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重なりあう技と術




 面倒だけど従業員達の安全の為だ。

 背に腹は代えられない。

 トラキチ親分は一瞬俺の言ったことに驚いて唖然としていたが、次の瞬間には大音量で笑い出した。


「がーっはっはっはっはっ!! こいつは愉快だ!! だーっはっはっはっはっはっ!」


「そんなに笑うなよ。俺が本気なのは分ってんだろ?」


「あー悪いなユラリ。ここまでわしを笑わせたのはお前が初めてだ。うはははははっ!」


「親分の初めてをもらっても嬉しくねーんだよ」


「そりゃそうだっ! ぎゃーはっはっはっはっはっ!!」


 でっかい腹を抱えて笑ってるよ。

 それに爺さんなのに声でかすぎるよ。

 喉に大音量のスピーカー仕込んでるんじゃないだろうな。


「おい、ユラリ。俺はお前を気に入った。だから良い事を教えてやる」


「ああ? くだらない事だったら頭かち割るぞ」


「がーっはっはっは! あまり笑わせんでくれ。腹がいてー!」


「笑ってないで早く言え。良い事ってなんだ」


「ああ、それはな、俺達についての話しだ。この都は四つの町に別れているのは知っているな?」


「もちろんだ」


「実はその町一つ一つをそれぞれ俺達のようなヤクザ者が支配している。ここ西町は俺達白虎会。北町は玄武会、東町の青龍会、南町の朱雀会という風にだ」


 これは四神ししんの考え方だな。

 四神ししんとは、中国の神話に出てくる天の四方の方角を司る霊獣の事だ。


「俺達の組織の前身は四神会という都の庶民を護る自警団だった。それが時代とともに都の裏社会を支配するようになり規模が大きくなって、都を四つに分割して治めることになったというわけだ」


「じゃあ他の三つの組とは協力関係という事か?」


「いいや。今はただ縄張りを誇示しあうだけの関係になっている。相互不可侵が暗黙の了解になっていて付き合いもない。だが、今でも組長にだけ受け継がれている違えてはならない鉄の掟があるんだ。それぞれの四神の名を掛けて決闘を挑まれた場合、逃げる事は許されないという掟だ」


「ん? つまり俺が四神の名をかけて決闘を挑んで勝てば、組織は俺のものになるってことか?」


「はっはっは! 頭の回転も速いのか。ますます気に入った。そうだ、四神の名を賭けるという事は親分の座を賭けるということだ」


「でもよ、爺さんはその歳で戦えんのか?」


「こう見えてまだまだ戦えるわ! それに、この決闘は代理を出すことができる。つまりその組で一番強いやつを戦わせることができるんだ。どうだ? だいだいわかったか?」


「ああ、わかった」


「それで?」


「白虎会の親分さんよ! 俺と白虎の名を掛けて決闘しろっ!」


「ふっはっはっはっはっ! いいだろう。カジ! お前の出番だ!」


 親分が叫ぶと廊下に控えていた男が部屋の中にはいってきた。

 その男はさっき俺をここまで案内してきた奴だ。


「こいつの名前はカジってんだ。ここは狭いから中庭に出ろや。ルールは単純だ。どちらかが負けを認めるまで続ける。それ以外はなんでもありだ」


 俺とカジは中庭に出て向かい合う。

 俺達の決闘を聞きつけて子分達も集まってきた。


「そんなガキやっちゃってください! カジの兄貴!」

「ぶっ殺せー!」

「やっちまえー兄貴!」


 俺達は向かい合って構えた。

 俺は素手。

 カジは合い口と言われる鍔の無い短刀を右手に持っている。

 ヤクザ映画でよく使われているドスっていうやつだ。


「いいかお前ら、どっちが勝っても負けても手出しすんじゃねーぞ! もし手を出したらこの俺が直々にすりつぶすからな!」


 おー怖。

 さあて戦いに集中するかな。


「はじめろっ!」


 カジが先に仕掛けてきた。

 短刀での突き攻撃。

 俺は軽快に躱す。

 カジは横に一閃。

 俺は一歩後ろに下がって短刀を躱したが、着物に切れ目が入った。


 あれ、距離感間違えたか?


 カジはものすごい早さで連続攻撃を繰り出して来る。

 俺はその全てを躱すも服に数回切れ目が入った。


 やっぱり。

 こいつ、俺と同じ【空刃】を使ってるな。


 この【空刃】というスキルは自分の手や武器に纏わせる事ができる、見えない刃の事だ。

 見た目では見えないのでリーチが掴み辛いし、SPがある限り維持することができる実体のない鋭い刃。

 実体がない剣で包まれているようなものだから、短刀をへし折ることもできない。


 アウレナで能力を見ておくか!


=====

 ◆カジ・ヤナギダ

 種族:人族  性別:男  年齢:33  職業:若頭

 LV:39  HP:1710  MP:560  SP:1110

 物理攻撃力:495  物理防御力:530  敏捷力:315  

 術効力:160  術抵抗力:120  幸運:60

 アクティブスキル:跳躍5、俊足5、空刃6、根性突き5、白虎爪6、

 パッシブスキル:学識3、博愛3、冷静5、気迫5、痛み耐性3、自制心3、ヤクザの心得5

 称号:ヤクザ者、無口な兄貴、義侠を志す者、小鳥好き

=====


 スキルを見るかぎり得体の知れないものはない。

 強いて言うなら【白虎爪】が気になるくらいか。

 まあまあの強さだ。

 ヤクザっぽい心得があるとは思っていたけど実際にあったな。


=====

 ◆ヤクザの心得5

 男気6、短刀5、人情5、勇気6、根性6、義心6、任侠6

=====


 称号もヤクザっぽいが、小鳥好きって……。

 少し戦意が萎えるな。

 相手がどうあれ俺のする事は決まっている。

 なんでもありなら術で手早く決着つけるか。

 俺は術を発動した。


「【遅延】!」


 しかし俺の術は発動しなかった。

 え、どうした?

 すぐにカジの指輪の一つが光る。


 まさか、術を無効化する指輪とかあるのか!?

 うっそ〜。


 なんかよく見ると他にも何個か同じ指輪をつけてるし、そういうことだろう。

 術対策に術を無効化する術具があるという事だ。


 俺はその後もカジの攻撃を躱しながら【遅延】を唱えてみた。

 合計五回使って、指輪がようやく一つ砕け散った。

 つまりあの指輪は術を最大五回まで無効化できるようだ。


 あったま痛い。

 俺って術を使い過ぎると頭が痛くなるんだよな。

 両指合わせてはめている指輪は残り三つ。

 合計十五回か……。

 このまま全部の指輪が壊れるまで【遅延】を使い続ければ、俺の頭が爆散するよ。


 そのときカジの構えが変わった。

 カジは一瞬で俺との距離を詰める。

 は、早いっ!?


 俺は反射的に【縮地】を使いカジの斬撃を躱したが、左腕にかすり傷を負った。

 念の為に常時【硬甲殻】を使っていたのに、俺の身体に傷をつけるのか。

 俺も愛用しているから分るが、やはり【空刃】の威力はすごい。


 それになんださっきの早さは。

 俺の見たところ【縮地】レベル七くらいの早さがあったよな。

 でもスキルには【縮地】はなかった。

 どうやった?


 俺はカジの元いた地面を見ると大きく抉れていた。

 地面があんなに抉れているってことは瞬間的にあの位置に大きな力が加わったということだ。

 何をすればあそこまで早い突撃ができる?

 俺はカジのステータスを思い出して一つの事に気付いた。


 スキルの重ねがけか!


 恐らくカジは本来上に飛ぶ【跳躍】の力と、前方に駆ける【俊足】の力を合わせて地面を蹴り付け【縮地】レベル七並の早さを実現したんだ。


 スキルは使いようってことか。

 

 再びカジの構えが変わった。

 何かする気だな!


空刃白虎爪くうじんびゃっこそうっ!!」


 これも二つのスキルの組み合わせか!

 カジの短刀が四本に見える、白虎爪の効果だな。


 カジが地面を蹴り付け瞬間的に俺に迫る。

 回避は間に合わない。


「【硬甲殻】を俺の左腕に集中っ!」


 金属同士がぶつかり合う甲高い音と共に、カジの攻撃が俺の左腕に弾かれた。

 全身を覆う【硬甲殻】の防御力を左腕に集約し、左腕だけを通常の【硬甲殻】の約五倍もの強度に変えたんだ。


「……カジの白虎爪を食らって八つ裂きにされない奴を初めて見たぜ。あのユラリってやつは化けもんか?」


 いてーな!

 斬撃は弾いたが衝撃ダメージをいくらかもらった。


 俺は手刀でカジを牽制して距離をとった。

 このカジって奴強いぞ。

 ステータスの数字だけで相手の強さを計れないのは分ってはいたけど、正直侮ってた。


 ならば頭痛を気にせず本気でやる!


 俺はカジに向かって真っすぐ走った。

 カジも俺に向かって走る。

 二人が交差する直前に俺は叫ぶ。


「【重唱】最大で【遅延】発動!!」


 俺が術を使用した瞬間にカジの指輪が三つ全て砕け散った。 

 この【重唱】というスキルを使えば術を同時に複数発動できる。

 つまり術を重ね発動するためのスキルなんだ。

 複数の術を一度に使用するのでMPはその分多く消費するけどな。


 俺の【重唱】レベルは最大の十レベル。

 レベル一上がるごとに二回重ね発動ができる。

 つまりレベルが十だと二十回の重ね発動が可能だ。


 カジがはめていた指輪の無効化回数は十五だったから俺の【遅延】が通るはずだ。

 思った通りカジの動きが極限まで遅くなる。

 チャンスだ!


「手刀奥義、【賽の目斬りさいのめぎり】!」


 カジの右腕が短刀もろとも賽の目状に細切れになり爆散した。

 このスキルは【手刀】レベル六で習得する事ができる。

 効果は見た通りだ。


 俺は返り血を浴びないように【洗浄】を使用し、弾けとんできた血液を黒い球体に吸い込ませる。

 そのおかげで体のどこにも返り血は浴びなかった。

 そこにトラキチ親分の大声が試合終了を告げる。


「そこまでだっ! ユラリの勝ちとするっ!」




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