正義とは弱き者を助け悪を倒す事でござる!
チドリはカンザキの重い斬撃を受け流しつつ、カンザキの腹部を剣で串刺しにしてから蹴り飛ばした。
カンザキは数十メートルを飛ばされ地面に倒れる。
しかし、のっそりと起き上がったカンザキの腹の刺し傷を見ると、徐々に塞がっている。
イナンナも持っている【HP自動回復】の効果だな。
「ええっ!? 何あいつ! あたしの攻撃を受けても平気だなんて嘘でしょ!? それに傷口が塞がってる……」
「だから言ったじゃないか。あいつは尋常じゃない強さなんだよ」
イナンナがスキルを発動した。
「混沌の淵から這い出し我の命に従え。骸骨騎士召喚!」
カンザキを囲むように剣を持つ五体の骸骨騎士が地面から這い出した。
狭い路地だから馬には乗っていないようだ。
「そいつに死を振りまいて」
イナンナの合図で五体の骸骨騎士が一斉にカンザキに剣を振る。
骸骨騎士達は意外にも俊敏に動き回る。
カンザキの斬撃を受け流し反撃を繰り返し、幾度も攻撃を成功させていた。
しかし、物理防御七千には太刀打ちできない。
かすり傷程度しか与えられず、その傷もすぐに回復してしまう。
カンザキは五体の骸骨騎士達をいとも簡単に切り捨て無に返した。
「あいつ、つよすぎ。ユラリ、なんとかして」
「俺もなんとかしたいんだが、俺の手刀で与えたダメージもすぐに回復されてしまう。術も効かないからお手上げ状態だ」
「ちょっとユラ! どうする気なのよっ!?」
その時塀に打ち付けられて倒れていたリンドウが立ち上がった。
「カンザキ殿! 何故、何故に罪の無い人々を手にかけたのでござるか! 某達同心の役目は正義の名の下に庶民を悪人から護る事でござる!」
「リンドウ。お主は何を言っている。この世界に罪のない者などいない。私はこの世界に捨てられた罪深いゴミ共を処分しているのだ。世界の為に役立っている私の方が正義ではないか?」
「正義とは弱き者を助け悪を倒す事でござる! カンザキ殿のしている事は悪ではござらぬか!?」
「悪か。お主にはそう見えるのか、リンドウ。お主はこの世界の真実を知ってもなお私の行いを悪と言う事ができるか?」
「世界の真実でござるか?」
「これから死ぬお主は知る必要はないか。つまるところ力の強い者が正義なのだ。私の正義を否定したければ私に勝つ事だな」
「言われなくとも都の平和は拙者が護ってみせるでござるよ!」
「【穢れ化】レベル一ではお主達全員を殺すのに時間がかかりそうだ。私はこれでも先を急いでいる。この区域の見回りを時間通りに終えて奉行所に戻らねばならないからな」
カンザキは持っていた刀を投げ捨て、肌がピリピリする程の威圧感を放った。
「【穢れ化】レベル二!」
直後カンザキの手足が盛り上がる。
そして赤く光る筋が浮き出し肌の色が白く変色していった。
恐らく【穢れ化】レベル二になった事で能力値がさらに上がったんだろう。
頭は人のままだが両手足が白く異形になった。
「まずはリンドウ。お前からだ」
カンザキがその言葉を発した時にはすでにリンドウの目の前に移動していた。
俺でもなんとか目で追える程の早さだ。
「カンザっ…………ごふっ!!」
リンドウの腹をカンザキの白い腕が貫いていた。
カンザキはまるでリンドウをゴミのように背後へと投げ捨てる。
リンドウは吐血し、地面に血溜まりがゆっくりと広がっていく。
「次はお前達だ」
カンザキの視線は俺達に向いた。
なんて早い動きだ。
俺の【重唱】した【縮地】七回分くらいの早さだな。
これで【穢れ化】レベル二だっていうんだから恐ろしい強さだ。
もしもレベル三になれるとしたら、さらに強さやスピードが増すに違いない。
今のカンザキを相手にリンドウを助けには行けない。
今はチドリが優先だ。
チドリは俺以上に防御力が高そうだけど、アイゼナーグの特使なので怪我でもされたら国際問題だ。
生きて無事に帰れるかも妖しいところだけど諦めるものか。
俺は面倒な事は嫌いだが、諦めの悪さには自信があるんだ。
カンザキは瞬時に俺に接近し右の拳を振るう。
「【硬甲殻】と【柔甲殻】!」
カンザキの打撃の衝撃を俺の足元へ逃がした。
地面が広範囲に陥没。
ゼレの力の二倍はある!
俺の甲殻スキルでも衝撃を流しきれず全身が軋む。
「ユラっ!?」
「くらえっ!【賽の目】!」
俺はカンザキの右腕を【賽の目】で切り刻んだ。
そのつもりだったが、かすり傷程度しか与えられない。
カンザキが回し蹴りを繰り出す。
このままでは直撃する。
その回し蹴りをチドリが俺を庇うように間に入って防ぐ。
しかし、蹴りの衝撃を完全には受けきれず、チドリは俺もろとも塀に衝突し、塀はガラガラと崩れた。
イナンナは再び骸骨騎士を召喚しカンザキを襲わせたが、まるでカンザキの相手になっていない。
ギンコも分身を駆使して加勢しているが効果は薄い。
イナンナ達がカンザキの気を引いてくれている間に、俺とチドリは塀の瓦礫の中から立ち上がる。
こいつは言葉通りの化け物だ。
逃げる事もダメージを与える事もできない。
絶体絶命だ。
何か他に手は無いのか!
せめて俺以外の三人を逃がせられたら。
「ねえユラ。今自分を犠牲にしてあたし達だけを逃がそうとか考えてない?」
「お前は心が読めるのか」
「読めるわけないじゃない。長い付き合いの幼なじみなんだから、あんたの考えくらい分るのよ」
「それなら」
「お断りよ!」
「チドリ……」
「あのカンザキっていう奴があたし達三人でも倒せない相手なのは分ってる。だけど、あんたを置いて逃げるなんてありえない」
「そうは言ってもこのままじゃ皆死ぬぞ」
「花柄」
「え?」
「あたしが花柄を好きなままでいられたのはあんたのおかげなのよ」
「何の話しをしてるんだ?」
「あたしがユラのいた小学校に転校してきた小学三年の時……」
チドリは細剣を構える。
彼女の瞳には諦めの色は微塵もない。
「あんたがあたしの大事な物を護ってくれたから、あたしは今日まで自分らしくいられたの」
チドリの全身が淡く光り出す。
チドリは細剣の切っ先をカンザキに向けた。
「今度はあたしがユラを護るからっ!!」




