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い、ま、は、甘えさせてもらいますっ!




 地上生活三十三日目。


 昨日はヤクザ達と一悶着あって疲れた。

 俺は朝起きるとすぐ、従業員寮に一時避難していたマコトと彼女の母の様子を見にいってみた。


「マコト、起きてるか?」


 マコトは小さな声で返事をした。


「あ、お兄さん。起きてますよ、今、母が寝ているんで、静かに入ってください」


 俺は【無音行動】でマコトの部屋に入る。

 従業員寮の各部屋は基本一人用の個室で、六畳の広さしか無い。

 マコトがいる部屋には布団が敷かれており母親が眠っていた。

 俺は静かな声でマコトに語りかける。


「マコト。お母さんの具合は?」


「今は薬を飲んで眠っています。肺の病でかなり前から患っているんですけど、ここ最近悪化してきていて……」


「そうか。ここじゃあ寝ているお母さんを起こしてしまうかもしれない。旅館のロビーで話さないか?」


「そうですね。そうしましょうか」


 俺とマコトは静かに部屋を出てロビーのソファに座った。


「それでお兄さん。あの男達の件はどうなったんですか?」


「俺が昨日のうちに話をつけておいた。もうあいつらが襲って来ることはないだろう」


「はぁ〜、良かった〜」


 マコトの緊張していたネコミミとネコシッポから力が抜けた。


「でも、まだ油断はできない。恐らく旅館の営業を妨害しようとする商人組合が背後にいる」


「でしょうね。ぼくもそう思います。次はもしかしたら別の手段でちょっかいをかけてくるかもしれませんね」


「西町の家に帰ると、また事件に巻き込まれるかもしれない。だから無理して旅館での仕事を続けなくてもいいんだぞ?」


「無理はしていません」


「でもさ、この旅館の従業員でいる限りまた襲われるかもしれないんだ、怖くないのか?」


「怖いです。とっても怖いですよ。でも母の病気の事もありますし、薬を買うためのお金が必要なんです」


「それなら俺が面倒みても」


「そこまで甘えるわけにはいきません。ぼくは知っているんですよ。お兄さんがぼくの母の薬代を給料に上乗せしてくれているって事」


「……バレてたか」


「日乃光旅館の宣伝担当で元瓦版屋を舐めないでほしいですね」


「さすがだな」


「ぼくさらに知ってるんですから。お兄さんが時間の空いているときに母の病気に効きそうな薬を探し歩いている事も」


「ゔ、何でもお見通しだな」


「普通は従業員の家族にそこまで親切にしてくれる人なんていませんよ。だからこの仕事は辞めたくないんです。お兄さんに恩返しが何も出来ていないから」


「そんな事なんて気にしなくてもいい。大事なのはマコトとお母さんの安全な生活だろ?」


「ぼくは……この旅館にきて毎日が楽しいんです。絶対に止めたくないんです。だからといって甘えるわけにもいきません。もうそれは仕事の仲間じゃないですから。ここは譲れません」


「んー。じゃあさお前のお母さんも旅館の従業員になれば、一緒に旅館に住めて安全なんじゃないか?」


「え? いや、でも、ぼくの母は病気ですし、今は仕事なんて」


「だから、病気が直ったら仕事してもらうという事でいいよ」


「なんか無理矢理な話しですね。母の病気がいつ治るかもわからないのに」


「そうするなら寮に住めて町よりは格段に安全だし、マコトも仕事場が近いと楽じゃないか?」


「何か釈然としませんね。結局甘えているような気もするんですけど?」


「そう思うんなら仕事で成果を出してくれ」


「なるほど、そうきましたか。……確かにそれが一番の恩返しになるかもですね。分りましたっ! 寮に住むという点だけお兄さんのお言葉に、い、ま、は、甘えさせてもらいますっ!」


「おう、そうしてくれ」


「そのかわりに、ぼくがこの旅館を宣伝して、その名を世界に轟かせてみせましょう!!」


「いつもの調子が戻ってきたようだな。俺も期待してるから」


「はいっ! 巨大空船に乗ったつもりでお任せ下さい!!」


 元気の無かったマコトのネコミミがピンと立った。

 もう大丈夫だろう。


「あと、これは返しておきますね。手を出してください」


 俺は手を出すとマコトは俺の手の平に十枚の金貨をジャラリと置いた。


「これ、昨日俺が渡したやつか?」


「はい、そうです。結局使わなかったので、忘れないうちに返しておきます」


「とことん俺の世話にはなりたくないんだな」


「ぼくはお兄さんと対等な立場で仲良くしていたいんです。だからぼくにだけ贔屓は無しですよ」


 別に贔屓をしているつもりはないんだけどな。

 マコトが俺に借りを作りたくないならば、その意思を尊重するか。

 

 「……あんまり甘えてるとお兄さん無しではいられなくなりそうですから……」


 マコトが小さな声で何かを呟いたがよく聞こえなかった。

 

「マコト? 今、何か」


「な〜んでもありません! さあっ! バシバシベシベシ働きますよ〜!!」


 マコトはテンション高めに寮に戻って行った。


 こういう従業員の気持ちを汲んで道を示すのも総支配人の仕事なんだよな。

 なんとも難易度の高い仕事だろうか。

 俺の母もこういうことを影でしていたんだろうか。

 母の言葉を思い出す。


『まずお客様を見る前に従業員を見ておきなさい。お客様を大切にしたいのであれば、まず先に従業員を大切にしなさい』


 ああ、今なら何となく分るよ母さん。


 おれはその日、新しく入った経理のイチゴの補佐をし、マコトと今後の宣伝活動について意見を出し合ったり、セルフィナの肩をもんであげたり、ペティの仕事ぶりを褒めてあげたり、イナンナと一緒にお客様の荷物を運んだりと忙しく働いた。


 ツクモは館内でたまに見かけるが、しっかり修繕の仕事をしているようだ。

 夜寝る前には必ず金貨をもらいに現れる。

 そして仕事の終わったお父さんがビールを飲むかのように、金貨ののどごしを堪能してでふでふ言いながら豚の貯金箱に帰っていくのだ。


 俺は布団の中で商人組合への対策を考えながら眠りについた。




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