辻斬りとの戦い
先ほどまで女装していた俺の身体は【蟻体】だ。
地面に落ちたイチゴの着物の中から大量の蟻が湧いている。
俺はカンザキの影の中から【潜影】で音もなく現れ、カンザキの首に手刀を当てた。
「まさか検屍官のお前が辻斬りの真犯人だったとはな」
カンザキには驚いた様子は無い。
「おや、誰かと思えば手配人の首を大量に持ち込んできた八岐大蛇の使いだった男か?」
街路にリンドウも姿を現した。
「カンザキ殿! まさか本当にお主が辻斬りだったとは!」
「ほう、リンドウも一緒か。どうやって私が辻斬りだと見破ったのだ?」
「これから奉行所に行って打ち首になる男に話しても仕方が無いだろ」
その時街路にセルフィナが飛び出し、俺に向けて叫んだ。
「ユラリ様っ! 離れてっ!!」
俺が後ろに飛び退くと同時にカンザキの右腕から無数の白い刺が突き出した。
その刺はすぐに短くなっていきカンザキの右腕の中に戻る。
今の攻撃は何だ?
カンザキの腕から鋭い刺が突き出したぞ。
何かの術か?
それともスキルの一種だろうか。
セルフィナの未来視が発動したようだな。
彼女が教えてくれなかったら俺の身体が穴だらけになっていた。
俺はカンザキを警戒しながら【念話】でセルフィナに指示を出す。
『セルフィナ、こいつは普通の人間じゃない。俺が完全に気配を消して背後をとったのに少しも動じなかった。そこにいる三人を連れて急いで旅館に戻れ』
『わ、わたくしもユラリ様と共に戦わせてください!』
『分ってくれ。こいつは俺が思っていた以上に厄介なんだ。ペティ達を狙われたら護るのは困難になる。だから俺が全力で戦えるように皆で安全な場所へ避難して欲しい』
「目の前に処分すべきゴミがいるのに、逃がすわけがないだろう?」
カンザキに【念話】を聞かれた!?
カンザキは俺とは反対側、つまりリンドウやセルフィナ達がいる方向へ走り出した。
既に刀を抜き放ち殺気を垂れ流している。
俺よりもセルフィナ達を先に狙うつもりか!
カンザキはリンドウに向け刀を横薙ぎした。
リンドウは刀を抜きカンザキの横薙ぎを受けたが、衝撃を殺しきれず弾き飛ばされ、武家屋敷の塀に激突した。
「がはっ!」
「【縮地】!」
俺は【縮地】を使い瞬時にカンザキを追い越し、反転しながら手刀を振るった。
しかしカンザキは手刀を躱すと俺を素通りしてセルフィナに刀を振り下ろす。
「光よ我が手に集まり剣となれ! 【光剣】っ!」
セルフィナの手に光り輝く細剣が作り出された。
セルフィナはカンザキの斬撃を光の剣で受け止めるが、その重い衝撃に耐えきれず弾き飛ばされ地面を転がる。
「きゃっ!」
ギンコがカンザキに数本の苦内を飛ばしてセルフィナへの追撃をさせないように牽制した。
しかし、刀で全ての苦内が叩き落とされる。
俺はカンザキを囲むように【影牢】を展開。
カンザキの右腕から再び無数の白い刺が突き出し【影牢】を砕いてしまう。
嘘だろ!?
俺の【影牢】がガラスのように砕けた!?
ギンコは【火弾】を放つ。
火の玉がカンザキの右腕に命中し着物の袖を焼き払った。
カンザキの腕が露になる。
その腕は妖しく脈打ち赤い筋が幾本も走る異形の白い腕だった。
カンザキの身体を浸食するように肩まで広がっている。
なんだこいつの白い腕は。
今までこんなの見た事無いぞ。
カンザキが焦点のあわない目で気味の悪い笑みを浮かべた。
「あぁ、見られてしまったな。すまないが、これを見られたからには生きては返さない」
ギンコは七人の分身を作り一斉にカンザキに襲いかかった。
しかしカンザキの右腕から白い刺が四方八方に突き出し、分身達は串刺しにされて煙となって消える。
「【遅延】!」
俺はカンザキの動きを止めるために【遅延】を発動したが、視界の端にアウレナからのメッセージが映し出された。
=====
◆対象の術抵抗力が高いため、【遅延】はキャンセルされました。
=====
まじか!
俺の術をキャンセルするとか、どんだけ術抵抗が高いんだよ!
さっき【影牢】が粉砕されたのも術抵抗力が高い奴の攻撃だったからか。
俺達が三人でかかれば余裕だと思い込んでいた。
こいつのステータスを先に確認しとくべきだったな。
=====
◆カンザキ・オケハザマ
種族:人族 性別:男 年齢:32 職業:同心
LV:37 HP:15700 MP:14900 SP:12200
物理攻撃力:5200 物理防御力:7200 敏捷力:2150
術効力:4900 術抵抗力:7350 幸運:800
アクティブスキル:検屍官の基本術技5、袈裟斬り2、峰打ち2【念話傍受3、念話3、気配遮断5、気配感知5、痛み耐性8、恐怖耐性8、千本刺し4、魂喰い3、穢れ化3】
パッシブスキル:検屍官の心得5、筆記3、計算3、武士の心得3【HP自動回復7、穢れ適正5、全属性抵抗8、物理耐性8】
称号:西町奉行所同心、検屍官、【堕ち人の宴 中級構成員】
※【 】内は鑑定妨害術具で隠されている部分です。
※現在【穢れ化】レベル一の状態です。
=====
なんだこのめちゃくちゃな強さは!!
能力値が海竜の三倍以上だって!?
明らかに人としては度が過ぎてる。
それに穢れに関するスキルがあるのも普通じゃない。
オウカの話では穢れは魔物以上に厄介な化け物だ。
どうしてこいつは人の身でありながら【穢れ化】なんていう事が可能なんだ?
この尋常じゃない強さは【穢れ化】した結果なのかもしれないな。
術抵抗力が七千を超えているから俺の【遅延】をキャンセルできたのか。
これだけ術抵抗力が高いと他の術も受付けないだろう。
今の俺が全力をだして戦っても倒せるか分らない。
セルフィナがある程度戦えるのは知っているけど、今のカンザキ相手では一瞬で殺されかねない。
俺は【縮地】を使いカンザキに手刀の連撃を浴びせる。
何度かカンザキにの身体に直撃したが、かすり傷にしかならなかった。
俺はカンザキから視線を外さず、地面に倒れていたセルフィナを庇うような位置に立つ
「セルフィナ、大丈夫か?」
「はい、怪我はありません。ユラリ様、あの者は一体!?]
「俺も詳しい事はわからない。俺が本気で戦っても勝てるかわからない程の強さだ」
「それほどまでに!? ではわたくしも一緒に」
「いや、今はペティ達を連れて逃げてくれ」
「ですがユラリ様っ!?」
「俺はお前達を護りながらでは勝てる気がしない」
「……つまり、わたくしが足手まといになるとおっしゃっているのですよね……」
俺は何も答えない。
セルフィナの問いを否定してやる事ができなかった。
不甲斐ない夫で本当にすまない。
「分りました。私たちは安全な場所まで退避します。ユラリ様、絶対に生きてお帰りになってくださいね……」
「ああ、そうしたいな」
セルフィナは近くに隠れて戦いの様子を見守っていたペティ達を引き連れ逃げて行った。
俺とセルフィナが会話している最中にもギンコが分身を多用し、攻撃を仕掛けていたが、まるで有効打を与えられていない。
そのとき近くの塀の上に二つの気配を感じた。
「苦戦しているようねユラ!」
裏地が花柄のマントを翻し、塀の上から俺の横に降り立ったのは旅館にいるはずのチドリとイナンナだった。
チドリは鎧を装着し剣を構え、戦闘する気満々だ。
「チ、チドリ!? それにイナンナも!?」
「こんな事もあろうかと助けに来てやったわよユラ、感謝しなさい」
「止めても、言う事聞かなかった」
「チドリ、お前なぁ」
「小言は後で聞くわ。それより今はあいつを倒すのが先決でしょ?」
「それはそうだけど、あいつめちゃくちゃ強いぞ? お前でも無事じゃ済まないかもしれない。だから旅館に戻っ」
「あたしはアイゼナーグ騎士王国騎士団長チドリ・イザヨイバシ。花柄のチドリとは私の事よっ! 非道な犯罪者を前に逃げ帰るなんて御免だわ、来るわよっ!」
カンザキがチドリに向けて刀を振り下ろした。




