支配者スキル
ペティは俺に説明してくれた。
「ユラリ様はこの国に来て間もないので知らないのかもですが、この首の紋様は主人と奴隷契約を結んだ証なんです。主人の命令は絶対。逆らう奴隷はこの紋様を通じて制裁スキルで激痛が与えられる契約なんです」
そういえば城で会った奴隷達は首に布を撒いていたな。
紋様を隠すためにしていたのか。
異世界で流行っているファッションかと思っていたよ。
他の従業員の首もよく見ると、たしかに紋様が見える。
「そうだったのか。ん? もしかして昨日俺の目の前でうずくまったのは」
「はい。ご主人様が私に用事があるときに私が近くにいなければ、痛みを与えてお呼びになるんです」
そんな事のためにペティはあんなに苦しんでた?
ただ呼びつける為だけに激痛を!?
結構カチンときた。
ペティは慣れていると言ってたから日常的に激痛に耐えているんだろう。
そういえばペティのパッシブスキルで【忍耐】と【痛み耐性】のレベルがやけに高かったのはそのせいなんだな。
そんな拷問のような毎日でもペティはあんな輝く笑顔を俺に見せてくれたのか。
ペティって、ええ娘やな〜。
副支配人殺すか、うん、今すぐ殺そう。
まてまてまて、今は落ち着け俺。
「オウカ姫の話しでは奴隷は法で護られていて、主人が奴隷を酷く扱う事を禁止されていると聞いてたんだが? どうなんだ副支配人?」
「はて、私は奴隷に三食与えていますし、酷い扱い等はしていませんが? そもそも私が必要としているときに側にいない奴隷が悪いんです。お仕置きして呼び出すのは当然でしょう」
用があるならお前が動けよ!
まあ、楽したいという気持ちは分るけど、だからってやって良い事と悪い事があるだろ。
「つまり、奴隷保護法は主人となる者の解釈次第だと言うのか? まるで奴隷を道具扱いだな。……もしかして、働かせておいて給金も払っていないのか?」
「当然です。道具に給料を払うやつはいないでしょう? それに、気に入らなければ痛みを与える。死ねば新しいのを買う。単純明快です。痛みを与え過ぎて何人か殺してしまったときには、さすがに少し後悔しましたけどね。新しい奴隷を買うのもお金が必要ですので」
そうか、こいつはあれなんだな。
クズ族っていう種族だ。
「そういう事ですので、あなたに従う者はここには誰もいません。ああ、奉行所に訴え出ても無駄ですよ。この旅館に関する訴えは全てもみ消される事になっていますので」
「本来取り締まる奉行所にも腐ってるやつがいるのは聞いていた。どうりで旅館の復興計画がうまくいかないわけだよ」
「あなたが何を喚こうが勝手ですが、これからも私は私の思うようにさせてもらいます。忠告しておきますが、私の邪魔をするようなら強引に支配人の座を降りてもらいます」
副支配人の合図でロビーでサボッっていた屈強な五人の男達がにやけながら歩み出てきた。
こいつら荒事専門の奴隷ということか。
俺が騒ぐようなら力づくで黙らせるとか、どこの暴力団だよ。
「前の支配人もそうやって辞めさせたのか?」
「理解しているのなら口出しはしないのが身の為ですよ」
こりゃ、何人も支配人が変わったとしても赤字が解消されないわけだよ。
この手は使いたくなかったんだが仕方が無いな。
「なんかお前さ、勘違いしてないか?」
「なんですって?」
「さっき俺はこの旅館を俺のものだと宣言したよな」
「はっ、それがどうしたのです。実際にこの旅館を支配しているのは私ですが?」
「それはどうかな」
「戯れ言もそのくらいにしてください。私もいろいろ忙しいので」
「確かお前、鑑定スキル持っていたよな。この旅館を鑑定してみろよ」
「何をふざけた事を」
「そうすれば分るさ。お前が今まで支配して来たこの旅館が誰の物になっているかがな」
「まさか、そんなことありえない。いいでしょう。そこまで言うのであば。……【鑑定】!」
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◆日乃光旅館
東江の都の西に位置する国営の旅館。築二十年の木造二階建ての建物が並ぶ総敷地面積は約一キロ平方メートル。客室数は百五十七室で収容人数五百人以上の日乃光の国で一番の規模を誇る大旅館。
※現在この旅館は縄張り指定されています。
※このテリトリーの支配者はユラリ・ツクミハラです。
※ユラリ・ツクミハラの命令に従わない者は支配者スキルにより制裁が行われます。
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この【縄張り指定】というスキルは、俺が蟻の女王から兵隊蟻の指揮を任されたとき、何万という兵を従えるために役立ったスキルで、一定の広さの土地や建物を自分の縄張りに指定する事ができ、その縄張り内の生物全てに支配者スキルを使えるようになる。
「は!? なんですかこの鑑定結果は!?」
「分っただろ? この旅館はすでに俺のものになった。つまり俺がここの支配者だ」
「だ、だからといって私や奴隷どもが言う事を聞くと思っているのですか!?」
「ああ、聞くさ。なにせ、ここを俺のものにしたという事はこの旅館の敷地内では支配者スキルが使えるからな」
「支配者スキル? 何ですかそれは」
「お前もペティに使っていたようなスキルだよ。主人が自分の奴隷だけに使用できる制裁スキルと同じようなものだ」
「ありえない。それではまるで私たちがあなたの奴隷になったように聞こえますが?」
「その通りだ。これからそうなるのさ」
俺は意識を集中し支配者スキルを行使する。
「支配者スキル【隷属契約強制解除】発動。これはテリトリー内のあらゆる隷属契約を強制的に消滅させるスキルだ」
俺がスキルを行使するとその場にいた従業員達の首が淡く光り始めた。
すぐに従業員達の首にあった奴隷契約の紋様が消えていく。
支配者スキルには様々な種類がある。
上記のように他の契約を強制的に解除するものや、縄張り内にいる生物の行動を制限するもの等がある。
この旅館を縄張りに指定できたから、蟻だけでなく人間にも効果があるのは間違いなかった。
ペティが懐から手鏡を出し、自分の首を確認している。
「え!? ほんとだ。奴隷の紋様が無くなってますっ!」
他の従業員もお互いの首を見て驚いているな。
ん? 副支配人が顔を赤くして怒っているぞ、いい気味だ。
「あ、あなた! 何と言う事をっ!! どうやったのかは知りませんが奴隷契約を強制的に解除するのは奴隷保護法で重罪にあたりますよ!」
「奴隷に拷問まがいのことを日常的にするのは重罪じゃないのかよ」
「ええいっ!! うるさい、うるさい! 威張り腐った小僧が!」
「ほう、それがお前の本性か。お前、俺に逆らったから副支配人を首だ」




