蟻のように地中から脱出した先は和風異世界だった
あと少しのはずだ。
頑張れ俺!
ここまで真っ暗な地中を約六時間もの間せっせと掘り続けてきたけど、正直もう飽きていた。
え? どうして掘っているのかって?
それは地上に出るためだ。
今まではとある事情で暗くて窮屈な地下生活をしていたのだ。
ちょっと疲れたから休憩にしよう。
額の汗を手で軽く拭き取って、用意してあった水袋の中の水を喉に流し込む。
ふぅ〜、生き返ったー!
元々死んではいないけどな。
地上まであと少し。
俺はすぐに掘削作業を再会する。
それから一時間程さらに掘り進んだ。
おっ? 手応えが変わった。
少し土が堅くなってる。
この感触って人工的に固められた土だよな。
これを突き抜けたら地上に出れるはずだ。
ここまで長かったぜ!
最後のひと掘りだ。
よいしょっと、うっ! 眩しっ!
太陽光が目に染みる。
ようやく開通だ。
ここからが俺のゆるゆる人任せ異世界生活が始まるのか!
しかーし! 勢いも大事だが何事も最初が肝心だ。
安全を確かめるために、まずは顔だけ出して周囲の様子を伺おう。
あれ? なんだか人がいっぱい。
見た目に強そうな男が何人もいるし、その中には女性も交じってる。
そんでもって俺に視線が集中してるな。
え!? この人達着物着てる!?
袴を履いているし腰に刀も差しているな。
ちょんまげはしてないけど時代劇でよく見るような武士の服装だよ。
てっきり異世界転移してきたんだから西洋的な中世を想像していたけど、まさか和風の異世界だとは思わなかった。
あれ、でも西洋風の格好している剣士もちらほらいるな。
俺のいた世界と同じで、いろんな国や文化があるんだろう。
まあ、当然の事だけど地中から突如現れた俺に驚いてみんな硬直してる。
そんなに見つめられると照れるな。
どうやら俺が出た場所では何かの試合中だったようだ。
俺を挟んで強そうなおっさん二人が木刀を構えて向かい合っていた。
「何奴っ!」
二人のおっさんのうち五十代くらいの、左頬に傷のある強そうなおっさんが俺に殺気を向けてきた。
まあ、そうなるのが普通だよな。
いきなり地中から人が出て来たら誰でも警戒するよ。
ははは、まずいタイミングで顔出しちゃったか。
周囲の奴らはみんな腰の刀に手を添えていて、斬り掛かる準備オッケーって感じになっている。
なんかこういうの時代劇のクライマックスで見たな。
主人公に寄ってたかって襲い掛かるってやつ。
とりあえず穴から出て地面に立とう。
俺は穴から這い上がり地面に立った。
うわっ! 地面の中を掘り進んできたから、俺の全身土まみれになってたよ。
この世界に風呂はあるかな、さすがにあるよな。
早く風呂に入りたい。
おお? 少し離れたところには華やかな桜柄の着物を着ているお姫様って感じの女の子発見。
まだ十台半ばくらいで気が強そうではあるけど、すごく可愛いな。
将来かなりのべっぴんさんになるに違いない。
人間の女の子を見るのも本当に久しぶりだ。
嬉しすぎて泣きそう。
俺が姫に見とれてたら護衛らしき人達が姫を庇うように立ちはだかった。
すごく怖い形相で睨んでる。
え? あの人達が構えてるのはすごく旧式だけど銃だよな?
銃を製造できるならそれなりに技術の発達してる世界ということだ。
服装は着物だしこの世界の文化レベルは戦国時代か江戸時代あたりかな。
さっき『何奴』って言われて気付いたけど、俺はこの世界の言葉を理解できてるよな。
話が通じるなら、この緊迫した状況を話し合いで解決するのが最善策だろう。
うん、それがいい。
平和でピースフルが一番。
初めて会った人に好かれるには第一印象が大事だ。
まずは満面の笑顔で挨拶からだよな?
「は、はろ〜?」
き、緊張し過ぎて下手な英語の挨拶になってしまった。
それに笑顔が引きつって凶悪な顔になってたと思う。
うわっ、周囲の人達から向けられる視線がさらに刺々しいものになちゃったよ。
何を意味の分らない事を言ってるんだこいつって感じで俺を睨んでる。
だって俺さ、人間相手に肉声で話すなんて三十年ぶりだから。
ずっと地下にいる間は【念話】っていうテレパシーみたいなスキルで会話してきたんだ。
そんなに長い間声出してないんだから、うまく話せるわけがない。
三十年ぶりってことは俺はおっさんなのかって?
話せば長くなるけど外見は十七才のままだよ。
心当たりはあるけど、詳しくは自分でも知らん。
じゃあ、ちょっと昔話するか。
俺が地下から出てきた理由にも関係あるし。
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