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悪姫恋聖  作者: ねじるとやみ
第1部 出会い
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1.聖教団の少女

暗雲が立ち込め、

悪鬼邪魅が跋扈する、

混沌とした世界で、

市民は怯え、

集い、ひっそりと暮らすしかなかった。


そんな中にあっても人として生きようとする

二つの勢力があった。


『アルデン聖教団』


唯一の光の神アルデンを信じ、神の僕として祈り、

妖魔に抗う者たち。

ただし、人の身で妖魔に対抗する事は不可能であった。

妖魔に対抗出来る2種類の機械の鎧のみ。

そのうちの一つを聖教団は有していた。


少女は四方を金属に囲まれた狭い空間、

通称『繭』の中にいた。

身に着けている衣服は頭から被るローブ一枚で、

それ以外は下着も付けていない。

全裸に近いほど『同化』しやすい為だという。

光の無い繭の中で少女は一人膝を抱える姿で座していた。

少女の名はリンリ・ケレッヅ。

聖教団が作った『聖騎士団』の一員であり、

『アルデン聖教団』が有する機械の鎧『神聖鎧ホーリーアーマー

の乗り手の一人である。


「全機、神聖鎧を起動」


その指示を聞いてリンリは声を上げる。


「神聖鎧『デュエナ』起動」


言葉とともに狭い空間に乳白色の液体が満ちてくる。

液体は体温とほぼ同じ温度であり、それ自体に不快感はないが、

口の中まで入れないといけない事にリンリはまだ抵抗があった。

空間全部に液体が満ち、口から空気を吐き出し、身体の中まで液体で満たす。

瞬間、リンリの精神は肉体から分離したと感じる。


『ぐっ』


全身に鋭い痛みが走る。

神聖鎧は『同化』する際に苦痛を強いられる。

これに耐えられない者は鎧から拒絶され、

吐き出される。

死にはしないが、同化出来なかった者はそれがトラウマとなり、

極度に痛みを恐れるようになるという。

リンリは初めて同化した時から、

耐えられないと感じた事は無かった。

確かに痛い。

だが、それだけだ。

別に死ぬわけじゃない、と。

リンリの思考は神聖鎧の『同化』に適していた。


リンリは目を空ける。

見えるのは複数の神聖鎧が並ぶ格納庫の中。

自分の視覚、聴覚、触覚が神聖鎧『デュエナ』と『同化』、

つまり一体化している事を確認する。

痛覚に関しては感じるものの、

実際の痛みの何十分の一になっている。

そうではないと頭や腕が吹き飛ぶような戦いには参加出来ないからだ。


「各機起動に問題はないな」


騎士団長の神聖鎧から音声での確認が聞こえ、

各機順番に音声で答える。


「9番機問題無し」


リンリの機体は9番機なので自分の番にリンリは答える。

今回の作戦で出撃する神聖鎧は全部で10体。

リンリはその中で下から2番目の位置に指定されていた。

それはリンリの今までの成果と態度によるものだ。

別段リンリはその位置を気にしてはいない。

むしろ、気負わずに済むいい位置だと思う程だ。

そういう部分がリンリの騎士団内での評価を落としている事も

リンリは分かっているが、直そうとも思っていない。


「それでは出発」


騎士団長の号令で各々が得意な武器、盾を手に格納庫を出る。

リンリは武器防具の扱いに特に得手、不得手が無く、

基本となる長剣と大型盾を手に隊列に続いていった。


『神聖鎧』、全高4メートルほどの人型をした機械の鎧。

少女が乗る『繭』の部分を中心とし、

その外側に手足と頭部が付いている形だ。

白銀を基調とした色をし、曲面を取り入れた装甲を纏い、

見る者へ清楚なイメージを与える。

リンリの乗るデュエナは輝く藍色の装甲をで覆われ、

蔓のような装飾から美しいとさえ感じられる。


この鎧は神の奇跡の力で動いていると言われている。

その力は世界の最大の脅威である、

大型の妖魔にも匹敵し、長身から振るわれる近接武器は

城壁を軽々と破壊し、様々な神の奇跡たる神聖魔法を使用出来る。

そして『神聖鎧』は少女、それも心が清らかな者にしか乗れない為、

今の人類の戦いの主役は年端も行かない少女たちだった。


今日の作戦の目的は敵対勢力『デュガール教団』に

占拠された北の都を取り戻す事。

作戦はこちらに有利な日中に行うため、出発は早朝だった。

巨大で重い神聖鎧を輸送する手段は無く、

移動は基本的に全機騎乗して行う事になる。

騎士団での行動は目立ち、敵に察知され易いが、

それも織り込み済みで突撃するのが大体の作戦だった。


「今日も『悪姫あっき』が出てくるかもしれない。

一同油断するな」


騎士団長から敵教団のリーダーの呼び名が告げられる。

リンリも直接戦った事はないものの、

『悪姫』と仲間との戦いは見ており、

その能力の高さが恐ろしいものである事は把握していた。



『なんであたしだったのかな…』


リンリは常々思っていた。

頭も運動神経も他の団員より悪く、

顔は、まあ美人というほどではない。

そもそも自分はそこまで真面目でもないし、

神様に身を捧げるほど信仰心も高くない。

それでも聖騎士としての適性は高く、

神聖鎧に拒否された事は無かった。


戦いになれば少なからず戦死者が出る。

神のもとに帰るのだから神の為に死ぬのは怖くないと教義にはある。

そんなわけはない、怖いに決まっている。

そもそも世の男性たちはほとんど戦っていない。

戦っているのは聖騎士団の少女たちだけだ。

リンリはたびたび逃げ出したくなるが、

逃げ出した先に仕事は無く、

力が支配する今の世界で生き抜く事は出来ないだろう。

だから、生きる為にしがみつくだけだ。

だから、死なないように相手を倒す。

邪教徒だろうと、中身は人間だ。

きっと相手も死にたくはないだろうな、とは思う。

邪神を信仰してるからって死んでいいわけじゃない。

でも、自分が生きる為には相手を殺さないといけない。

不条理だと思うけど、この世界自体が不条理なので、

しょうがないんだ、と折り合いを付けていた。


リンリがそんな事を考えているうちに数時間進軍し、

騎士団は北の都の近くまで移動していた。

運良く道中での妖魔との接触も無く、

敵教団の襲撃も無かった。


『第1分隊は正門から、

第2分隊は裏門から都に突入。

残りの9番機、10番機は外で増援の見張りを』


団長の声が念話で聞こえる。

神聖鎧は直接声に出しての会話と、

神聖鎧同士でしか聞こえない念話での会話が行える。

どちらの会話でも基本的に生身の時の声で聞こえるが、

神聖鎧を通して声を変更させる事も出来る。


リンリは9番機の為、今日も外で見張り役という、

危険な役割を与えられていた。

分かれた部隊はそれぞれ北の都へと突入していく。

リンリは損な役割と思いつつも、

中で直接殺し合いをするよりはマシだと思っていた。


「じゃあ、私は北側の街道と草原からの道を見張るから、

リンリは西の街道と山側からの見張りをお願いね」


直接会話で10番機から声がかかる。


「了解しました」


リンリは特に不満も無く答える。

10番機は確かトリーとかいう、最近騎士団に入った新入りだ。

それでも私よりはしっかりと任務をこなそうとしていると感じる。


リンリの団での評価は低い。

最低限の任務はこなすものの、

積極性に欠け、自己犠牲の精神が無く、

命を賭して仲間を助けようとする姿勢が見られないからだ。

それでも騎士団から追放されない理由は、

神聖鎧への適応が高く、

特に騎士団で2番目に能力が高いと言われる、

神聖鎧『デュエナ』との相性が

一番いいからであった。

命令には従い、生存率が高い為、

騎士団としては模範にはならずとも手放したくない人材なのだ。

そういった点を特に騎士団長が気に入らず、

他の団員からも冷遇される原因になっていた。


「ふうっ」


ようやく一人になったリンリは都の外で息を吐く。

といっても神聖鎧が呼吸しているわけではなく、

人間としてのリンリの生活習慣が出ているだけだ。

リンリは作戦が終わって早く自分の部屋に帰りたいと思うのだった。


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