かり、
可能ならば王女も助けて欲しい」
タンタはより深く頭を下げる。
「分かった。
もちろん作戦に支障をきたすようなら、
助けはしない。
ただ、可能性があるならあたしは無理をしてでも、
王女を助け出そう」
「ありがとう、
そう言ってくれるだけで嬉しいよ。
本当は私が付いて行きたいが、
私はお前ほど強くない。
王女はこの国の再建の希望になる。
その事だけは知っておいてくれると嬉しい」
そう言ってタンタは離れていった。
王女が生きているかは分からない。
ただ、王国を再建させるのに必要な事は、
アミアにも理解出来る。
結局アミアは最後に応接室を出る事になった。
廊下に出て進もうとすると、
ローブの裾を後ろから引っ張られる。
振り返るとシルシが立っていた。
アミアが出てくるのを待っていたのかもしれない。
「どうかしたか?」
「・・・東は危険。
行かないで欲しい・・・」
小声でシルシが訴える。
ここまではっきりした意見を聞くのは初めてだ。
「危険は承知の上だ。
でも誰かが行かなくちゃいけない。
あたしが強いのは知ってるだろ」
「うん・・・。
でも、心配・・・。
約束して。
戻って来るって」
シルシの言葉を聞きつつ、
思い浮かんだのはリンリの事だった。
そして、シルシの気持ちが少し分かった。
「ああ、約束するよ。
絶対に戻ってくるから」
「・・・分かった。
頑張って・・・」
シルシは背伸びをし、アミアの頬にキスをした。
そして背を向けて走り去って行った。
彼女の好意は嬉しい。
でも、どんな好意であれ、
それを受け止める事は出来ない。
アミアは意を決して歩き出した。
「コンッコンッ」
「はーい」
部屋をノックするとリンリが顔を出す。
「あ、アミアちゃん。
入って、入って」
リンリに引っ張られて彼女の部屋に入る。
「しばらく別々になっちゃうね。
ずっと一緒だったのに・・・」
リンリが寂しそうな顔をする。
「リンリ」
「はい」
立って向かい合ったまま二人は見つめ合う。
「ここで再会した時、
リンリに言いたい事がある」
アミアは絶対に再会出来るよう、約束をした。
「うん、分かった。
じゃあ、お互い頑張ろう!」
リンリは笑顔を作り、無理に元気な声を出した。
身体が動き出しそうになるのを堪える。
「ああ」
アミアは心を隠し、静かに部屋を出て行った。




