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心から望んだ事

 


「イ、イチゴっ!? 何をバカな事を!」


「あたしは父上に何も恩返しができてない。あたしをここまで育ててくれて、商人としての教育もしてくれた。父上が商人組合を立ち上げたのは都の人々の為って言ってたけど、全部あたしの為なんでしょ!?」


「な、何を言っているんだ!」


「あたしが家出した後、一度母上のお墓参りに行ったの。そこで父上が自分のやり方が間違っていたかもしれないと言いいながら、母の墓前で泣き崩れていたのを見たのよ。そして自分が死んでもあたしが幸せに暮らしていけるようにお金を貯めてあって、将来有望な婿を得るために商人組合を立ち上げて人脈を広げていたという事もそこで聞いた」


「い、いや、それは……」


「全てはあたしの将来のために商人組合を作ったのよね。それなら、あたしにもユラリ様に迷惑をかけた責任がある! 父上が斬られるならばあたしも同じように斬られて当然なのよ!」


 なるほどな、そういう背景があったのか。

 イチゴの様子を見る限り、ここでタケゾウだけ殺しても、後で責任を感じたイチゴが自害しかねないな。


 それは困る。

 非常に困る。


 イチゴが旅館の経理になってから十日ほど経つけど、想像以上に優秀だったんだ。

 セルフィナも経理の仕事はできるが、イチゴは同じ時間でセルフィナの仕事量の五倍は作業できていた。


 これは優秀な計算スキルと経理スキルを持っているからこその速度。

 イチゴを採用した後に何人か経理志望の人が面接にきたけど、イチゴと比べると天と地の差だった。


 すでにイチゴはうちの旅館に必要不可欠な存在と言っていい。

 だからイチゴに死なれては困る。

 あるいみタケゾウにも感謝だ。

 娘の将来の為にとイチゴに英才教育を施したのはタケゾウだからな。

 もしそうしていなければ、今のハイスペックなイチゴではなかっただろう。


 俺がその考えに至ったとき、今回の問題のうまい落とし所を思いついた。


「じゃあイチゴ。俺の嫁になれ」


「「ええっ!?」」


 この二人本当に親子なんだな。

 驚いたときの声が重なったよ。


「あ、え? あの、ユラリ? 本気で?」


「ああ、俺は本気だ。俺はイチゴが欲しい。だからここで二人を死なせるわけにはいかない。だけどお前の父親にも責任をとってもらわないと気が済まない。イチゴが俺の嫁になるという事は、お前の父親は自分の命よりも大事な娘を俺にとられるという事になる。償いにちょうど良くないか?」


「ユラリ殿……それは私にとっては望みが叶うに等しい事です」


「は? 手塩に掛けた娘を俺にとられるんだぞ。悔しくはないのか?」


「その逆でございます。私は貴方のことを高く評価しています。だから逆に敵視したのです。私が築き上げた商人組合を乗っ取られるかもしれないと恐れる程に」


 結果的には乗っ取った形になったけど、何も問題が起きなかったら商人組合を乗っ取るなんて面倒な事は絶対にしないって。


「貴方が日乃光旅館の総支配人になったときから動向に注目していました。賞金首や山賊の壊滅に海竜の討伐、この都の裏社会を牛耳るヤクザ者を支配し、我ら商人組合を瓦解させたその手腕。今回の御用達制度を提案された事で確信に変わりました。ユラリ殿は力と知恵、それに運もある。貴方はイチゴの婿に相応しい。いえ、イチゴにはもったいない男だと」


 そこまで褒められたら悪い気はしないな。

 しかし、これだとタケゾウへの罰にならないのか。

 じゃあどうすっかな。


「そうだ、じゃあさ新しく立ち上げた組合の管理を任せる」


「え? それでは今まで私がしてきた事と変わらないのでは?」


「そんな事はないだろ。一度落ちた信用をとりもどすのは並大抵の努力じゃできないことだ。商人なら分るはずだけど?」


「そ、それはそうですが。しかし……」


 実際俺の提案に乗ってきた商人達が予想を遥かに越えて多かったんだよな。

 組合の寄り合いもちょくちょくあるようだし、そんなのにいちいち顔を出すなんて面倒。

 こういう仕事は慣れている人に任せるに限る。


「ただ今までのようにしていればいいというわけじゃない。お前がしなければいけないのは。この東江の都だけじゃなく日乃光の国で一番、いや、世界一の組合に育てることだ」


「せ、世界一……」


 あ、言い過ぎた?

 調子乗り過ぎた?


「できるか?」


「……私は今まで世界に進出するという発想自体がありませんでした。恐らく私が生きているうちに実現するかどうか分らないでしょう。しかし娘をもらってくれるというなら、私の残りの人生を全て費やし挑戦するだけの価値ある償いになるでしょう。……ユラリ殿、その罰喜んでお受けしましょう」


「そうか。これで話はまとまったな」


「ええ!? いえ、あのっ、あたしがユラリに嫁ぐというのは決定なの!?」


「今更何を言うイチゴ。お前を幸せにできるこれ以上の男は他にいないぞ。それに、自分には相応しくないと言って、いままで何十軒ものお見合いを断ってきたのはお前ではないか? お前は私よりも優れた観察眼を持っておるのだ、ユラリ様との婚姻はこの上ない玉の輿になるというのは分っているのだろう?」


「そ、それは、まあ、そうだけど……」


「ならば何も問題はないな。ユラリ殿、どうかイチゴを末永く可愛がってくだされ」


「もちろんだ、こんなに有能で可愛い奴はそうはいないからな」


「か、可愛いとか、しれっと言わないでっ! は、恥ずかしいから……」


「イチゴ。俺の妻になるのは嫌か?」


「嫌……じゃないわ。貴方はきっとあたしを幸せにしてくれるから」


「それも観察眼を通しての判断か?」


「いいえ。これはあたしの心が感じていることよ」


「それじゃあんまり当てにならないな」


「そ、そんな事はないわよ。だって、あたしは今まで妻になってもいいと思える貴方のような人に出逢ったことがないから……」


「ということは、これから先俺より良い男が現れたら、お前はそいつに乗り換えるのか?」


「そうかもね。ふふっ」


 イチゴは少しだけ顔を赤くさせ自然に笑った。


「だから貴方はずっとあたしの中で一番じゃないといけないのよ」


「それは責任重大だな。分ったよ、自分の妻くらい引き止めておけるように努力するさ」


 こうしてイチゴは俺の三人目の妻になった。


 それから俺とイチゴは一先ず旅館に帰った。

 俺が立ち上げた新しい組合の細かい調整はタケゾウに任せていいだろう。

 世界一を目指せと言ってからタケゾウの目が輝いていたからな。


 俺としてはあいつに罰を与えるためだったんだけど。

 そもそも世界一なんて無理だろうに。

 まあ、あとは頑張って大変な思いをしてくれって感じだ。


 旅館に帰ってきてからペティとセルフィナを呼び、イチゴが新たな妻になった事を知らせた。

 そしたら二人は大喜びだった。


 ここは不機嫌になるところじゃないのか?

 まあ、ここは異世界だしな。

 結婚観なんていろいろなんだろう。


 その場で俺はイチゴに最終確認をした。


「イチゴ。さっき説明した通り、これから俺はお前と【守護者契約】をするけど、今ならまだ引き返せるぞ」


「大丈夫よ。貴方と運命を共にする覚悟はできているわ。そもそも契約なんてしなくても、妻になるというのはそういう事でしょ?」


「自分の身体が新しく生まれ変わるという事に不安はないのか?」


「あたしは大商人の娘よ。感情に流されて損得を見極められないとでも? 身体が生まれ変わるというのが貴方の説明の通りなら、あたしに徳はあっても損はない。それに何よりも私の心が貴方と共に生きる事を望んでいるんだから」


「そうか。お前の覚悟は分ったよ」


 俺はスキル使用の為に意識を集中する。


「この者の名はイチゴ・エチゴヤ。我が敵を刺し貫く剣となり、我を護り支える盾となれ! 我の元に集いし二十四守護者の一人として、ここに守護者契約を結ぶ! スキル【守護者任命】発動っ!!」


 スキルの発動でイチゴの体はまばゆい光を発し宙に浮く。

 イチゴは空中に浮いた事で戸惑っているようだ。

 俺の中の力がイチゴに流れ込む。

 そしてイチゴの額の位置に光が集束し、一枚のカードを形成していく。


 そのカードに描かれているのは算盤を持ち質素な木の椅子に座る女性。

 その女の周囲には金と銀の柱が幾本も立っていた。


「知力の高さや冷静な判断力を意味し、思考する人を意味する守護属性。女教皇のカードか。頭のいいイチゴにはぴったりだな」


 イチゴの体の発光現象が収まり、彼女はゆっくりと床に降り立った。


「す、すごい……。あたし、本当に生まれ変わったのね」


「それが俺と守護者契約をした結果だ。さっき説明したようにお前の潜在能力が開花したんだ」


「三日徹夜してもまだまだ仕事ができそう。力がどんどん溢れてきてるわ」


 ペティとセルフィナがイチゴに近づいてきた。


「イチゴさんっ! これからはご主人様の妻として一緒に頑張りましょうね!」


「ええ、こちらこそ、よろしくお願いね」


「わたくしもイチゴさんがはやくユラリ様の妻として馴染めるように、協力を惜しみません。なんでもご相談なさってくださいね」


「はい、セルフィナさん。いろいろ教えてくれると助かるわ」


「早速決めなければいけないのは夜伽の順番ですが……」


「え? あの、ええ!?」


「そんなに怖がらなくてもユラリ様は優しくしてくれますよ」


「そうです。ご主人様はすごいんですからっ! 大丈夫ですっ!」


「いや、あの、そういう方面の事は全然知らなくて……その……」


「それならわたくしが教えて差し上げます。ならばさっそく。イチゴさんこちらへ」


「え? は、はい、お願いします」


 イチゴとセルフィナがなにやら話し始めたので、その間に俺はイチゴの守護者契約後のステータスをアウレナで確認することにした。


=====

 ◆イチゴ・エチゴヤ

 種族:人族  性別:女  年齢:16  職業:旅館の経理

 LV:2  HP:540  MP:0  SP:510

 物理攻撃力:285  物理防御力:255  敏捷力:230  

 術効力:140  術抵抗力:330  幸運:80

 アクティブスキル:経理の基本術技5、観察眼8、高速学習5

 パッシブスキル:金銭感知7、並列思考計算5、商人の心得5、経理の心得5

 称号:ユラリの妻、商人の娘、夢を抱く者、価値を知る者、猫好き

 ※ユラリの二十四守護者の一人:女教皇

=====


目新しいのがいくつかあるな。


=====

 ◆経理の基本術技5

 速読5、速記5、高速計算5、高速作業5、高速検証5

 ◆観察眼

 よく物事を観察し真の価値を見抜く能力。経験に裏付けされた高い観察力。【鑑定】は対象の情報を表示するスキルだが、【観察眼】は対象のこの世界における相対的な価値を表示することができる。

 ◆経理の心得5

 暗算6、経理8、集中5、正確5、検証5、書類作成5、

=====




***




 地上生活四十六日目


 その日の夜、俺はイチゴと大人の関係になった。

 セルフィナに何を教わってきたのかわからないが、行為をするときも恥ずかしがりながらも積極的で可愛かった。

 キスはぎこちなかったが、そこは俺がリードして彼女にキスの仕方を教えながら二人で抱き合った。


 次の日の朝、目覚めると俺の隣には顔を赤くしたイチゴがすでに起きていた。

 というかイチゴは昨日の夜の興奮が収まらず一睡もできなかったらしい。

 俺はしばらく彼女を抱き寄せ頭を撫でていると寝息を立てて眠りはじめた。

 ここ最近、一度にいろんな事があったからな。

 今日一日はゆっくり休ませてやろう。


 俺はしばらくの間イチゴの寝顔を楽しみ、イチゴを布団に寝かせたまま部屋をでた。




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