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口入屋に行こう

 



 俺は道行く人に場所を聞き、旅館に一番近い西町にある口入屋くちいれやにいる。

 アウレナで時刻を確認した。


== 11時33分 ==


 木造三階建ての建物で、一階は窓口が十もあって求職者に仕事を紹介している。

 その受付担当者は全て着物の女性だった。

 それに美人な娘ばかりだ。


 もしかしてこの口入屋くちいれやの受付って人気がある仕事なのか?

 こんなに綺麗な人ばかり採用できるんだからそうかもしれない。


 彼女達は一段高くなった座敷に正座し座卓の上で帳簿を確認したり、算盤を使ったりしながら親切な態度で求職者の相談にのっていた。

 求職者も女性が多いな。

 この国の男女比率を考えると女性が多いのは仕方が無いのか。


 口入屋くちいれやの中を見回すと素材の収集依頼や魔物の討伐依頼の掲示板もある。

 その他には素材の換金所や、職業を変更する時に使用するスフィアが光を放ちながら宙に浮いている場所、二階と三階に上がる階段の側には職業訓練場と書かれた張り紙がある。


 こうして見るとスキルを習得できるスフィアって一体なんなんだろうな。

 この世界では一般的に受け入れられているようだけど、謎に包まれた光の玉だ。


 俺は受付にできていた行列の最後尾に並び、約三十分くらい待ってようやく俺の順番が廻ってきた。


「あのう、ここで人材募集は頼めますか?」


「ええ、可能ですよ。商家の若旦那様ですか?」


「いえ、日乃光旅館の総支配人なんだけど」


「え!? あの大旅館の!? 国営の旅館の総支配人なんて安定した高給で今までにない好条件っ!、家族から行き遅れだと陰口を言われてきたけれど、こ、これは玉の輿の大チャンスだわ!」


「玉の輿?」


「な、なんでもありません! こっちの話しです」


 受付で俺に対応してくれたのは、コウメという名の二十代前半の女性だった。

 なぜだが彼女の俺を見る目がギラギラしているのは気のせいだろうか。


「当口入屋くちいれやのご利用は初めてでいらっしゃいますか?」


「ああ」


「それではまず、こちらのカードに親指を押し当ててください。このカードはスフィアカードといって、様々な場所での身分証明や財布として使えます」


「こうか?」


 俺は銀色のカードに親指を押し当てた。

 するとそこには親指の指紋がくっきりと刻印され、カードの中に自動で俺の能力値が表示された。


=====

 ◆ユラリ・ツクミハラ

 種族:人族  性別:男  年齢:17才  職業:旅館の総支配人

 LV:1  HP:100  MP:100  SP:100

 物理攻撃力:50  物理防御力:50  敏捷力:40  

 術効力:40  術抵抗力:40  幸運:10

 アクティブスキル:なし

 パッシブスキル:学識1、集中1

 称号:一般人、地下の住人、異世界転移者、大旅館の改革者

=====


「はい、スフィアカードは無事に作成できました。大切な物なので無くさないで下さいね」


「それで財布にもなるってどういうこと?」


「現金は硬貨ですので重くて持ち歩くには不便です。そこで当口入屋くちいれやでは手持ちの現金をスフィアカードに入金することができるんです。他の店舗でカードを使って買い物もできるんですよ」


 ああ、これは電子マネーと同じだな。

 こんな現代的なシステムが一般化してるのか。

 思ったより進んでるな。

 これもスフィアという謎の玉の恩恵だろうけど。


「現在お持ちの硬貨をカードに入金なさいますか?」


「そうだな、やってくれ」


「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」


 俺は硬貨の入った袋とスフィアカードをコウメに渡した。

 すると口入屋くちいれやの奥の部屋へ入って行く。

 すぐに戻ったコウメは俺にスフィアカードを返してくれた。

 俺の能力値が記載されている面を表面だとすると、裏面に俺の現在の所持金が記載されていた。


=====

 所持金

 金貨:52枚

 大銀貨:10枚

=====


 そういえば、副支配人を殺したのに称号に殺人者が追加されてないな。

 代わりに大旅館の改革者が追加されてる。

 もしかして犯罪者を殺しても殺人として認識されない仕様なのか?


「スフィアやスキルについての説明は必要ですか?」


「ああ、使った事はあるけど、念のために頼む」


「かしこまりました。あちらで光っていて宙に浮いている球体がスフィアというものです。あれに触れて頂くと職業ごとに独自のスキルを習得したり、習得したスキルのレベル上げをすることが可能です」


 地下で使っていた黒いスフィアと一緒だな。


「スキルのレベルを上げる方法には二通りございます。そのうちの一つはスキルを繰り返し使用したり、スキルに関連した行動をすることで熟練度を上げる方法です」


 そういえば、そうだったな。

 スキルを繰り返し使えばスキルレベルは上げられる仕組みだった。

 だけどスキルを繰り返し使うのは大変だ。

 だってMPやSPだって減るし、それこそ血の滲む努力をしなければならない。


「もう一つは動物や魔物などの生物を倒して自身のレベルを上げ、その時に得られるスキルポイントを消費してスキルレベルを上げる方法があります」


 でもスキルレベルは高くなればなるほど、さらにレベルを上げるために必要なスキルポイントも多くなるんだ。

 アウレナに必要になるスキルポイントの一覧を出してもらおう。


=====

 ◆スキルレベル上昇に必要なスキルポイント 

 レベル1:1   レベル2:3   レベル3:6   

 レベル4:10  レベル5:15  レベル6:21  

 レベル7:28  レベル8:36  レベル9:45  

 レベル10:55  

=====


 例えばスキルレベルゼロの状態からレベル九にしたいなら、スキルポイントが四十五必要になるということだ。

 元々レベル九のスキルをレベル十に上げるにはスキルポイントが十必要だということになる。


 動物や魔物を倒して自分のレベルを上げ、得たスキルポイントでスキルを強化したほうが効率がいいのは間違いない。

 一レベル上がるごとにスキルポイントは二ポイント得られるはずだ。


「ちなみに各職業で習得できるスキルには個人差がございますので、習得速度やスキルの最大レベルにも差が生まれるようです」


「え? そうなんだ。それは初めて知ったよ」


「個人の才能や性格、種族や生活習慣なども影響するようですね」


 なるほど、言われてみればその通りだ。

 個人差が出て当たり前か。

 個性に合わせた職業に就けば早く上達するという事だな。


「ですから、職業にも向き不向きがあるということです。中には生まれながらにスキルを持っている人もいるという話しを聞いた事がありますが、非常に稀ですね」


 ライトノベルなんかでは異世界からの転生者は、生まれながらにスキルを持っていたりするけど、この世界にもそんなチートな奴がいるんだろうか。

 ここに異世界転移者がいるんだから、転生者だっているかもしれないな。


 ちなみに俺がこの世界に飛ばされてきた時はチートスキルは無かった。

 アウレナで情報を見る事ができるのが唯一の特技と言えば特技になるけど、そんな能力があっても、弱肉強食の魔物の世界ではあまり役には立たなかったよ。

 おかげで地下では酷い目に会ったし、すごく苦労した。


「二階と三階は効率よくスキルレベルを上げるための訓練場になっています。使用料金は国からの補助金で賄われていますのでご自由にご利用下さい」


「おお、そうなんだ。為になったよ」


「続いて先ほどご依頼の職員募集要項の作成に移ります。こちらの用紙にお名前と必要事項などを記入して頂けますか?」


「わかった」




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