11.伝承
「こら、離さんかお主。
おい、誰か助けろ!」
ミルミがもがきながら叫ぶ。
エリエはぎゅっと抱き付いて、
どれだけミルミが暴れようと離れようとしない。
本気を出せば簡単に引き離せるが、
あえて力を抜いているのだろうと、
武者から降りたテルテは放置する事に決めた。
「アミアちゃん、どうしよう?」
「うーん、あたしの力じゃエリエは剥せないかな」
とりあえず鎧を降りたアミアとリンリだが、
2人も様子見を決め込んだようだ。
死闘を繰り広げた後なのに、
城の広間はそれを感じさせない空気になっていた。
「よし、それなら」
再びミルミの姿が歪み、
エリエから離れた場所に姿を現す。
ただ、その姿は豊満な胸の大人の女性から、
以前にテルテが見た少女の姿になっていた。
「ああ、そのお姿。
まさに夢に見た愛しきお方!!」
「アミア、リンリ、そいつを押さえろ!」
悪寒を感じ、ミルミはアミア達に命令する。
アミアもリンリも反射でエリエを両側から押さえ付けた。
引きずられそうだったが、ようやく無駄だと感じたか、
エリエの動きは止まる。
「結局その姿が本物なの?」
「我らにとって姿などどうとでもなる。
わらわは動きやすいからこの姿を選んだだけじゃ」
ミルミはそう言うが、
ディスードの前ではカッコつける為にさっきまでの姿をして、
本来はこの姿なのでは、とテルテは睨んでいた。
「それより巫女。
お主はなんなのじゃ。
殺されたいのか?」
ミルミはエリエを睨んで凄む。
ただ、先ほどの痴態が凄みを打ち消していた。
「これは、失礼いたしました。
わたくし、トワの国に使える巫女、
エリエ・ヤマタと申します。
超越者、ミルミ様とは既にお会いしておりましたが、
今のお姿では初めて謁見させて頂きます。
わたくしの命は既にミルミ様のモノ。
お気に召さなければいつでも殺して頂いて構いません。
この身体、ご自由にお使い下さいませ」
エリエは一瞬まともに戻ったように見えたが、
やはりどこかおかしい。
「もしかしてエリエちゃんの言っていた好きな人って」
リンリが何か思い出したようだ。
「はい、そうです。
我々巫女には少なからず予言の力がございます。
わたくしの場合は夢に薄っすらと見るのです。
わたくしが共に戦う姿が。
そこにはアミアさん、リンリさん、
テルテさんの3人の面影が薄っすらと残り、
そして超越者のお方の印象がはっきりと残っておりました。
幼少の折から何度も何度も同じ夢を見、
いつしかわたくしは恋に落ちておりました。
このお方の為に生きたいと」
「勝手な人間じゃのう。
そもそも正体がバレた以上、
わらわは一緒にいるつもりなど無いぞ」
「いえ、そんな事はございません。
ミルミ様が行く場所なら、
わたくしはどこまでも付いて行きます」
エリエの目は真剣だ。
これは、どうなんだろう。
ミルミが本気を出せばどうにでもなる、
と思ったが、エリエが適合者である以上、
下手に殺そうとすればアイシンの反撃に合う。
ミルミは悪魔の世界に戻るつもりは無さそうだし、
地上にいる以上どこまでもエリエは追って行くだろう。
うーん、ある意味拷問なのか、とテルテは納得する。
「おいテルテ、分かったような顔をするな。
まあ、わらわの事を置いておいても、
アミア達には色々聞きたい事があるんじゃろ?
わらわは話さんからこいつに聞いてみろ」
ミルミはとにかく空気を変えようとしたようだ。
「そうだな。
エリエ、聞かせてくれ。
超越者ってなんだ?
悪魔とは違うのか?」
アミアの真剣な問いに、エリエも表情を変えた。
「そうですね、お話し致します。
もう、大分昔の話ですので、
東の国には伝承として残っておりましたが、
王国にはもう記録は残っておらず、
悪魔と超越者の存在は同一視されたようです。
超越者はそもそも我々人間と妖魔を作り出した、
創造主に当たります」
エリエの言葉にアミア達3人は驚きを隠せない。
「創造主?
それって神って事か?」
「神の定義というのは曖昧で、
東の国と王国の宗教も異なります。
まず東の国においての神は人間を救った、
八百万の神という存在を示し、
それは超越者とは異なります。
八百万の神の中に巫女に神装を下さった双子の神がおり、
それが王国での聖神と邪神に当たります。
東の国に伝わる言い伝えでは、
この世界で八百万の神と超越者との不幸な戦争が起こり、
龍神と聖母様の力で争いは平定し、
世界は地上と地下に分かれた、となっております。
これは王国も、東の国も出来る前の太古の話で、
正しい話かどうかは分かりません。
超越者は人も悪魔も妖魔も分け隔てなく接する存在の為、
王国では悪魔と同等の存在に変化したのでしょう。
ただ、巫女は言い伝えを信じ、
悪魔と超越者と神は別の存在として、
超越者にも絶対の忠誠を誓う事になっております」
アミアの問いに対するエリエの答えは、
にわかには信じられないものだった。
「ミルミ様、この話は本当なのか?」
「今更様付けはよせ、テルテ。
まあ、大きくは間違っておらんと思うぞ。
大昔の話じゃ、人間が好きに解釈すればよい」
ミルミは大きく否定はしない。
「えーと、
テルテちゃんはルミルちゃんの正体を知ってたの?」
「もう喋っていいよね。
ああ、知ってた。
というか、最初に2体の悪魔を倒した時、
1体を倒したのはミルミだった。
あと、エミンの正体もミルミだよ」
テルテの言葉でアミアは少し疑問だった部分が、
納得出来たと感じた。
「そっか、じゃあ大断層を降りる所からずっと一緒だったんだ。
改めてよろしくね、ミルミちゃん」
「お主の反応は変わらんな、リンリ。
わらわはそういうのは嫌いじゃない」
「え、ずるいです、リンリさん」
エリエが反応するが、ミルミは無視する。
「少し整理させてくれ。
そもそも超越者は悪魔ではなく、
ディスードは城を占拠しておらず、
そこのお姫様を迎えに来てたと。
でも、面白そうだから戦ってみて、
ゲームもしてみたと。
創造主かどうかは置いといて、
敵対はしていないし、
今の崩落とかの異変とも関係ないと?」
「大体その通りだと思いますが、
崩落の原因は巫女にも分かっておりません。
それが超越者のご意思だった場合、
巫女としては受け入れるしかありません」
「わらわは何も答えんぞ。
まあわらわや家の者の仕業、
というのは無いとだけは言っておくが」
ミルミは律義に少しだけ情報は出してくれる。
人間に対しての情が少しだけ沸いたか、
ただの気まぐれかは分からないが。
「とにかく、城は取り戻せたんだ、
町の妖魔も追い払って、
早く占拠した方がいいんじゃないか?」
テルテはミルミとエリエの件は横に置いて、
現状の話を切り出す。
「そうだな、エリエ、
本当に崩落跡は封じられるんだな?」
「はい、巫女に与えられた使命の一つですから。
町の皆さんを呼んできましょう」
エリエも気持ちが切り替わったのか、
はっきりと答える。
「ミルミ、ここが落ち着くまでは、
まだいてくれないかな」
「そうじゃの、この姿でならな」
テルテの言葉でミルミはルミルへと変わる。
情報が引き出せるかは置いといても、
ミルミが存在する事はプラスになるのでは、
とテルテは思っている。
ルミルへも飛び掛かりそうなエリエを引っ張って、
一同は一旦町の人達の元へと戻った。
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「お城を取り戻せたんですね!」
町の人達が待機していた場所まで戻ると、
ユーカが嬉しそうに迎えてくれた。
大破して歩くのがやっとのシウン以外、
アミア達の鎧には大きな傷は無い。
「そっちは大丈夫だったか?」
「はい、何度か大型妖魔の襲撃もありましたが、
力を合わせて撃退しましたわ」
アミアにはユーカが大分頼もしく見えた。
そして、城塞都市を任せられるんじゃないかと。
アミアは頭の中に少しだけ先の事を思い浮かべていた。
「じゃあ双子を残して、
城下町の妖魔掃討を手伝って欲しい。
大型の相手はあたし達がやるから、
それ以外を町から追い払ってくれ」
「「はい」」
双子も自分達の使命を理解し、返事した。
悪魔が城から去ったのと、
中央にいたドラゴンがいなくなった事で、
町のパワーバランスが崩れ、
妖魔同士の同士討ちと町からの逃亡が発生し、
予想より妖魔の数は少なくなっていた。
何より大型妖魔をアミアとリンリが率先して排除したので、
候補生達は難無く妖魔退治が行えたのだった。
「それでは崩落を封印いたします」
中型以下の妖魔は候補生達に任せ、
アミア達は町の中心部にある、
大きな崩落跡の前に集まっていた。
「~ー~!ー~ー・・・」
エリエはアイシンで聞き取れない呪文のような言葉を唱える。
やがて崩落跡の穴の上に光が溢れる。
そしてしばらくして光が消えると、
そこには地面があり、穴を塞いでいた。
しかし、アイシンは膝から崩れる。
「大丈夫エリエちゃん?」
「すみません、この大きさの崩落跡は初めてだったので。
もう大丈夫です、次に行きましょう」
エリエが無理をしているのは分かったが、
崩落跡を全て塞がないと町は安全ではない。
町の外は後回しにしても、
中にある部分だけはエリエを頼るしかなかった。
「はい、これで最後です」
エリエの言葉は少し辛そうだ。
町の中の最後の崩落跡を埋めると、
候補生達もやって来る。
「町の中の妖魔の反応は無くなりましたわ。
しばらくは神聖結界が必要だとは思いますが」
妖魔が占拠していた場所は霊型の妖魔が発生しやすく、
人の暮らしが安定するまでは確かに必要だと思った。
「・・・ミノタウロス倒した・・・」
シルシがやってきてアミアに報告する。
「よくやったな」
褒めて欲しいのかと思い、
デュエナに乗りながらヴァールの頭を撫でてやる。
「・・・ふふ・・・」
おそらく喜んでいるんだろう。
『アミアちゃん、教会を見つけたよ。
ちょっと来て』
「ちょっと行ってくる」
周囲を散策していたリンリに念話で呼ばれ、
アミアはその場を離れた。
「ほら」
リグムがいる場所までデュエナで向かうと、
そこには大きな石造りの建物があった。
建物自体は所々崩れているが、
全体としての形は保っている。
そしてその入り口にはよく見たモチーフが。
「聖教団の紋章と邪教団の紋章か」
「うん」
アミアが理解している範囲では相容れない存在。
その紋章が二つ仲良く並んで掲げられていた。
王都では教会は一つに二つの神を祀り、
その信徒も一緒に存在していたのだ。
エリエに聞いた話や候補生の存在で分かっていたのだが、
いざ現実を突き付けられると動揺せずにはいられない。
「どうして分かれちゃったのかな」
「大断層のせいなのか」
2人には疑問しか出てこない。
アミアもリンリも気付いた時には二つの教団は争い、
人間はどちらかに属さないと生きる事が厳しかった。
王都のように手を取り合えばもっとうまく行ったのでは。
アミアの心に姉の死が思い出される。
「仲直り出来ないのかな」
「もう、無理だろう」
大断層の西側では教団同士で殺し合いをし過ぎた。
その恨みはそう簡単に消えないだろう。
生き残る為の苦渋の選択だったのかもしれない。
それでも今更どうにか出来るともアミアには思えなかった。
「戻ろっか」
「そうだな」
アミアは心の痛みを胸にしまい、
リグムの後に付いて行った。




