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セフィ!?

 



 レイゼルはチドリの首に剣を押し当てている。


 突然の展開でもチドリは冷静だ。

 これはアイゼナーグの問題なので、俺は様子を伺うことにした。


「レイゼル。……何かの間違いよね?」


「余計な動きを見せたら即殺す」


「ユラが言うように貴方がトランゼシアの密偵なのは本当のようね」


「無駄口を叩くな。俺が逃げ切るまで黙っていろ。……そこのお前!」


「俺か?」


「そうだ、お前だ。どうやって【隠蔽】スキルレベル十の私の正体を見破った?」


 この密偵は他にも【演技】や【変装】、【変声】や【物真似】なんてスキルもレベル十だったな。

 他には情報収集に役立つスキルも軒並みレベルが高い。

 戦闘系のスキルはそれほどでもないから諜報活動に特化した奴なんだろう。


「なんとなく、かな」


「正直に言え。さもなくばこの女の首が地面に転がるぞ」


「それは困るな。俺はオウカ姫からそいつの護衛を任されているんだよな。そんな事より自分の心配をしたほうがいいと思うぞ」


 その時、チドリは自分の首に当てられていた剣を素手で掴んで砕き折り、流れるような動作で足を払ってレイゼルの体勢を崩し、剣を持っていたレイゼルの右手を捻りあげ身体を地面に投げつけた。


 すごく無駄の無い完成された一連の動きだ。

 かなり体術の訓練を積んだに違いない。

 レイゼルは地面に打ち付けられた衝撃で咳き込んでいる。


「ふぅ。誰かレイゼルを捕らえなさい!」


「はっ! 了解しました!」


「騎士団に密偵が潜んでいることは分っていたけど、まさか副団長のあなただったなんて。残念ね」


 レイゼルは二人の騎士に取り押さえられ手足に拘束用の術具をかけられた。


「この者の処遇は本国に帰ってから決めます。事情を説明してこの国の牢に入れてもらいましょう」


 騎士団の部下に指示を出しているチドリは、俺の知っている彼女とはまるで別人だ。

 強く厳しい騎士団長の姿だった。

 三十年という時間は人を変えるには十分な時間なんだな。

 なんだか少し寂しい気持ちになったよ。


「ユラ、教えてくれてありがとう。借りができたわね」


「いや、気にするな。前にも正体を隠して暗殺を企んでいる奴を見抜いた事があってな」


「そうなの? どうしてレイゼルがトランゼシア帝国の密偵だと分ったの?」


 あれ? チドリの反応を見る限り、チドリはアウレナを使って全ての情報を見ることができないのか?

 もしかして俺だけなのかもしれない。

 レイゼルが密偵だと知りながら放置するはずもないしな。


 ということは俺だけのチート能力なんだろうか。

 どっちにしろ、知らせない方がよさそうだ。

 面倒な事に巻き込まれない秘訣は無闇に手の内をさらさない事だからな。


「それは、秘密だ、秘密」


「そういえば貴方も転移者だったわね。特殊な力の一つや二つは持っていてもおかしくないか」


「そうだな、あまり知られるのはまずい」


「わかった。あんたのおかげで密偵を一人見つける事ができたし、詳しくは聞かない事にする。あ、ちなみに他の特使団員の中に裏切り者が混じっていたりする?」


 俺はアウレナを使って全員分の情報を観覧したが特に妖しい奴はいなかった。


「いや、いないようだ」


「そう、良かった。なんか嫌な所を見せちゃったわね。今のあたしを見て引いちゃったでしょ?」


「いや、お前こそ、今の俺がどういう人間になっているか知ったら卒倒するかもしれないぞ」


「へ〜、そうなんだ。ふふっ、三人も奥さん侍らせているなんて誰でも引いちゃうわよね〜」


「ゔ、知ってたのか……」


「滞在先の旅館の総支配人ですもの、調べないはずないでしょ? あんたって何人もの女性に手を出すような人なのね〜」


「そ、それは、その、一夫多妻についての俺なりの行動実験をだな……」


「また行動実験? あんたって都合が悪くなるとすぐ行動実験してるとか言い出すんだから」


「探究心は三十年経っても滅びる事はないのだ!」


「ふふふっ、冗談よ。ちょっとからかっただけ。今この世界では男女の性比率が偏っているのは知ってるわ。だから家族を養う力のある男は一夫多妻になるのが常識なのよね。でないと人族が絶えてしまうもの」


「なんだよ、からかったのかよ。俺はいまだに罪悪感とかあるんだぜ?」


「そうなの? 三十年もこの世界で暮らしてるんだからいい加減慣れなさいよね」


「そういうお前はどうなんだ?」


「あたし?」


「三十年も経ってるんだ、好きな男の一人や二人はいたんだろ?」


「えっと、……ずっと前から好きな人は、いるかな」


「そうか、ようやくお前にも春が来たんだな。めでたいじゃないか。それで? その男と結婚はしないのか?」


「け、結婚はまだできないと思う」


「どうしてだ? お前は騎士団長なんてやってる位だから爵位もあって偉いんだろ? それにお前みたいに美人なら、喜んでその男も結婚の申し出を受けてくれると思うけど」


「あ、あたしは美人なんかじゃないわよ」


「そんな事ないと思うけどな」


「だって、その人に異性として意識されてないんだもの……」


「ああ、その男はあれか。鈍感な奴なんだな」


「そ、そうなの! かなり鈍感でいい加減でだらしなくてダメダメな人なの」


「お前そんな奴が好みなの? お前って変わってんな。そんな奴の何処がいいんだか」


「でもその人、普段はダメダメなんだけど、……いざという時には頼りになって優しくて格好いいのよね……」


「ギャップ萌えってやつ? 俺もそういうの嫌いじゃないよ」


「で、でしょ? だからあたしは騎士団長になって、その人を惚れされてやろうと思ったのよ」


「なるほどな。たぶん大丈夫だと思うぜ。俺でさえさっきの凛々しいチドリにドキッとしたからな」


「え? 本当に!?」


「あ、ああ、まあな」


「決めたっ!」


「え?」


「今回の特使の役目を終えたら、その人に告白してみる!」


「お、おお、そうか。うまくいくといいな」


「その時ユラに立ち会って欲しいんだけど、いいかな?」


「え? 俺が? 別にいいけど」


 俺が立ち会えるって事は、チドリの好きな男って特使団の一員なのか?


「よし。元気が出てきたわ!」


「そうか、なんかよく分らないけど良かったな」


 それから俺とアイゼナーグ騎士王国の特使団は、何台かの中型空船に乗り込み城の偉い人達の元へ挨拶に向かった。

 そこで挨拶を終えたチドリ達は、俺の旅館にまっすぐに来ることになっていた。


 チドリに聞くと一ヶ月の間はほとんどが自由時間らしい。

 特使団の人々にはゆったりと日乃光の国を楽しんでもらおうという事だ。

 少しでも特使にこの国に対しての良い印象をもってもらって、今後の交渉を有利に進めたいという意図も感じられる。


 ちなみにトランゼシア帝国の密偵だったレイゼルは、城の地下牢に一時的に収監される事になった。

 チドリがアイゼナーグに戻る時に一緒に連れ帰るらしい。




「ここがユラの旅館なのね。なかなか良い所じゃない。話には聞いていたけど、日乃光の国って本当に江戸時代の日本のような雰囲気なのね。この旅館の外観も古き良き日本って感じで落ちつくわ」


「気に入ってくれて良かったよ」


 俺とアイゼナーグ特使団の皆は旅館の前に到着すると、旅館の仲居達が整列しお辞儀をして出迎えてくれた。

 前もって念話で特使団の到着を知らせた俺は、皆で出向かえるように指示をしていたのだ。


「こういうのもあんたの指示なの?」


「そうだ。気分がいいだろ?」


「あたしは立場上慣れているけど、他のメンバーには好評みたいね」


 騎士や特使団の外交官などには驚かれつつも反応は上々だ。

 そこにセルフィナがやってきて完成された美しい所作でお辞儀をした。

 さすがは元王女だ。

 動作に気品が漂っている。


 それに彼女の着物姿も眩しいくらいに美しい。

 特使団の男共はみんなセルフィナの美貌に目を奪われている。


「お待ちしておりました。チドリ様」


「えっ!! セフィ!?」


「お前達って知り合いだったのか?」


「知り合いというか友人かしら」


「はい。わたくしがまだ小さい頃から、チドリ様にはお世話になっていました。何度か剣術を教わった事もあります」


「あ、そうか。ついつい忘れがちになるけど、チドリの年齢って」


「ユラ? 何かいった?」


 え、笑顔が怖い!

 そういえば女性の年齢について触れるのはタブーだった!


 


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