ゆるゆる人任せいちゃラブ異世界生活
「まったく。昔からあんたってデリカシーってものが無いのよね」
「も、申し訳ございません!」
い、威圧感がすごいっ!
あまりのプレッシャーに目眩がする。
「まあ、いいわ。それよりもセフィ! 生きていたのね!?」
ようやく威圧感が無くなった。
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◆パッシブスキル【威圧耐性】を獲得しました。
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まじか、スキルを獲得できる程の威圧だったのか。
こりゃあデリカシースキルを上げないとチドリに殺されかねないな。
「あたしはてっきりセフィが帝国の奴らに殺されたと」
「わたくしはフォルテ王国が滅んでからは奴隷として各地を転々とし、この日乃光の国に辿り着きました。そして遊女として遊郭に売られた直後にユラリ様に身請けして頂いたのです」
「そうだったの……大変だったわね……」
チドリは優しくセルフィナを抱きしめた。
「フォルテ王と王妃の事は聞いたわ。あたしもあの戦争の当事者として申し訳なく思っているの。あたしにもっと力があれば……」
「そんな顔をしないでくださいチドリ様。わたくし達がアイゼナーグへ亡命できるように手配して下さったのはチドリ様ではありませんか。あの時の事は本当に感謝しています」
「セフィ……」
「しかし私の父は逃げる事を望まなかった。わたくしも両親と運命を共にすると決意しておりましたので、せっかくのチドリ様のご好意を無駄にしてしまい、こちらこそ申し訳ございませんでした……」
「そんなのはいいのよセフィ。あなたが生きていてくれただけで嬉しいから 」
「一時は自分の命をかけてトランゼシアに復讐しようと考えていました。ですが、今のわたくしはユラリ様の妻として愛され幸せを感じています。復讐心が無くなったわけではありませんが、復讐の為に今の幸せを壊すような事は決してしたくありません」
「え? セフィがユラの奥さんの一人なの?」
「はい、そうです。チドリ様もユラリ様とはお知り合いだったのですか?」
「……これは告白する前から強敵出現ね」
「強敵?」
「な、なんでもないわ。そう、良かったわね」
「はい!」
セルフィナは優しく美しい笑みを浮かべた。
まさに天使のようだった。
セルフィナはペティとイチゴを手招きして呼び寄せた。
「こちらのお二人もユラリ様の妻です」
「えっ!? こ、この二人も? か、可愛い娘達ね」
ペティが自己紹介をした。
「は、はじめまして! 仲居のペティと申します。日乃光旅館へようこそおいで下さいました」
「あたしはイチゴ。この旅館で経理をしているわ。ゆっくりしていってね」
「ええ、よろしく頼むわね」
特使団を待たせるのも良くないな。
旅館の中で部屋に案内しないと。
「ここで立ち話もなんだから旅館に入ろうぜ」
「それもそうね」
俺達は旅館のロビーに入り特使団の人々には上等な客室を手配した。
接待なんだから一番良い部屋に泊まるのは当然だ。
かかった費用は国から出る事になっているから、思う存分おもてなしさせてもらうか。
館内の説明や案内はペティ達仲居に任せて問題ないだろう。
今日は外出する予定は無い。
明日から俺は特使であるチドリの護衛のために、彼女に付いてまわらなきゃならない。
というか騎士団長に護衛って必要か?
港での一件でチドリが強いのは明らかだ。
まあ、仕事だからやるけど。
その日の夕方。
チドリの驚く声がロビーに響く。
「ウトちゃん!?」
「ウトじゃない。イナンナ」
「え!? ど、どういう事なのユラ?」
「あ〜言うの忘れてた。こいつはイナンナ。ウトそっくりだが別人だ」
「え、そう、なんだ。それにしてもそっくりなのね」
「イナンナはイナンナ。ユラリとは仲良し」
「そうなのね」
イナンナは俺の背中に抱きついてクンクンと鼻をならす。
「ユラリの臭い、好き」
「ほ、本当に本人じゃないのよね!? ユラリの臭いを嗅ぐところなんかそっくりなんだけど!?」
「ああ、それも偶然だ。だって日本にいたウトはこいつよりも背が高かっただろ?」
「そう言われてみればそうね」
「姉妹かとも考えたんだが、それにしたって似過ぎているからな。こいつに聞いても日本にいた記憶は無いって言うし」
「そっか。でも久しぶりにウトちゃんに会えたようで嬉しいわ」
「そういえばまだ聞いてなかったが、お前以外に日本から転移して来た奴はいないのか? サツキやシュンやオボロとかは?」
「……えっと。サツキとだけは連絡がとれてるわ。実は今回の訪問中に会う約束をしているの」
「え、ということはサツキはこの日乃光の国に?」
「知らなかったの?」
「ああ。俺がこの国に来たのはつい最近だからな」
「そうなんだ。今のサツキを見たら驚くと思うわよ」
「どうしてだ?」
「それは会ってからのお楽しみという事で」
「そうか? シュンとオボロは見つかっているのか?」
「ええ、転移しているわ。でも連絡はできないかも」
「何か二人の事について知っているような口ぶりだな」
「数年前に皆の消息を調べたのよ。その時点でのオボロは強さを極める為に人里離れた山の奥に籠っていると聞いたわ」
「うわっ、あいつらしいな」
「シュンは……」
「どうした?」
「シュンは今トランゼシア帝国の皇帝をしているの」
「は? なんだって!? 冗談だろ?」
「いいえ、事実よ」
「まじか。という事は……」
「セフィの仇になるわね」
「なんだってあいつ皇帝なんて面倒なものになったんだ?」
「あたし達は異世界転移者としてこの世界のスキルシステムを超越した異能を持っているの。噂でしか聞いたことはないけど、シュンの異能は国を治めるのに適した異能だという話しよ」
「つまりシュンはその異能の力で皇帝になることができたのか。目的はなんだ?」
「こっちに来て三十年になるけど、遠くから姿を見ただけで実際に会って話をしたことがないの。彼がどうして皇帝になったのかは分らないわ」
「そうか、……セルフィナの両親を殺したのは恐らくシュンだ」
「え! セフィ本人がそう言ったの?」
「ああ、彼女の目の前で父と母を切り刻んだらしい」
「くっ!」
チドリは顔を歪めてセルフィナの境遇に同情しているようだ。
それに彼女を助けられなかった後悔の念もあるようだな。
「セルフィナにはこの話はしない方がいいな」
「そうね。復讐は今のところする気はないようだし」
「あ〜、でも参ったな」
「どうしたの?」
「俺さ、セルフィナと一緒になる時に、皇帝を殺すのを手伝うって約束しちゃったんだよ」
「ど、どうするつもりなのよ」
「なるようになるだろ」
「あんたはいつも面倒になると適当になるんだから」
実際に今すぐどうこうできる問題ではない。
時間が経てばセルフィナだって復讐を諦めてくれるかもしれないし、この先どうなるかを心配しても仕方が無いじゃないか。
俺はチドリと別れ従業員達と特使団の対応について打ち合わせして、それから寝床に入った。
特使団がいるうちは妻達との夜ラブは控えることにしたので、隣に愛する人はいない。
ほとんど毎日、夜は彼女達のうちの一人がいちゃラブしてくれていたので、布団をかぶっていてもなんだか肌寒く感じてしまう。
俺のいちゃラブ異世界生活はいつ再会できるのか。
あ、ゆるゆる人任せ異世界生活の間違いだった。
いっそのことくっつけて、ゆるゆる人任せいちゃラブ異世界生活にしようかな。
……長くて言うの面倒になるから、これは却下だな。
そんなくだらない事を考えながら俺は眠りについた。




