眠りから覚めると大変な事になっていた
俺は障子を通して差し込む柔らかな日差しで目を覚ました。
いつもの従業員寮にある俺の部屋。
なんだか身体が重い。
それに長い間眠っていたような感覚もある。
いったい俺はどうしたんだっけ?
カンザキを倒して牢屋敷にぶち込んでから、アサハナと話してリンドウの治療をしてもらったところで記憶が途絶えている。
そこで俺は意識を失ったんだろう。
俺は恐る恐る指を動かす。
大丈夫だ、問題なく動く。
腕や脚も重く感じるが俺の意思通りに動いてくれる。
アサハナの治療の後遺症は残っていないようだ。
リンドウの治療は成功したんだろうか。
成功してくれているといいな。
ん? 何か柔らかい感触がある。
俺は布団の中に柔らかいものが入っているのに気づき、何なのかを確かめようと掴んでみた。
「いゃぁん」
え、誰かいる!?
俺は驚いて掛け布団を勢いよく開くと、見知らぬ可愛い娘が一糸まとわぬ姿で俺に密着していた。
さらに驚いたのはチドリにもひけをとらない大きな胸プリンの持ちぬしだった。
「ふぁ〜、あ、おはようございます」
だ、誰だこの娘は。
なんか親しげに声をかけられたけど。
俺はこんな娘知らないぞ。
それに、なぜ俺の布団の中で裸!?
気付けば俺も全裸だ。
ということは……え? この娘と俺がアレしてしまったのか?
いやいやいや、俺には記憶がない。
気持ちよかったという記憶がないぞ。
だがらセーフ?
浮気にならないよな?
でも、こんな場面をペティにでも見られたら絶対に勘違いされてしまう。
「昨日の夜は激しかったから、わたし気持ちよすぎて気絶しそうになりましたよ」
な、なんだって?
まじで?
俺、記憶がないのにやっちゃった?
どうしてこうなったか分らない。
誰か説明してくれ!
そこにタイミングが良いのか悪いのか、ペティが俺の部屋に入ってきた。
「えっ!? ご主人様!?」
ペティは裸の俺達を見てすぐに何処かへ走っていった。
うわ、今の完全に勘違いしてるよな。
こんな姿を見たら誰でも昨夜にお楽しみだったって考えるよ。
「……それで、お前は何者なんだ?」
「え!? 昨日はあんなに激しく求めあったのに、知らない振りをするなんて、ひ、酷い……」
「わ、悪いが俺にはお前と求めあった記憶が無いんだけど」
「う、うそ……そ、そんな。あたしの事は遊びだったのね!?」
「そんな事言われてもな」
「私の『初めて』だってあなたに捧げたのに……」
「ええ!? そう、なのか?」
「私をこんな傷物にしたのに記憶に無いなんて、酷すぎますっ!!」
参ったな。
俺には記憶はないけどこの娘の『初めて』まで頂いてしまったらしいぞ。
記憶に無いのが惜しいな。
いや、そういう事じゃなくて、記憶がないのは責任の取りようが無い。
この娘の事をどうするかが問題だ。
この娘には申し訳ないけど平謝りして出て行ってもらうしかないな。
「記憶は無いと言われても、私はあなたから離れたくはありません!」
裸の娘が涙目になって俺に抱きついてきた。
たわわな胸プリンが俺の胸に押し当てられる。
で、でかい!
じゃなくて、まずい!
こんな知らない娘と裸で抱き合う姿を、セルフィナやイチゴに見られたら俺のいちゃラブ生活の危機だ。
「そこまでです」
そこにタイミング悪く、ペティとセルフィナとイチゴが俺の部屋に入ってきた。
ペティが二人を連れて来たんだろう。
終わったな。
妻達の俺に対する信用は崩れ去るだろう。
節操のない浮気者の夫として永劫語り継がれる事になるんだ。
「アサハナさん。少しおふざけが過ぎますよ」
「……え? アサハナだって?」
「もう終わりっすか? もう少しくっついていたかったんすけど……」
裸で俺に抱きついていた娘は俺から離れた。
「はい、そうなんです。おいらはアサハナ。ユラリさんをからかうのはここまでですね。ははは」
アサハナと俺は布団の横に畳んで置いてあった着物を着る。
そして布団も畳み六畳間に車座になって五人が座った。
ちょっと手狭に感じるが仕方が無い。
「どういう事か説明してくれ」
「それじゃあおいらが説明します」
アサハナは牢屋敷で俺が意識を無くしてからの事を話してくれた。
まず始めに驚いたのはあの時から既に一週間もの長い間、俺は眠り続けていたという事だ。
俺の身体が重く感じられたのは、寝たきりだったので筋肉が衰えてしまったんだろう。
俺が最も危惧していたリンドウの治療は無事に成功していた。
彼女の傷は塞がったけど、まだ完治までは時間がかかるようだ。
今は自分の屋敷で療養しているらしい。
一時はリンドウが死んだと思っていたので、今は生きていると聞いて安堵した。
次にどうしてアサハナが大きな胸プリンに、いや、女の体になっているのかと言うと、リンドウを治療するのに使った【精根流転】というスキルは、性別を決定したアンドロギュヌス族の大人でなければ使用できなかったらしい。
だからあの場でアサハナは一生女として生きる事に決め、【精根流転】を使えるようになった。
カンザキの件はどうなったかというと、辻斬りの真犯人がカンザキであるとリンドウが証言し、俺やアサハナへの疑いが晴れた。
カンザキは近々処刑されるらしい。
妻達と夜逃げする必要がなくなって本当に良かったよ。
「釈放されたのに、どうしてアサハナはここにいるんだ?」
「それについてはわたくしからお話します」
「セルフィナが? ああ頼む」
「大陸南の種族アンドロギュヌス、別名両性人族は、ある時期に性別を決定するというのはご存知ですか?」
「ああ、環境に応じて男か女に変化するんだろ?」
「はい、その通りです。そしてその性別を決める時というのは、本来であれば結婚するときなのです」
「……結婚か」
「つまり、生涯の伴侶を定めた時に性別を決定し、一生夫婦として生きるという決意を表明するのです。彼らの性別を決めるという行為は結婚の制約を結んだと同じ意味のようです」
「ま、まさか、それって……」
「おめでとうございますユラリ様。四人目の妻ができましたね!」
「嘘だろ?」
俺はアサハナに視線で問いかけた。
アサハナは顔を赤くして微笑んだ。
セルフィナの言った事をまとめると、アサハナを娶らなければいけなくなったという事だ。
「で、でもさ、アサハナの気持ちはどうなんだ? 知り合って間もない俺なんかと夫婦になるなんて嫌だろう?」
「ユラリさんが嫌じゃなければ、おいらの事を貰ってくれると助かるというか嬉しいというか、それしか道が残されていないというか……」
「それしか道が残されていないって大げさな」
「わたくしの知る限りでは、両性人族は他種族に対し排他的な種族として有名です。他種族を相手に性別を定めた者はもう里には戻れないでしょう。もしユラリ様がアサハナさんを娶らず、彼女が里に戻った場合は里の掟で処刑されるようです」
「し、処刑されるのかっ!?」
「ええ、おいら達は回復術のスキル習得に長けた種族なんす。昔からその特性を利用しようとする奴らから奴隷狩りの被害にあってるんすよね」
「だから排他的になったと?」
「そうっす。奴隷狩りの対象は性別決定前の若い奴らばかりなもんで、里の長老達も必至に若者を護ろうとしての掟なんでしょうけど」
「それにしても厳しい掟だな」
「他にも厳しい掟が沢山あって、元々はみ出し者だったおいらは我慢できずに里抜けしてきたってわけっす。それで闇医者として各地を放浪し日乃光の国に行き着いたんすよ」
「そうだったのか」
「もう何処にも行く当てが無いというのも理由の一つなんすけど、おいらはユラリさんの天運の強さに惚れ込んでるんす!」
「天運?」
「ええ、だって考えてみてくださいよ。リンドウさんが助かってもユラリさんが無事に済む確率は四割だったんすよ!? こんな低い確率を引き当てるなんて天運に導かれているとしか思えないっす!」
「四割? 俺が無事に済む確率は二割じゃなかったか?」
「あ、しまった……」
「何か隠していることがあるのか?」
「いやいや、そういうのじゃないっすけど……こうなったら話すしか無いっすね。おいらがリンドウさんを治療したとき、【精根流転】の他にもう一つスキルを使ったのは覚えてるっすか?」
「ああ、確か俺の頭上に二つのサイコロが出てきたやつだろ」
「はい。そのスキルは【乾坤一擲】といって、半か丁かの大勝負をして賭けに勝つと他のスキルの成功確率を倍にできるスキルなんす」
「という事は元々二割だった成功確率を、アサハナはそのスキルを使う事で四割まで確率を引き上げてくれたのか」
「そうなんす。おいらがスキルで確率を引き上げても成功確率は四割程度。それを成功させたユラリさんはすごく天運に恵まれている証拠なんっすよ」
「それは理解したけど、お前はあの時どうして自分の人生全てを賭けるなんて言ったんだ?」
「あ〜、やっぱり聞いてたっすか?」
「ああ」
「このスキルの発動条件は、自分の命を賭ける事なんっす」




