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不吉な未来視




 地上生活四十一日目。


== 7時12分 ==

 

 朝礼でセルフィナに食材についての現状を聞いた。


「セルフィナ、今日の分の食材はどうなってる?」


「はい、問題なくお客様に料理をお出しできる分が揃っています。ユラリ様の素早い対応のおかげです。さすがはわたくしの愛する人です」


 セルフィナは俺に熱いまなざしを向けている。

 俺そのものはたいしたことはしてない。

 無事に食材が調達できたのは間違いないけど。


「そうか、それは良かったよ。ペティ、お客さんの反応で気になる点はなかったか?」


「えっと、商人のお客さんがおっしゃっていたんですけど、何でも昨日、同時に幾つもの街道で盗賊が食材を強引に買い取り始めたそうなんです。その影響で東江の都では海から水揚げされる魚と船を使って輸入される果物しか手に入らないと嘆いていらっしゃいました」


「そうか、今日もお客さん達の言動に注意をはらって、何か気になることがあったら俺に報告してくれ」


「はい! 分りましたご主人様」


「あとは、イナンナ」


「なに?」


「これから数日間の間は夜の警備を厳戒態勢にしてくれ。俺の予想が正しければ明日か明後日の夜くらいに、この旅館を襲撃しようとする奴らが現れるはずだ」


「わかった。まかせて」


「カエデにも頼みがある」


「なんでしょうか、総支配人」


「今は事情があって自由に必要な食材を仕入れることができない。だから今ある食材だけでお客さんを満足させられるように工夫して欲しいんだ」


「任せてください! 限られた食材でも、あたいの作れる最高の料理を出してお客を満足させてみせます!」


「ああ、頼んだ」


 俺は朝礼を終わらせ総支配人室に入る。

 セルフィナがお茶を入れてきてくれた。


「ユラリ様、お茶をどうぞ」


「ありがとうセルフィナ」


 セルフィナが俺に湯飲みを渡そうとしたが、その湯飲みは彼女の手から床に落ちて砕けてしまった。


「セルフィナ?」


「い、今、未来の出来事が見えました」


「【未来視】か? それでどんな内容だったんだ?」


「明日の深夜、この旅館が襲撃されます。そ、その際、ユラリ様が……」


「俺がどうした?」


「ゆ、ユラリ様の全身に、何本もの刀が、刺さって……」


 セルフィナは目眩をおこしたのかふらりとバランスを崩した。

 俺はセルフィナの肩を優しく抱き寄せ支える。


「セルフィナ!? しっかりしろ!」


「あ、申し訳ありませんユラリ様……未来視が発動したときは意識を失いそうになってしまうのです」


「そうか。さすがに未来が見えるスキルだけあって、体に負担がかかるようだな」


「そ、そんな事よりも、ユラリ様、お逃げ下さい!」


「え? 逃げろ?」


「はい、今から逃げれば最悪の未来は回避できます。ですからすぐにここから」


「……それはできない」


「ど、どうして……? わたくしの未来視は何も対処しなければ実現してしまうのですよ!? 全身を刀によって貫かれたら、ユラリ様でも無事では済みません」


「そうかもな」


「ならばどうして?」


「この旅館は俺の縄張りテリトリーだからだ。俺の縄張りは俺が護るものだろ? それに家族が住む俺達の家でもある。家族を置いて家主の俺だけが自分の命惜しさのために逃げるわけにはいかない」


「それでは皆で逃げましょう!」


「大人数で逃げれば目立つし追いつかれて皆殺しにされるかもしれない」


「わ、わたくしは例えこの命に代えてもユラリ様をお救いしたいのです」


「だからだよ」


 俺はセルフィナの美しい青い瞳を真っすぐに見つめる。


「俺を命がけで護ろうとしてくれる人のために、俺は逃げるなんてことはできないんだ」


「ユラリ様……」


「守護者契約の時に約束しただろ? 俺達は生きるのも死ぬのも一緒だ」


「では、わたくしはユラリ様と共に死にます!」


「おいおい、死ぬ事確定なのか? 俺はセルフィナやペティと生きていたいんだけどな」


「わたくしも生きていたいです。しかし未来視が……」


「未来視で見た未来は行動次第で変えられるんだろ? だったら大丈夫さ。セルフィナが俺に未来の出来事を教えてくれた時点でその未来は変わっているはずだしな」


「……どんな結果になろうともわたくしはユラリ様のお側におります。十二年もの間貴方を待ち続けたのです。この命が失われるその時まで決して離れません」


 なんか照れる。

 こんな綺麗な人にそこまで言われるなんて。

 俺は幸せものだよ本当に。


「セルフィナ、俺もお前と同じ気持ちだ」


 俺はセルフィナに優しく口づけをして、そのまま抱きしめる。


「自分の家や家族を護るのは家主として当然の務めだ。だから、もし俺が傷ついて帰ってきた時には、いつもの様に笑顔で向かえてくれ。俺はそういう何気ない日常を護る為に戦いに行くんだから」


「はい。それがユラリ様のお望みでしたら、わたくしは信じてお待ちしております」


「ああ」


 それにしても俺の全身を貫く刀の未来視か。

 商人組合に雇われた傭兵団ってのはかなりの腕前らしい。

 セルフィナを悲しませるような未来は実現させられないよな。


 セルフィナのおかげで襲撃される日はわかった。

 それだけでもかなりのアドバンテージがある。

 準備万端でお出迎えしてやる。


 俺の縄張りに手を出した奴は一人といえども生きては帰さない。




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