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ボディランゲージは共通言語




 地上生活二十九日目。


 朝七時の朝礼を終わらせると、ぽつりぽつりと客が来た。

 なかなかいい滑り出しだ。

 朝礼をしているおかげで従業員同士のコミュニケーションもとれている。

 各部門同士の仕事の連携もなかなか良くなってきた。


 あれから何人も新しく従業員を雇ったが、慣れないながらも皆一生懸命働いてくれている。


 仲居も数人増員したが、ペティの【指導】のおかげか合格点を出せるレベルの接客がすでにできている。

 ペティは新人がミスをしても怒ったりはせず、やさしく子供を諭すかの様にアドバイスしていた。

 仲居の仕事をしてなかったら保母さんにでもなれるくらいの包容力だ。


 セルフィナも従業員に対して司令塔の役割をしっかりと果たしている。

 的確な指示と先を見越した状況判断はさすがセルフィナと言わざる終えない。


 俺は従業員達におおまかな方向性しか示してやれないが、セルフィナが俺の意図を汲み取り、分り易く噛み砕いてから伝えてくれるので助かる。

 すでに俺のするべき事が大分なくなっていて楽になっていた。


 それに加え思わぬところでセルフィナの【未来視】が役立っている。

 お客が階段を踏み外し大けがをする前にそれを未然に防いだり、従業員が風邪をこじらせる前に適切なアドバイスと休みを与え、未然に体調が崩れるのを予防したりと大活躍だった。


 俺と守護者契約を結んでから【未来視】の頻度や効果対象も増えたらしく。

 自分の事だけではなく旅館内で起きる事故なども見えるようになったらしい。


 恐らくこの旅館が俺の縄張りとして指定されているからだろう。

 俺と守護者契約をしている者の中には、俺の縄張り内に限って能力が強化される場合があるからな。


 セルフィナは優秀な右腕として想像以上の働きだ。


 そういえば呉服屋に注文していた着物が仕立て上がる頃だな。

 明日にでも取りに行ってみるか。

 セルフィナは今、旅館の受付に相応しい着物を持っていなかったが、呉服屋に依頼している着物が出来上がるまでは、仲居の着物を来ているので心配ない。


 イナンナも仲居の着物を着て、客の荷物を運ぶ手伝いを自ら申し出てきた。

 その不器用ながら頑張る姿が愛らしい。

 うん。

 やっぱり小さい烏兎にしか見えないな。


 千鳥達どうしてるかな。


 その日は合計28人の来客があった。

 八割が女性だったのはマコトの言う通りにターゲットを絞ったからだろう。

 思った以上に宣伝効果が現れていてこれからが楽しみだ。




***




 地上生活三十日目。


 朝から客が来ている。

 俺は従業員への指示をセルフィナに任せて風呂敷を片手に呉服屋に向かった。


 呉服屋に入り出来上がった着物を受け取る。

 俺は風呂敷を背中に担いで旅館へ帰ろうと西町の大通りを歩いていると、柄の悪い男達三人が、俺が頼んで貼らせてもらった旅館の広告を破り捨てているのを見つけた。


 あーあ、せっかく頭下げて貼らせてもらったってのに、労力が無駄になるじゃないか。

 三人の男達は派手な入れ墨をしていて見るからに渡世人だ。


 いわゆる渡世人とは博打を生業とする者や、定まった住居が無い者や各地を流れ廻ったりする者。

 そういう柄の悪い奴らが集まり、親分と子分の関係をつくり暴力で都の裏社会を牛耳っているような奴ら、つまりヤクザ者だ。


 現代風に言えば暴力団ってやつだな。

 本当は関わり合いにならないほうがいいのは分っているが、旅館の広告を片っ端から破いて廻っているから、忠告しといたほうがいいだろう。


「おい、お前ら。俺の旅館の広告をやぶくんじゃねーよ」


「ああ? なんだテメーは」


「俺は日乃光旅館の総支配人だ」


「お前があの? だーはっはっはっは! こんなガキが総支配人だなんて聞いてた話しは本当だったんだなっ! うーはっはっはっはっは!」


 その男は俺の目の前で貼られていた広告を破り捨てた。


「おい。やめろと言ったんだけど? 聞こえなかったのか?」


「なんだこのガキ、俺達三人相手に敵うとでも思ってんのか? ああ?」


 その男は俺に顔を近づけて睨めつけてきた。

 あ〜これ、チンピラとか不良少年のあるあるいただきました〜。


「言ってわからないようなら力ずくで言う事をきかせるぞ」


「まじで言ってんのか? 俺達はこの西町を牛耳ってる白虎会なんだぜ。俺達に歯向かったらどうなるのかテメーこそ分ってんのか?」


 こういう頭の弱そうな方々には会話よりボディランゲージで伝えた方が早いんだったな。

 というか酒臭いから離れてくれ。


 俺はその男の脚を横に蹴り払い宙に浮いた状態の男の頭を掴んで地面に押し当てた。


「ゔごっ!!」


 簡単にその男は意識を失った。


「テメーっよくもリュウジの兄貴をっ!!」


 俺は残った二人のチンピラの腹部に両手の平を同時に打ち込んだ。


「「ぐはっ!」」


 残りの二人は数メートル飛ばされ、腹の痛みにうずくまっている。


「これ以上俺の邪魔をしてみろ、次はこんなもんじゃ済まさないから覚えておけ下っ端」


 俺は脅す為に少し本気で地面に右足を踏み込んだ。

 すると重い轟音と共に地面が円形に陥没した。


「うひゃあっ!!」


 二人の男は腹を抑えながら地面に尻をつき後ずさる。


「お前らの親分に伝えておけよ」


 人の視線が集まってきていたので、俺はその場をすぐに立ち去った。


 わかってる。

 こんな脅しで大人しくなるような奴らじゃない。


 たぶん奴らは商人組合と裏で繋がってる。

 俺の旅館の経営を妨害しようとしてるんだ。


 順調に客が来はじめた今、あまり荒事にはしたくないが白虎会とやらがこれ以上何かをしてくるようなら、強引に事態を治めないといけないだろう。


 はぁ。

 仕事がいい調子で減ってきて楽できそうな時にこれだよ。

 いつになったらゆるゆる人任せ異世界生活が実現できるのやら。


 俺はまた面倒な事に巻き込まれそうだなと肩を落としながら旅館に帰った。

 その日の来客数の合計は三十一人だった。

 良い調子だ!




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