白虎会へ行こう
== 10時52分 ==
俺は白虎会の親分が住む屋敷に正面から入る。
するとこれまた礼儀のなっていない男達が現れ騒ぎはじめた。
俺はさっき殺した三人の死体を【食料庫】から放り出し、地面に転がす。
「おいっ! 俺は日乃光旅館の総支配人ユラリだ。ここの親分に会わせろ。襲ってくるなら容赦なく殺すからな!」
柄の悪い男達は俺を囲むようにして短刀を構えていたが、その男達をかき分けて、鍛え上げられた肉体で強そうな男が俺に近づき口を開いた。
「トラキチ親分がお会いになるそうです。どうぞこちらへ」
おれはその男の後について屋敷の中に土足で上がる。
周囲の子分達からはものすごく憎しみのこもった目で見られていたが、そんなことは無視だ。
だれが俺の巣に土足で入り込むような真似をしたやつの礼儀に従うものか。
俺の前を歩く屈強な肉体の男は俺が土足で屋敷に入っても、少しも動揺していないようだった。
人間できてるねー。
自分で言うのもなんだけど、俺みたいな失礼な人にも苛立たないなんて。
ま、俺も相手を挑発する為にわざとやってるんだけどね。
見破られてんのか?
屋敷の奥まで案内された。
そこの襖をあけると座布団に胡座をかき、酒を飲んでいる巨体の老人が鋭い視線で俺を見ていた。
案内してきた男は部屋に入ってこないな。
こいつがトラキチ親分か。
年齢は六十後半ってところか。
でっかいしデブい爺さんだな。
あーあ、変態大臣を思い出しちゃったよ。
「てめーか? 日乃光旅館の総支配人ってのは」
「名はユラリだ。お前んとこの子分が俺の従業員を人質にして、俺に総支配人を辞めろと言ってきた。だからそいつらをぶっ殺してそのおとしまえをつけにきた」
「リュウジの奴、勝手な真似しやがって。……テメー堅気じゃねーな?」
「俺としては真っ当に生きているつもりなんだがな。ただ、俺の日常を脅かす奴には容赦しないと決めているだけだ」
「あの親子には怪我はなかったか?」
どうしてそんな事を聞くんだ?
親分にしてみれば関係のない二人だろうに。
「ああ、ケガはない。誰から頼まれたのかは知らないが、俺の旅館には今後一切手を出すな。それが出来なければここにいる奴らを全員殺してこの組を潰す」
トラキチはにやりと笑みを浮かべた。
「ほう、まさか俺達白虎会とやりあって生きて帰れると思ってんのか?」
「おいおい、まさか俺とやりあって死なねーとでも思ってんのか?」
「……なんだと?」
あ、調子のってちょっと言い過ぎたか?
「……だーはっはっはっはっはっはっ!」
トラキチ親分が突然大声で笑い出した。
声でかいな!
「あー、久しぶりに腹の底から笑わせてもらったぜ。この歳になって面と向かって脅されるなんて思わねーからよ。ユラリとかいったな、面白い奴だ!」
「なあ親分の爺さんよ、俺は面倒だから今お前らを殺してないだけなんだ。本来なら俺の仲間に手を出した時点で俺はお前らを一人残らず殺す。笑ってないで返事の仕方をよく考えろ」
「悪いが、手は引けねえな」
「どうしてだ? ただ子分に手を出すなと言えば良いだけじゃないのか? 簡単だろ」
「俺達ヤクザ者ってのは都の裏側を文字通り力で支配している。だからよ、表の人間以上に力関係と仁義を大事にするんだ」
「それなら俺にも理解できる。強さを示しそれを軸にしなければすぐに子分の統率がとれなくなって自壊するって事だよな。その為には力を誇示し続けて強い関係を維持しなければならない」
「分ってるじゃねーか。だから親分である俺が一度やると決めた事は簡単に曲げられねえんだ。例え俺がここで死んだとしてもな」
こいつは手強い系だ。
信念に生きて信念に死ぬタイプの奴だ。
こういうのは何を言っても折れないんだよな。
面倒だ。
殺っちまうか?
待て待て、よく考えろ。
こいつらをここで全滅させたとしても、また別の奴らが旅館に攻撃を仕掛けてくるんじゃないか?
そんな事を繰り返していたら、いつになっても安心して暮らせないだろう。
特にマコトのように都に住んでいる従業員が標的にされ続けるのは間違いない。
どうすれば丸く治まる?
力関係を大事にする? 強さを示す、そして統率か……。
仕方が無い。
将来の憂いを立つ為に今は働いてやろうじゃないか!
「それでどうするんだ? 俺達を全員殺すのか? それとも諦めて帰るのか?」
トラキチ親分の目には俺を侮るような色はない。
さすがは親分か。
得体のしれない俺の事を外見だけでは判断していない証拠だな。
俺が本当にこの白虎会を潰せるという事も疑っていないようだし。
「分ったよ。お前らを殺すのは諦めた」
「ほう、そうか。ならこれからどうするんだ?」
俺は覚悟のこもった目で真っすぐにトラキチ親分を射抜く。
「この都全てのヤクザを俺の支配下に置く!」




