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東江の都へ観光に行こう

 



 地上生活七十三日目。


== 9時44分 ==


 今日、特使団のチドリと部下の騎士五名は東江の都を観光する事になっている。

 他の特使団のメンバーである外交官などは、細かな実務担当なので観光する暇はないらしく、今頃は城で会議をしているだろう。


 仕事が休みのペティも一緒に連れてきた。

 ペティは今まで何年も働きっぱなしで都の観光など一度もした事がないらしいから丁度良かったな。

 ペティに観光させる為に特使の騎士達をついでに連れて行くというのは無駄の無い良い作戦だ。


 あくまで俺の中の優先順位は家族が一番で友人が二番目。

 その他の人々はどうでもいい。


 俺達は都の中にある重要文化財や観光名所を巡り、この国ならではの食事などを楽しみながら一日過ごす予定だ。

 ガイドをしているのは俺ではなく国から派遣された案内役だ。

 建物の説明とか美味しい蕎麦の店の紹介は面倒なのでやりたくないし、それほど詳しいくもないからな。


 俺達は午前中に歌舞伎を見てから高級料亭で昼食を食べた後、午後から相撲を見物した。

 チドリは前の世界で相撲を直に見た事がないらしく、護衛の騎士達と同様に初めて見る力士と力士の真剣勝負を手に汗握って観戦していた。


 本来相撲とは天下泰平や子孫繁栄、五穀豊穣や大漁等を願って行なうものだ。

 この国でも土俵上で力士が組合う神事であり武道でもある。

 力士達は祝儀と言われる懸賞金を得るために、日々身体を鍛えているという点は日本とは変わらないだろう。

 俺のいた日本の相撲と違うのは、崇拝する神が清浄教の神という事くらいか。


 俺達は相撲の観戦の後に街並を見ながら西町の大通りを歩いていると、人だかりができている場所で聞き慣れた元気な声が聞こえてきた。


「あっ! ご主人様、あそこでマコトちゃんがお仕事してますよ」


「ちゃんと仕事をしているようだな」


「ねえユラ、あの人達は何?」


「あの人混みの真ん中にはマコトという旅館の従業員がいて、旅館の宣伝活動をしているところだ」


「マコトちゃんの口上は上手ですからね!」


「そうだな。あの人怖じしない性格もこの仕事にぴったりだしな」


 人だかりの中心には木箱が置かれていて、その上にマコトが立ち大声を張り上げていた。


「さあさあ、お立ち会い! アイゼナーグ騎士王国から特使が来ているのは皆さんも知っての通り! その特使団が日乃光旅館を指名して宿泊したいと言ってきたから驚きだっ! 大国のアイゼナーグにも名が知れる有名な日乃光旅館に、今だけ一割引きで泊まれる割引札を進呈中だ! 早い者勝ちだよっ!!」


 集まっていた人々は我先にとマコトの手から割引札を取っている。


「す、すごい人だかりね。こういう宣伝方法もあるのね」


「マコトは元々瓦版屋だったんだ」


「瓦版?」


「ああ。時事性や速報性の高いニュースを扱った印刷物の事をいうんだ。天災や火事や心中などの庶民の関心事を伝える号外のようなものだ。街頭で読み上げながら売り歩いたので読売ともいうんだよ」


「へぇ、詳しいのね」


 俺のこの知識はアウレナ先生に教えてもらったものだけどな。

 割引札を配布し終えたマコトが俺達に気付いて近づいてきた。


「お兄さんとペティさん! お疲れさまです!」


「ああ、マコトもご苦労さん」


「この方々がアイゼナーグの方々ですか?」


「そうだ、そしてこいつが特使のチドリ」


「はじめまして、アイゼナーグ騎士王国特使のチドリよ。マコトさんでいいかしら?」


「もちのろんですよ、何とでも呼んで下さい! うわっ! 大陸の鎧って格好いいですね! それにその所々にある装飾の意匠も良い仕事してますね〜!」


 マコトはチドリに近づき、彼女の軽装鎧を興味津々に舐めるように観察している。


「そ、そうかしら? ありがとう」


「マ、マコトちゃん!? そんなにジロジロ見たら失礼だよっ!?」


 ペティはチドリに纏わり付くマコトを引き離そうとしているが、マコトはチドリにくっついて梃でも動かない。


「はっ! 閃いちゃいました! 異国の女騎士団長としがない旅館の総支配人が国を越えた禁断の遠距離恋愛。その愛の試練を乗り越えられるかどうかは、女騎士団長の鎧の下で疼く女体のみが知る! どうです? なかなかいい出来だと思いません?」


「き、禁断の愛!?」


 マコトめ、また俺を『しがない』とかいいやがって。

 たしか、とるにたらないとか、つまらないとか、貧しいという意味の言葉だったはずだ。

 旅館の総支配人にまでなった俺を『しがない』呼ばわりとはいい度胸だな。

 確かに、俺がいなくても旅館は運営できるし、冗談言うのも下手だし、自由に使える資産なんて持ってないから、間違いではないけどさ。


「ああ、悪いなチドリ。こいつエロい見出しを閃くと言わずにはいられない変な奴なんだ。許してやってくれ」


「き、禁断の愛……それいい、かも」


「チドリ?」


「はっ! な、なんでもないわ。それにしてもあんたの旅館には個性的な従業員が集まっているのね。元王女のセルフィナが働いていた事にも驚いたけど、元瓦版屋で獣人のマコトさんとか、姿を見せない忍者の清掃係さんとか」


「優秀な人材はどこの世界でも個性的なんだよ」


「あ、大成おじさんみたいな?」


「まあ、そういう事だ」


「あ! あのお店に可愛らしいものが置いてあるわね。ねえユラ。ちょっと見に行ってもいい?」


「俺には気を使わなくていいから行ってこいよ。ペティ、チドリについていてくれるか?」


「はいっ! 任せてくださいご主人様っ!」


 チドリ達とペティは近くにあった小間物屋こまものやに入って行った。


 小間物屋とは、くし髪油かみあぶらかんざしなどの女性向け雑貨を扱う店の事をいうんだ。

 この日乃光の国の小間物屋は店で売る者もいるが行商する者も多い。


 小間物屋の中に入ったペティはチドリの頭にかんざしを宛てがい、チドリに似合うものを見繕ってあげているようだ。

 ペティはいつでも他人の為に親切にできるいい娘だな。


 チドリは女だから装飾品に興味を持つのは分るが、なぜあの厳つい騎士の男共も真剣になってくしかんざしを見ているんだ?

 ああ、家族や恋人へのおみやげか。


 その時マコトが一人になった俺に近づいてきた。


「あ、そうそう、お兄さん知ってます? 最近深夜の都に辻斬りが出るっていう噂」




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