テへペロは今回だけ
カジは右腕の出血を抑える為に、左腕で二の腕を強く抑えて膝をついている。
周りの子分達は驚いているのか静まりかえっている。
その中の一人が俺に向かって短刀を構えて向かってきた。
「カジの兄貴をよくもやってくれたなー!!」
その子分は俺に攻撃が届く距離まで来ることが出来なかった。
なぜなら、トラキチ親分が空中に飛んだと思ったら子分の上に落下し押しつぶしたからだ。
あれは即死だ、間違いない。
「手出しはするなと言ったよなっ!!」
今にも俺に襲いかかりそうになっていた他の子分達を睨みつけるトラキチ親分。
その青筋の浮かんだ眉間と血走った目が怖い。
さらに全身から放たれる威圧感もハンパない。
もしかしてカジに戦わせないで親分自ら戦ったほうが強かったんじゃないのか?
「おい! だれかカジの応急処置と闇医者を呼んでこい!」
何人かの子分がカジの腕に応急処置を施して屋敷の奥につれていった。
カジっていう奴は頑丈そうだし、まあ大丈夫だろ。
のっしのっしと巨体の親分が俺の前に歩いてきた。
さっきは座ってて分らなかったけど、この親分立ち上がったらめちゃくちゃでかい図体してるな。
身長三メートルはあるんじゃないか?
「お前の勝ちだ。約束通り俺達はお前に従おう。お前らもいいな!! 文句がある奴は俺が直々に殺す!」
それでは文句があっても言えませんて親分さんよ。
「そうか、じゃあ他の組の屋敷を教えてくれ」
「今から行くのか?」
「ああ。面倒な事はまとめてやりたい主義でね」
「そうか。いいだろう」
俺は親分の前に持ってきていた都の地図を広げた。
親分が他の町の三カ所に×印をつけていく。
「ひとつ忠告しておくぞ。商人組合には金で雇われた直轄の傭兵部隊がいるという話しだ。何でも汚い仕事専門の奴ららしい。これから商人組合と事を構えるつもりなら気をつけるんだな」
「ああ、忠告感謝する」
「もし全て終わったら俺と酒でも飲み交さないかユラリ」
俺の見た目はまだ十七で未成年なんだけど。
まあいいか。
「いいぜ。じゃあ行って来る」
「おう、またな」
俺は白虎会の屋敷を後にして他三つの組織を潰しに、ではなく話し合いに行った。
まずは北町の玄武会。
屋敷に忍び込んで親分に決闘を挑み、親分立ち会いの元で代理の大男を倒した。
俺が勝ったら総出で襲いかかってくるかと思ったけど、やっぱりここでも親分が子分達を抑えていた。
親分程の人物になると物わかりがいいな。
器が大きいというやつか。
と思ったのもつかの間だった。
東町の清龍会の親分に決闘を申し込んだが、話しにならなかった。
大名がどうのと喚いていたので、もしかしたらあの変態大名と親身にしていたのかもしれない。
それで俺が犯人だと知っていたらしく、なんか怒り狂っててほんと話しにならなかった。
だから、つぶしちゃったっ! テへペロッ。
この後どうなったのかというとご想像の通りです。
そんなテへペロ的な乗りで見られる光景にはならなかった。
だってさ、百人近く全員が襲いかかってくるんだもの。
だから、面倒になって【影鞭】使って屋敷の中を駆け巡った。
いやー、走った走った。
子供の頃、地方の親戚の大きな家に行ったときの事を思い出したよ。
あのときも見慣れない家の中を、探検と称して走り回って遊んだっけ。
懐かしいな。
まさか、ここにきて大きな屋敷内を首を狩りながら走り回るとは思わなかった。
当然、親分は最後まで残しておいた。
心変わりでもして俺に協力してくれるかとも思ったんだけど、あのクズ副支配人が持っていたのとの同じ最新式の短銃で撃ってきたから、手刀で【賽の目斬り】にした。
屋敷の中に人の気配がなくなってから、周りを見渡すとまさに血の海、地獄絵図そのものだった。
自分でやっといてなんだけど、気分が悪くなってきたのですぐに次のヤクザにアジトに向かった。
最後は南町の朱雀会。
なんとここの親分は女だった。
それも三十代前半くらいの綺麗な人だ。
俺が決闘を申し込んだら、『じゃあ布団の中で私を負かしてみなさい』って言われて、こいつ頭がおかしいのかと思った。
夫婦じゃない人とそういうことするのはだめでしょ。
したくないわけではないのだよ、女親分は美人だったし俺だって男だもの。
でも断った。
そこはやっぱり線引きが必要だ。
そしたら俺の妻にしろとか、分けのわからない事を言い始めた。
俺が戸惑っていると彼女は泣きながら愚痴を言いだした。
自分にはいい出会いが無かっただの、強くて甲斐性のある男しか私は認めないだの、実は年下が好みだの、この機会を逃したら一生一人で暮らさなきゃならなくて寂しいだの。
わんわん泣きながら縋り付くもんだから、さすがの俺も可哀想になって条件を変えた。
お前が白虎のトラキチと、玄武のおっさんと協力して東江の都の裏の世界を安定させることができたら、結婚してやると。
でも実現はしばらくかかるだろう。
一日二日では絶対に終わらない。
なんせ東を牛耳っていた青龍会は壊滅したからな。
いままで青龍会が抑えていた質の悪い奴らも暴れ出すだろうし、今まで均衡を保っていた力関係が崩れる時って、そういうタイミングを見計らって新しい勢力が現れるものだ。
女親分はめちゃくちゃ喜んで、さっそく子分を大勢引き連れて青龍会の屋敷へ後始末に出て行った。
まあ、頑張ってくれたまえ。
君のことは忘れないよ。
これで実質的に全ての組が俺の傘下に入ったことになる。
残るは旅館の営業を妨害しようと企んだ商人組合だけだが、誰が指示を出しているかが未だに掴めない。
調査はしてみたが黒幕に辿り着けないようにされていて、黒幕の居場所はおろか性別でさえ分らない始末だ。
こいつも手強い系だ。
いつか正体をつかんでやる。
俺は決意を新たに旅館に帰るのであった。




