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瓦版屋に行こう




 地上生活二十日目。


== 9時20分 ==


「着きました。ここがぼく達瓦版屋の本拠地ですよ」


 俺はマコトと待ち合わせをして、彼女に連れられ瓦版の印刷をしている場所に到着した。

 そこは普通の安長屋の一部屋だった。

 マコトが言うように本拠地っていうほど立派な場所ではない。


 まあこんなものだろうな。

 たしか江戸時代でも瓦版屋って非合法だったはず。

 テレビの時代劇でも奉行所の岡っ引きに追い回されていたはずだ。

 おおっぴらに商売できないか。


「瓦版の版木を掘る職人は別の場所にいて、ここは完成した版木を使って紙に刷る場所なんですよ」


 俺はマコトの後について中に入ると、五十歳くらいの男が印刷作業をしていた。


「元締め! お疲れっす!」


「お? マコトか。そっちの奴は何だ?」


「俺は日乃光旅館の総支配人をしているユラリという者だ」


「本当か? 若い総支配人だな」


 元締めは訝しむ目で俺を睨みつけた。

 まあ当然か。

 俺の外見はこの世界に転移したときから変化がないからな。

 見た目は十七才の小僧だ。


「元締め、頼みがあるんです!」


「給金の前借りはもう無理だぞ。今月分はもう渡してるからな」


「も、元締めっ! そういうことじゃないですって! というかお客さんのいるところでバラさないでくださいよっ!」


「ふんっ。じゃあなんだってんだ」


「このお兄さんが旅館の宣伝のために、広告をばらバラまきたいそうなんです」


「は? 広告だと?」


「ああ、そうなんだ。やってくれないか? 報酬ははずむぞ」


「ぼくからもお願いしますよ元締!」


「……無理だな」


「はっ? どうしてです? 商人組合の仕事は受けているじゃないですか」


「俺ら瓦版屋は非合法でやってるのは知ってるよな?」


「ええ、それはもちろんです」


「俺らは商人組合の宣伝に手を貸す見返りに、奉行所に瓦版屋の活動を見逃してもらってる立場なんだよ。つまり奉行所と商人組合が裏で繋がっていて、その商人組合に護られてるから俺たちは食っていけるというわけだ。だから手は貸せねえな」


「ぼく達が日乃光旅館の広告をバラまく事と何か関係が?」


「お前な、瓦版屋なんだから商人組合の詳細くらい調べとけ!」


「す、すみません元締め。ぼくは勉強は苦手で……」


「ふんっ、まあ駆け出しだから仕方がねえか。いいか? よく聞いとけよ。商人組合には東江の都にある殆どの宿屋も加盟しているんだ。日乃光旅館は国の直営旅館だから、いわば商売敵になる。俺達がそれに助力するということは、敵に塩を送る事になるんだよ。だから協力はできねえな」


 なるほどな。

 どこの世界にも多数派の組織が自分たちの利益を護る構造ができているんだな、

 瓦版屋は無許可で仕事をしている立場上、護ってくれている商人組合に不利益になる事はできないのか。


「え〜、そんな〜、元締めのケチ〜!」


「マコト。お前今までの話を聞いてなかったのか!? 総支配人さん、そういう事だから縁がなかったと思って諦めるんだな」


「そうか、仕方が無いな。マコトもここまで手伝ってくれてありがとう。邪魔をしたな」


 俺は帰ろうとして外に出て歩き出した。

 するとすぐにマコトが俺の後を追って来た。


「お兄さん!? 諦めるんですか? あの旅館なら宣伝したらきっと繁盛しますよ!?」


「でもな、他の瓦版屋に頼んでも同じく断られるだろうし、一度旅館に戻ってセルフィナに相談してみるよ」


「つかぬ事を聞きますが、お兄さんはお金持ちなんですよね?」


 どうしたいきなり金の話なんて。


「金には困ってないけど」


「それなら、幾らかお金が必要になりますが、ぼくに任せてくれませんか?」


「何とかできるのか?」


「できると思います。その代わりになんですが……」


 マコトの表情が今までに無い程に真剣だ。


「ぼくを旅館専属の宣伝屋として雇ってくれませんか!?」




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