人見知りの忍者
※ユラリ視点
傭兵が俺に斬り掛かってきたけど、躱すまでもなく【硬甲殻】で強化した左手で刀を掴み、傭兵の首を右手の手刀で刎ねた。
こいつらは旅館を全方位から襲撃する予定だったようだが、うちの警備担当のイナンナを知らなかったようだな。
イナンナの使役する骸骨騎士三十体が旅館の周囲に一定間隔で配置され、ハエ一匹でさえ侵入を許さない鉄壁の防壁だ。
旅館の防衛はイナンナに任せておけば大丈夫だろう。
俺はセルフィナに向けて【念話】を使用する。
『セルフィナ、【天眼】を使って上空から戦闘の様子を見てくれないか?』
『はい、わかりました。すぐに見てみます』
【天眼】はセルフィナのスキルで、本人が上空にいなくても地上を俯瞰することができるスキルだ。
『まだ、数カ所で骸骨騎士と傭兵達の戦闘が続いています。骸骨騎士達への被害はありません。傭兵達の数は現在二十一人に減っています』
『そうか、旅館には侵入できないと思うが、念のために見張っておいてくれ』
『わかりました。お任せ下さい、ユラリ様』
そのときイナンナが俺の隣に立つ。
「イナンナは旅館を護る」
「ありがとな」
「イナンナはユラリに幸せもらってる。イナンナもユラリに幸せあげる」
「そういう関係を仲良しって言うんだ」
「仲良し?」
「そうだ。俺とイナンナは仲良しだな」
「うん。仲良し」
イナンナは俺の顔を見上げ微笑む。
イナンナは最近微笑む事が多くなっている。
まあ、俺に対してだけなんだけど。
それにしても旅館を襲ってきた傭兵達は思っていたよりも弱かったな。
セルフィナの未来視では俺に刀が何本も突き刺さっていたらしいけど、そんな事を俺にできる奴らだと到底思えない。
まだ隠れているやつでもいるのか?
「イナンナは引き続き旅館を外敵から護っていてくれ」
「わかった」
「俺は周囲を探って他に敵が隠れていないか見て来るよ」
「うん」
イナンナは旅館の側まで戻っていった。
俺は林の中に入り周囲を探索する。
セルフィナの【天眼】は上空から広範囲を見ることができるが、巧妙に姿を隠した敵を見つける事はできないんだ。
しばらく旅館を囲む林の中を敵の気配を探りながら歩いていると、木の影から全身黒ずくめで顔を隠した奴が現れた。
格好を見る限り忍者だな。
こいつがラスボスってやつか。
黒ずくめは三本の苦内を投げてきた。
俺は完全に見切り、全てを躱す。
苦内は背後の木に突き刺さる。
商人組合に傭兵として金で雇われているんだろう。
この国の忍者は金で雇われればどんな仕事もするらしいな。
俺が地球で学んだ忍者は大名や領主に仕えていて、諜報活動や暗殺などを仕事としていた。
そういえばオウカを狙ったゴロウという暗殺者も、元は忍者だったようだ。
忍者になって習得できるスキルが諜報や暗殺に特化したものならば、当然暗殺者で金を稼ぐ奴が現れても可笑しくないか。
セルフィナの未来視の事は無視できない。
この忍者が何か特殊な能力を持っているかもしれないので、アウレナでステータスを確認しておくか。
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名前:ギンコ・シノノメ
種族:狐人族 性別:女 年齢:21 職業:忍者
LV:45 HP:1425 MP:665 SP:1510
物理攻撃力:755 物理防御力:345 敏捷力:1055
術効力:395 術抵抗力:315 幸運:110
アクティブスキル:忍者の基本術技3
パッシブスキル:冷静4、罠仕掛け3、急所看破2、罠察知3、気配感知3、毒耐性2、痛み耐性3、気絶耐性2、刀剣術5、撒菱5、苦内5、手裏剣5、能力隠蔽7、夜伽の作法5、忍者の心得5
称号:輪廻周回者、雇われ忍者、裏家業、緻密な計画者、潔癖性、人見知り
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え、女?
職業は忍者か。
くノ一ではないんだな。
アクティブスキルに【忍者の基本術技】ってある。
これも心得スキルのように取得条件がありそうだな。
恒例の情報オープンっと。
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◆忍者の基本術技3
縮地5、急所突き3、高速手裏剣投げ3、火遁の術3、土遁の術3、水遁の術3、隠れ身の術3、分身の術5
◆忍者の心得5
忍耐5、変装5、演技5、毒知識5、諜報8、暗視5、気配遮断8、消音行動5
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スキルの種類が多い。
忍者になる奴って小さな頃から厳しく教え込まれるんだろう。
でなけばこんなに多くのスキルを取得できないからな。
パッと見はかなりの腕前だ。
持っている称号も気になるな。
輪廻周回者か……なんのこっちゃ。
加えて潔癖性に人見知り?
それなのに忍者やってるのか。
違和感を感じるがスキルの内容を見る限り侮れない。
俺は戦う構えをとった。
その直後、背後の木に突き刺さっていた苦内が爆発。
爆風で体勢を崩され前方に飛ばされる。
そこには刀を構えて俺に向かって来る忍者がいた。
「【硬甲殻】!」
俺は咄嗟に表皮を硬くし体を丸くして防御する。
刀が弾かれる金属音。
俺はなんとか体勢を立て直し地面に足をつく。
直後に忍者による怒涛の連続攻撃が始まった。
その忍者は分身の術をつかったのか十人に増えていて、一糸乱れぬ連続攻撃で俺に反撃をする隙を与えない。
その内の一人が刀ではなく俺に何かの液体を振りかけた。
すると俺の【硬甲殻】の効果が徐々に薄れていき、刀の衝撃が伝わるようになってきた。
いまの液体は何だ!?
スキルを打ち消す薬か何かなのか?
この世界には術だけでなくスキルを無効化する手段もあるのか!?
まずいな、そろそろ【硬甲殻】が完全に消える。
俺は忍者と距離をとろうとして後ろに飛び退いた。
しかし、俺の足が地面に着地したと同時にカチッと音がした。
「まずいっ罠かっ!」
次の瞬間足元から一本の刀が突き出した。
俺は無理矢理に体を捻り地面から突き出した刀を躱す。
間を開けずに十人の忍者が俺に斬り掛かる。
「【縮地】!」
俺は瞬間移動でもするかのような速度で十人の忍者達の首を一瞬で刎ねた。
それが悪手だった。
首を刎ねられた忍者達の体は俺を囲むような位置で爆発。
俺は爆風で上空に飛ばされる。
空中の俺に木の上から五人、地面の中に隠れていた忍者の分身が五人、俺の身体を刀で突き刺そうとして襲ってきた。
セルフィナが見たのはこの瞬間か!
俺は空中戦は苦手だった。
このままだと攻撃を躱せず全身を刀で貫かれる。
だがセルフィナには無事で帰ってくると約束したんだ。
絶対にその約束は果たす!
「【蟻体】!!」
俺がスキルを発動した直後、全身が鋭い刃に刺し貫かれた。
忍者達はその場で霧散して消える。
俺の体は地面に力無く落下した。
木の影から忍者が現れ倒れる俺の側まできた。
生死の確認に来たのだろう。
忍者は俺の体を足で踏みつけた。
すると俺の体の輪郭が崩れ出し数千匹の蟻の塊に変化する。
驚いた様子の忍者の影から音も無く現れた俺は忍者の首を刎ね飛ばす。
他人の影の中に身を隠せる【潜影】というスキルで潜んでいたのだ。
しかし、またその忍者の体も爆散。
俺は爆風を近くの木の後ろに隠れてやり過ごす。
こいつも分身だったとはな。
考えてみれば俺も忍者っぽい戦い方をしてるよな。
俺は感覚を研ぎすませて周囲の気配を探る。
気配はない、いや、足元か!
気がついた瞬間に足元から手が出てきて俺の足首を掴んだ。
同時に四方八方から苦内や手裏剣が飛来。
俺はそれら全てを手刀で弾き飛ばし、右手の【空刃】を最大に伸ばし足元に突き刺した。
地中の忍者は爆散する。
俺はすぐにその場から転がるように退避したので爆風のダメージは無い。
この忍者も先日戦ったカジのように強い。
能力値だけ見ればなんてことないが、スキルを駆使した戦い方に秀でている。
基本は【分身】を操って攻撃し、本体は安全なところに隠れている。
それに【分身】は倒すと爆発を起こす仕掛けがされているというのも厄介だ。
スキルには爆発物に関係するものは無かったが、もしかして爆薬を他の誰かが用意しているのかもしれないな。
ここまでの忍者の攻撃には隙がない。
緻密に練られた完成度の高い作戦だ。
セルフィナの未来視で予告された俺の死は回避されたが、このままでは忍者に有効打は当てられない。
ここは旅館の近くだしヘヴンズアントを呼び寄せる【集合フェロモン】も使えない。
さあ、どうする。
そのとき木の上から燃え盛る炎が襲いかかる。
そういえばこいつ、火遁の術も使えるんだったな。
かなりMPへの負担が大きいがあれをしてみるか。
「【黒霧】!」
一瞬で俺の頭上に黒い霧が発生し、炎はその霧に阻まれて消失。
仕方が無い。
俺は意識を術の発動に集中させる。
「【重唱】【闇沼】!」
俺の足元を中心に黒い沼が周囲に広がる。
そしてその沼は直径五十メートル位の範囲に広がり、林が黒い沼に飲み込まれていった。
隠れていた忍者の本体もたまらず上空に飛んだ。
忍者の飛び出した先には【縮地】を使いすでに俺が待ち構えている。
「ようやく出てきたな本体!」




