勝敗の行方
い、今はそれどころじゃない。
こいつは俺と長い付き合いなだけあって俺の弱点を熟知している。
俺の最も苦手とするエロ攻撃を織り交ぜてきているのがいい証拠だ。
それに何という破壊力。
あまりの暴力的な攻撃力のために一時も谷間から目が離せなかったよ。
「これで十対十のデュースね。次もあたしのサービスよ」
よしいいぞ! もう一度チドリのサービスだ。
ヤッホイな谷間を見られるチャンスだっ!
そぉぉぉーーじゃないだろっ!
落ち着け俺っ! そして俺の本能君よ静まりたまえ!
ここは理性君と協力してチドリの攻撃に耐えなければ敗北は必至。
しかし更なる魔の手が俺に迫る。
チドリはわざとらしく前屈みになり両腕で胸を挟む事で、さっきよりもさらに豊満な胸プリンを強調してきた。
だ、だめだ、目が、俺の目が言う事を聞かない!? チドリの胸から視線を外せないっ!
チドリは色っぽく微笑むと特に力を入れずにボールを打ち、俺のコートの中にふわりと飛ばした。
俺は本能君に全力で抗ったがその抵抗も虚しく、ボールがゆっくりと俺の横を通り過ぎ床に落ちる。
まるで俺の目が石化でもしたかのようにチドリの胸から視線を外す事ができなかった。
「これであたしがもう一点取れば、あたしの勝ちね」
チドリの表情には余裕の笑みが浮かんでいた。
なんという誤算だ。
チドリの胸プリンがこれほどとは思わなかった!
このままでは負ける。
負けてしまう。
二百勝になる為に昨日夜なべしてスキルを駆使した戦い方を考えたのに。
「次のサービスはユラの番よ」
俺は足元に転がるボールを拾い上げた。
自分が負けるかもしれないという現実に動揺し目眩がする。
その時まさに俺の勝利の女神達が浴衣姿で遊技場に降臨した。
「あら? ユラリ様? それとチドリ様。こんなところで向かい合って一体何をしているのですか?」
「え? ご主人様?」
「ユラリじゃないの。そんな難しい顔してどうしたのよ」
「ユラリいた。イナンナの鼻は間違いなかった」
「臭いだけでお兄さんの居場所が分るなんて、すごいですねイナンナさん! ぼくも人の禁断を嗅ぎ分けられる能力が欲しいんですけど!」
そ、そうだ、俺には愛する家族がいるじゃないか。
チドリのビック胸プリンにうつつを抜かしている場合ではなかったよ。
ありがとうみんな。
俺はようやく目が覚めたぜ!
俺はボールを握りしめ勝利への決意を新たにする。
するとチドリの胸元からようやく視線を外すことができた。
よし! いける!
俺は力を込めて高速のサーブを打ち放った。
チドリは俺が胸から視線を外したのを見て浴衣の胸元を元に戻したようだ。
そして互いに全力のラリーが続く。
「【縮地】! 【闇沼】! 【遅延】! 【縮地】!」
「はぁっ! えいっ! やっ!」
後からきたセルフィナ達は俺達の真剣勝負を見て息を呑んで見守っている。
それも仕方が無いだろう。
なぜなら俺達のボールを打ち返す動きは常人の目には捕らえられない程に早く、打ち返されるボールの速度もすでに音速を超えていたからだ。
それでも俺とチドリのラリーは終わらない。
「しまっ!」
その時、俺はボールを空振りした。
チドリの目に喜色が浮かんだその瞬間。
俺は叫ぶ!
「【重唱】【縮地】!!」
俺は【重唱】で【縮地】を十回分重ねがけした。
俺の横を通り過ぎて行く音速のボールよりも、さらに上回る超音速に達した俺はボールが背後の壁に当たる直前に追いつき打ち返す。
チドリは自分の勝利を確信していたのか俺の打ち返した超音速のボールに対応できず、彼女の横を弾丸と化した卓球ボールが突風とともに突き抜け、チドリの背後の壁にめり込んで煙を上げながら止まった。
「よっしゃっぁぁぁ!」
「うそ……なんて早い動きなの……」
セルフィナ達も俺とチドリに声援をくれた。
「まあ、ユラリ様ったらすごく楽しそうですね。そんな無邪気な所も素敵です! チドリ様もがんばってくださいね!」
「あわわっ! ご主人様っ! す、すごいですっ!」
「え、い、今一瞬ユラリが消えたように見えたのだけど。【並列思考計算】の使い過ぎで疲れているのかしら……」
「ユラリ強い。チドリも強い」
「うわ〜、卓球ボールが壁に穴を開けてますよ!? 嘘みたいなスマッシュでしたねっ!」
俺は壁際から卓球台の近くに戻る。
「これでまたデュースだ」
「そうね。ユラは相変わらずしぶといのね」
「お前もな」
俺達は再び音速のラリーを続け、ボールを打ち返し続けた。
そして俺の一打がネットをかすりチドリのコートに落ち、チドリはそれに対応できずに俺の得点となる。
「あと一点で俺の勝ちだ。覚悟しろよチドリ」
「まだ終わらないわっ!」
再び全力での打ち合いが始まった。
チドリも本気をだしているのか俺の【重唱】した【縮地】の速度についてきている。
まさに異能だ。
スキルを使っていないにも関わらず十回重ねがけした【縮地】の速度についてこれるとかチート意外の何ものでもない。
お互いに一歩も引かない攻防。
その最中、チドリはボールを打ち返した直後、自らの汗が床に滴っていたのか足を滑らせ体勢を崩した。
千載一遇のチャンスだ!
「とどめだぁぁぁっ!!」
そこで思いも寄らないハプニングが起きてしまう。
足を滑らせたチドリは今までの激しい動きで浴衣の帯が解けかかっていたのか帯が床に落ち、たわわな胸プリンを含め身体の前側がすべて全解放でフィーバーしてしまったのだ!
そう! スリーセブンのフィーバーだっ!
俺はその衝撃の光景を目の当たりにし、【遅延】をかけられたかのように硬直してしまった。
結局チドリが打ち返したボールに手を出せず再びデュースになったが。
「きゃぁぁぁーーーーーっ!」
チドリの悲鳴が遊技場に響き渡り、それが試合終了を知らせるホイッスルの代わりとなった。
裸体をあらわにしてしまったチドリは赤面してその場にうずくまる。
そして超音速をも超える速度で帯を締め直し浴衣を着直した。
そして俯きながら絞り出すように声を発する。
「見た……わよね……?」
「み、見えてしまったな……」
「全部、見た……わよね……?」
「全部、み、見えてしまったな……」
「……責任」
「え?」
「責任とってくれるんでしょうね?」
「ええ!? 責任って何の!?」
「決まってるでしょ! あたしの裸を見た責任よっ!」
「いや、それはだって、不可抗力ってやつじゃないか」
「ああ〜、そういう事を言うんだ〜、乙女の裸を見といて不可抗力だから責任はとらないんだ?」
「裸を見たくらいで責任取れっていつの時代だよ! それに俺だって見たくて見たわけじゃ」
「は、裸を、見たくらい、ですって!? あ、あたしが今どういう立場なのか考えてから発言したほうがいいわよ。もしもあたしがユラに辱められたなんてアイゼナーグの偉い人に伝わったらどうなるかしら?」
「く、国の事情を持ち出すなんて卑怯じゃないか!」
「……ないわよね?」
チドリの表情が突然笑顔になった。
これは笑っていない笑顔というやつだ。
こ、怖すぎる。
返事を間違えると殺されかねない生死を分ける瞬間というやつだ。
「は、はい! 卑怯じゃないです!」
「よろしいっ!」
今は逆らわない方が身の為だな。
チドリとは正面から戦って勝てる気がしないし。
「責任の取り方は後で伝えます」
「あ、ああ……」
「返事が小さいっ!」
「了解でありますっ! 騎士団長殿!」
それからチドリは何事もなかったかのようにセルフィナ達と挨拶を交わし、自分の部屋へ戻っていった。
それにしても責任取れだなんて俺にどうしろっていうんだよ。
俺は金も持ってないし、権力もないから役には立てないと思うけどな。
卓球の疲れが一度に出て来て床に胡座をかいて座っていた俺にセルフィナ達が近づいて来た。
「ユラリ様。お疲れのようですね。もう一度お風呂に入られてからお休みになられるのがよいと思います」
「そうだな。そうするか」
「わたくしは妻が何人増えてもユラリ様への愛は変わりませんから」
「え?」
「私もご主人様が幸せになるなら、大勢の奥さん達と仲良くしますっ!
「は?」
「ま、まあ、あたしの事を大事にしてくれる限りは問題ないわ」
「ん?」
「イナンナはいつ?」
「いつって何が?」
「これまた罪作りなお兄さんですね〜。国境を越えても可愛い人は手当たり次第って感じなんですね。まさに禁断の申し子! ザ、禁断とでも言いましょうか?」
「お前も何を言っているんだ?」
五人はそれだけ言うと仲良く従業員寮に行ってしまった。
一体なんなんだ?
意味がわからないんだけど?
チドリも無茶なお願いはして来ないだろう。
俺にできる限りなら何を言われても叶えてやるか。
それから俺は一人で風呂に入り直し寮に戻って就寝した。




