表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/184

聞き分けの良い小物



 地上生活三十二日目。


== 7時5分 ==


 朝の朝礼でイチゴの紹介はすでに終わっている。


「え? マコトがまだ来てないって?」


「ええ。マコトさんは遅刻するような娘ではないのですけど。何かあったのかしら」


「皆に比べて俺は手が空いているし、もしかしたら病気かもしれないから、俺が様子を見にいってくるよ。医者の所に運ぶにも男のほうがいいだろう」


「ご主人様、気を付けて行ってきてくださいね」


「ああ、分ってるよペティ。俺の事は心配しないで仕事に集中してくれ」


「はい……マコトさんの事、お願いしますね」


 朝礼をいつも通りに終わらせた後、おれはマコトが母と住んでいる西町の長屋に向かった。


== 9時31分 ==


「確かここだったはず」


 俺はマコトに教えてもらっていた長屋の前に到着した。

 俺は感覚を鋭敏にして長屋の中の気配を探ってみると、五人の気配がする。

 男三人、女二人。

 家族だろうか。


「御免! マコトはいるか? ユラリだ、体長でも悪いのか?」


 すると中から聞き覚えのある声がした。


「空いてるぜ、入ってきな!」


 俺は警戒しながら入り口の戸を引いた。

 中にはマコトと彼女の母らしき人、それにその二人の首に短い刃物を当てている三人の男達がいた。


「遅かったな総支配人さんよ。待ちくたびれてもうすぐ殺しちゃうところだ。ひっひっひ」


 そこにいたのは旅館の広告を破いて回っていたヤクザの三人だった。

 俺は助けようとすり足で一歩進む。


「おおっとそれ以上は動くな。こいつの母親が死ぬぜ」


 たしかこいつはリュウジって呼ばれてたな。

 俺は三人の男を睨みながらマコトに声をかける。


「マコト、怪我はないか?」


「お兄さん。うん、ぼくにはケガはないよ。でも母さんが……」


 マコトの言葉に俺は彼女の母の様子をみると、マコトの母親は咳き込んでいて苦しそうだ。

 リュウジがにやついた表情になる。


「なあ総支配人さんよ、悪いんだが旅館を永久に店じまいしてくんねーかな」


「するわけないだろ」


「ああ? んなこと言っていいのかよ。お前の大事な従業員の頬に一生残る傷が刻まれるぜ?」


 リュウジはマコトの頬を短刀の腹で撫でる。

 マコトの尻尾が緊張で真っすぐになっている。

 こいつら、マコトを怖がらせるなんて許せないな。

 猫の尻尾はな、クネクネするから可愛いんだ!


「やはり、お前らの目的は旅館の営業を妨害することか」


「そんなことは知らなくてもいいんだよ。旅館の総支配人の立場を手放すという証書に指を押し当てるだけで解放してやるってんだ。どうすんだ? 俺達としてはここでこの二人を殺してから、他の従業員を捕まえて同じように何度でもお前を脅すだけだ。何度でも繰り返してやるぜ。お前が旅館の総支配人であり続けるかぎりな!」


 ただのチンピラだったら生かしておこうかとも思ったけど、他の従業員にも手を出すとかクズ属性全開なら生かしておけないな。 


「それだけか、もう言いたい事はないのか?」


「強がっても無駄だ。お前は相当腕が立つようだからもう油断はしねえ。少しでも動きを見せたら殺せと言ってあるからな。あの二人を殺したくねーならこの証書に指を押し当てな!」


 まさかここまで強引な手段に訴え出るとは思わなかった。

 俺もまだまだ考えが甘かったな。

 これは旅館の総支配人として従業員に迷惑をかけてしまった責任をとらないといけないだろう。


「お前らがこんな事をしたのは、お前らの親分からの指示か?」


「だったらどうだって言うんだ? 早く指を押し当てろや!」


 リュウジという男は俺の足元に一枚の紙を投げてよこした。

 その紙を見ると俺が旅館の総支配人の立場を放棄するという内容が目に入る。


「俺はな……」


「ああ?」


「俺は自分の巣の中で暮らす家族に手を出されるのが、一番許せないんだ……」


「巣の中? 何言ってんだこいつ」


「そういうとき俺は外敵に対してどうしてきたと思う?」


「意味のわかんねーこといってんじゃねーぞガキが!!」


「根絶だ」


「は?」


「お前らひとまず【遅延】しとけ」


 俺の術で三人の男達の動きが極限まで鈍くなる。

 動かなくなった男達を見て不思議な顔をするマコト。


「マコト、もう動いても大丈夫だぞ。母親を連れてこっちにこい」


「へ? あ、本当だ。この人達動かなくなりましたね。どうやったんですか?」


「説明は後だ。この金で馬車にでも乗せてもらって母親を旅館まで連れて行け。そこなら安全だ」


 俺はマコトに金貨十枚を渡す。


「えっ!? こんなに? でも……」


「母親の容態もあまり良くないんだろうが、なるべく急げ。ここにいたら巻き込まれるからな」


「え? な、何に巻き込まれるっていうんです? 良かったら教えてくれたら嬉しいな〜」


「抗争だよ」


 俺はマコトとその母親を見送り、未だに固まっている三人の術を解いた。


「っは?」「え?」「あ?」


 三人の男は状況が理解できていないようだ。

 それもそうだろう。

 彼らからしてみれば、人質にしていた二人が一瞬で姿を消したように見えたんだからな。


 この【遅延】の術にかけられた者の動きや感覚の全てが超低速状態になる。


「よう、お目覚めか?」


「ああ!? ひ、人質はどうしたんだお前ら!?」


「え? いや、いままで確かに抑えてたんですが……き、消えやした」


「んな分けあるかよっ! 総支配人。オメーの仕業か!!」


「お前達の組長は何処にいる?」


「今ここでぶっ殺してやるよ!」


「これだから小物は嫌なんだ。ヘヴンズアントのほうがよっぽど話しができるよ」


「死ねやっ!!」


 リュウジが短刀を持って俺の胸を貫こうと迫る。


「学習できない奴は、どんな世界でも出世できねーぞ。【遅延】レベル五で肺だ」


 リュウジは急に息を詰まらせもがき出す。


「くはっ! お、おまえ、なに、をしたっ?」


「俺の術でお前の肺を【遅延】したんだ。今お前の肺は十分に酸素を吸収できない状態になってる」


「う、うそ、だ。そん、そんな事ができるはず、が」


「現に呼吸できないだろ? このままだと窒息して死ぬ」


「ひっ! くっ、あ、うあっ。く、苦しい」


 リュウジは床に膝をつき喉を抑えている。

 二人の男がもがくリュウジに声をかけた。


「リュウジの兄貴? どうしたんです?」


「このまま窒息して死ぬか親分の居場所を教えるか選べ。あ、ちなみに嘘教えたら死んだ方がましだと思うような方法で、気が狂うまで拷問するからそのつもりで真面目に答えろ」


 リュウジの瞳には恐怖が溢れている。


「わ、かはっ、った。教える。お、おしえるから! たすけ」


 俺は術を解いた。


「ぶはーっ! はぁ、はぁ、死ぬ、はぁ、はぁ、所だった!」


「ほら早く言えよ」


「うるせいっ! 死ねいっ!!」


 これだから小物はだめだな。

 あそこまで追い込められてまだ勝機があるとでも思ってんかね。


「【硬甲殻】」


 バキッ! という音で俺の胸に突き込まれた短刀が折れる。


「は、え?」


「もういいや面倒だから。他の二人に聞く事にする」


 俺は血が飛び散らないように注意して、手刀をリュウジの眉間に突き刺した。


「ゔっ……」


「【食料庫】っと」


 既に死体となったリュウジの体は空中に現れた黒くて四角い扉の中に吸い込まれた。


「さあ、お前ら二人はリュウジみたいな小物か? それとも聞き分けの良い小物か?」


 俺はわざと殺気を放ちながら残った二人の男に近づいていった。


 結果的に言うと、残りの二人は聞き分けの良い小物だった。

 俺の放つ殺気で失禁しながら白虎会の親分がいる場所を話してくれた。

 せっかくマコトの家を汚さないように、リュウジを殺すときも気を使ったっていうのに、失禁とは予想外だった。

 俺は【洗浄】でお漏らしを綺麗にして親分の所へ向かった。


 え? その二人はどうしたかって?

 もちろんリュウジと同じ方法で殺した。

 マコトに危害を加えようとした時点でアウトだ。


 千歩譲って俺に危害を加えた場合に限っては、態度次第では許さないでも無い。

 だが俺に属する者に危害を加えた奴らは絶対に許さないと決めている。

 絶対にだ。


 もうあんな思いはしたくない……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ