必ず……必ず来てくれます
※セルフィナ視点
ユラリ様は力を尽くして下さいましたが、間に合いませんでした。
でも彼は何も悪くありません。
彼は全力で私を身請けしようとしてくれていたのですから。
思えば、全ては私の至らなさが招いた事なのです。
私の生まれた国はフォルテ王国という小さな国でした。
とても昔に建国した歴史のある国で、周囲の国々からは敬意を払われていたと思います。
全ての始まりはわたくしの六歳の誕生日。
わたくしの脳裏に突然言葉が浮かび、その【預言】の言葉が将来の旦那様を指し示すものだと確信しました。
興奮しました。
すごく嬉しかった。
預言という不思議な現象を体験した事よりも、私に運命の赤い糸で結ばれた相手がいる事がすごく嬉しかったのです。
その時のわたくしはまだ何も知らない子供でしたので、この先何の障害もなく運命の人が現れ、夫婦となって幸せな結婚生活を送ると思っていました。
【預言】の能力は使おうと思って使えるものではなく、いつも突然私の脳裏に浮かび上がります。
あの不吉な【預言】の言葉も私が十四才の時、脳裏に突然浮かんだのです。
それはこうでした。
『四匹の獣が一つの熟した果実を取り合うだろう。しかし、笛蝉が飛び立つまでは獣達に果実は与えられない。四匹の獣は二つの頭を持つ二匹の獣に成長する。獣達は牙を研ぎながらも敵対せず、果実を口にする順番を決める。最初は紺色の獣が果実にかぶりつき、次は橙色の獣がかぶりつく』
私はこの預言を父であるフォルテ国王に伝えましたが。
解釈次第で様々な可能性が想定されるので、解読には時間がかかると判断され解読は後回しになったのです。
なぜなら、その時すでに四大国による戦争が始まっていたからです。
フォルテ王国は四大国の丁度真ん中に位置しており、中立を唱えていましたが、いつ戦火に巻き込まれるとも知れない非常に危うい状況でした。
今までは大きな戦乱に巻き込まれる事も無く、周囲の居並ぶ大国の顔色をうかがいながら成り立ってきた国でしたので、軍隊なんて僅かしかいません。
武力で対抗する事など無理なのです。
その後、大国同士の戦争は三年で集結します。
そう、フォルテ王国を生け贄として。
最終的には二国対二国の戦争になり、三年の間でかなりの戦死者を出しました。
四国は会談を開き戦争終結のための落としどころを話し合ったのです。
そこで満場一致で採択されたのは、フォルテ王国を西の二国が攻め取り、東の二国はそれを黙認するというものでした。
私はその四国会談でどんなことが話し合われたのかは知りません。
ただ、この戦争は始めから私の国を落とす為に仕組まれたものだという事なのは分ります。
預言の言葉では始めから四匹の獣が果実を取り合っていたのですから。
西の二国の同盟軍はフォルテ王国に攻め入り一日で陥落させました。
トランゼシア帝国の皇帝自ら謁見の間に現れ、わたくしの両親を目の前で惨殺したのです。
私が悪いのです。
預言の解読を急ぐようもっと強く父に進言していれば、最悪の結果にはならなかったかもしれません。
私は自分になぜ預言の言葉が与えられたのかをよく考えるべきでした。
それができていたのならば戦争は止められないにしても、お父様とお母様が殺されないで済む未来を選び取る事ができたかもしれません。
それからしばらくの記憶は曖昧です。
いろんな場所に行き、いろんな人に会った気がします。
酷いことはされませんでしたが、自分が奴隷という身分に落とされ日乃光の国に連れてこられたのは分りました。
心の奥には常に暗い闇の炎。
どんな苦しい目に遭おうとも必ずや両親や死んで行った兵士達の復讐を果たそうと思い続けていたのです。
私はこの国で娼婦が男性相手に仕事をする遊郭という場所に売られて来たとき、通りに面した赤い格子の奥に座る何人もの女性達を見て確信しました。
ここで運命の人と出逢うのだと。
『三つの月が三度重なり黒脚鳥の雛が鳴く季節。汝が紅き籠に囚われし時、名をユラリという男が現れる。その者は汝の真の姿を知る者。その者は汝と生涯違えぬ厳粛な契約を結び、汝の望みを叶える剣となりし者である』
私の運命の相手は預言通り本当に現れました。
そしてこんな私の全てを受け入れてくれました。
娼婦にまで落ちぶれた私の事を真っすぐに見つめてくれたのです。
鳥肌が立ちました。
世界でただ一人の運命の人に必要とされたのです。
そう言われた瞬間はあまりの幸福感で心が満たされ、復讐の事など頭の中から消えていました。
六歳の時から十二年間この時を待ち望んでいた。
十二年もの間夢見ていた事が現実となった瞬間でした。
とうとう出逢う事ができたのです。
私の全てを捧げられる人と。
今私は大きな屋敷の中庭に建てられた杭に手足を縛り付けられて立っています。
近くの台の上には赤い粉末と多種多様な凶器。
刀に包丁、針に鎌にノコギリや釘まであります。
私は『一葉』に売られて来て日は浅いですが、女を身請けして薬で狂わせ体を切り刻む男の噂は聞いていました。
まさにその狂った男に身請けされてしまったようです。
私の目前に肉欲に溺れて醜く歪んだ笑みを浮かべる男がいます。
豊かな食生活を送っているのか体中脂肪で覆われたその男は、興奮しながらわたくしに顔を近づけてきました。
「はぁ、はぁ。今度の女は気が強そうだ。そういう女の快楽と恐怖に泣き叫ぶ声っていいんだよ〜。おおっ。いいよその鋭く睨む瞳っ!」
「あなたに何をされても私は泣きはしません。あなたに体は刻まれようとも私の心までは穢せないと知りなさいっ!」
「ああ、いい! いいじゃないの! はぁ、はぁ。最近すぐ死んじゃう女が続いたからさ、今日はじっくりやらせてもらうよ。ぐふふっ」
男は台の上に乗っていた粉薬と茶碗に入っていた水を強引に私に飲ませました。
粉薬の味は酷く苦く感じましたが、不思議な事に口の中に残っている薬の味がだんだんと甘く感じられるようになっていきます。
「はぁ、はぁ、旨いだろその薬。はぁ、はぁ。それは特注の薬でね。感覚を変化させる薬なんだよ。ふふふ。苦いのを甘く。痛いのを快感にしてくれるんだよ」
「そうやって何人もの女性を薬で狂わせてから切り刻んできたのですね」
「そう、そうだよ、そのとうり。手足を斬られても痛く感じないんだからいいじゃない? 気持ちよく死ねるんだから最高じゃない? はぁ、はぁ」
「狂っている。あなたは狂っています!」
「はぁ、はぁ。いいよ、その声その表情!!」
その時男の配下が近づき、男に耳打ちをしました。
「はあ? 侵入者? そんなの早く始末してよ。何人出してもどんな武器使ってもいいからさ。セルフィナちゃんと僕の邪魔しないでよね。今いいところなんだから。はぁ、はぁ」
配下の男はすぐに何処かへ走っていきました。
侵入者? もしかしてユラリ様でしょうか。
きっとそうに違いありません。
彼は自分を信じて待っていてくれとおっしゃっていました。
大丈夫です、私は平気です。
貴方が助けに来てくれる事を信じて待ち続けます。
「はぁ、はぁ。おや? なんかさらに強気な感じになったね? なに? さっきの侵入者が助けにきてくれると思ってるの?」
「必ず……必ず来てくれます」
「ふふふ。いいよ〜、最高だねその確信に満ちた目。でも残念だけど助けはこないよ。僕が女を切り刻んで遊ぶ日は日乃光の国で最強と言われる国の暗部、忍び部隊を護衛につけてるからね。金と権力の力で雇ったんだ。はぁ、はぁ。まえに女を助けにきた男に邪魔されたことがあってさ、その男は女の目の前で殺したけどね。あの時の女の絶望した顔が今でも忘れられないよ、ぐふっ、ぐふふふふふ!」
「どこまでも卑劣な!」
「いつまでその強気を保っていられるかな? もう薬が全身にまわった頃だね。そろそろ始めようかな。ぐふふっ」
「わたくしは決してあなたを喜ばすような醜態は曝しません。私の心と身体は全てユラリ様のものなのですから!」




