妖精の森
== 15時12分 ==
俺はゼレを倒して旅館に戻ってきた。
俺に気付いたセルフィナが受付のカウンターから出てきて駆け寄ってきた。
「ユ、ユラリ様!? その服はどうされたのですか!?」
「ああ、少しだけ活きのいい魔物がいたんだ」
俺の着物はゼレの攻撃で数カ所破れていた。
身体はスキルで護れるけど、服はそういうわけにはいかない。
それでも今回はゼレを相手に肋を数本で済んだから御の字だな。
「……かなりの強敵だったのですね」
セルフィナは心配そうな表情で俺の頬に手を添える。
そして抱きしめてくれた。
「セルフィナ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。俺は地下生活で鍛えられているから、これ位なら死にはしない」
「ユラリ様が旅館に帰らない未来など見たくありません」
「俺はどんな事があっても必ずお前の元に帰る。だから前みたいに俺を信じて待っていてくれ。大丈夫。俺は必ずセルフィナの信頼に応えて見せるからさ」
「はい……。私はユラリ様を信じてお待ちしています。でも、本当に無理はなさらないでくださいね」
「わかってる。セルフィナを悲しませたくないからな」
「ユラリ様……」
セルフィナは俺に優しく口づけした。
やわらかい感触。
かならず生きて帰って再びキスをしたいと思ってしまった。
そう思わせる作戦か? そんなわけないか。
考え過ぎだよな。
「怪我をせずに帰ってこれたなら、キスよりもっとイイコトしませんか?」
「ぜひっ!」
セルフィナはいたずらっぽく微笑んだ。
俺はセルフィナの術中にまんまとはまるのであった。
***
地上生活二十七日目。
== 10時52分 ==
俺は軽く朝食を済ませてから西の街道を進み妖精の森に入っていた。
確かこの森には妖精が沢山いるらしいけど、何処だろう。
さっきから【気配感知】で周囲の魔物の気配を探っているけど、虹の滝周辺のように普通の動物の気配しか感じないのは変だ。
魔物はおろか沢山いるはずの妖精達も見当たらない。
妖精達は森の奥に引っ越してしまって、もうこの辺にはいないとか?
ん? 人間の気配だ。
森に詳しい人かもしれない。
ちょっと話しを聞きに行ってみよう。
俺は人の気配のする方向に向かう。
近づくにつれて一人ではなく、大勢の人間が集まっているのに気付いた。
集落だろうか。
まさかこんな場所に前みたいな山賊が集まってるとかはないよな。
行けば分るか。
俺は【無音行動】と【気配遮断】で気付かれないように人の気配が集まる場所に向かう。
この【無音行動】は俺の行動が関係して出た音全てが無くなる、暗殺者が喉から手が出る程欲しいスキルで、【気配遮断】は文字どうり自分の気配を悟られないようにする為のスキル。
集団の近くの茂みに姿を隠して様子を伺う。
天幕は無い。
布をかぶせている木箱が数十個あるだけで、【気配感知】で探るかぎり人数は男が十人、女が七人。
格好は着物じゃなく、みんな鎧を着ているな。
何処かの藩の侍達だろうか。
一体こんなところで何をしてるんだ?
下手に関わったら面倒ごとに巻き込まれそうだから、アクティブスキルの【聴覚強化】で聞き耳を立てて情報収集だ。
「もう妖精は取り尽くしただと!? まだ森の奥は探していないではないかナオヨシ殿!」
「ケンコウ殿、この森に詳しい者に話しを聞いたところ、妖精の森の奥には森の主がいるので近づいてはならないと」
「日乃光の武士が獣などを恐れておるのか? 森の主など我らに敵うはずないであろう? 我らの部隊は精鋭であるのだぞ! 獣ごときを怖がってどうするだ!」
「し、しかしですね」
「我らにはもう後が無いのだ。カタクリ様が改易されてお家取り潰しになってしまった以上、その配下の我らは浪人になってしまうのだぞ! この期に手柄を上げれば他の大名に召し抱えられることも可能だ! この期を逃してはならぬとは思わぬのか?」
「ですが、命あっての物種と言いますし。そもそもカタクリ様の非道な行いを見て見ぬ振りをしてきたのは我らですので、当然の報いではないかと」
「ええい! 臆病者めがっ! ならばナオヨシ殿はここで荷物の見張りでもしておれ。そして我らが手柄を立てて出世するのを指をくわえて見ているが良いわ!」
ナオヨシという侍を一人だけ残して他の者達は森の奥へ入っていったな。
一人だけならなんとでもなるから、話しを聞いてみるか
「あのう、ちょっと聞きたいんだけど」
「なっ、何者だ!」
「妖しい者じゃない。狩人だ」
「狩人? おお、そうか。それで何用だ?」
「この森には妖精がいるって聞いてきたんだけど、どの辺にいるか知ってるか?」
「すまないが、この辺の妖精ならほとんど私と仲間達が捕獲してしまったよ」
それはまずいな。
妖精がいないんじゃこの森は観光名所じゃなくなってしまう。
妖精達を逃がしてやりたいけど、今は捕まっていない妖精を安全な場所に誘導するのが優先か。
それから捕らえられている妖精達を逃がせばいい。
「それじゃあ、この当たりの魔物を討伐したのも?」
「ああ、我らが一通りな。いや、森の奥はまだだったか」
「じゃあ俺も森の奥に行かないと妖精は見つけられないということか」
「ん? 君も森の奥へ行きたいのか? やめておいたほうがいい。森の奥には主がいるという話しだからね」
「でも俺妖精を探さないといけない事情があるんだ」
「そうか。お主も妖精を捕まえにきたのか。……じゃあそこの木箱の中に入っている妖精達を持っていくといい」
「え、いいのか? 苦労して集めたんじゃないの?」
「いいんだ。私たちのような先のない人間よりも、将来のある君のような若者の手に委ねたほうがいいのだ」
「事情はよくわからないけど、そんなことをしたら、仲間に怒られるんじゃないのか?」
「そうだな。切り捨てられるかもしれない。だが、もういいのだ。わたしはこの仕事が終わったら死ぬつもりなのだよ」
「……どうしてか理由を聞いてもいいか?」
「特に面白い話しでもないのだが、まあ、いいだろう。……私が仕えていたお方は名の知れた大名でね、私は幼少の頃から、もうかれこれ二十五年はそのお方に仕えていた」
長い付き合いだったんだな。
もう自分の息子のような感覚じゃないか?
「しかし、そのお方はある時期から人を残虐な殺し方をして楽しむようになってね」
ん? なんか最近どこかでそんな奴いたよな?
「私は何度かやめるように進言したんだが聞いてもらえず。奉行所に訴え出ようかと何度も思ったが、それもできなくて中途半端。結局のところ自分の身分や出世の為に多くの罪の無い人々を見殺しにし続けてきたんだ」
もしかしなくても切り裂き大名の配下じゃないか?
「最近そのお方が病死してからは、いろんな事がどうでもよく思えてきて、こんな自分はもう生きていても仕方が無いと思うようになった」
これは間違いないな。
「そういう事だ。さあ、仲間が帰って来る前に妖精達を持ち出すといい」
「そういうことなら遠慮なく」
遠慮なく持って行っていいのは嬉しいんだが。
俺の【食料庫】やツクモの【貯蔵庫】は生き物は収納できないんだよな。
どうしようか。
俺がそんな事を悩んでいると、森の奥から一人走って来る気配を感じる。
「はぁ、はぁ、主だ! 森の主が現れたっ!!」




