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旅館の警備と宣伝活動




 地上生活二十八日目。


== 5時1分 ==


 今日は旅館の宣伝広告の印刷が終わる日だ。


 まだ日が昇って間もない頃、俺は朝早く起きてから隣に眠るセルフィナの頬にキスをして、着替えてからロビーに向かった。


 どうしてこんなに早く起きたかというとイナンナの様子を見る為だ。

 俺は昨日イナンナにこの旅館の警備を頼んだんだ。

 イナンナの能力はまさに警備をするのに最適。

 なにせ【睡眠不要】、【食事不要】、【全状態異常無効】、という生物としてはありえない能力は、俺たちが寝ている間に活動し続けても問題ないことを意味している。


「おはようイナンナ。何かおかしな事はなかったか?」


「ない。でも」


「でも?」


「ネズミを七匹とゴキブリを十匹、ハエを十三匹、野良モグラを一匹始末した」


「お、そんなに? ちゃんと警備してくれていたようだな。ありがとう。もうすぐ皆起きてくるから、そうしたらあの黒いの戻してもいいからな。日中は今のところ警備しなくても平気だから、お前は自由に休んでいていいぞ」


「うん。わかった。イナンナがこの旅館をずっと護る。ユラリの最後の願いを叶える」


「え? 俺の最後の願い?」


「イナンナがこの旅館を護る事が、ユラリの十回目の願いだから」


「あっ、もしかして昨日の願いを叶えるっていうのが、まだ続いていたのか?」


 俺の記憶では残っている願いの回数はあと五回だったはず。

 俺は願いの数が残り五回になってから今までの会話を思い返した。

 

『なあ箱のフタ開けるの手伝ってくれるか?』

『じゃあ俺の嫁にでもなってくれ、なんてな』

『さて、ひとまず俺の旅館まで行こう』

『ちょっとまてい烏兎っ!』

『俺は昨日の夜のうちにイナンナにこの旅館の警備を頼んだんだ』


 数えてみたら本当に俺はイナンナに十回分の願いを聞いてもらっていたよ。

 そして一番最後の願いが、この旅館の警備をお願いした時だった。

 意図せず俺の願いは叶えられたということだ。


 俺の視線の先には門番のように旅館の入り口を護る二体の魔物がいた。

 それはイナンナが召喚した骸骨騎士だ。

 骨の馬に乗り重装甲の黒い全身鎧とマント、カラスの羽飾りが付いた黒い兜を装着し、漆黒のランスを構えた屈強な骸骨騎士。

 この骸骨騎士が旅館の周囲を囲むように何と三十体も配置されている。

 そうやってイナンナは一晩中旅館を護ってくれていた。


 イナンナの実力はハエでさえ入り込めない鉄壁な警備で証明された。

 俺はまだイナンナとは守護者契約をしていないが、この分なら契約して潜在能力を引き出さなくても、十分な働きを見せてくれるだろう。

 旅館の警備担当ゲットだぜ。


 それから旅館の従業員たちが起床し、それぞれの仕事を開始した。

 マコトも予定通り広告の印刷作業を徹夜して終えたようで、二千枚の宣伝広告を風呂敷に包み、それを背負ってロビーに出てきた。


「お兄さん! 徹夜で仕上がりましたよー! 完成ですよっ!」


「ああ、ご苦労さん。徹夜明けなのに元気だな」


「もちのろんじゃないすかっ! 今日は東江の都全域に撒きますよー! 覚悟しておくがいい都の民よ!!」


「えーと、確か四町五百枚ずつを道ばたで通行人に手渡ししたり、許可をとってから目立つところに貼っていくんだよな?」


「そうです。なるべく女性にという事もお忘れなく」


「女性が家系の財布を握っている家が多いんだっけ?」


「そのとおり! あとは女性には冷え性の方も多いので、温泉に入ることが好きな女性は沢山いますからね」


「無闇にバラまかないということだな。さすがうちの宣伝担当だ」


「うふふふふ。いやーそんなに褒めても何も出ませんからねっ!」


 マコトの猫尻尾がブンブンと回転している。

 喜んでいるんだな。


「そろそろ都でも、人が通りを往来する時間だから俺達も出発するか」


「がってんでい!」


 徹夜明けでテンションがおかしくなっているマコトと俺は、旅館に一番近い西町から宣伝活動を始めた。

 西町が終わるとその後は北町、東町、南町の順番でまわり、手持ちの広告が無くなったところで旅館に帰ってきた。

 丸々十二時間以上もかかってしまった。




== 21時26分 ==


「あ〜疲れた〜! ぼく今までの人生でこんなに歩いたのは初めてですよ〜。脚が痛い。脚がアダマンタイトのようです……」


 マコトは旅館に戻るとロビーのソファーにヘナヘナと座り込みぼやいている。

 ネコミミは力無く倒れていて、尻尾も脱力していて動かない。


「アダマンタイトが比喩としてどの位相応しいかは知らないけど、俺も疲れて脚が痛いよ。後は結果を待つだけだな」


「大丈夫ですよ。ぼくがこんなに頑張ったんですから」


 俺達がソファーでくつろいでいると、早速受付に男二人の客が来たようだ。

 セルフィナが完璧に接客している。

 さすがは元王女。

 礼儀作法も話し方も完璧だ。


 それにあの美貌だ。

 二人の客は見とれているぞ。

 ちゃんと旅館を利用するときの注意事項は耳に入っているんだろうな。

 夫婦になった俺でさえ見とれるんだから今回だけは許そう。


 続いてセルフィナの念話で呼ばれて来たペティの【輝く笑顔】の連続攻撃に、客の二人がノックアウト寸前だ。


『笑顔は様々な背景の人々を繋ぐ魔法のようなものなの。旅館には年齢も出身も考え方だって違う様々なお客様がいらしゃるから、数日という短い滞在期間で私たちとお客様が信頼関係を築くために絶対に欠かせない、最も重要なコミュニケーションの鍵なのよ』


 母さんがそんな風に言っていたな。

 俺もペティやセルフィナが笑顔になると、つられて笑顔になってしまう。

 そして心の奥で確かに繋がっているようにも感じるからな。

 

 ほかには一つ一つの動作にお客様を気遣う意味を持たせる事。

 接客というのは動作の全てを用いて客をもてなす事だと教わった。

 これをできると一人前の仲居として認められるって母さんが言っていたな。


 ペティは完璧とはまだ言えないが、既に彼女はかなりできている。

 俺との【守護者契約】によって潜在能力が開花したせいでもあるけど、元々ペティの相手を思いやる気持ちがあればこそだろう。


 それから二人の客はペティに案内されて客室へ向かって行った。

 よし。問題なさそうだ。


 それからも数組のお客が来館し、夕食を食べる時間としては少し遅いが、食事を希望した客にはカエデの本気料理が振る舞われた。


 俺は客の料理への評価を確認するため、【無音行動】と【気配遮断】を駆使して客室の入り口で【聴覚強化】も使って聞き耳をたてた。

 すると客達はカエデの料理のあまりの旨さに、いちいち叫びながら食べていた。

 よかった。

 喜んでいるようだ。

 この事をカエデに知らせれば彼女も喜ぶだろう。


 明日の朝の朝礼では客の評判が良かったと集まった皆に知らせて励ましてやろう。

 客が起床して忙しくなる前に皆の足並みを揃え、気合いを入れてもらう為だ。

 この分なら明日も客がきてくれるだろう。




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