いつもの日常とケシカラン胸プリンの幼なじみ
西暦二千七十七年の日本のとある高校のとある教室。
俺の名前は月海原・由良里、十七才。
高校二年生をテキトーにやってる。
俺は小さい頃から一生懸命だとか精一杯頑張るということが嫌いだった。
なぜって?
そんなの簡単な理由だ。
だるいから。
なんせ俺のモットーは『無理せずテキトーにゆるゆると』だからな。
そんなだから俺のテストの成績はいつも中の中。
狙ってやってるわけではないけど、無理しない程度に勉強するといつもそんな成績になってしまうのだ。
何事も広く浅く楽にするのが好きだから、一つの分野を極めるタイプの人間ではない。
特に何かの才能があるわけもなく、異性にモテる外見でもない。
自分で言うのも変だけど、俺はどこにでもいる平凡な高校生だ。
将来は楽して稼げる仕事をしようと思っている。
そんなに世の中は甘くないって? それは理解しているつもりだ。
俺だってちゃんと考えてるさ。
まずは道ばたで倒れている大富豪を助け出し、大富豪から感謝の印として大きな旅館の支配人に抜擢される。
それから人を沢山雇って旅館の仕事を優秀な部下達に丸投げし、俺は簡単な指示だけして遊んで暮らすのだ。
我ながら完璧で現実的な計画じゃないか。
え? 考えが甘すぎるって? そんなこと実現するはずがない?
あるかもしれないじゃないか! 可能性はゼロじゃないんだ。
どうして旅館なのかって?
三年前に病気で死んだ母さんの実家が有名な温泉旅館で、母はそこの若女将だったんだ。
親父は世界的に有名な研究者で、自分の研究室に籠りきりでほとんど家には帰ってこない。
そんな変わり者の親父だったから、母さんは俺の世話をしながら旅館の仕事を続けていたんだ。
どうしてそんな親父と結婚したのかは、母さんに聞いても教えてくれなかったから未だに謎だ。
俺はその旅館で小さい頃から旅館の仕事を見ながら育った。
だから将来は旅館を継いで繁盛させてやるという夢を抱くようになった。
母さんは俺に旅館の仕事についていろいろ教えてくれたから、それなりに旅館については知っている。
思いやりと、おもてなしの心。
お客さんの喜ぶ姿を見たきた俺は、子供ながらにその仕事の素晴らしさに感動し、将来自分の旅館を建てる事が夢になった時期もあった。
そういう理由もあるが、ぶっちゃけ観光名所が近くにあって客が絶えないホテルや旅館っていうのは儲かる仕事なんだよ。
優秀な人材に旅館を任せれば、俺は一生楽して暮せるという事。
「由良〜! おはよっ!」
講義室に俺の幼なじみが入ってきた。
完璧な未来予想図を妄想していた俺に向かって、教室に入るなり元気に挨拶してきたショートカットの娘は、俺とは幼なじみの十六夜橋・千鳥だ。
俺の数少ない友人達の中でも付き合いが一番長い。
俺とは小学校から一緒で実の兄妹のように接してきた。
だけど俺は中学に入ったあたりから千鳥と一定の距離をとるようになった。
なぜなら彼女は日本人の平均値を大幅に上回る胸囲の持ち主。
つまり、千鳥はケシカラン胸プリン様だったのだ。
俺はちょうど思春期を迎えて異性に関心を持ち始め、どうしても彼女の事を意識せずにはいられなかったんだから仕方が無いだろう。
俺としては彼女の豊かな胸に視線がもっていかれないよう、日々抵抗するのが精一杯だったんだ。
本当はずっと見ていたいし、揉んだりしてみたかったよ。
育ち盛りの男の子ってみんなそんな感じだ。
だから意識し過ぎて逆に距離を取ろうとするんだよな。
思春期の男の子心って複雑なんだよ。
「ああ、千鳥か。うっす」
俺はいつものように気怠げに挨拶を返す。
実際にだるい。
「あんたさ、いつも覇気がないわね。シャキッとしていれば良い男に見えなくもないのに」
そう言って冗談っぽく微笑む彼女に俺はドキッとした。
見慣れてはいるが彼女の容姿は可愛いのだ。
「そんな怠けてると、いつまでたっても彼女できないわよ」
「ほっとけっ!」
俺の通う高校の授業は大学のように単位制で、一部の必修教科を除きほとんどの授業は自分で選ぶ事ができるんだ。
特に自分の席も決められていないのに、こいつはいつも俺と同じ授業を選択する。
その理由を聞くと「あたしが見張ってないとすぐに怠けるからよ」なんて言ってた。
そんなに不真面目に見えるのかよ。
まあ、実際怠けるから反論はできないが。
千鳥はいつものように俺の隣の席に座って、花柄の赤いリュックを机に置き、中から筆箱やノートを取り出している。
そういえばこいつ、小さい時から花柄が好きだったな。
「ねえ由良。今回のレポートの課題難しくなかった?」
「え……?」
「次世代ナノマシン、Augmented Reality Nanomachine、頭文字をとって通称アウレナ。その可能性について考察するっていうやつよ」
「え? あ、ああ。うん。難しかった、かな?」
「……もしかして、忘れたの?」
「け、決して忘れたのではない。忘却という人間の脳内現象に対する俺なりの行動実験をだな」
「忘れたのね」
「……はい」
千鳥が小さく溜息をついて俺にノートを差し出してきた。
ノートまで花柄だ。
ほんとに花柄が好きなんだな。
いつからだっけ?
まあいいか。
「課題のレポートを提出するのはいつも授業の最後だから、それまでに写してね」
「いいのか?」
「ええ。でもあんたが写した事は月海原博士にばれないように工夫しなさいよね」
「おおっ、助かるよ。やっぱり持つべきものは幼なじみ兼親友だな」
俺は千鳥からノート受け取る。
なぜかそのときの千鳥は苦笑したように見えた。
まあ、俺の気のせいだろう。
ん? 学生達が増えてきたな。
もうすぐ次世代ナノマシン論の授業が始まる時間だ。




