守護者達と共に作戦開始
「俺はやっていない」
「口でならなんとでも言える。目撃証人もいるのだから今更言い逃れはできないぞ」
ガマゾウは大きな唇をつり上げいやらしい笑みを浮べる。
イラっとする蛙だな。
アスハナを取り調べもしないで俺を犯人だと決めつけるのか?
もしかしたらこの蛙奉行、クズ副支配人と裏でつながっていたんじゃないだろうな。
だとしたら俺を強引に下手人に仕立て上げ、総支配人の座から降ろそうとするのも頷ける。
そうか、こいつもクズ族の一人か。
ん? リンドウが懐からもう一つの巻物を取り出したな。
「お奉行。アサハナについての報告がまだでござる」
「ユラリが下手人に決まっておる。他の者の報告を聞いても無駄だ。リンドウ、お主の報告はもういいから下がれ」
「しかしお奉行! 他の者の報告を聞かずにユラリ殿を下手人と決めつけるのはいささか早計ではござらぬか? 裁きは公正に行うべきものでござる。それが某達役人の仕事でござろう」
「私がこの者を下手人と判断したのだ。それに口答えするというのか?」
「いえ、そういうわけではござらぬが……」
「リンドウよ、お主は代々吟味役をしてきた家柄だったから、女であるにも関わらず同心として取り立てているのだという事を忘れるな」
「拙者の家柄とこの者達の裁きには何の関係もござらぬのではありませぬか!?」
「お前はいつも真面目が過ぎるのだ。裁きや取り調べが日に何度あると思っておる。いちいち詳細に審議していたら一向に終わらぬではないか」
「安易な裁きを下した事でそれが冤罪だった場合、罪を着せられた者の人生を大きく狂わす事になるのでござる。ですから何卒公正で慎重なる裁きをお願いするでござるよ、お奉行!」
「西町奉行のこの私が安易な裁きを下しているというのか!? お主の小言は聞き飽きたわ。それ以上口答えをするなら無礼打ちにするぞ!」
「くっ……」
あの蛙奉行は言ってみれば裁判官だ。
なのになんちゅう言い草だ。
気に入らない奴は力で押さえ込み、好き勝手に下手人を決めつける。
そんなクズ蛙の下で働くリンドウが可哀想でならない。
彼女は至極当然の事を言っているのに、女だからと差別されているようだ。
「お奉行様! 申し上げるっす!!」
その時声を上げたのは俺の隣に座っていたアサハナだった。
「お奉行様。おいらはこのユラリとは昔ながらの博打友達でして、辻斬りが行われているという深夜には、いつもおいらと博打をして遊んだり酒を飲み交してるんす」
はあ? 何を言っているんだ?
俺は一度もアサハナと酒を飲んだりしたことはないけど?
今日初めて顔を合わせたんだからな。
「ぬっ!? そ、それはまことか?」
「はい。それを証明する証人を連れて来いと言われるのであれば、何人でも連れてこれるっすよ」
「うぬぅ……しかし証言と手口から考えて下手人である可能性が高いのも事実」
この蛙はどうしても俺を犯人にしたいようだな。
それなら俺が真犯人を捕まえてやろうじゃないか!
「俺が犯人を捕まえてここまで連れて来る」
「なんだと? そう言って逃げ出すつもりではないのか?」
「そんな事はしない。心配なら俺に監視をつければいいじゃないか」
「いや、しかしのう。もし逃げられたら私の責任になる」
この蛙、俺を下手人にしたくて仕方が無いが責任は取りたくないといった感じだな。
「お奉行。某がその監視役を買って出るのでござる」
「む? またお前は出しゃばりおって! ん? まてよ……うむ、よかろう。お前が全責任を取ると言うならば許可しよう」
「承知しているでござる」
「もしこやつが逃げた場合は切腹では済まぬぞ。お家取り潰しも覚悟しておけ!」
「もちろんでござる。某は公正な裁きが下されるのであれば全身全霊でお役目を果たして見せるでござるよ」
「ふんっ! そこまで言うならお前に任せる。期間は一週間とするが良いな? それまでに見つからぬ場合はユラリを下手人とするからそのつもりでな!」
「はっ!」
「もし犯人を見つけてもお主らには捕らえる事はできぬだろうがな」
蛙奉行は自分の思い通りにならなかったからか、不機嫌になり鼻息を荒くして奉行所の奥へ去って行った。
最後の一言が気になったけど深く考えても仕方が無いな。
ひとまずは首の皮一枚繋がった。
「俺を庇ってくれてありがとな、アサハナ」
「先ほどの恩返しすっよ。それにあの蛙奉行は強引にユラリさんを下手人に仕立て上げようとしていたのが見え見えでしたからね」
「そうみたいだな」
「何かあいつに恨みでもかったんすか?」
「ああ、前にちょっとな」
リンドウが俺達の側までやってきた。
「ユラリ殿。これから一週間は某がお主のお目付役となるのでよろしく頼むでござる」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよリンドウ。それにしても俺の監視役になって本当に良かったのか? 奉行がずいぶん機嫌を損ねてたけど」
「心配には及ばぬ。まだ男が多くいた時代の古い体勢が残る組織では、某が女であることで疎まれるのは必然でござる。某の事よりも『義を見てせざるは勇無きなり』と言うように、人として行うべき正義と知りながらそれをしないことは、勇気が無いのと同じことなのでござる」
リンドウって義に厚い奴なんだな。
「おかげで下手人にされずに済んだよ」
「某はお主が下手人である可能性も考慮しているでござる。女の身でも幼少の頃より鍛え続けた武芸には自信があるのでござる。だから某の隙を見て逃げようとしても無駄でござるよ」
「逃げようなんて思ってないさ」
本当に逃げようと思えば簡単に振り切れる自信はあるけどな。
だけど、ペティやセルフィナやイチゴを残して一人で逃げる事はできない。
それにゆるゆる人任せ異世界生活までもう少しなんだ。
一週間という期間で真犯人を見つけないと全てが台無しになってしまう。
必ず見つけてやる!
「アサハナはどうなるんだ?」
「アサハナ殿は辻斬りの一件が解決するまで牢屋敷に戻ってもらうのでござる」
「という事らしいから、悪いが俺が本当の下手人を捕らえるまで辛抱しててくれ」
「はい、もうあの牢主に殺される事もないだろうし気長にやるっすよ」
その後アサハナは役人に連れられて牢屋敷に戻っていった。
俺はリンドウと一緒に西町奉行所を出て旅館に帰って来た。
セルフィナ達に俺の置かれた状況を説明して協力してもらおう。
俺が一人でできる事なんて限られてるからな。
俺は旅館に入るなり、セルフィナに【複数同時念話】を使ってもらい、俺と【守護者契約】を結んだ者達全員を呼んでもらった。
一時間後、総支配人室に集まったのは、セルフィナ、ペティ、イチゴ、ツクモ、ギンコ。
それと【守護者契約】はしていないがイナンナとマコト、それにチドリとカエデも参加してもらった。
『三人寄れば文殊の知恵』というしな。
この言葉はさすがの俺でも知っているぞ。
凡人であっても三人集まって考えれば、すばらしい知恵が出るという意味だ。
自分で言っておいて何だが、ここに集まった者達は一人も凡人じゃないな。
俺との【守護者契約】で才能が開花して一部の能力に秀でた有能な者達だ。
俺は集まった皆に現在の状況を簡潔に説明した。
「という事だ。セルフィナから話は聞いていると思うが、少しまずい状況になっている。だからみんなの力を貸してほしいんだ」
「ご主人様が辻斬りなんてできるはずがありませんよっ!」
ペティが少しプンプンしてる。
そこまではっきりと俺の味方をしてくれるなんて正直嬉しいな。
怒ってプンプンのペティも可愛い。
後で『あ〜れ〜』してもらおう。
「だって、チドリさんが来るまでは私たちが毎晩夜遅くまで夜伽のお相手をしてたんですから、辻斬りしている暇はないはずです」
ぺ、ペティちゃん!? そんな事みんなの前で言っちゃうの!?
俺の為に言ってくれてるのはすごく嬉しいけど、すごく恥ずかしいぞ。
あ、マコトとチドリがジト目で俺を見てる。
知らぬ振りをしよう。
「そうですね。わたくし達の内の一人と必ず一緒だったのは間違いありません。それに愛し合った後のユラリ様はいつもぐっすりと眠ってしまうんです。いつもユラリ様の寝顔を見て楽しんでいるわたくしが言うのだから間違いはありません」
セ、セルフィナさん!? そこでなぜ顔を赤くして悶えるの?
もしかして毎回俺の寝顔を見てたっていうのか?
衝撃の事実だ。
「ユラリが犯人じゃない事は間違いないわ。この旅館からあたし達と……その、よ、夜にアレした後で出て行ったのだとしたら、犯行時刻に辻斬り現場まで行くことは時間的に不可能だもの」
おお、イチゴらしい理論的な説明だな。
だけど、夜ラブの話のところで口ごもると、余計にそれが際立ってすごく恥ずかしい気持ちになるのは俺だけか?
「そ、それでだ。一週間の間に真犯人を見つけて俺への疑いを晴らさないといけなくなった。その一週間の期間だけ俺のお目付役になったのが」
「某、リンドウ・ゲンティアナと申す。短い間だがよろしく頼むでござる」
リンドウは姿勢を正し礼儀正しく頭を下げお辞儀をした。
ゲンティアナってこの国の名字じゃないよな。
ということは彼女の先祖は大陸から渡って来たのか。
「それでまずは犯人の居場所だけど。セルフィナ」
「はい。【天占術】ですね」
さすがはセルフィナ。
俺が具体的に指示しなくても俺の意思を汲んでくれる。
セルフィナがいてくれると本当に心強い。
「そうだ、頼めるか?」
「もちろんです」
それで辻斬りのおおまかな居場所が掴めるはずだ。
後は他の皆で協力して犯人を絞り込み、捕まえて奉行所に突き出す!




