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蛙奉行

 



「目を覚ましたか。身体の具合はどうだ? 応急処置はしたが完全に傷は癒せてないから、まだ全身痛いだろうけどな」


「……兄ちゃんがおいらを?」


「ああ、お前が死んだら俺に罪をなすりつけるなんて、ふざけた事を言う牢主がいたからな」


 俺は牢の隅で縮こまっている牢主の男を睨むと、牢主の男は恐怖でビクリと震えた。


「助けてくれて感謝するっす。おいらの運もまだ尽きていないようだ。兄ちゃんの名前を聞かせてもらってもいいっすか?」


「俺はユラリ。日乃光旅館の総支配人をしている」


「おお! 兄ちゃんが噂になってるあの総支配人か。おいらの名はアサハナ、名字はなくて今はしがない遊び人をしてるっす」


 その噂ってなんだろうな。

 どうせ碌なもんじゃないだろうけど。


「ユラリさん、一つ聞きたい事があるんすが」


「ん? なんだ?」


「おいらをどうやって回復させたんすか?」


「俺のスキルで薬のような物を作ったんだ」


「スキルで? 薬を? 材料もないのに?」


「ああ、まあな。やり方は秘密だ」


 蟻スキルの事を詳しく説明しても信じてもらえないだろうから、うやむやにしておこう。


「兄ちゃんはおいらの命の恩人だ。何か恩返しができればいいっすけど……」


「気にするなよ、俺は自分が厄介な事に巻き込まれない為にしたんだ」


「ですが助けられたのは事実っすよ」


 アサハナと話をしていると牢の外に誰かがやってきて牢の扉が開かれた。


「日乃光旅館の総支配人ユラリと遊び人アサハナ。西町奉行所にて取り調べを行うので外にでて頂こう」


 その声は女の声だった。

 俺は言われるまま牢を出て見ると、俺を呼び出したのは女の同心だった。

 この世界は女性が多いだけあって女同心もいるんだな。

 長い黒髪をポニーテールにしている端正な顔立ちの娘だ。


「某はリンドウと申す。お主が日乃光旅館の総支配人ユラリでござるな?」


 ござると来たか……。

 遂にこの時が来てしまったようだな。

 日乃光の国は江戸時代風の文化だから、ござるキャラと出逢うのをいつかいつかと待ち望んでいたが、まさかこんな場所がファーストコンタクトだったなんて。

 今まで待っていただけあって感慨深いな。


 このリンドウっていう同心、立ち振る舞いや言葉遣いはまるで男だな。

 男の跡取りが生まれなかった武家で生まれた女は、男として育てられるんだろうか。


「ああ、俺がユラリだ」


 リンドウは懐から帳面をとりだし何かを確認している。


「名はユラリ。性別は男。年は十代後半で種族は人族で間違いはないでござるか?」


「間違いない」


「そしてお主の名前はアサハナ。性別は未確定で年齢は十七。種族はアンドロギュヌスでござるか。確か大陸の種族であったか?」


「そうっす」


 アンドロギュヌスという種族は初耳だな。

 性別は未確定ってどういう事なんだ?

 アウレナで種族の事を調べられるかな。


=====

 ◆アンドロギュヌス族

 大陸の南に位置するアル・アトラーン三国連合の一部族。ある一定の年齢に達すると自身の置かれた環境に相応しい性別に変化する珍しい種族。同部族への帰属意識が強く多種族との接触を極力避けて生活する閉鎖的な一面を持つ。

=====


お、ある年齢に達するまで性別が定まらない種族なのか。

確かにアサハナは男とも女ともとれない容姿をしてるな。

身体も華奢だし声変わりもしていないのか少年のような声色だ。


という事は性別が男になったら、体つきが筋肉質になってきて声変わりもして、胸毛やすね毛も生えてくるんだろうか。

なんか今のアサハナからそこまで変化するとは想像できないな。

この世界はいろんな種族がいて飽きない。


「取り調べは西町奉行所で行われるのでござる」


 俺とアサハナの両手は手錠の術具で拘束された。

 俺達は数人の役人に連れられ西町奉行所にやってきた。


「お主達のお白州は特例ですぐに開かれる事となった。お奉行がお見えになるまでここに座っているように」


 ん? 今リンドウはおのお白州と言ったか?

 俺は辻斬りの件で呼ばれたはずだ。

 という事は、アサハナも辻斬りに疑われているのか?


 それに、なんで特例にされてるんだ?

 嫌な予感しかしないぞ。

 俺とアサハナは白い砂利の敷かれた中庭の様な場所に連れてこられ、そこに敷かれていたわらの敷物に座らされた。

 リンドウは俺達のすぐ後ろで控えている。


「なあアスハナ、お前も辻斬りに疑われているのか?」


「そうみたいっす。おいらは夜中に賭場から長屋に帰る途中、辻斬りの現場に居合わせて、運悪く近くを巡察していた同心に捕まっちまって牢に入れられたんすよ。そこでおいらは牢主の男に逆らってボコボコにされたというわけっす」


「そういう事か」


 どちらにせよ俺は自分の無実を証明して帰るだけだ。


 少し待っていると奉行所の襖が開き奥から蛙が現れた。

 正確には蛙に似ている顔の男が現れた。

 左右の目が離れ気味で口も大きい。

 どっからどう見ても蛙だな。


 あ、もしかして蛙人族あじんぞくとかなんだろうか。

 気になるのでアウレナを使ってステータスを見て見よう。


=====

 ◆ガマゾウ・ウラノイケ  

 種族:人族  性別:男  年齢:51  職業:奉行

 LV:22  HP:640  MP:160  SP:710

 物理攻撃力:320  物理防御力:310  敏捷力:140  

 術効力:60  術抵抗力:260  幸運:80

 アクティブスキル:袈裟切り1、俊足1、受け流し1、帯回し5

 パッシブスキル:刀剣術1、学識3、判断3、洞察1、推理1、分析2、指導1

 称号:西町奉行、蛙奉行、鍋奉行、好色漢、【堕ち人の宴 下級構成員】

 ※【 】内は鑑定妨害術具で隠されている部分です。

=====


 なんだ、ただの人族か。

 名前はそれっぽいんだけどな〜。

 蛙人族を期待していたから少し残念だ。


 お、アクティブスキルに【帯回し】ってある。

 これって『あ〜れ〜』だよな。

 称号に好色漢があるから【帯回し】がレベル五になってるのか。

 レベル五とかどんだけクルクルしたんだよ!

 夜な夜ないたいけな娘を『あ〜れ〜』して楽しんでいるんだろう。


 畜生め、うらやましいじゃないか。

 あとでペティにお願いして『あ〜れ〜』してもらおう。

 可愛らしいペティのキャラなら町娘的でハマり役じゃないか?

 それに乱れた着物姿のペティも見てみたい!


 ん、待てよ。

 元王女のセルフィナに頼んでみるのもいいな。

 お淑やかに『おやめください! お代官様!』って言われたら俺の本能君が喜んで迫真の『よいではないか』も炸裂しまくるだろう。

 こういう事にもセルフィナは積極的だから楽しくなるぞ!


 いや、待て待て。

 ちょっぴりツンデレのイチゴもいいかもしれない。

 『あ〜れ〜』してあげるのは、あなただけなんだからね! とか言って、嫌がる素振りを見せつつも恥ずかしがるイチゴを食べてみたい。

 練乳をかけなくても甘いに違いない!


 う〜ん、三人共選びがたい。

 というか三人同時にするのもありだな。

 あとは……ああして、こうして………………おおっと、今一瞬俺の意識が楽しい『あ〜れ〜』大運動会に出場してしまって戻ってこれなくなりそうだった。


 意識をアウレナの情報表示に戻そう。


 奉行の称号にある鍋奉行は理解できるが、蛙奉行とかは意味が分からん。

 もしかして役人達から影でそう呼ばれているんじゃないのか?

 そうに違いない。


 ん? 米印の補足文を見ると鑑定を妨害する道具も存在するのが分るな。

 そんなものあっても俺のアウレナにかかれば裸同然にまる見えだけど。


 あとは、その術具で隠されていた『堕ち人の宴』という称号だけど、下級構成員と続いているから何かの組織名だろうな。

 名前ではどんな組織かは判断できないし、詳しく知りたくもないから放置だ。


 奉行のガマゾウが座敷に座り、敷物に座る俺とアサハナを見下ろした。


「これより、最近都を騒がせている辻斬りにつての取り調べを行う。リンドウ。辻斬りについての報告をしろ」


「はっ! 只今」


 リンドウは懐から巻物を出して読み始めた。


「約二ヶ月前より都の各所で辻斬りの被害者と思われる、首を切断された死体が見つかっているでござる。被害者は男が五名で女が二十二名の合計二十七名。未だ下手人は捕まっていないのでござる」


「次は犯人の目撃情報だ」


「はっ! 辻斬りのあった現場付近では度々、日乃光旅館の総支配人であるユラリ殿を見たという町人の証言が幾つもあるのでござる。一つは北町の長屋で蟻が大量発生した時に住人が首を斬られて殺された事件でござる。現場でユラリ殿が目撃されているでござる」


 あ、それって俺がセルフィナを身請けする為の資金を稼ぐ為に、手配人を殺して回っていた時の事じゃないか?


「続いて西町の老舗の米問屋で若旦那が殺された時にも、ユラリ殿が店から出る姿を目撃したという証言があるのでござる。他には東町の郊外で起きた謎の廃屋爆発事件の際に首を斬られた死体が見つかったのでござるが、そこでも人目を避けるようにして逃げるユラリを見たという証言があるのでござる」


「ほう、リンドウの報告では数件の辻斬り現場でお主の姿が目撃されているという事だが、何か申し開きがあるか? 総支配人のユラリ」


 手配人を始末して回った件と今回の辻斬りの件とを混同されてるのか。

 まずいな、この国が江戸時代と同レベルの司法制度だった場合、目撃証言だけでも十分に犯人にされかねない。

 ここにはDNA鑑定などをする科学捜査はないから仕方が無いけど。


「俺はやっていない。俺を【鑑定】スキルで見ればすぐに分るだろ?」


「称号の事を言っているのか?」


「ああ、そうだ」


「リンドウ。教えてやれ」


「はっ! 【鑑定】で確認できる称号は自らの主観で変わる事があり、殺人をしていたとしても自分が悪い行為をしていると思っていなければ、称号になる事はないのでござる。したがって【鑑定】で殺人者などの称号がなくても下手人である可能性は拭えないのでござるよ」


「は? つまり、俺に殺人者の称号がついてなくても疑いが晴れないという事か?」


「左様でござる」


「まじか……」


 あ、そう言えば。

 クズ副支配人は何人もの奴隷を殺したような事を言っていたけど、犯罪者として捕まってなかったな。

 本人の認識次第で称号がつかない場合とはそういう事か。


 それだと俺の無実を証明できるものが無くなるぞ。

 俺は手配人達の首を斬ったときに目撃されているから、最近の辻斬りとは関係ないと言っても信じてもらえない。

 どうすればいい。


「ユラリとやら。お主が下手人である可能性が高いようだな」




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