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ぶーでふ!




 ……。


 とまあ、この辺で恐怖体験の実況中継は終わりだ。

 俺は冷静に宙に浮かぶ白い布をはぎ取った。


「ぶわっ! ぬ、布が!? 見つかってしまったでふ!」


 なんだこいつは、言葉を話してるぞ。

 宙に浮く小さい豚に見えるけど、この世界の魔物だろうか。

 そりゃ蟻の女王もかなり上位の魔物だから言葉を話してたけど、こいつも上位の魔物なんだろうか。


 とても賢そうには見えないし、そんなに強そうな雰囲気もない。

 二回目になるけど、なんだこいつは。


「ぶーの姿を見たからには生きて帰さないでふよっ!」


「ぶーって名前か? お前は一体何なんだ? ただの豚じゃないだろうし」


「今から死ぬ奴に答える必要はないでふ! ここで死ねでふ!」


 小さな豚は俺に体当たりしてきた。

 トンッという音がして俺の胸に当たった。

 豚だけに。


 ……。


 だ、誰か俺がスベッて自爆する前に、【冗談】スキルのレベル上げを手伝ってくれないだろうか……。


 と頭の中で考えられる程には余裕がある。

 もちろん、子豚の体当たりのダメージは無かった。

 子豚は息を荒げながら離れて行く。


「ふぅふぅ、なかなかやるでふね! ぶーの真の力を見せる時がきたようでふ。くっ! 右手に封印された邪神豚の力が溢れ出すでふっ!! ぐぁぁぁぁぁぁぁぁでふ! 来てるっ! 来てるでふっ!!」


 俺は中二病的に盛り上がっている子豚をデコピンした。


「あ痛っ! 何するでふ? もうちょっとで力の解放が成功するところだったのにでふ!」


「あ、それは悪かったな。なあ、聞きたいんだけど、お前が亡霊ってやつなのか?」


「そうでふ! 怖いでふか? 怖いでふよね? だったら今回だけ逃がしてやってもいいでふよ」


「いや、逃げるつもりはないよ。だって逃げたら討伐できないしな」


「と、討伐なんてできるわけないでふよ! ぶーは最強の亡霊でふ。そんじょそこらの亡霊とは違うでふっ! そんなぶーを討伐なんてできると思っているでふか?」


「たぶんもう一度デコピンすれば粉々だな」


「何をバカな事を言っているでふ? それくらいの攻撃ではぶーはなんともないでふよ?」


「え、でもさ、さっきのデコピンでお前の体、全体にヒビ入ってるんだけど?」


「う、嘘はいけないでふ」


 子豚はどこから取り出したのか鏡を宙に浮かべ、自分の体を確認した。


「ぶはっ!! 本当にヒビ入ってるでふ! そんなバカなでふっ!!」


「だから言ったろ?」


「ただの人間に術以外でブーに傷をつけるなんてことはできないはずでふ。お前何者なんでふ?」


「俺はお前を討伐しにきたんだ。悪いが俺もそろそろ眠くなってきたから止めを刺させてもらうよ」


「はわわわわっ!! ま、待つでふ、ちょっと待つでふ。というか許してほしいでふ。ぶーは何も悪い事してないでふよ」


「そんなことはないだろ? でなきゃどうして手配書に載っているんだよ」


「それはぶーの事じゃないでふよっ! ここにはもう一人いるでふ。めちゃくちゃ危険な奴でふ。さっきブーがお前を脅かしたのも命令されて仕方なくでふ」


「んなこといってもここに来るまで危ない奴なんていなかったぜ?」


 その時、蔵の扉が開けられ蔵の外から九兵衛の声がした。


「どうですか? 討伐できました?」


「ん? いや、まだだけど」


「早く貴方が出てこないと、クエナイダローガ!!」


 俺は突如巨大で大きな黒い手に捕まれ、蔵の外へ強引に引っ張り出された。

 そのまま屋敷の中から庭に連れてこられ空中に持ち上げられた。


「ヒャハハハハー! ヒサシブリノエモノダー!」


 なるほど、子豚が言っていたのはこいつの事だったか。

 俺も変だとは思っていた。

 俺には【気配感知】があるにも関わらず、九兵衛は俺に気付かれずに俺の背後に立っていたし、ぼろぼろの床も平気で歩いていた。


 その時、九兵衛の首から上が巨大化し、俺はその大きな犬歯だらけの口の中に放り投げられた。


「どうせだから、デコピンにしようかな」


 俺は九兵衛の口に入る直前全力を込めてデコピンをした。

 ドンッ!! という鈍い音で九兵衛の頭が消滅した。

 しかし、まだ倒しきれていないようだ。

 九兵衛の残りの体が黒い雲に変化し、空中に巨大で醜悪な顔をつくりだした。


「ナンダオマエハ!? アリエナイ! レイタイノカラダガ、フキトンダ!?」


 さっきの豚も言ってたな。

 俺の攻撃でダメージを受ける事がそんなに変な事なのか?


「オノレ! ユルサヌゾ、ニンゲン!!」


 どうしてこういう時って、すぐに逃げるという選択をしないもんかね。

 俺が奴と同じ状況ならすぐに逃げ出すけどな。

 相性の悪い相手ってものがあるだろうに。


 黒い雲は俺に襲いかかってきた。

 俺は連続で全力のデコピンを放つ。

 黒い雲は俺のデコピン攻撃で少しずつ消滅していった。


「もう後がないぞ九兵衛。そろそろ成仏するんだな」


=====

 ◆アクティブスキル【霊体攻撃】を獲得しました。

=====


 九兵衛は逃げ出した。

 ようやく逃げ出すことに決めたようだ。

 空中を逃げられると厄介だな。

 と思ったとき、蔵から子豚が高速で飛び出し、九兵衛を掃除機の様に吸い込んだ。


 残念ながら吸い込んだのは口からだ。

 個人的には鼻から吸い込んで欲しかった。


 子豚はゆっくりと俺の元まで下りてきた。


「でふふふふふ。ようやく仕留めたでふ。ぶーは九兵衛さんが極限まで弱るこの時を待っていたでふ」


「ん? どういう事だ?」


「実はぶーは九十九神なんでふ」


「聞いたことあるな。何百年も大事にされた物に宿る神だっけ?」


「そうでふ。実はさっきの亡霊は九兵衛さんと言って、ぶーの昔の持ち主だった大成功した商人でふ。世界中から様々な美術品を集める収集家でもあったんでふよ」


「この屋敷が大きいのは昔金持ちだった名残か」


「ぶーは九兵衛さんに買われて大事にされてたんでふけど、人間は寿命があるでふ。九兵衛さんも老いて死んでしまったでふよ。九兵衛さんは収集した美術品が自分の死後に他の誰かに渡るのが許せなかったんでふね。だから物に対する強い執着心が危険な亡霊に姿を変え、この屋敷に来た人を襲うようになったでふ」


「なるほどな、どうりでこんなに屋敷が朽ち果てているのに、誰も取り壊そうとしないわけだ」


「そうでふ。実は今まで何度も術士が九兵衛さんを討伐しに来たでふ。でも毎回あと一歩のところで九兵衛さんに逃げられて、討伐されないまま今に至るでふ」


「倒せないわけではなかったのか。討伐寸前に逃げられていたとはな」


「霊体は変幻自在で物理は無効なんでふ。よほどの実力差がない限り一撃で消滅させるのは難しいんでふ」


「まあ、そうだろうな」


 それにしても参ったな。討伐確認してくれるはずの人が亡霊だったから、奉行所に報告に行っても信じてもらえないな。

 今回はただ働きか。


 いや、まてよ。


 子豚の話しだと、収集した物を取られたくないから九兵衛は亡霊になったんだよな。

 ということは、貴重な収集品がまだこの屋敷に残っているんじゃないか?


「なあ、ツクモガミ」


「ぶーにはツクモっていうちゃんとした名前があるでふ。そっちで呼ぶでふよ」


 まんまじゃねーか。

 それにぶーって言うのは一人称だったんだな。

 まぎらわしい。


「なあツクモ、九兵衛の収集していた品物って残ってないか?」


「さっきの蔵の中にあるでふよ、でも昔はその何倍もあったでふけど、いつの間にか無くなったでふ」


「そうか、じゃあ残ってるやつ頂いていくわ」


「別にいいでふよ、もう九兵衛さんはいないでふからね」


 俺は蔵に入って中を改めて調べると、売れそうな物があるわあるわのザックザクだった。

 壷や絵画に掛け軸、銅像や絵皿やお椀やメイド服なんかもあった。

 メイド服、なんかも、あった?


 つっこまない。

 それが俺の忍道だ!


 昔はこの量の何倍もあったのか。

 かなりの金持ちだったんだな。

 あ、でも生ものじゃないから【食料庫】スキルは使えないな。

 どうしよう。

 これだけの数の美術品を少しずつ外に運び出すのは骨が折れる。


「面倒だな」


 思わず口にだしてしまった。


「運ぶの手伝うでふか?」


「え? そんな短い手足で運べんの?」


「し、失礼な奴でふね! これでもブーはツクモ神なんでふよ! 見て驚くでふ! 【倉庫】スキル発動でふっ!」


 蔵の中にあった九兵衛の美術品がツクモの鼻の穴に吸い込まれていく。

 これだよ、これをまっていたんだ!

 そう、鼻から吸い込むやつを!


 ではなくてスキルの事だ。

 ツクモが使っている【倉庫】というスキルは、【食料庫】と同種のスキルだろう。

 たぶん生ものじゃなくて無機物を収納できるんじゃないか?

 詳しくはアウレナ先生に聞けば分るか。


=====

 ◆ツクモ・ガミ

 種族:九十九神  状態:霊体  年齢:312  職業:豚の貯金箱

 LV:399  HP:3  MP:150  SP:150

 物理攻撃力:5  物理防御力:5  敏捷力:10  

 術効力:10  術抵抗力:10  幸運:30

 アクティブスキル:霊体吸収3、倉庫5、物体修復8、保存結界5、ものまね1

 パッシブスキル:学識6、浮遊3、透過3、霊体3

 称号:歳月を重ねた物、邪神豚に呪われし物、蔵を護りし物、貯知識箱

 補足:金貨を食べさせるとレベルが上がる。

=====


 レベルが高い! なのにめっちゃ弱いぞ。

 名前もツクモガミってまんまやん。

 それに職業が豚の貯金箱って変じゃないか?

 金貨を食べさせるとレベルが上がる? なんだそれ。

 称号にも一部中二病っぽいものが混じってる。


 ツッコミ所が満載で少し疲れてきたけど、めげずにスキルの詳細も見よう。


=====

 ◆霊体吸収:霊体を吸収し自らの力にすることができるが、格上の霊体については弱らせないと吸収できない。

 ◆倉庫:無機物を無尽蔵に収納できるが、有機物や生物は収納できない。

 ◆物体修復:破損したり壊れた物を修復できる、新品同様にすることはできない。

 ◆保存結界:指定した空間の時間を停止させる結界を張る。但し結界内に生物が存在する場合は発動することができない。

=====


 思った通り【倉庫】は便利なスキルだ。

 他のスキルも物に関係しているな。

 物体修復スキルは俺の旅館でも設備維持に役立ちそうだぞ。


 俺がツクモの能力を見終わった時、ちょうど美術品の収納も終わったようだ。


「終わったでふ。大変だったでふ」


 ん? 蔵に一つだけ何かが落ちてるぞ。

 俺はそれを手に取った。

 それは豚の貯金箱だった。


「ぶわっ!? それはぶーの本体でふ。大事に扱うでふよ」


「これも【倉庫】に収納しないのか?」


「ぶーは本体に指一本触れられないし、スキルも効果ないんでふよ」


「そうか、そういうものなのか」


 俺は豚の貯金箱を抱える。


「お前さ、これから行く当てあんの?」


「九兵衛さんの亡霊がいなくなった今、特にないでふよ」


「なら俺の旅館で働かないか?」


「旅館でふか?」


「そうだ。ちゃんと金貨で給金支払うからさ」


「なんでふって!? ぶーに金貨くれるんでふか!?」


「ああ、俺を信じてお前の全てを俺に捧げる覚悟があるならな」


「金貨くれるんだった何でもするでふよ!」


「お、おう。じゃあ雇用契約成立だな。これからよろしく頼むよツクモ」


「こちらこそでふ! 金貨よろしくでふよ!」




== 2時52分 ==


 もうこんな時間だから今日は帰るか。

 俺はツクモと一緒にぼろい屋敷を出ところで、ふと足元を見ると九兵衛が倒れていた。

 正確には九兵衛に姿を真似られた人が倒れていた。

 たぶんこの人の名前は九兵衛ではないだろうな。


 気絶しているだけだな。

 季節は春だしこの人をこのまま放っておいても、凍えて死ぬことはないだろ。

 俺はそのまま旅館に帰った。




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