海竜
海竜は俺に向かって大音量で鳴く。
「ギョアァァァァァァァ!!」
海竜の体の大部分は海中に沈んでいるので全長は予想するしかないが、たぶん百メートルを越えるだろう。
その時、海竜の周囲に直径一メートルほどの水の玉が無数にできあがり、それが弾丸のように高速で飛来した。
直撃したらその衝撃で全身の骨が砕けそうだ。
俺はウミスケに前もって聞いていた事を思い出す。
『いいかあんちゃん。海竜の得意な攻撃は三つある。まず一つは高速で撃ち出される【水弾】。軌道をよく見ればかわせる』
俺は軽快な足さばきで【水弾】を躱す。
『二つ目は足元から突き出る高速回転した水のトゲだ。足元へ常に意識を集中していれば、海水が渦巻くのが分るはずだ。そしたらすぐにその場から離れろ』
足元の海水が渦巻いた。
俺はすぐにその場から飛び退く。
俺がさっきまで立っていた海上に無数の水のトゲが突き出て、まるで針山のようになった。
危ない攻撃だ。
ウミスケに前もって教えてもらわなければ躱すのは難しい。
怪我では済まなかっただろう。
俺はその後も【水弾】や【水棘】を躱しながら水竜に近づいて行く。
『あんちゃん、魔物が最も力を発揮するのはいつだと思う? 得物を喰うときに噛み付く時だ。海竜ほどの魔物に噛み付かれたら鋼鉄だって砕けるだろう。三つ目の攻撃方法である【噛み付き】は何がなんでも躱さなきゃならねえぞ!』
海竜が大口を開けて俺を噛み砕こうと高速で迫る。
俺は高く跳躍し躱すが、まだ空中にいるうちに海竜の尻尾が海中から突如として突き出し、俺の背中を打つ。
「ぐはっ!!」
俺は背中を強打され、海面に打ち付けられる。
スキルのおかげで沈まないし、ある程度の衝撃を吸収してくれたみたいだ。
今の攻撃はさすがの俺でも効いたぜ。
「あんちゃん! 大丈夫かっ!」
「ああっ! 平気だ!」
巨体なのに素早い動きをする。
伊達に海の守り神として恐れられてきたわけじゃないようだな。
さて、どうしてやろうか。
俺に一撃を与えたんだ、心の底から後悔させてやるか。
俺は全身の力を抜き自然体で海上に立つ。
「どうしたあんちゃん!? まだ戦いは終わってないんだぜ!?」
ウミスケが心配して俺に声をかけた。
まあ、見てろって。
海竜が俺に向かって大口を開けたまま襲い来る。
俺は動かない。
「あっ、あんちゃん避けろ!!」
海竜は俺にかぶりついた。
「あ、あんちゃん!!」
その直後、海竜は悲鳴のような咆哮をあげた。
「ギュアァァァァァァァァァァ!!」
俺は海竜の口を押し広げ強引に顎を開いた。
「なんだよ、ご自慢の牙の硬さはそんなもんかよ。それくらいじゃ俺の【硬甲殻】に傷は入らないぜ」
【硬甲殻】とは蟻スキルの一つで、全身の肌の強度を鋼鉄よりも硬くするスキルだ。
「はあ!? 嘘だろ!! あんちゃん! 大丈夫なのかい!?」
「ああ! 大丈夫だって言っただろ!」
俺は海竜の口の中から海竜の頭を手刀で縦に切り裂いた。
海竜の大きな頭から赤い血しぶきが飛び散っていく。
「こいつはすげえや……本当にやっちまったよ」
「そういや聞いてなかったけど海竜の真珠ってどこにあるんだ?」
「へ? あ、ああ真珠は海竜の喉の奥にあるぜ」
「お、これか」
俺は海面に沈みはじめた海竜の喉の奥から、半光沢の白い球体をもぎ取ってから海上に着水した。
いままで返り血浴びないようにしてきたのに、オウカからもらった着物が海竜の返り血で全身真っ赤だ。
洗浄スキルで綺麗になるから大丈夫だけど、気分は良くないな。
海竜の死骸はゆっくりと海の底に沈んでいった。
俺はウミスケの船に戻り乗り込んだ。
「あんちゃん! やったよ! とうとう海竜やっつけたよ!」
「ああ、そうだな」
俺は着物の汚れのことでテンションが低い。
洗浄で綺麗にできるけど、陸に上がってからだな。
海竜の血は生臭くてぬめぬめして嫌だ。
そう、俺の嫌いなぬめぬめだった。
「あんちゃんのおかげだぜ!」
「いや、おっちゃんがいなけりゃ討伐できなかったから、俺だけの手柄じゃないさ」
大喜びのウミスケと若干テンションの低い俺は港に戻った。
そういえば亡霊退治の依頼では討伐確認の為に奉行所から人員が派遣されるって手配書に書いてあったな。
西町の口入屋に戻る前に東町の奉行所に寄ってみるか。
俺は洗浄スキルで血まみれの身体を綺麗にしてから東町奉行所に向かう。
奉行所の前に到着し、奉行所の外観を見てみると西町奉行所と作りは大体同じだった。
俺は門の外にウミスケを待たせて奉行所の玄関に入り、受付の女性に用件を伝える。
すぐに待ち合わせ場所と時刻が書かれた紙を渡された。
待ち合わせ時間は深夜か。
さてと西町の口入屋に討伐報告にいくか。
==18時18分==
「はいっ!? 今なんと?」
口入屋の受付担当のコウメが信じられないという顔をしている。
それもそうだ。
今日掲示されたばかりの特級脅威魔獣を倒してきたんだからな。
「だからさっき言っただろ? ねえちゃん、おれの話聞いてたか? このあんちゃんが今さっき海竜をぶったぎってきたんだよ」
「え? えっ? 本当なんですか?」
「おうよ! ほら、証拠の海竜の真珠だ」
ウミスケは拳大の白い球体を受付の台にゴロリと置いた。
「し、少々お待ち下さいませっ!」
コウメはあわてて鑑定に向かった。
彼女はすぐに戻ってきた。
「確かに海竜の真珠と確認しました。それにしてもすごいです! あの海竜を討伐するなんて!」
「だろう? すごかったぜ! 一撃だよ一撃っ!」
「い、一撃ですか……。あ、報酬はどうされますか? お二人で分割されるんですか?」
「はあ? んなわけねーだろ。全部あんちゃんにやってくれ」
「おい、おっちゃん。俺は半分でいいぞ。さっきも言ったが二人が協力したから倒せたんだ」
「いーや! 俺は受け取らねーぞ。金には困ってねーしな。とどめを刺したのはあんちゃんだから全部もらってくれ。でないと俺の気が済まねえ!」
なんかこういう気前の良いところって江戸っ子って感じがするな。
「そうか? じゃあ遠慮なくもらっておくよ」
「おうよ! いやはやこんなに気分がいいのは、子供のころ親に初めて漁についていった時ぶりだな! うっはっはっはっはっはっは!」
俺のスフィアカードに海竜討伐の賞金が入金された。
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所持金
金貨:1934枚
大銀貨:35枚
大銅貨:43枚
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「じゃあなあんちゃん。海のことで困ったらまたおれに任せてくれよ。あんちゃんの頼みならなんでも協力するからよ! おれは東町の潮風長屋ってところに住んでるからよ」
「ああ、本当に助かったよ。またなおっちゃん」
ウミスケは軽快な足取りで鼻歌を歌いながら港の方角に帰っていった。




