首切り総支配人ユラリ
== 12時32分 ==
俺は北町の町火消しである空組の火消屋敷の前にいる。
町火消しとはこの都で起こった火事を消す役割を持った者達。
そのほとんどは身体能力の高い鳶職をしていて民間の消防隊だ。
「御免!」
俺が屋敷の中に入ると、背中に空という文字が大きく書かれた羽織を着た男が俺に気付いて振り返った。
「おう? ガキが火消しに何の用だ?」
「この辺の町火消しを統率する頭取に話があってきた」
「頭取とは知り合いか?」
「ああ、両腕に龍の入れ墨をしてるだろ」
「そうだな、じゃあ最近背中にも龍の入れ墨を彫ったのを知ってるか?」
「おかしいな、背中の入れ墨は金貨をくわえた般若のはずじゃないのか?」
「……こっちだ。頭取に会わせてやる」
俺は火消しの男に案内されて屋敷の奥に進む。
実は今のやり取りは合い言葉だ。
頭取に会いたい奴はこの合い言葉を言わないと通してくれないことになっている。
なんで合い言葉が必要なのかって?
それは、火消しの空組の本当の姿は、日乃光の国で悪さをする盗賊をまとめる組織である盗賊連合の本部だからだ。
「頭取。客です」
「おう、入れ」
俺は襖を開けて座敷に入った。
そこには座卓で算盤を弾いている細身の男がいた。
年齢は五十前後で所々に白髪が見えるが男だ。
こいつが多くの盗賊達を束ねる盗賊連合の長。
頭取は算盤を弾くのを止めて俺に射抜くような鋭い眼光を向けてきた。
「それで、お前さんの名は?」
「俺の名はユラリって言うんだ」
「ユラリ? 何処かで聞いた名だな……ここに何の用だ?」
「仕事の依頼だ」
「話してみな」
「近隣の村から都に運ばれて来る食材の荷台全てを、市場に到着するまでに強引に買い付けてもらいたい。そして俺の旅館までその食材を届けるのが仕事だ」
「旅館? もしかしてお前さん、最近噂になってる日乃光旅館の総支配人か?」
「ああ、よく知ってるな」
「し、知ってるも何も、お前さんの名前は俺達のような裏の世界の人間には有名だ。賞金首を容易く仕留め海竜を一人で討伐し、ヤクザ連中を一日で支配下に置いた首切り総支配人ユラリ。命が惜しければ絶対に逆らうなと恐れられている」
首切り総支配人ユラリだって……。
まじか。
まるで悪役みたいじゃないか?
やってることは悪役に近いけど。
「ま、まさか、俺達を殺しにきたのか!?」
「さっきも言ったが依頼をしに来ただけだ。お前らが断るっていうんだったら皆殺しにするけど」
「わ、わかった。お前の依頼を受けよう」
「よし。言っておくが人は絶対に殺すなよ。もし一人でも犠牲者が出た時点でここいら周辺の盗賊を全て始末するからそのつもりでな。金貨四千枚もあれば足りるだろ。もしも俺の資金が残ったらお前らにくれてやる」
俺はスフィアカードをかざした。
この際だから小銭も受け取ってもらおう。
頭取は俺の渡した金額の多さに目を丸くしている。
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所持金
金貨:196枚
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「じゃあすぐに他の盗賊達に伝えてくれ」
この時から東江の都に続く全ての街道では、盗賊達によって食材を積んだ荷馬車が止められた。
盗賊達は積み荷を奪うのではなく市場価格よりも少し高い代金を支払い、強引に食材を買いつけた。
現在の俺の【食料庫】の中には相当な量の食材が収納されている。
当分の食材には事欠かないが、盗賊達の強制買い付けは俺が渡した金が尽きるまで続けさせる。
そうする事で東江の都の食事処や宿屋への食財供給を止め、営業妨害をする事ができるからだ。
俺がやられた方法で仕返ししてやる。
その結果、商人組合の権威は失墜するはずだ。
黒幕の対応が早ければ、そうなる前に必ず俺を力ずくで排除しにくるはずだ。
その時が足取りを掴むチャンスになると俺は考えている。
俺を排除しにくるのは恐らくは黒幕直属の傭兵部隊。
かならず黒幕に辿り着くための情報を持っているはずなんだ。
俺はその日、暗くなるまで大八車に乗せられて次から次に運ばれて来る食材を【食料庫】へ収納し続けた。




