復讐心よりも
※ユラリ視点
俺は大名屋敷の正門の前に立つ。
「何奴だ!」
時間がないから無駄話はなしだ。
俺は意識を集中し術を使った。
「術発動、【遅延】!」
門衛の二人が動かなくなった。
正確には動きが極限までゆっくりになった。
俺は門衛の横を走りぬける。
「くせ者だ! 出合えぇぃ!! 出合えぇぇぇ!!」
俺が屋敷に侵入した事に気付いた侍達は、次から次へと姿を現し俺に襲いかかる。
俺は出てきた奴全てに遅延をかけていく。
「【遅延】! 【遅延】! 【遅延】!」
遅延スキルで十五人以上を動かなくしたとき、俺は侍達とは雰囲気の違う複数の気配に気付く。
俺はその気配に構わず屋敷の中に侵入しセルフィナの居場所を探す。
俺は感覚を研ぎすます。
「経路が見えた!」
俺は念の為に【道標フェロモン】という蟻スキルをセルフィナに使っていた。
このスキルは、使われた相手が遠くに移動しても、その移動経路を知覚できるスキルだ。
その効果はスキルの対象になった相手が死ぬか、俺がスキルを解除しない限りは一年以上持続する。
直後、黒い忍び服を来た男達九人に囲まれた。
悪いが急いでる。
俺は【縮地】を使い一瞬で五人の首を斬り飛ばした。
すぐに他の四人が俺から距離をとった。
俺はその四人にかまわず屋敷の奥に進む。
その四人が後ろから刀で斬りつけてきた。
俺は振り向かずに背後の忍者達に【影牢】というスキルをつかった。
追って来た四人は突如現れた格子状の黒い牢獄に囚われる。
その牢獄は四人の忍者を閉じ込めたまま徐々に収縮していく。
四人の忍者は収縮した牢獄に押しつぶされて圧死した。
新たに現れた二人の忍者は手裏剣を投げてきた。
俺の胸に全て命中するが【硬甲殻】を常時発動していたのでダメージは無い。
手裏剣が効かない事に驚いて隙のできた忍者二人を、俺は【遅延】で動きを止めて手刀で首を落とし、その忍者の胴体が崩れ落ちるのを見届けずに走り出す。
続けて前方に忍者三人。
後方に侍が四人。
俺は【闇沼】というスキルで周囲十メートルの床に漆黒の沼を作り出し、七人全員の足を沈める事で動きを止め、【縮地】を使いながらコマのように回転して七人の首を一瞬で斬り離した。
俺はすぐに走りだした。
セルフィナのいる中庭までもう少しだ。
俺は【縮地】を使い、待ち構えていた六人の侍の首を問答無用で落とす。
直後に襲ってきた五人の忍者を【影牢】で圧死させ、さらに斬り掛かってきた四人の侍の斬撃を躱しながら手刀でその首を斬り落としていった。
見えたっ! 間に合えぇぇぇ!!
「【遅延】っ!!」
俺は今にもセルフィナを斬ろうとしていた太った男を遅延した。
そして俺は杭に手足を縛り付けられたセルフィナに駆け寄り、彼女を縛っていた縄を切断してから彼女を抱きかかえた。
「セルフィナっ! おい! セルフィナ! 無事か!?」
「……ユ、ユラリ様。信じて、お待ちして、おりま、した」
見たところ外傷はない。
俺は彼女の顔に自分の顔をできるだけ近づけ瞳を覗き込む。
目の焦点が合わずに空ろだ。
何かの薬を飲まされたんだろう。
セルフィナが手を伸ばし優しく俺の肩に触れると同時に、屋敷の屋根の上から何かが高速で飛来した。
俺はセルフィナを抱いていたので対応が遅れてしまい、彼女の手の甲に針が突き刺さった。
吹き矢かっ!
俺はその針をセルフィナの手の甲から抜き、屋根の上にいて吹き筒を構える忍者を睨みつけた。
「【膨張】しろっ!!」
吹き矢を持っていた忍者は身体の内部から急速に膨張し全身が粉々に爆ぜた。
俺は周囲に気を張り巡らせ取りこぼした敵の気配を探る。
今度こそ敵の気配が無いのを確認したが、術の使い過ぎで頭痛が酷い。
「セルフィナ! おいっ、聞こえるか!?」
「聞こえ、ます。さっき、吹き矢が、貴方を殺す、み、未来が、見えました。あな、たを毒から護れ、て、良かった……」
脈が弱い。
心臓の鼓動も急激に弱くなってきていて顔から血色も失われていく。
さっきの吹き矢には即効性のある毒が塗られていたようだ。
急げば【守護者任命】が間に合うか!?
「聞けセルフィナ! 俺に全てをっ」
言葉を遮るようにセルフィナは俺に口づけをしてきた。
以前のように唇は震えていなかった。
そしてすぐにセルフィナの体から力が抜けていき脱力する。
今さら覚悟を聞くまでもなかったな!
「この者の名はセルフィナ・フィリオ・フォルテ。我が敵を刺し貫く剣となり、我を護り支える盾となれ! 我の元に集いし二十四守護者の一人として、ここに守護者契約を結ぶ! スキル【守護者任命】間に合えっ!!」
セルフィナの体はまばゆい光を発し空中に浮遊した。
俺の中の力がセルフィナに流れ込むのと同時に、セルフィナの背中から白く輝く光の翼が現れ、彼女の髪の毛も光を放っている。
これが天使というものか。
なんと神々しく美しい。
俺の【守護者任命】の潜在能力解放の効果で、秘められた天使の力が呼び覚まされたようだ。
それから彼女の頭上に光が集束し一枚のカードを形成した。
そのカードに描かれているのは、両手を広げ血まみれの男を優しく包み込み護ろうとする天使の姿だ。
その血まみれの男の手には文字の刻まれた剣が握られてる。
「寛大な精神と信頼を意味し、輝かしい未来を意味する守護属性。天使のカード。最後まで俺を信じ続け、俺が死ぬ未来を変えてくれたお前に相応しいカードだ」
セルフィナはゆっくりと下りてきて地面に足をつける。
「……これがユラリ様とわたくしの契約なのですね。身体の奥から活力が溢れてきます。そしてユラリ様に対する愛おしさも溢れてきて止められません」
セルフィナは俺の首に腕を回して密着し、俺の身体を輝く翼で優しく抱くように包み込む。
そして口づけをしてきた。
「ん……ちゅ……んんっ……ふぁ」
俺たちは互いを求め合うようにお互いの舌を絡め合わせる。
そしてセルフィナの柔らかで桃色の唇が、呼吸を荒くし名残惜しそうにゆっくりと離れた。
「……ふふふ。これでわたくしは名実共にあなたの物となったのですね。どうぞ末永くよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそだ」
今の彼女からは恐れや不安は微塵も感じられない。
その笑顔には俺への信頼が溢れ、まさしく天使の笑みを浮かべていた。
今回はなんとか間に合ったが、俺は反省しなきゃならないな。
もっと俺が始めから全力を出してさえいれば、セルフィナが危険な目にあわずに済んだんじゃないか。
もっと俺が世の中の噂に敏感であれば、セルフィナが連れて行かれる前に対策を立てられたんじゃないか。
俺のそんな後悔の念が伝わったのか、抱きついたままのセルフィナは俺の耳元でささやいた。
「わたくしは十二年もの間、ユラリ様と出逢えるのを心待ちにしていたのです。ユラリ様とこうして一つになれた今、これまでの全ての困難は些末なことに感じられます。ですからご自分を責めないでください。わたくしの心はこんなにも幸福に満ちているのですから」
「ああ、なんか気を使わせたみたいだな。すまない」
「実際、貴方と先ほどの契約で結ばれてから、貴方の事で頭の中が一杯になり復讐心が薄れてしまいました。復讐を遂げるよりも貴方を守り支えたい気持ちのほうが強くなったようです。私の復讐心を薄れさせた責任はどうしてくれますか?」
「そ、それもすまない。責任は取るよ」
「ええ、もちろんです。一生をかけて責任を取ってもらうつもりです」
セルフィナは俺と顔を見合わせ楽しそうに冗談っぽく微笑んだ。
ああ、可愛いな。
彼女が笑顔で過ごせる日々を実現するためなら国だって滅ぼせる気がする。
「ところで」
「ん?」
「この方はどうするおつもりですか?」
「ああ、この太っちょか」
セルフィナを切り刻もうとした太った男は、まだ俺の【遅延】スキルの効果で超スローモードのままだ。
「俺は常々思っていることがあるんだけど、聞いてくれるか?」
「ええ、わたくしでよければお聞かせ下さい」
「一思いに殺すというのは、罪を犯し続けた奴には罰にならないと思うんだ」
それから俺は太った男に蟻スキルの一つを使った。
「子供達よすくすくと育て、【蟻塚】!」
俺はそのあとセルフィナと二人一緒に旅館に帰還した。




