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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第1部 出会い
4/82

4.下層

『崩落』。

この世界で度々発生する異常な現象。

『崩落』が発生すると大地は崩れ落ち、

その下から『下層』と呼ばれる妖魔が蔓延る暗黒の世界が顔を出す。

妖魔とは、小さいものはゴブリン(小鬼)から大きいものはドラゴン(竜族)などの生物と、

ゾンビやグールなどの不死者やレイスやワイトなどの霊体まで、

様々な魔物の総称として妖魔と呼んでいる。

『下層』からは妖魔が大量に湧き出てくる為、

『崩落』が発生した付近の街や村の住民は逃げ出す以外の選択肢が現状は無い。

北の都での聖教団と邪教団との戦いは『崩落』をもって終了し、

互いに撤退を余儀なくされた。



「う、うぅ・・・」


リンリは意識を徐々に取り戻す。

『カンカンッ』という音が鳴り響いている。

目を空けると自分がまだデュエナに乗っていて、

デュエナと同化していると理解出来た。

デュエナを通し周りを見回すと、

数匹のゴブリン(小鬼)が斧などの武器で鎧を削ろうとデュエナを叩いていた。


「えっ」


急いでデュエナを立たせ、張り付いてるゴブリンを振り払う。

さすがに起動した神聖鎧に戦いを挑むほどゴブリンは馬鹿ではなく、

一目散に散っていった。


「ここは・・・」


リンリは周りを見回し、意識を失う前の記憶を思い出す。

やがて、自分が崩落に巻き込まれ、下層に落ちたという事実を把握した。

辺りは薄暗く、霧がかかっており、

見上げると、自分が落ちたであろう地面の穴が天井に見える。


(こんな都の近くでも『崩落』は起こるんだ・・・)


リンリの下層の情報は知識でしかなく、

実際に降りた事は無い。

ただの人間では1時間も生きられない、

妖魔の跋扈する場所だという認識だ。


リンリは周囲に気を配りつつも鎧のダメージチェックを行う。

デュエナには落下によるダメージはあったものの、

他の物に潰されたりはしておらず、

損傷は軽微で、動作に問題はなかった。

が、下層では神聖鎧であろうとも安全ではない。

まずはいったん手放した剣と盾が無い事には戦闘力が著しく低下したままだ。


デュエナに内蔵されたセンサーと目視を頼りに周りを調べる。

生身の人間の目では暗くてよく見えないのだが、神聖鎧は闇夜を見通す機能があり、

辺りの様子は難なく見えた。

リンリの神聖鎧は崩落の際にうまく近くの大木に乗っかったようで、

ダメージも少なかった事がまず分かった。

崩落で落ちた土砂や木の山を調べると、

運良く同じ場所に自分の剣と盾を発見出来た。

そして、その少し先にはかすかな機械鎧の反応があり、

近付いてみると紅の不死鎧が見つかった。


(悪姫のだよね、死んでるといいな)


背後から襲われては敵わないと不死鎧の状況を見る為に移動する。

悪姫の不死鎧は土砂と大木に埋もれ、

辛うじて上半身の一部が見えている状態だった。

センサーの反応から、起動はしているものの、

戦闘態勢ではないと思われる。

先ほどのリンリと同じく一時的に気を失ってるのかもしれない。


「もしもーし」


小さな声で呼びかけてみるが、悪姫からの返答はない。

いくら悪姫と言えど、この状態から自力で抜け出す事は不可能だろう。


(どうしよう)


リンリは少し考え、結局不死鎧に乗っている土砂などを取り除き始めた。

明確な理由は無いが、身体が動いていたというのが正直なところだ。

神聖鎧相手に戦いを挑む無謀な妖魔はいないようで、

積み重なった木や岩や土砂をどける作業に邪魔は入らなかった。

数分でどける作業は終わり、不死鎧の全貌があらわになる。

悪姫の不死鎧も埋まってはいたものの、

運はよかったようで、大きな破損は見られなかった。

しかし土砂をどけても動き出す気配はない。


(中を見てみるしかないか…)


リンリは覚悟を決める。

不死鎧の繭のハッチを空けるには一旦神聖鎧を降りなくてはならない。

まず相手の不死鎧を搭乗姿勢(座っている形)に起こす。

この辺りは神聖鎧も不死鎧も設計思想は同じようで、

背を支え起こすようにすると自動的に搭乗姿勢になった。

次に身の安全の確保をしないといけない。

リンリは安全な場所を作る、神聖結界の神聖魔法を唱える。

これで10メートル四方に半日は中型以下の妖魔が入れない結界を作りだした。


(あとは・・・、やっぱり起動したままだよね)


自分が神聖鎧から出る必要があるが、

その際、神聖魔法や簡単な動作が近くにいれば操作出来る、起動状態で出る事にする。

不死鎧と同じく搭乗姿勢になり、起動状態で降りる事を念じる。

リンリの意識は一旦真っ白になり、やがて実際の肉体の感覚が戻ってくる。

周りの充填液が取り除かれ、体内の液体も自動で蒸発し、

自然と呼吸が再開される。

後ろのハッチが開き、外の明りが見える。

下層自体は暗く天井の穴の光が薄っすら入るぐらいだが、

神聖結界自体が光る為、明りが無くても肉眼で周りが見えるようになっていた。


リンリは体の感触を確かめながら立ち上がり、

繭のハッチから下層の地面に降りる。


(さすがにこのままじゃ駄目だよね)


リンリはデュエナの腰に備え付けてあるラックを空けると、

その中から靴と短剣を取り出し身に着ける。

本当は下着とかも付けたいところだが、ここには最低限の備品しか入れておらず、

服も下着も入ってない。


周りを見渡しつつ、下層の毒のありそうな植物を避けながら、

不死鎧に近付く。

神聖鎧越しにはしょっちゅう見ていたものの、実際に近くで見る事は初めてなので、

やや興味深い。


(思ったより禍々しくないなあ)


神聖鎧より生物的な装甲で、邪悪なイメージがあったが、

近くで見ると神聖鎧と装甲の意匠が違うだけのように感じる。

いまだ動かない事を確認しつつ、背後に回り、

繭の乗り込み用ハッチ周りに近付く。

神聖鎧の場合は外からでも手順を踏めば手動でハッチが空けられるが、

不死鎧も同様とは限らない。

手で空けられなければ神聖鎧の剣で無理矢理、

と思っていたのだが、操作するパネルの位置が違うだけで、

パネルが見つかればあっさりと繭のハッチは開いた。

外部からのハッチの開閉により不死鎧は停止モードに移行し、

繭の充填液が排除される。

リンリの悪姫に対するイメージはゴリラのような女性だった。

自分の団長がゴリラとまでは言わなくとも、

背が高く、筋肉がある女性だったので、

それを凶悪にしたイメージでいたのだ。


(殴り殺されたりしないよね…)


いざとなれば神聖鎧から神聖魔法で攻撃出来る準備はしつつ、

繭の中を覗く。


「え?」


リンリは自分の目を疑った。

繭の中にはリンリより小さい、

華奢で可愛らしい少女が眠っていたからだ。


(可愛い!)


小さく整った顔に短く切られた美しい金髪。

肌も白く、とても邪教団1の戦士とは思えない。

服は着ておらず最低限の下着のみの姿で、

胸の膨らみはほとんどなく発育途中に見えた。


「すみませーん」


とりあえず声をかけてみるが、反応は無い。

やっぱり気を失っているようだ。

こうなると神聖魔法で回復させるのが早いが、

繭の中で意識を取り戻すと再起動されかねない。

一旦デュエナのラックから毛布を取り出して平らな地面に広げる。

それから不死鎧の繭の中に入ってリンリは少女を座席から抱きかかえる。


(軽いなあ)


戦士としての筋肉は付いているようだが、

やはり華奢でリンリにとって少女はとても軽かった。

慎重に落とさないように繭から外に出て、布の上に少女を寝かす。

下は固い地面なので、リンリは座って膝枕の形にする。

近くで見るとますます人形のように可愛らしい女の子だな、

とリンリは思った。


(勿体ないな、髪を長くすればもっと可愛くなるのになあ)


戦士としては髪の長さは邪魔だが、

神聖鎧や不死鎧を動かすうえで髪の長さは邪魔にならないので、

聖騎士団でも邪教団でも髪を伸ばす者は多い。

死と隣合わせだが、ある意味特権階級でもあるので、

そういったおしゃれは少女達の唯一の楽しみだったりもした。

少女の金髪は手入れはされていないがサラサラで、

伸ばして整えればまさにお姫様みたいになるだろう。


「回復魔法発動」


念ずるだけでも発動は出来るが、リンリは声に出して魔法を発動させる。

少女の身体が光輝き、蒼い瞳がゆっくりと開かれていった。


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