世界からの消失
俺達は親父の務める研究施設へと来ていた。
「す、すげえ……」
朧が驚いてるよ。
筋肉にしか興味がないと思っていたんだけどな。
他の友人達も世界最高峰の巨大研究施設の内部を見て驚いている。
この研究施設は世界中から優秀な研究者を集め、人類に役立つ様々な研究をしている。
地球の温暖化対策や食料問題を始め、病気や遺伝子研究、親父の研究対象であるナノマシンのような人間の役に立つ科学技術等も研究されていた。
俺たちが今いる研究施設は地下に建造されたものだけど、地下にあるからといって暗いイメージの場所ではない。
機密レベルの高い部屋以外は、壁が透明なガラスになっていて開放的で先進的な内装になっている。
施設の中央は吹き抜け構造で十機ものエレペーターが上下していた。
駿が吹き抜けの底を覗き込みながら唸った。
「うーむ。底が霞んで見えないな。どれだけの深さなのか検討もつかないよ」
この研究施設は週一で親父の着替えや日用品を差し入れに来ている俺にとっては見慣れた場所だ。
俺たちを研究室から迎えに来た親父を合わせた七人は、エレベーターへ乗り込み下の階へと下りて行く。
エレベーターのガラスごしに見える吹き抜けに面した多くの研究室では、白衣を着た研究者達が様々な研究をしているのが見えた。
俺たちのような見学者の団体もいるな。
体に重力はかかっていないのに階層を表す数字は高速で変化し、エレベーターがものすごい早さで地下に向かっている事を示していた。
階数表示が地下二百九十五を示したところで停止するとすぐにドアが開き、俺たちは親父の後に続きさらに通路を進む。
今日は俺の知っている研究室ではなく実験室へ向かうようだ。
俺たちは実験室の前に到着し、親父が網膜や指紋の入室認証を終えてから皆で中に入った。
俺もこの実験室に入るのは始めてだな。
その場所は体育館より少し広い空間だった。
俺たちが実験室内に入るとすぐにある物が目に止まり立ち止まる。
そこには直径三十センチ程の球体がなんの支えも無しに宙に浮いていたんだ。
その球体の表面には小さな象形文字のようなものがギッシリと刻まれている。
親父は俺たちがその球体を見て言葉を失っているのを見て、得意げに説明を始めた。
「はっはっは、驚いたかい? この球体はね五億年前のオルドビス紀と呼ばれる地層から出土した謎の遺物でね、私たちはスフィアと呼んでいる」
「は? そんな昔に文明があったなんて聞いた事無いけど?」
「我々の知らない古代文明の遺物なのか、または宇宙人の置き土産か、あるいは他の理由なのかは未だに判明していないんだよ。どうだい? なんかワクワクしてこないかい?」
親父が少年のように目をキラキラとさせてるよ。
そういうところ、本当に昔から変わらないよな。
「親父の研究テーマはナノマシンじゃなかったのかよ。こういうのって考古学とかの分野じゃないの?」
「はっはっは。私の研究テーマに変更は無いよ。実はこのスフィアの解析にナノマシンが必要なんだよ」
「は?」
親父はそう言うと近くにいた研究者に合図をした。
「スフィアにナノマシンをリンクさせてくれないか?」
その研究者がアウレナを介して何やら操作すると、刻まれた文字の光が徐々に強く輝きはじめ、全体が輝く光の玉になった。
「え、なんなの……これ」
千鳥は口を半開きにして驚いている。
他の友人達も目の前の不思議な現象を見て立ちすくんでいた。
「実はね、このスフィアとナノマシンであるアウレナは接続できて、アウレナを介してある程度操作できる事が分っているんだ。僕はね、なぜアウレナが古代の遺物と接続できて操作も可能なのか調べる事によって、今私の研究テーマであるナノマシンの進化に繋がると考えているんだよ」
「……親父、この光の玉、本当に安全なんだよな?」
「もちろんさ。このアウレナとの接続実験は今日で二十四回目だから大丈夫さ。今までは何も異常は起きていない。まだ詳しい事は判明していないけどね」
烏兎が俺の隣で呟いた。
「あの球体。光っているのに眩しいと感じない。不思議」
「そういえば、そうだな」
その時俺の視界の中央に赤い縁のウインドウが表示された。
「ん?」
これはアウレナからのエラー通知だ。
でもエラーを知らせるウインドウ内の文章が文字化けしていて、詳しいエラー内容がわからない。
「おい、なんだこりゃ? 文字化けしたエラー通知きてっぞ」
「あ、あたしも。皐月のとこにも来てる?」
「うん、来てる。駿君はどう?」
「僕のアウレナにも表示されているよ。こんな事初めてだ、一体どうしたんだろうね……」
俺の友人達五人にもエラー通知が届いているらしい。
親父は俺たちに何が起きているのか理解できず怪訝な表情をしている。
「アウレナがどうかしたのかい?」
どうしてか分らないが親父のアウレナにはエラー通知がきていないようだ。
「親父。俺たちのアウレナに文字化けしたエラー通知が」
俺がそこまで言ったとき、スフィアが目を開けていられない程に強く輝き始めた。
その光は実験室全体に広がり、俺もあまりの眩しさに目を開けていられない。
「な、なんだっ!?」
「異常な発光現象だって!? 今までこんな現象は起きなかったのに! ま、まずい! 早くスフィアとアウレナのリンクを遮断するんだっ!!」
徐々に光は強くなり、視界が白に塗りつぶされていく。
全身が質量の無い光そのものに変換されていくような感覚。
意識が遠くなる。
完全に意識が無くなる直前、脳裏にアウレナの管理AIの声が聞こえた。
『新たなソースコードを確認しました。ソースコードのダウンロードを開始します。ダウンロード完了しました。インストールを開始します。インストールが完了しました。アウレナを最適化します。最適化完了しました。転送を開始します。それでは良い旅をマスターユラリ』
……そして俺達六人は光に溶け込み、この世界から消失した。




