強き思いは力に変わる
※ユラリ視点
俺の目の前でチドリの鎧と剣の形が変わった。
どうやったのかは知らないが、今のチドリからはものすごい力が溢れ出しているのを感じる。
だけど恐い感じはない。
すごく強い力。
それでいて全てを包み込むような暖かさを感じる。
カンザキが骸骨騎士を蹴散らし俺達の方へ向かって来た。
さっきよりもさらに早い!
いくら強くなったチドリとはいえ化け物に勝てるか!?
チドリは地面に大剣を突き刺しそれを盾代わりにした。
カンザキは大剣に衝突し横に弾かれて塀に衝突。
チドリは地面に突き刺していた大剣を両手で二つに分けた。
正確には大剣が真ん中から割れて二つの赤い剣へと形を変えた。
形を変える武器だったのか。
チドリは両手に剣を持ち、起き上がったばかりのカンザキを追撃した。
「アイゼナーグ流双剣術奥技!【咲き乱れる剣戟】!!」
その双剣の技はまるで嵐のようだった。
時には回転し、様々な角度から残像が見えるほどの早い動きで剣を振るう。
一瞬で数百という斬撃がカンザキの全身を襲っていた。
傷が修復される間もなく次の傷が付けられ、カンザキの回復速度以上にチドリの斬撃が加えられていく。
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
チドリの気合いを入れた一撃はカンザキの左腕を切断。
地面に落ちた白い異形の腕は泡になって蒸気を出しながら消えていく。
凄まじい斬撃の早さ。
あれじゃあさすがの【HP自動回復】も間に合わない。
それに切断された身体の部位は元に戻らないようだ。
カンザキは右腕でチドリを殴り飛ばそうとするが、チドリは後ろに飛び退きその攻撃を躱し、赤い双剣を繋ぎ合わせた。
次の瞬間には二本の剣が一本の紅い槍に形を変えていた。
「アイゼナーグ流槍術奥技!【一角獣の突撃】!!」
チドリが立っていた地面が弾けた。
その瞬間に彼女の姿が消え、カンザキの右腕がちぎれ飛び、右半身にも大穴が開いていた。
チドリはいつのまにかカンザキの背後三十メートル程のところに立っている。
これはもしかしたらカンザキを倒せるかもしれない。
チドリの能力は俺の想像を超えていた。
両腕を失ったカンザキは俺を睨めつけた。
狙いを俺に変えたのかこっちに向かって突撃。
しかしその突撃は一瞬で移動してきたチドリに防がれる。
彼女はさっきのように大剣を地面に付き刺し盾代わりにして、俺への突撃を防いでくれたんだ。
カンザキは後ろに飛び退き距離をとる。
「チドリ! やるじゃないか! これなら勝てるかもしれない!」
しかし、チドリの表情は優れない。
「これは私も驚いたな。まさかこれほど強い娘がいたとは。それなら私の出せる全力でお相手しよう」
両腕を無くしたカンザキはさらに肉体の強化を行うつもりだ。
「【穢れ化】レベル三っ!」
人のままだったカンザキの頭部と胸部が白く変色していく。
それから失ったはずの両腕が生え出した。
こいつ【穢れ化】のレベルをあげる度に身体を修復させる事ができるのか。
すぐにカンザキの両手が元通りになってしまう。
これで全身が化け物化したとう事だ。
さらに強さが増しただろう。
カンザキの瞳が黄色く光る。
「上司に見回りが遅いとどやされるのは嫌なので、これで最後にさせてもらう」
「ユラ。あたしがあいつの攻撃を防ぐから、その間に遠くへ逃げて」
まさか俺がセルフィナに言ったような事を、チドリから言われるとは思わなかった。
「あたしでも耐えられるか分らない。こいつの強さは異常だわ。だから早く逃げて!」
しかし、その時間はなかった。
カンザキが突進してきて大剣の盾を粉々に砕き破りチドリを殴り飛ばした。
「ぐはっ!!」
チドリは塀に激突する。
「チドリっ!!」
こいつはさっきのチドリをも超えた強さを持っているのか!?
いよいよ勝ち目が無くなってきたな。
俺も年貢の納め時というやつか。
カンザキは俺に歩み寄る。
俺はスキルを使う。
「【重唱】で【縮地】を十回重ねがけだ!」
俺の出せる最高速は今のカンザキには通用しなかった。
俺はカンザキに殴打され地面に打ち付けられる。
「がはっ!」
「何をしても無駄だ」
咳き込む俺の首をカンザキは掴み持ち上げた。
「そういえばお前。八岐大蛇の手伝いをしていたな。奴らの居場所を言え。そしたら一思いに殺してやる」
あ〜、それ俺が前に悪党に言った台詞と似てるな。
まさか俺が言われるとは思わなかった。
因果応報とはこの事か。
俺はここで死ぬんだろうか。
思えば全然楽できない人生だったな。
「させないっ!!」
チドリが素手でカンザキに殴り掛かった。
しかし先ほどよりもさらに強化されたカンザキの身体には素手の攻撃は効いていない。
チドリはその場に散らばる大剣の破片を一つ手に握り叫んだ。
「アイゼナーグ流捕縛術奥技!【百縛の重鎖】!!」
無数の大剣の破片が変形しはじめ破片それぞれが真っ赤な鎖となり、カンザキの身体に絡み付くなり締め付ける。
いつのまにかチドリが手に握っていた破片だけは短剣に変化していた。
チドリは俺の首を掴むカンザキの手首をその短剣で斬りつける。
しかし刃が一センチ程しか食い込まなかった。
「娘。そのような攻撃など私には効かないぞ」
「ユラリは殺させない! この強き思いを力に変えるっ!!」
チドリが全力で深紅の短剣に力を込めると、食い込んでいた短剣が赤く輝きカンザキの手首をいとも簡単に切断した。
俺はその切断された手首をはずしイナンナを抱きかかえ、チドリと共に少し離れた位置に移動しカンザキの様子を伺う。
「やっつけた?」
「いや、今はチドリの鎖で動けなくしてるだけだ」
「あたしの鎖もそれほど持ちそうもない。早くここから逃げるべきよ」
「そうだな。逃げるぞイナンナ!」
「うん。わかった」
しかし、俺達に死亡フラグが立っているのか、カンザキを捕らえていた鎖が弾け飛び、俺達は逃げる機会を逸してしまった。
「逃がさないと言ったぞ」
その時、凛とした懐かしい声が響く。
「穢れを拂ひ賜へ清め賜へ!【清浄の祓矢】!!」
白く光る矢が空気を突き破るような速度でカンザキの背中に突き刺さる。
するとカンザキの身体から黒く淀んだ煙が吹き出し空に消えていった。
「むぅ!? こ、これはどういう事だ! 力が、力が抜けていく!?」
「……その矢は穢れを浄化する矢。あなたの力の根源たる穢れは浄化されました」
その懐かしい声の主は、弓道の武具を巫女服の上から身に付け、光り輝く長弓を構えたチドリの親友、サツキだった。




