採用の決め手は笑顔
「この者の名はペティ・アスティオ。我が敵を刺し貫く剣となり、我を護り支える盾となれ! 我の元に集いし二十四守護者の一人として、ここに守護者契約を結ぶ! スキル【守護者任命】発動っ!!」
俺がそう叫ぶとペティの血塗れた体はまばゆい光を発しゆっくりと宙に浮く。
俺の中の力がペティの中に流れ込む感覚がはっきりと分った。
それからすぐにペティの胸の傷は塞がっていき弾丸が体外へ排出される。
血が染み込んだ着物も綺麗に浄化され、弾丸によってできた穴も無くなった。
ペティの身体も着物も元通りだ。
そして彼女の額の位置に光が集束し、輝く一枚のカードを形成していく。
そのカードに描かれているのは逆さまに吊るされた女性だ。
光輝く鍵をネックレスとして首にかけている。
一見すると鍵の重さで逆さになっているようにも見える。
「慈悲や献身を意味し、努力する人を意味する守護属性。吊るされ人のカードか。ペティに相応しいな」
俺はペティに自らの力を分け与えることにより、俺を守護する者としての新たな人生を与えたんだ。
共に俺のテリトリーを護っていくパートナーとして生まれ変わらせる儀式。
それが【守護者任命】だ。
この【守護者任命】というスキルは、蟻の女王のスフィアで習得した最上級のスキルで、俺を守護する者を二十四人選ぶ事ができ、選ばれた者は潜在能力が開花し秘められた能力を発揮できるようになる。
それに加えて守護属性というものが与えられ、その守護属性に特化した存在に生まれ変わる事で、新たにスキルを獲得したり基本能力値も底上げされる。
ペティの体の発光現象が収まり、ゆっくりと床に着地したのを見届けた俺は彼女に声をかけた。
「ペティ、生まれ変わった気分はどうだ?」
「え、わ、私どうして生きてるんですかっ!? 胸を撃たれて、そのまま死ぬんだと思っていたのに……?」
「お前は俺のスキルの効果で回復した、というか生まれ変わったんだよ。詳しい事は後で話すが、お前が生きる事を望んだから俺の守護者として生きる新たな人生を与えた。それで? 体の調子はどうなんだ?」
「え、えーと……どうしてか分らないですけど、すごく体が軽いです。そして内側から力があふれてくるような暖かくて幸せな感じもします。それにいつの間にか新しいスキルを習得したみたいで、不思議と使い方もはっきりと分ります……じ、自分の身体じゃないみたい……」
「よし、成功だな」
俺は血で汚れた床に意識を集中しスキルを使う。
「俺の周囲の【洗浄】。対象は流れ出た血液だ」
空中にバスケットボールくらいの黒い球体が精製され、床に広がった血を吸収し始めた。
床に染み込んでいた血液だけを吸収し終えた黒い球体は、すぐに跡形も無く掻き消える。
俺が今使ったスキルは便利な掃除機のようなスキルだ。
生物以外のものなら指定したものをある程度吸い込んで消滅させる。
「はわわっ!? 床の血が黒い玉に吸い込まれていったと思ったら、消えましたよっ! え? なんで!? すごいっ!!」
ペティは元気に驚いているから、もう大丈夫そうだな。
俺は周りで先ほどの一部始終を見て驚愕し、硬直している従業員達に声をかける。
「さてと、今お前達は俺の支配下にあるけど、ここで働きたくないというのならば、その意思を尊重して出て行くのを止めない。すぐにここから出て自由に生きろ。もしここで働きたいというなら正当な給金を払ってやる。だが副支配人のように俺に逆らうようなら」
俺が最後まで言い切る前に、他の従業員達から喜びの歓声が上がった。
「や、やった。あの男から解放されたんだ!」
「もう激痛に苦しまなくて済むのね!」
「あんなやつ死んで当然だ、ざまあ見ろ!」
あ、なんか喜んでるな。
よほどあの副支配人だった男に酷い扱いを受けてきたんだろ。
料理長のカエデが神妙な顔で歩み出た。
「……あ、あんた、すごい事ができるんだね。ユラリとか言ったか。副支配人にはみんな酷い目に遭わされていて、長い間苦しめられていたんだ。あいつからあたいらを解放してくれた事に感謝するよ」
「別にお前達の為にしたことじゃないから気にするな」
「だとしても、ありがとう」
カエデに深々と頭を下げられた。
「それで? お前達はこの後どうするんだ?」
「あたいはできればこの旅館で働いていたい。あんたが副支配人のようにあたいらを酷く扱わないならばの話しだけど」
「ああ、もちろんそんな事はしないさ。俺としてはただ真面目に仕事してくれればそれでいいよ」
「じゃあ、あたいはここに残ることにする。いいだろうか?」
「歓迎する。旅館に料理人がいないと話にならないからな。あ、それと、副支配人の指示だったんだろうが、今後は料理で手抜きはするなよ」
「分っている。もちろん手は抜かない。あたいは自分の実力を最大限に発揮して旨い料理を作るのが望みだったんだ。これからよろしく頼みます、総支配人」
他の従業員達はどういう決定をしたかというと、結局残りの全員が旅館に残って仕事を続ける道を選んでくれた。
彼らは元々家が貧しくて奴隷として売られたり、身寄りがなくて生きる為に自ら奴隷になる事を選んだ者達だ。
自由になっても帰る家が無かったり貧困生活からは脱せない。
それなら、ここで働いて給金をもらうほうが、よほどましな生活ができると判断したようだ。
副支配人と荒事専門の五人を除いて二十六人が残ったことになる。
俺も最低限の人材を確保できてほっとしている。
旅館の仕事経験者は貴重だからな。
とはいえ、人手不足は否めない。
この旅館の評判が上がってくれば自然と客数も増え、今の従業員数じゃ足りなくなるに違いない。
そうすれば俺も働かないといけなくなるじゃないか。
だから早急に優秀な人材をスカウトしなきゃならないことは明白だ。
客がいつ来るか分らないので営業も続けなきゃならない。
だから人材探しは俺の役目になる。
あー面倒だ。
でも夢のゆるゆる人任せ異世界生活の為には、いまは耐えるしか道はないのだ。
俺は従業員の数人に副支配人の遺体と、重体で意識の無い五人の男達を奉行所に突き出し、状況の説明をしてくるように指示した。
奉行所の内部に裏切り者がいても問題はないだろ。
俺の事は調べられるかもしれないが、こっちにはオウカ姫お墨付きの印籠があるんだ。
そうそう強引な手段で俺を排斥したりはできないはずだ。
「ペティ」
「は、はい!」
「命を救う為には仕方が無かったとはいえ、強引なやり方でお前の人生を縛ってしまうことになり悪いと思っている」
「え? い、いえ、そんな、謝らないでください。命を助けられたのは私ですよ!? 私はこれで良かったと思います」
「そうか。それなら良かった」
「こんな身寄りのないダメダメな私にあなたは言ってくださいました。護ってやる、生きる喜びを与えてやるって。そんな幸せな言葉をかけて下さったのは貴方が初めてだったんです。だから、私は貴方にこの命を捧げ死ぬまでお側で仕えると決意できたんです」
「そうか。この【守護者任命】は本人が望まない限りは成功しない。だからペティの覚悟はすでにわかってはいるんだが、一言謝っておきたくてな」
「ご主人様は本当にお優しい方なんですね」
「そんなことはないよ。あ、それと別に俺をご主人様なんて呼ばなくていいんだぞ。契約関係ではあるが俺は呼び方にこだわらないから」
「あ、それならご主人様のままでいいですか?」
「ペティがそれでいいなら構わないけど」
「ありがとうございますご主人様っ! ご主人様は私の命の恩人でもあるし、一生仕えると決めた以上は、そう呼ぶのは私のけじめのようなものですから」
「わかったよ。俺もペティのご主人様に相応しくあるように頑張るよ。そうだ。これからはこの旅館の仲居達をペティに仕切ってもらいたんだ」
「ええ!? わ、私がですか? そんなこと急に言われても私にはできませんよ!? もっと他に接客の経験が豊富な人なんて沢山いますし」
「俺はペティにやってもらいたいんだよ。ペティの一生懸命に働く姿は見させてもらった。それだけでも十分な理由だ」
「そ、そんな! 私なんて未熟で仕事もたまに間違うし、ドジだしバカだし背も小さいし胸も無いし、全然これっぽっちもどうしようもないんですよ!?」
そ、そこまで言わなくても。
ペティって結構自虐的なんだな。
「でも、一生懸命に仕事ができるというのは才能だと思うぞ」
「え? え? そんな、私に才能なんてないですから」
「何よりも俺が気に入ったのは、ペティの可愛い笑顔だ」
「はぅ!? か、可愛い!?」
「ペティは笑顔でいつも通り働いてくれればそれでいいから。あまり気負わず好きにやってみろよ」
ペティは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
そんなところも可愛くて合格だ。




