3.運命の交差
時間は少し遡る。
リンリが都に着いてから数時間後、都の敵不死鎧は全滅し、
事実上北の都は神聖騎士団により占拠された。
味方の神聖鎧は数台破損したものの、
死者は無かったので、完全勝利といえる。
(やっと帰れるかな)
そんな事をリンリが考えていた時、
神聖鎧デュエナ内(リンリの脳内)に警告音が鳴り響く。
西の街道に不死鎧の反応が複数現れたのだ。
神聖鎧のレーダー(探知機能)は仲間(神聖鎧)と敵(不死鎧)を
判別して自分を中心とした平面の地図上に反応を表示する事が出来る。
『団長、西の街道から敵増援、
相手は10機以上、先頭は悪姫の機体です』
リンリは見て取れる情報を団長に報告する。
悪姫の不死鎧は特に神力(不死鎧の魔法力の大きさ)の反応が大きく、
神聖鎧のレーダーで判断出来た。
『了解した。
動ける部隊は10番機を除いて私のところに集合、
集団で増援を打ち滅ぼす!』
団長は疲れを見せぬ勢いで命令を出す。
今日リンリは戦闘を行っていなかったので、
普通に戦力として組み込まれており、
いやいやながらも参戦するしかなかった。
過去の戦いでは悪姫が率いる部隊には勝った事はなく、
大抵は味方の戦力が半減したところで、撤退になっていた。
敵は手強く、特に悪姫はこちらの団長と互角か、
それ以上の力の為、まともに戦っていい相手ではないとリンリは思っている。
『悪姫は私が抑える。
部隊は左右に展開し、協力して各個撃破を』
リンリも騎士団に合流する。
団長は先導し、リンリは左翼の一番後ろに配置された。
騎士団は街を出て、街道横の草原に展開する。
集団での戦闘を想定した騎士団は路地がある街の中より、
見通しがいい平地での戦闘を得意としているからだ。
やがて敵の不死鎧が目視出来るところまで進軍してくる。
最初に騎士団長と悪姫の機体がぶつかり合い、戦闘が開始された。
聖騎士団は基本的に複数で組んで協力して相手を仕留める戦法を取る。
リンリのデュエナも7番機と組んで戦うよう指示されていた。
『いつも通り私が引き付けます』
『分かった』
リンリも戦いには慣れており、
いつもの引き付け役を買って出る。
7番機はシーザという少女で、
無口だが腕は確かだとリンリも思っており、
最近は組んで戦う事も多かった。
デュエナを含んだ左翼の部隊も敵とぶつかる。
邪教団は組んで戦わず、我先にと獲物を狙うように襲ってくる。
暗黒魔法を使い、卑怯に、姑息に、纏わりつくような戦い方を得意とし、
気を抜く事は出来ない。
戦場は乱戦となり、デュエナも近くの1体と組み合う。
敵の不死鎧は鎌のような武器で、こちらの隙を狙って打ち込んでくる。
デュエナは防御に徹し、剣と盾で、相手の攻撃を反らして対応していた。
そして、相手の攻撃が甘いところを狙い、盾で大きく逸らし、隙を作る。
デュエナの背後に控えていたシーザの鎧はその隙を見逃さず、
得意の槍で不死鎧の装甲を貫く。
槍はうまく装甲の内側の繭にまで到達し、そこから充填液が漏れだす。
こうなると不死鎧も行動不能となり、
現在の戦闘中に自己再生される事もないだろう。
中の搭乗者も繭が傷つけられる事で死んでいる可能性も高い。
(次は)
神聖鎧を通してのリンリの視界上にはレーダーが映し出され、
周りの地形と敵味方が判別出来るマーカーが表示される。
レーダーと目視で周囲の敵を確認したリンリは、
レーダー上に薄ぼんやりと見える敵機の存在に気付いた。
『シーザ、後ろ!』
シーザ機の斜め後ろに敵機のマークが近付いたため、念話で叫ぶ。
シーザ機の後ろのぼやけていた空間がはっきりとし、
暗黒魔法で身を潜めていた敵機が現れる。
シーザ機は刺さった槍を引き抜いている最中で、
武器がまだ構えられていない。
シーザ機の背後から不死鎧は武器の爪で切り裂く。
当たりどころが悪く、繭の後部ハッチが吹き飛び、充填液が飛び散る。
リンリが助けに行こうとしたところ、別の敵機が近付いてくるアラートで遮られる。
仲間を失い、挟み撃ちになればこちらがやられる。
リンリは後ろ髪を引かれながら、敵機と距離を取る。
すでに戦闘不能のシーザ機を不死鎧はなおも攻撃し、その爪で中のシーザを串刺しにし、
獲物を取ったかのように高々と掲げた。
(狂ってる…)
命を懸けた戦いをしているのだから、すでにまともではないとは理解している。
それでも敵だからと倒した相手を動物のように扱う事はリンリには理解出来なかった。
『7番機全壊、9番機左翼の他の機体と合流します』
リンリは念話で報告し、近くで戦っている仲間の方へ移動した。
近くにいた左翼の機体と合流し、複数機で1体の不死鎧を相手をする。
だが相手の不死鎧はしぶとく、素早く動いて同士打ちを誘ったりする為、
決定打が叩き込めない。
敵と組みなおすために散開し、周りを囲もうとした時、何かがデュエナの方に飛んできた。
見た事のある大剣。
団長機の剣だ。
リンリが団長機の方を見ると、
悪姫の攻撃を盾だけで何とか防いでいるものの、
圧倒的に不利な事が見て取れた。
瞬間、リンリの脳裏に敗北が見えた。
このままでは負ける。
団長機が倒されれば次は自分達だ。
しかし、まだ団長機からの撤退命令は出ておらず、逃げ出す事は出来ない。
何かがリンリの中で弾け、デュエナは走り出した。
逃げようと。
周りを見ながら、一番手薄な部分を探す。
背後の街は負傷した味方がいる為、有効ではない。
右も左も激しい戦闘が続いていて、
走っていけば攻撃される可能性が高いだろう。
ならば、激しい戦闘で他の機体が近寄らなかった、
団長機の部分が一番手薄だという結論に至った。
味方がどうなろうと構わない。
逃げなければ死ぬのだから。
リンリは団長機同士の戦いの方へ一目散に走っていく。
悪姫の紅の機体がこちらの攻撃を警戒して身構えるが、
速度を落とさず横を駆け抜ける。
(よし)
と思った瞬間、悪姫の機体がこちらを追うように走り出した。
(なんで追ってくるのよ!)
リンリは逃げ出した自分を追ってくる悪姫に戦慄していた。
攻撃してないんだから、そのまま団長機と戦ってくれると思っていたのに、
なぜか自分を追ってきたのだから恐ろしい。
ガクン、とデュエナが揺れる。
背後から暗黒魔法で砲撃してきたのだ。
装甲的には問題なくとも、走っているところを撃たれると、
バランスを崩し、下手すると転ぶ事になる。
リンリは全速力をやめ、少しずつスピードを落として、
相手の砲撃を避けようとする。
悪姫はスピードを落とさないため、やがて距離が近付いてくる。
このままでは追い付かれると思い、デュエナは北にある森に入り、
逃れようとする。
しかし、悪姫は捉えた相手を逃さない。
(どうしよう、このまま戦ったら確実に殺される)
リンリは一生懸命考え、打開策を出そうとする。
が、どう考えても生き残る方法が見出させない。
ともかく戦う意思が無い事を伝えようと、
リンリは剣と盾を地面に置いてデュエナの両手を上げた。
「どういうつもりだ」
悪姫も戦う意思が無い事は分かったようで、
立ち止まって質問してくる。
しかし、リンリはなんと答えていいか分からない。
「時間稼ぎか?
だったら死ね!」
と悪姫が叫び、リンリが再び逃げようとしたその時、
異変は起こった。
森の中にいた鳥たちが飛び立ち、
大地が鳴動する。
リンリ達のいた地面が揺れ、
崩れ、2体を飲み込んでいった。