願いを叶えてくれる死神
なにを言い出すんだこの小さい死神は。
俺がこの娘に下半身をもっていったから願いを叶えるということなのか?
どうしてそうなるんだ?
そもそも俺が斬り飛ばしたんだけど?
切り離された脚を持ってきた人の願いを叶える特殊な風習でもあるんだろうか。
この世界の死神ってそういうものなんだろうか。
ていうかどんな願いでも叶えられるのか?
「本当に願いを叶えるなんてできるのか?」
「できる」
こ、これは本当にできるのかもしれない。
なんせ死神でも神は神だからな!
ということは慎重に考えないと。
ここはお約束だけどアレを聞いてみよう。
「じ、じゃあ、願いを叶えられる回数を十回にしてくれ」
「わかった」
「できるんかいっ!!」
まさかできるとは思わなかった。
冗談半分で言ったんだが。
ならばっ!
「じゃあ、十回の願いのうち一回分を使って叶えられる願いを百回にしてくれ!」
「わかっ……」
あ、固まった。
この願いの回数を増やす願いの危険性に今気付いたんじゃないだろうな。
「で、できない」
「え、さっきはできたのに?」
「回数を増やす願いはもう聞いた。他の願いにしないとだめ」
まじですか。
十回に増やしたのは有効なんだ。
ダメ元で言っておいてよかったな。
いやしかし、何を願えばいい。
普通に考えれば俺の旅館で働いてくれ、だけど。
「じゃあ、俺は一生楽して暮らしてきたい」
「できない」
「え、じゃあしょうがない。一生遊んで暮らせるだけのお金をくれ」
「できない」
「じゃあ何ができるのか言ってくれないか?」
「聞かれてもイナンナもよくわからない。これで叶えられる願いはあと九回になった」
なんでやねんっ!
それもカウントすんのかいっ!
ま、まて、落ち着け俺。
もしかしてそれが作戦なのか?
そうやって増やしてしまった願いを無駄に消費させようとする作戦か!?
だとしたら一度はイナンナの術中にはまったことになる。
冷静に考えろ、あと九回もある。
イナンナができそうで、自分に有益な願いを考えろ!
「早くして。日が暮れる」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「わかった。あと八回」
しまったっ!
まんまとしてやられた!
こいつ天然なのか狡猾なのかわからんが、恐ろしい娘だ。
「日が沈んだら残った願いは無効にする」
「は? なんだよそれ。聞いてないんだけど?」
「言ってない」
「そんなのずるいだろ?」
「ずるくない。今決めた」
「いや、でもさ」
「もうすぐ日が沈む」
「それなら先に言っといてくれよ」
「わかった次から前もって言う。あと七回」
またまたやっちまった!!
下手に話すと回数を減らされる。
よし、無駄話は終わりだ。
願いだけを言えばいいんだ!
「あと六回」
「は!? 俺まだ何も言ってないけど?」
「間違えた」
「お、驚くだろ。間違えんなよ」
「うん。気をつける。あと六回」
……て、手強い!
いままで相対したどんな敵よりも手強い!
もしここまでの全てがこの娘の思惑通りの展開だったとしたら、俺も全力をもって戦わねばなるまい。
欲を出すな俺!
そもそも願いの数は一回だったんだ。
この娘に生半可な攻撃は効かない。
一度だ、そう、一度だけ願いを叶えさせる事に全神経を集中させればそれが可能なはずだ!
落ち着け、イナンナの声を聞くな。
集中しろ、一言願いを言えばいいだけなんだ。
俺は覚悟を決め俺の旅館で働けと言おうとした直前。
「あ、日が沈んだから、もう終わり」
イナンナは歩き出し森の奥に帰ろうとする。
「え……そ、そんな……」
俺は地面に膝をつき項垂れた。
敗北!? この俺が? こんな少女に!?
そんな事が……。
も、もしかしたら頼み込めば一度だけなら願いを聞いてくれるかもしれない。
「ま、待ってくれっ!」
「よく見たらまだ日は沈んでなかった。少しだけなら待つ。あと五回」
「うぐあっ!!」
……だめだ。
俺にはこの娘に勝てる気がしない。
完全敗北だ。
欲を出して願いの数を十回にした罰が当たったんだ。
そうに違いない。
俺の心はもう折れていた。
「もういい。俺にはお前にお願いする気力がなくなったよ。お前さ、これからどうすんの?」
「イナンナは幸せになる」
「え、幸せになるって。どうやって?」
「知らない」
「なんだそれ。意味がわからないぞ」
「イナンナも意味が分からない。幸せって何かを知りたい」
「え、知らないのに、なりたいのか?」
「うん」
「もし、幸せが苦しかったり痛いものでもなりたいのか?」
「うん。アマルテアとの約束だから」
えーと? 誰だ?




