今はまだモフモフはしません
== 16時51分 ==
城から西町に向かう途中大通りの一角で人だかりができていた。
「なんの騒ぎだ?」
俺はその人だかりに近づきながら、聞こえて来る威勢のいい女の口上に聞き耳を立てる。
「さあ、買った買った! あの噂の切り裂き大名が遂に奇病で死んだよ! なんでも一週間まえに大名の屋敷で女を取り戻しにきた男が大暴れしたっていう話しだ! もしかしたら奇病と関係があるかもれない!」
うっ、なんて鋭い指摘だ。
事実じゃないか。
「それにそれにまだあるよ! あの泣く子も黙るキバツメ山賊団を一夜にして壊滅させた謎の男と、海の守り神として恐れられていた海竜を倒した男は同一人物だともっぱらの噂だっ!」
俺も人目を気にしてはいたけど、以外と見られているんだな。
もう少し慎重に行動する必要があるようだ。
「本当の事は定かではないが! 盗賊と海竜を倒した男が、切り裂き大名の屋敷で暴れたらしいってんだからこれまた大変だ! さあさあ!買った買った! 売り切れ御免だよ!!」
集まっていた人々が我先にと瓦版屋から木版刷りの印刷物を買っている。
つまりこの国の新聞だとか号外のようなものだな。
今回の内容はかなり人々の興味を引いているようで、あっという間に売り切れたようだ。
ほとんど俺についての記事だ。
聞いた限りでは内容も正確なので驚いた。
山賊と海竜は調べれば分るかもしれないが、大名の死因と俺の存在を結びつけるという勘の良さに恐れ入る。
俺はその様子を横目に通りすぎようとすると、瓦版屋の女に呼び止められた。
「ねえ、そこのお兄さん!」
「ん? 俺?」
「そう、お兄さん。この都に来て間もないでしょ?」
「どうして分るんだ?」
「ぼくはね、こう見えて瓦版屋なんだ。少ない情報から真実を導き出すのがぼくの仕事なのさ」
出合ってしまったか。
もうそろそろぼくっ娘に出合うんじゃないかと思っていはいたけど。
まさかここで出合えるとは。
それにこの娘の頭にネコミミがある。
尻尾もちゃんとついてるんだな。
つまり獣人族か。
「す、すごいな。ぱっと見ただけで俺が新顔だって見抜いたのか」
「それ位できないとこの都で瓦版屋としてはやっていけませんからね! それで、暇ならちょっとお話聞かせてくれません?」
「今はちょっと用事があるんだ」
「それは半分嘘だね。ぼく、そういうの分るんだ」
「うっ……」
なんという洞察力。
恐らくパッシブスキルの【洞察力】五レベル以上は間違いないぞ。
「少しの時間ならかまわない。それで、聞きたい事ってなんだ?」
「それはね……」
やはり俺の正体がばれてるのか!?
「この瓦版について感想を聞きたいんだ。客の意見を反映させればもっといい記事が書けるからね!」
ああ、そういうことか。
少し安心した。
「だからさ、お兄さんの旅館で話しを聞かせてよ。旅館についてもいろいろ取材したいんだ」
そっちは知られていたのかっ!
== 17時17分 ==
俺は瓦版屋の娘と旅館に戻ってきた。
この娘の名前はマコトという名で日乃光生まれの十六才。
髪型はふわりとしたショートボブで、ネコミミが可愛い快活な女の子だ。
マコトという名は真実を追及する瓦版屋にふさわしい名前ではあるが、できれば俺についての真実は追及して欲しくないな。
これが今さっきアウレナで調べたマコトのステータスだ。
ある程度の人となりがわかる。
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◆マコト・ニヤゴ
種族:猫人族 性別:女 年齢:16才 職業:瓦版屋
LV:2 HP:195 MP:65 SP:310
物理攻撃力:55 物理防御力:65 敏捷力:80
術効力:70 術抵抗力:65 幸運:90
アクティブスキル:声量拡大2、存在感上昇2、視覚強化2、聴覚強化2
パッシブスキル:筆記2、話術2、推理3、直感5、洞察力5、学識1、印刷2、宣伝3、コネ5
称号:母思い、給料を前借りする者、瓦版屋の新人、ボクっ娘、猫科
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名字がニヤゴってどうなんだ?
猫人族の中では当たり前なんだろうか。
感じで書くと『二谷午』か?
あまり深く考えないでおこう。
パッシブスキルの熟練度はそれなりか。
称号に母思いがあるという事は、なかなか良い奴のようだな。
給料を前借りする者か……マコトは金遣いが荒いのか?
え、ボクっ娘も称号に入ってた。
この世界で使われている言葉なんだろうか……。
俺たちは今ロビーにあるソファーに腰掛けている。
「へぇ〜、ぼく旅館に入ったの初めてだったんだ〜。うわ〜内装もしっかりしてるんだね、それに玄関入ったら一部大陸の様式なのもびっくり!」
「大陸からのお客にも対応できるように設計されているんだよ」
ペティが二人分のお茶をお盆に乗せて運んできた。
「ありがとうペティ」
「いえ、ごしゅ、総支配人。お客様もお茶をどうぞ」
「あ、どうもです」
お茶をテーブルに置くとペティは仲居の仕事に戻っていった。
セルフィナには前もって【念話】を使い、ロビーには顔を出すなと言ってある。
もしセルフィナの顔をマコトが知っていたらまずいことになる。
勘の良いマコトの事だから、俺があの大名屋敷を襲撃した張本人である事に気付くかもしれないからだ。
「わっ! このお茶おいしいっ!」
猫舌ではないのが非常に残念だ……。
だが、尻尾が元気良く動いて喜びを表現しているのは非常に可愛い。
「それで、瓦版の意見だっけ?」
「そうそう。どうですかぼくの記事」
マコトがさっき売っていた印刷物をテーブルに置いた。
俺はその内容に目を通す。
「文章も分り易いし、正確な情報を伝えようとする真摯な姿勢も見て取れるから、上手に書けてると思うぞ。ただ……」
「ただ?」
「ただ、もう少し迫力というか臨場感が欲しいな」
「臨場感?」
「例えばここだ。『その謎の男は大名の護衛達を倒しながら屋敷の中を進んで行く。そのうちようやく美女の待つ中庭へ到着した。そこには大名が刀を構えていて今にも美女を斬ろうとしている。男は急いで駆け寄り女を護ろうとした』この部分はこの記事の中でも一番盛り上がるところだろ? だから文章にメリハリをつけて流れるように書くといいんじゃないか?」
「おお、なるほど、具体的には?」
「俺ならこうするな。『その謎の男は屋敷の中を走る。夢中で走る。愛する女を捜してひたすら走った。護衛が何人襲いかかろうとも男が女を求める気持ちは止まらない。その時遂に男は愛する女を見つける。だが、何人もの血を吸った刀がギラリと光り女を狙っていた。男は自分の命を顧みず愛する女を護るため、切り裂き大名の前に立ちはだかって叫んだ。俺の女に傷はつけさせない!』とか」
「うわっ! すごく良くなりましたね。まるで本当にその場にいるかのような臨場感ですよ!?」
「ま、まあな。これくらいはな」
実際現場にいたからな。
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◆パッシブスキル【添削】を獲得しました。
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「もしかしてお兄さんって、この旅館の総支配人をしながら副業で小説とかも書いたりしてるんですか?」
「いや、俺の仕事はここの総支配人だけだよ」
「本当に!? いや〜これは勉強になります。どうもです!」
日本にいた頃はアウレナで電子書籍のライトノベルを暇な時間によく読んでいたんだ。
その経験が役立ったな。
「それで旅館について取材したいんだよな? 具体的に何が知りたいんだ?」
「そうですね〜、まずは前副支配人の謎の失踪についてです」
「な、謎の失踪か」
本当は重力で押しつぶして殺してから奉行所に突き出したんだけど。
「はい。何かご存知ではないですか? 失踪した理由に心当たりとかは?」
「いや、知らないな。俺がここに来た時にはすでにいなかったからな」
そういう事にして従業員の皆とは口裏を合わせてある。
他の誰かに聞き込みをされてもバレないだろう。
「そうですか。それなら知らないですね。残念。じゃあ次です」
まだあるのか……。
「お兄さんには二人の奥さんがいるという話しを聞いたのですが、それは本当なんですか?」
どこからそんな話しを聞いてくるんだ?
確かに二人を連れて買い物に出かけたりもしたが。
「まあ、そうだな。さっきお茶を運んできた仲居のペティも俺の妻の一人だよ」
守護者任命とかいろいろ説明するのが面倒だから、はっきり言ってもいいよな。
「やっぱりそうだったんですね。あのペティさんって可愛い方ですよね! ペティさんのお兄さんを見る目が愛に溢れていたので、すぐにピンときましたよ」
え? 俺ってペティにそういう目で見られてたのか?
マコトは今日初めてペティと会ったはずなのに、そんな微妙な表情に気付けるなんて、この娘あなどれないな。
「なんか今ので良い記事が書けそうです。題名は、大旅館の総支配人と可愛い仲居の禁断で淫美な関係! とか?」
「おい。夫婦なんだから淫美な関係も何もないだろうに」
「いやー、こういう見出しのほうが売れるんですよね」
「そ、そうかもしれないが……」
「それで、もう一人の奥さんは今日はいないんですか?」
「あ、彼女は今日は忙しくてな」
「そうですか。会ってみたかったな〜、歴代遊女の中で最も美しいと言われた亡国の姫に」
そ、そんな事まで調べが付いてるのか! こいつなんでも知ってるな。
もしかして俺が大臣の屋敷を襲撃した事もすでに知られてるのか?
「そんな事までよく知ってるな」
「瓦版屋の情報収集力を甘く見てましたね?」
「そうだな」
「次はこういう見出しでどうでしょうか。大旅館の総支配人が禁断の恋に落ちた相手は遊郭の星だった! 淫らに狂い咲く床の中の捕物帳とか」
また禁断かよ。
さっきからどう聞いてもエロ小説のタイトルにしか聞こえないんだが。
「な、なかなか、いいんじゃないか?」
「それでですね、お兄さん。ここからが本題になるんですが」
ま、まさか。
今度こそ俺の話しか!
やはりバレてたのか!?
猛獣が獲物を狙うようにマコトの瞳がギラリと光ったように感じた。
「お兄さんって……」
ゴクリ。




