ハナガラ
※チドリ視点
あたしがユラと初めて出逢ったのは、小学三年生の時に親の仕事の都合で転校した時だった。
クラスの皆の前で自己紹介を終えたあたしは自分の席に向かう。
あたしの前の席がユラの席だったのよね。
「よろしくね」
「……ああ」
なんか無愛想で太々しくてユラの第一印象は最悪だった。
それにユラはいつも窓のそとをぼーっと眺めていて、正直変な奴だと思っっていたの。
その頃のあたしは大人しい性格で、前の学校でも目立たない女の子だった。
やんちゃな男子達にしてみれば、そんな大人しい転校生はいじめがいのある格好の的だったようね。
「こいつまた花柄持ってきてるぜ〜!」
「うわっ、まじだ。ちょっと貸せよ!」
「やっ! やめてっ! 返して!」
「返して欲しかったら取り返して見ろよ、ハナガラっ!」
その頃のあたしは花柄が大好きで鞄やノート、鉛筆や筆箱に至るまで自分の持ち物全てを花柄で統一してた。
だからあたしにちょっかいを出してきた男子達は、あたしの事をハナガラというあだ名で読んでいた。
転校して数日が過ぎてもあたしはいじめられ続けたわ。
でもあたしは耐え続けた。
そのうちあたしへの興味を無くすだろうと思っていたから。
ユラのお母さんの旅館とあたしの家は近かったので、ユラとは帰り道がいつも一緒になった。
でも帰宅中のあたしたちは一言も口を聞かなかったの。
ユラの第一印象が最悪だったし毎日男子にいじめられていたから、このユラリという子も他の子達と同じだと思っていたのよ。
そしてさらに一ヶ月経ったけど、いじめは終わらなかった。
あたしが使っていた花柄の文房具を隠されたり、机に落書きされるようにもなっていた。
いままではあたしがいじめられていると、それを見かねたクラスの女子達が何回か助けてくれた事もあったけど、だんだんと助けてくれなくなった。
クラスの女子達はあたしを助けるのを面倒になったのか、それともあたしがいじめられている状況に慣れてしまったのかは分らない。
あたしはその頃から大好きだった花柄の文房具を捨て始めた。
もう花柄を理由に嫌がらせされる事にうんざりしていたし、今のままじゃ友達の一人もできないと思っていたから。
一度に捨てると親に心配されると想って、壊れたとか無くした事にして少しずつゴミ箱に捨てていった。
それでも親は何か変だと気付いていたかもしれない。
でもあたしはいつも通り家では明るく振る舞っていたから、たぶんいじめの事までは気付かれてなかったと思う。
そうしてしばらく経ったある日の図工の時間。
「おいハナガラ! 描く絵も花なんてお前キモイんだよ! こんな絵こうしてやる!」
あたしが描いていた花の絵は目の前で破られた。
図工の時間が終わってから、あたしは破かれた絵をゴミ箱に捨てたけど、もう悲しくもなんとも思わなかった。
いまさら花の絵一枚を破られようが何も感じない。
あたしの大好きな花柄の文房具は、もう手元に一つも残っていなかったから。
もうどうでもいいと自暴自棄になっていたのかもしれないわね。
その日の放課後の帰り道。
いつものようにユラと一緒に無言で歩いていた。
ユラは今日も家に帰るまで何も言わないと思っていたけど、その日はいつもと違っていたのよ。
初めてユラがあたしに話しかけて来たの。
「もう花は描かないのか?」
「……描かない」
「スケッチブックにはまだ描ける場所あるだろ?」
「いじめられるから、描かない」
ユラは自分の鞄の中から紙を取り出した。
テープでヘタクソに修復されて見る影もないけど、あたしが図工の時間に描いた花の絵だった。
「なにこれ」
「俺が直した。お前に返す」
なんでこんな事をするのか分からなかった。
わざわざ絵の切れ端をゴミ箱から拾い集めるなんて、すごく変な子だと思った。
ぼろぼろの絵なんていらなかった。
いえ、そうじゃないわね。
受け取りたくかったのよ。
破かれた絵が今の自分の心を表しているかのように感じられて、見るのも嫌で仕方が無かったから。
「いらない。それあんたにあげる。もう花を描くのもやめたの。だからあたしに構わないで!」
あたしはユラをその場に残して家まで走って帰った。
次の日、ユラの机の上は花柄の文房具で一杯だった。
それは元々あたしが使っていた、ゴミ箱に捨てたはずの愛着のある文房具達。
ユラはあたしが捨てた花柄の文房具を、全部ゴミ箱から拾っていたのよ。
今までの登下校時にユラが鞄を重そうに抱えていたのは、授業で使う教科書やノートを鞄の中に入れて、毎日家に持ち帰っていたからだったの。
それもそのはずよね、教室にあるユラのロッカーには今までずっとあたしの文房具が詰まっていたんだから。
ユラの机の上にある花柄の文房具を見たいじめっ子達は、いじめる対象をあたしからユラに変えた。
「おいお前! 男なのに花柄もってんじゃねーよ!」
「ほんとだ! ハナガラの仲間がいるぞ!」
「うわっユラリじゃなくて『キモリ』だ!」
ユラは気だるげに言い返した。
「花柄を好きになる事に男だろうが女だろうが関係ないだろ。そんな事も分らないのか。やっぱお前らガキだな」
それからユラといじめっ子達は殴る蹴るの大げんかになったけど、喧嘩の勝敗は誰の目から見ても明らかだった。
三対一だったからユラは一方的にやられてしまったの。
次の日、顔を絆創膏だらけにして登校してきたユラは、あたしに花柄の文房具を全て返してくれた。
そしてクラスの全員に聞こえるように大声で言った。
「もしまたお前があいつらにいじめられたら、おれが代わりに戦ってやる。花柄好きの仲間だからな!」
「で、でも……そんな事したらあんたまでいじめられるわよ」
「オレはお前にこれをもらった恩があるから!」
ユラの手にはあたしが図工の時間に描いた花の絵が握られていた。
テープで乱雑にくっつけられていて不格好な絵。
その絵を見た時、全てはユラがあたしをいじめから救う為にしてくれた事だと分った。
だって、そんなボロボロの絵を貰って恩を感じる奴なんていないから。
あたしはクラスの皆が見ていたけど、構わずわんわんと泣いてしまったのよね。
その時を境にあたしはいじめられる事はなくなり、花柄の文房具を堂々と使うようなった。
だから今でもあたしは花柄を好きなままでいられてる。
この花柄はユラが護ってくれたあたしの大事なもの。
今度はあたしがユラを護る番なの。
この世界にきてからユラの事ばかり考えていた。
何処にいるのか。
生きているのか。
そもそもこの世界に転移してきているのか。
あたしは再びユラに会えると信じて騎士団に入団する事にした。
ユラと再会した時、ユラを護ってあげられる強さが欲しかったから。
ユラはあたしの異能が肉体強化系だと思っているようだけどそうじゃない。
あたしの異能は思いを力にする異能。
あたしのユラに対する強い思いは、大きな力に変える事ができる。
この異能を使っても目の前の化け物に勝てないかもしれない。
それでもユラを護る盾にはなれる。
あの時ユラが傷だらけになってまで、ハナガラを護ってくれたように。
「今度はあたしがユラを護るって決めてるからっ!!」
あたしの今まで培ってきた全力を出して敵を討つ!
「【紅獅子の花柄鎧】!!」
あたしのユラに対する強い思いが純粋な力に変わっていくのが分る。
胸の奥から沸き出すように溢れる熱い力の奔流。
あたしの身体は強く光を放ち、装着していた細剣と鎧が形を変えていく。
燃える様に赤く所々に花柄が装飾された深紅の鎧と紅輝の大剣。
あたしはユラを庇うように彼の前に立ち、赤く輝く大剣を構えた。




