絶体絶命のピンチだ!
==21時27分==
俺は旅館に戻るなりカエデに遅い夕食を頼みに調理場に入った。
そこではカエデと数人の調理補助の従業員が、明日使う食材の下ごしらえをしていたようだ。
カエデ達は俺に気付き作業の手を止めてお辞儀をした。
「あ、総支配人。お疲れ様です」
「ああ、ご苦労さん。というか、そんなにかしこまらなくていいよ。仕事さえしっかりやってくれれば、楽にしてくれていいから」
「はい、すみません」
カエデの性格なのかもしれないけど、いつも堅苦しいんだよな。
職人っぽいというか、真面目というか。
プロ意識が高いのはいいこどだけどさ。
「それで総支配人。何か御用ですか?」
「おれに夕食を作ってくれないか? 簡単なものでいいから」
「はい、わかりました。全力で作らせてもらいます!」
おおっと、目が本気だ。
カエデの事はまだよく知らないけど、自分の好きな事にはこだわりが強いタイプなのかもな。
料理人には向いてる。
「あ、の」
どうしたんだろう。
カエデが申し訳なさそうに俯いてる。
「ん? どうした?」
「後で大陸の料理に、挑戦させてはもらえませんか?」
「大陸?」
「はい。味はどうあれ日乃光の国の料理は一通り作れるという自信があります。ですが、私は新たな料理を覚えたいんです」
味はどうあれって言っているけど、カエデのつくる料理は全部めちゃくちゃ旨いよ。
なのにさらに大陸の料理に手を出そうとするなんて、向上心が高いんだな。
俺には無い眩しい特質だ。
「そういう事なら自由にやっていいよ」
「え!? 良いのですか!?」
「ああ、カエデが作れる料理の種類が増えれば、旅館の評判も良くなるだろうし利用客に大陸人も増える。思う存分やってくれ。もし料理研究の為の費用を気にしてるんだったら旅館の経費から出すから心配ない」
「あ、ありがとうございますっ!!」
え!? ど、どうしたカエデちゃん?
なんでお辞儀をしながら泣いてるの?
そんなに新しい料理に挑戦したかったんだろうか。
前副支配人はクズ族だったからな。
大方『旨いものなんか作らなくていいんです。客の機嫌を損ねない程度で、もう二度と来なくていいと感じさせる位がちょうどいいですね。大陸の料理に挑戦したいですって? あなたバカですか? そんなものにお金を使う余裕は微塵もありませんよ』なんて言いそうだ。
だとするとカエデの料理の腕は相当すごい事になるな。
客からは特にケチがついていなかったにもかかわらず、オウカも悩むくらいにこの旅館には客が来なくなった。
つまり、カエデは料理で評判を調整できていたってことだ。
悪い印象は与えないが、もう旅館に来なくてもいいと感じさせるように。
そういえばカエデの能力値見てなかったな。
アウレナ先生お願いしますっと。
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◆カエデ・べニシグレ
種族:鬼人族 性別:女 年齢:22 職業:料理長
LV:24 HP:750 MP:560 SP:980
物理攻撃力:440 物理防御力:410 敏捷力:310
術効力:210 術抵抗力:130 幸運:60
アクティブスキル:味覚強化3、嗅覚強化3、高速作業3、着火3、鬼斬り5、鬼神旋風斬5、着火5、火弾3、火炎剣5
パッシブスキル:日乃光料理知識8、調理8、美的感覚6、痛覚耐性5、腐敗感知5、器用5、豪腕5、握力5、火術耐性3、火術3
称号:料理の探求者、族長の娘、天才料理人、一途な女
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カエデって人族じゃなくて鬼人族だったのか。
カエデもセルフィナに劣らずハイスペックなスキルもってるな。
あのクズ副支配人のせいで将来有望な逸材を埋もれさせるところだった。
数値をみると物理攻撃と物理防御が高めだから戦闘訓練を積んだか、もしくは鬼人族の種族特性なのかもしれない。
どうして奴隷なんかになっていたんだろう。
これだけ強ければ腕っ節一つで世の中渡っていけそうなものだが、カエデにもいろいろ事情があるんだろうな。
俺はカエデに作ってもらった夕食を食べ、その後は東町の亡霊退治まで風呂に入ったり、ペティとお茶したりして時間をつぶした。
ペティには俺の身の上話をしてある。
俺に身も心も預ける覚悟を示してくれたし、俺もペティを信頼しているからだ。
ペティは俺の昔の話を聞いてからは、俺にとって地下での生活が辛い記憶だと思っているのか、あまり昔の事は聞いてこない。
気を使ってくれてるんだろう。
そんなペティにハナマルを三つあげよう。
深夜になったので東町の待ち合わせ場所に向かった。
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◆東町の亡霊
東町で深夜に現れる亡霊の退治。
第三級脅威魔獣
賞金額:金貨二十枚
※討伐確認の為に奉行所から人員が派遣されます。
※レベル十以上の方で術士の方推奨。
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== 2時13分 ==
ある大きなボロ屋敷の門前に到着。
ここに来るまで続いていた塀の長さから考えて相当な広さだろう。
でも、ぼろい。
半分開け放たれている朽ちた門から敷地の中を覗いて見たが、屋敷もぼんろぼんろだった。
ぼろぼろを通り越して、ぼんろぼんろだ。
するとすぐ背後から声がして驚いた。
「こんばんわ」
「おっ!? びっくりした。その格好からすると東町奉行所の関係者?」
俺が振り向くと一人の男が立っていて、その男は時代劇ではよく見る同心と呼ばれる人の格好をしていた。
黒い羽織を着ていて、腰の帯には刀と十手が差し込まれている。
こういう人達が東江の都の治安を護っているんだろうな。
「はじめまして。わたくし九兵衛ともうします」
「ああ、俺の名はユラリだ。というか顔が青いけど大丈夫か?」
「はい。心配はいりません。昔からこうですから。では参りましょうか。亡霊の討伐をしにきたんですよね?」
「そうだ」
「では、亡霊の出る場所へ御案内します。どうぞこちらへ」
「もう出現場所は分っているんだな。楽でいいや」
俺は九兵衛の後に続いてぼんろぼんろの屋敷の中に入った。
外から見た通りに壁や瓦屋根なんかも崩れていて、床も痛んでおり踏み抜かないように慎重に歩く。
俺に比べて九兵衛は足元を気にした様子もなく歩いていた。
そうか、何回も討伐確認の為に来ているから慣れているんだな。
ということはだ、今まで討伐されずにいた亡霊ってかなり厄介な奴かもしれない。
本当に手配書のとおりにレベル二十で討伐できるのか?
俺は面倒な仕事になるのを覚悟してどんどん屋敷の奥へと入って行った。
「到着しました。こちらです」
そこは屋敷の中に作られた倉庫だった。
この国では蔵というやつだ。
その蔵の扉は金属の分厚いものだったが、すでに人が一人通れる程開いていた。
「わたしはここでお待ちしています。もし討伐できたらおっしゃってください。私も中に入って確認させていただきますので」
俺は慎重に蔵の中に入ると、お約束のように分厚い金属の扉がバタンと閉まる。
こういう暗い場所では、あるあるだよな。
扉が閉じてからお化けなんかが登場するんだ。
周囲は真っ暗で何も見えない、のは普通の人。
俺には地下生活で培った【暗視】スキルがあるので、全く光がなくても薄暗く見えるのだ。
すると積んであった木箱の後ろから小さな影が出てきた。
なんだ? 亡霊か?
その小さな影は空中に浮き上がったと思ったら、次の瞬間白い姿の亡霊が表れた!
その白い姿はゆらゆらと揺らめき、まさに俺を飲み込もうとして覆いかぶさってきた!!
絶体絶命のピンチだ!
俺は命の危機を感じ取り外に出ようと扉に手をかけるが開かない!
もう終わりだ!
こいつに殺される!!




