預言の言葉とチョロい俺
「え? 復讐とか旦那様になるって言われても意味が分らないんだけど?」
「それについては、わたくしの預言についてお話しなければなりません」
預言だって?
今確かにそう言ったよな。
「ユラリ様がここに現れるのを知ったのは六歳の誕生日でした。その日は、フォルテ王国の姫であるわたくしの誕生会が盛大に行われていましたが、その最中に突然脳裏に言葉が浮かんできたのです。それが生まれて初めての預言を受けた時でした。そのときの言葉はこうです」
セルフィナは目をつむると過去の預言を口ずさむ。
「三つの月が三度重なり黒脚鳥の雛が鳴く季節。汝が紅き籠に囚われし時、名をユラリという男が現れる。その者は汝の真の姿を知る者。その者は汝と生涯違えぬ厳粛な契約を結び、汝の望みを叶える剣となりし者である」
「三つの月?」
「三つの月が重なるのは四年に一度。それが三度ということは十二年後という事です。当時六歳のわたくしが十八歳になる年、つまり今年です。黒脚鳥というのは渡り鳥で、その鳥の雛が産まれるのは春。この事から十八歳の春ということになります」
この世界って月が三つあるのか。
夜に空を見てなかったから気付かなかったよ。
「ああ、なるほどね。でもさ、復讐とか旦那様っていうのは?」
「『その者は汝の真の姿を知る者』。これは能力隠蔽レベル十を持つわたくしの正体を見破れる者である事。『その者は汝と生涯違えぬ厳粛な契約を結ぶ』という言葉からは、ユラリ様とわたくしが夫婦になるであろうと解釈できます」
「なるほどな」
「『汝の望みを叶える剣となりし者』。この部分については私の望みを叶えるのに協力してくださる方という意味でしょう」
「お前の望みっていうのが復讐だと?」
「その通りです。聞き及んでいると思いますが、わたくしの母国であるフォルテ王国は大国同士の戦争に巻き込まれ滅びました。その復讐こそが今のわたくしの望みです。ですからこの預言の言葉ではユラリ様が復讐を遂げて下さると解釈できます」
「預言の言葉の解釈は分ったけど、俺はお前の復讐を助けるつもりは全くないよ」
「え? そ、それはどういう?」
「どうもこうもないさ。俺は面倒ごとが嫌いでね。できる限り楽して暮らしたいと思ってる。国同士の争いに加担するつもりは毛頭ないし、個人的な復讐に力を貸すなんてしたくないな」
「そ、そんな!? 預言ではわたくしの望みを叶えるのは貴方だと!」
「預言がどうあれ俺には関係ない。俺はやりたいようにやる、それだけだ」
「お力をお貸し下さいユラリ様っ!! トランゼシア帝国の皇帝は、わたくしの両親を目の前で八つ裂きにして殺しました。彼を殺すまでわたくしが持つ物全てを犠牲にしても復讐すると誓ったのです! どうか、どうかお願いします!!」
「そんなこと突然言われてもな。そのトランゼシアだっけ? 大陸の強国なんだろ? そこの皇帝を殺すなんて現実的に考えて無理だって。諦めた方がいいぜ」
「復讐を辞める時はわたくしが死ぬ時か、復讐を成し遂げた時だけです。お願いします。復讐を遂げられるならわたくしにできることを何でも致します。貴方に差し上げられるものならば全てを差し上げます!」
「自分の命さえも捧げられるか?」
「もちろんです!」
「じゃあこうしよう。今俺は旅館で働く優秀な人材を捜している。これから旅館で俺の為に働いて、俺に全てを捧げて死ぬまで隷属を誓えるというのなら、お前の望みを叶えてやる」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。必ずお前の望みを叶えると約束しよう。だが復讐を遂げる期限は決めないことにする。今は旅館の従業員探しで忙しいからな。どうだ? それでもいいか?」
「はいっ! それで結構です。わたくしの預言は今まで外れた事はありません。貴方が復讐を遂げて下さるというのであれば、時間がかかろうともきっと現実となるでしょう。本当に感謝しますユラリ様っ!」
「感謝するのはまだ早いと思うけどな。それじゃあこれからよろしく頼むよセルフィナ。といってもお前はまだ『一葉』の遊女であることには変わりない。それに今の俺にはお前を身請する金がない。だからすぐに金を稼がなきゃならないわけだが……」
「わたくしに良い考えがあります! 聞いて頂けますか?」
「ああ、聞こう」
セルフィナの良い考えとは高額の賞金首や魔物を討伐し、手っ取り早く金を稼ぐという方法だった。俺も真っ先に考えた方法だが彼女の話を詳しく聞くと、なかなか効率的なやり方を提案してくれた。
まず、俺が口入屋に行き高額の賞金首の仕事を受ける。
そしてセルフィナに再び会いにきて、彼女の【天占術】で賞金首の居場所を突き止め、それを討伐することにより効率よく彼女の身請け金を稼ぐというものだ。
ただしその方法には問題がある。
一度この部屋から出ると再びセルフィナに会うために金貨五十枚が必要になることだ。
少なくとももう一回分の代金を俺が自力で用意しなければならない。
それができたら、後は賞金首を討伐して得たお金でセルフィナと会う為の代金を支払っていけばいい。
もたもたしているとどこかの金持ちの男が、俺より先に身請け金を用意してセルフィナを連れて行くかもしれない。
そうなるとセルフィナを旅館で働かせる事ができなくなる。
つまり、俺のゆるゆる人任せ異世界生活が遠のくということだ!
そんなことはあってはいけない。
俺は早くのんびりしたいのだ。
セルフィナを俺が身請けできるかどうかは、俺がいかに金貨五十枚を迅速に用意できるかにかかっている。
そうと決まれば急いで口入屋に行かねば。
「なあセルフィナ。もし俺が賞金首を殺せないような弱いやつだったらどうしてたんだ? お前の提案した作戦自体が不可能になるけど?」
「わたくしの復讐を遂げる為に大国の皇帝を相手になさるお方が、賞金首の犯罪者ごときに負けるはずがございません」
「ま、それもそうか」
確信に満ちた目だ。
信じて疑わないって目だな。
相手は皇帝だから実際は復讐できるかどうかなんて分んないぞ?
「じゃあ少しの間待っていてくれ。必ず身請け金を用意してお前を俺のものにしてやる」
「は、はいっ! こちらこそ、ふつつか者ですがよろしくお願いします!」
セルフィナは顔を赤くして目に涙を浮かべ、笑顔になって喜んでいる。
笑顔も可愛い人だな。
そんな笑顔を見せられると、なんだかやる気が出てくるぞ。
絶対にセルフィナを身請けしてやる。
そうか、ペティのときもそうだったけど、俺って笑顔の可愛い人に弱いんだな。
俺って案外チョロいんじゃないだろうか。
いや、そんな事は無い。断じて無い。
俺は一階に下りるとセルフィナの身請け金が幾らになるのか精算所の女に聞いた。
すると金貨三千三百枚というものすごい額だと聞かされた。
日本円に換算して六千六百万円にもなるのだ。
家が一軒建つな。
俺は遊郭を出て口入屋に急いで戻った。




