辻斬りを突き止めろ
「そしてペティにも頼みたい事がある」
「はいっ! ご主人様の為なら火の中でも水の中でも砂漠でも雪山の中でも行きます!」
可愛いペティにそんな所まで行かせるつもりはないよ。
「ああ、ありがとなペティ。イチゴとギンコにも協力してもらうつもりだ」
「旦那様を助けるのは妻の務めよ。あたしにできる事ならなんでも言って」
「我に師匠の手助けができるならば喜んで行います。何なりとお申し付け下さい」
「マコトには今まで辻斬りの会った現場付近で、犯人についての情報収集を頼む」
「ぼくにとってはそんなの御茶の子さいさいのさいですよお兄さん!」
「チドリには……」
「あたしにできる事なら何でも」
「待機だな」
「え!? あ、あたしも協力するわよ!?」
「お前、自分の立場忘れたのか? アイゼナーグの特使なんだぞ。それに命を狙われるかもしれないんだ」
「そ、それは、そうだけど……あたしもユラの為に……」
「イナンナはこの旅館とチドリの護衛に専念してくれ」
「うん、わかった。護る」
「それから……ツクモには」
『ブーは金貨もらえるならなんでもやってやるでふ』
「そうか。後で頼みたい事があるからお願いする」
『お任せでふ!』
マコトが興味深そうにキョロキョロと周囲を見回している。
「どうしたマコト?」
「お兄さんにしか見えないっていうブタさんを、ぼくにも見えないかなと思って探してるんです」
「なあツクモ」
『なんでふ?』
「ここにいる皆にだけお前の姿を見せる事はできるか?」
『できるでふよ』
するとツクモの体が淡く光り始め、この場の皆にも姿が見えるようになったようだ。
皆それぞれに驚いている。
「うわっ! びっくりした! ほ、ほんとにいたんですね!」
「おい、マコト。今まで俺が嘘をついていると思っていたのか?」
「そ、そんな事ないですって〜。ぼくはお兄さんが心の病気で独り言を言っているとか思ったりなんてしてませんかもでしたから!」
「目が泳いでいるぞ」
「ぬぬぬっ……」
俺は集まった皆の目を見てから言った。
「俺は冤罪ごときで皆との楽しい生活を失いたくない。だからみんなの力を俺に貸してくれ!」
皆同時に頷き肯定の返事を返してくれた。
あんな蛙奉行に俺の日常を壊されてたまるか。
俺は決意を新たに作戦開始の合図をする。
「それじゃあ辻斬り捕獲大作戦の始まりだ!」
***
地上生活八十五日目。
作戦の第一段階は情報収集だ。
セルフィナに【天占術】を使ってもらい、辻斬りの居場所をある程度特定できるけど、それだけじゃまだ足りない。
辻斬りについての様々な情報を集めて容疑者を搾る必要がある。
「天の導きと地の標を我の前に示せ!【天占術】!!」
セルフィナがスキルを使った直後、光が頭上に集まり都の地図を形作った。
それは光で構成された立体的な地図。
その地図に赤く光る点が追加され点滅する。
俺は手持ちの地図と赤い光の位置を照らし合わせ真犯人のおおまかな居場所を特定した。
この場所はさっきまで俺が取り調べを受けていた西町奉行所だよな……ということは辻斬りの正体は役人である可能性が高い。
まさか蛙奉行が犯人じゃないだろうな。
まさかな。
さらに詳しく調査しないと断定できないか。
「ギンコ」
「はっ!」
「西町奉行所に侵入して深夜に見回りを行う者の一覧表とか経路図があったら持ってきてくれ」
「御意!」
ギンコは天井裏に入っていきすぐに気配が消えた。
そういえば忍者だったな。
彼女は毎日掃除や洗濯の仕事をしているにも関わらず姿を見せないのは、旅館の天井裏を移動していたからなのか。
今日初めて知ったよ。
人見知りの忍者だから仕方が無いな。
「マコトは辻斬りのあった全ての現場付近で聞き込みをしてくれ。辻斬りに関する情報は何でもいいから手当たり次第集めてくれ。多くの情報が集まってくると何かしらの共通点が見えて来るはずだ」
「了解しました! なんだか楽しくなってきましたねお兄さん! ぼくこういう皆で大捜査的な事やってみたかったんですよね」
「おいマコト。遊びじゃないんだぞ。俺達の将来がかかっているんだ」
「分ってますって! お兄さんへ恩返しできるチャンスですから、張り切って情報収集させて頂きます! じゃあ早速いってきますね」
マコトはネコミミとネコシッポを楽しそうに揺らしながら都に向かった。
本当に分っているのか不安だ。
***
地上生活八十八日目。
情報収集には三日を費やした。
第二段階は証拠を探す事だ。
物証を見つける事ができればそれに越した事は無い。
だけど、犯人は二十人以上も殺しているのに未だにシッポをつかませない。
ということは、かなり用心深い奴だ。
物証を残すようなヘマはしないだろう。
人の証言が重要になる。
しかし、未だに犯人に繋がる有力な証言はない。
手っ取り早く現行犯逮捕しかない。
ギンコは西町奉行所に侵入し見回り役名簿と見回り経路図を手に入れて来た。
書類を持ち出した事が奉行所にバレると大騒ぎになるので、書類を複製してから返却することにした。
ここで役にたつのがツクモだ。
俺は二枚の書類を重ねて丁度半分の位置で破り、ツクモに頼んで破かれて四枚になった書類に【修復】をかけてもらった。
すると四枚それぞれが修復されていき見回り役名簿が二枚、見回り経路図も二枚になった。
ツクモの【修復】を使って物の複製ができる事に気付いたのは偶然だった。
新人の仲居が絵皿を誤って落とし割ってしまった時、その皿をツクモが【修復】した事があり、その際割れたときの破片がそのまま残った状態で絵皿が【修復】されていたんだ。
そこで俺は金貨を無限増殖できないかと考え、金貨を半分に切断しツクモに複製させた。
しかしこの世界のスキルには一定の制約があるようで、一度複製された金貨をさらに複製しようとしたができなかった。
つまり【修復】を使った複製は一度だけに限られるという事だ。
金貨を二倍にできる術を発見してしまったが、当然これは罪になる。
だから実験した後は複製しなかった。
まあ、どうしても急にお金が必要になったらこっそりと複製するのも仕方が無いよな。
『ユラリはほんとあくどい事考えるでふね。【修復】スキルを使って物を複製するとかブーでも思いつかなかったでふ』
「俺はいつでも楽して徳する方法を考えてるからな」
俺はギンコに複製が終わった書類を元の位置に戻すように指示した。
見回り役名簿を見ると深夜の見回り担当になっているのは八人だ。
あいにく順番までは記されていなかったので、辻斬りの会った日に誰が現場付近を見回りしていたのかまでは分らない。
恐らく真犯人はその八人の中の誰かだ。
当然、他の役人が自宅に帰った後、夜中に都に出て来て辻斬りをしている可能性も考えた。
だけど、その可能性は無いと結論した。
なぜなら俺は辻斬りが行われる場所に法則性がある事に気付いていたんだ。
辻斬りは決まったルートを何度か繰り返し歩いている可能性が高い。
見回り経路図と辻斬り現場の位置を照らし合わせると、案の定、見回り経路に沿うように辻斬りが行われていた。
つまり、西町奉行所の同心が見回りの最中に辻斬りをしているという事。
奉行所で辻斬りの捜査をしている奴にとっては盲点だったろう。
俺の予測は間違っていなかった。
「次はペティの出番だ」
「はい! ご主人様、私は何をすればいいですか?」
「見回り役の八人の中で誰が辻斬りなのか判断して欲しい」
「ええ!? そ、そんな事私にはできませんよ!?」
「ペティならできるよ。俺と一緒に西町奉行所に行って、俺と世間話している同心達の反応を見ていてくれ。気になった事があったら後で俺に教えてくれるだけでいい」
「それなら私にもできそうですねっ!」
ペティはほっと胸を撫で下ろして微笑んだ。
俺は見回り役の八人と辻斬りについての話をするつもりだ。
その時に何かしら後ろめたいことがある奴は不自然な反応をするだろう。
そいつが辻斬りである可能性が一番高いというわけだ。
ペティのパッシブスキルには【洞察力】と【感情察知】があるから、他人の言動の不自然さに気付けるはずだ。
それから俺とペティは西町奉行所に向かい、見回り役の八人に会って辻斬りについて話し合う事ができた。
その結果、ペティが妖しいと思ったのは三人だ。
俺とペティは旅館に帰る道すがら犯人について話し合った。
「太っている方と眼鏡をかけていた方は妙にそわそわしていました。それと最後の人は特に印象てきでしたよ」
「どう印象的だったんだ?」
「えっとですね。他の七人は辻斬りの話をしている最中、恐怖や怒り、悲しみや憂うつというような感情を感じたんですけど、最後に話をした人だけ何の感情も感じませんでした」
「後ろめたい事がないんだろ。別に変じゃないと思うけど?」
「それがですね、旅館に来るお客様もそうなんですけど、普通の人からはいろんな感情を感じるんです。感情を何も感じないなんて変だなっと思いました。あ、私の見立てが変なのかもしれないので、参考にならないかもしれませんけど……」
「いや、すごく参考になったよ。ありがとうペティ」
「いえ、そんな、私はこんな事くらいしか……あ」
「ん? どうした?」
「今、ご主人様から私に対する暖かい感謝の気持ちを感じました……」
「そんな事も分るのか、前より【感情察知】のレベル上がってないか?」
「そうかもですね。毎日お客様のお気持ちを察知しながら仕事してますから、それでいつの間にかスキルのレベルが上がったのかもしれませんね」
そうだったな。
仲居はお客さんの気持ちになって考え、個人個人に会わせたサービスを提供するのが仕事だった。
献身的なペティの事だからいつも【感情察知】を使い続けているんだろうな。
「じゃあこういう気持ちも察知できるのか?」
俺はペティに対して胸の奥にある強い感情を思い描く。
「……え、あの、す、すごく、嬉しいです。こんなに私の事を大事に思ってくれているなんて……」
「当然だな。俺はペティには仕事上だけじゃなく、感情的にも助けてもらっているからな」
「私こそご主人様には返しきれない恩もありますし、ただの奴隷だった私にすごく優しくしてくれるし、こんなに毎日幸せな気持ちにしてくれるし、その、あの、ありがとうございますご主人様っ!」
ペティは【輝く笑顔】を俺に見せてくれた。
これはスキルではなく、ペティの心からの笑顔だというのが俺にも分る。
俺はペティの笑顔に少し照れくさくなり、それをごまかすように少し強引にペティと手を繋いで旅館に帰った。




