その四、泣き寝入りする。全力で却下だ!
地上生活四十日目。
俺は朝早くに目を覚ました。
昨晩はペティと一緒に布団の中で夜ラブしていたので、俺の隣には可愛いペティが静かに寝息を立てている。
ペティの裸を見た時に気付いたが、彼女の心臓の位置、つまり胸の真ん中あたりに肌の色が少し白くなっている傷跡がある。
俺の見立てでは大けがをした後の傷が癒えた跡のようだ。
ペティに聞いても心当たりがないらしいので、もしかしたら赤ん坊の頃の怪我かもしれない。
いま元気に暮らせているんだから後遺症などはないだろう。
俺は着物を着て意識を仕事モードに切り替える。
総支配人室へ向かい執務椅子に腰掛け、ここ最近の来客数が記された紙に目を通した。
旅館の来客数は問題なく少しずつ伸びてきているし、人手不足の問題も従業員を少しずつ増員しているので今のところ問題はない。
順調だと思ったこの日の朝礼で、またもや問題が起きた。
「明日の分の食材が届かないだって!?」
「そのようです。西町の食材問屋へ使いを向かわせましたが、門前払いされて理由も話してはくれなかったと」
「セルフィナ、今日の分は間に合うんだな?」
「ええ、先ほどカエデさんに確認しましたので、間違いありません。ユラリ様、どうされますか?」
「いつも取引している食材問屋に行って俺が話しをしてくる」
「はい。お願いします」
商人組合の黒幕め、そうきたか。
押してダメなら引いてみろってやつか。
食材を旅館に届かなくして料理も出せない旅館だと評判を落とす作戦なのが見え見えだ。
痛い所を突いてくるよほんと。
「……あ、あの」
ん? イチゴが何かを言いたそうだ。
「どうした?」
「……い、いえ、なんでも、ないわ」
なんだ?
何か仕事上で悩みでも抱えているんだろうか。
もしそうなら早めに話を聞いてあげた方がいいな。
食材問屋に行ってきたら聞いてやろう。
俺は朝礼に集まった皆に今日の目標を伝え仕事に送り出した。
よし時間が勝負だ。
急いで向かおう。
俺は早足で西町の食材問屋に向かった。
== 8時47分 ==
今食材問屋の大旦那と店の中で話し始めたところだ。
「申し訳ありませんが、食材をお売りする事ができなくなったんです」
「どうしてだ? 今まで何も問題はなかったのに」
「組合の方から旅館には売るなと強く言われましてね。うちとしても困ってるんですが、組合に従わないとこの都では商売していけないんですよ」
「誰からの指示なんだ?」
「そんなの知りませんよ。そういう事ですから帰って頂けませんか? 仕事が山積みなんでね」
「ああ、邪魔をしたな」
俺は食材問屋を出た。
あれ以上俺がだだをこねても食材は売ってくれないだろう。
たぶん他の問屋に行っても同じ答えが返ってくるに違いない。
彼らは商人組合に所属することで様々な恩恵を受けているだろうからな。
一つの問題が解決すればまた問題がでてくる。
どうして平穏な日常が送れないんだろ。
もしかして呪いか何かか?
愚痴っている場合じゃないな。
今は料理の食材がないと旅館の営業がままならない。
食材が無いなら調達すればいいんだけど。
どこから?
その一、近くの森に入って狩りや採取をする。
この方法はダメだな。
必要な分量を獲れるか分らないからな。
その二、問屋に忍び込んで食材を一時的に借りてくる。
名案じゃん? とか思ったけど、もしそんなことしたら、もう二度とうちと取引をしてくれないだろう。
却下だな。
その三、じゃあ、食材の生産地まで行って現地交渉というのは?
そんな時間はないな。
必要な食材は何種類もあるから現実的に無理だ。
却下。
一度旅館に戻ってみんなで考えるか。
いいアイデアが出ればいいけど。
俺は腕組みをしながら、なにか打開策がないか考えつつ大通りを歩いていると、食材が山と積まれた大八車が目に入った。
かなりの量の食材がある。
「なあおやじ」
「ああ? なんだい?」
「この食材って何処から運んできてるんだ?」
「そりゃ近隣の農村からだろ。当たり前だべ」
「それから何処に?」
「市場だ。そこで商人組合に全部買ってもらうんだべ」
「なるほど、市場に届いた時点で商人組合の息がかかるということか」
ならば、少し強引だがなんとかなるかもしれない!
俺は近くの団小屋に入り団子とお茶を食べ飲みしながら都の地図を広げ、もう一つ懐から冊子を出して、その冊子の内容を地図に書き記した。
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団子串三本とお茶:大銅貨3枚
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清算後の所持金
金貨:4196枚
大銀貨:29枚
銀貨:1枚
大銅貨:40枚
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黒幕さんよ。あんたが俺に喧嘩を売ったんだ。後悔させてやるぜ!
俺は地図を畳んで目的の場所へ駆け出した。




