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宣言




※ユラリ視点。




 地上生活二日目の朝。


 俺は朝起きて、朝食を食べてから受付に向かい、そこいた副支配人にオウカから借り受けた家紋入りの印籠を見せた。


 それから俺は副支配人に自分が旅館の新しい総支配人になった事を伝えると、俺が客だった時よりも丁寧で腰の低い態度になった。


 普段から客にそういう態度で接しろよと思ったが、まあそんな事は後だ。旅館の従業員全員を受付のある広いロビーに集めた。


 白い服を着ているのは料理人達か。

 お? ペティと同じ服を着ている仲居も他に数人いたのかよ。

 まあ、こんなに広い旅館だからいるのは当たり前なんだが。


 他には仕事してなかった作務衣を着ている屈強な男達五人と、裏方担当のらしき従業員が数名。

 それにしても少ないよな。

 集まったのは従業員全員といっても三十二人。

 ペティに聞いていた通りだ。


 従業員は全員集めたが、仕事には何の支障もない。

 なぜなら今この旅館に宿泊している客は俺だけだったからな。

 副支配人に聞いたら予約が一件も入っていないとのこと。


 聞いてはいたけど、本当に客が来てないんだな。

 仕方ない、この旅館がダメなのは分っていたことだ。

 俺はざわついている従業員達に向かって声を張り上げる。


「おはようみんな! 突然集められて戸惑っているとは思うが、今は俺の話しを聞いてくれ」


 皆は俺の言葉を聞こうとして静かになった。


「俺は今日からここの総支配人になった者だ。名をユラリという。昨日はこの旅館の現状を知る為に客として泊まらせてもらった。十代の小僧が何を言っていると思うだろうが、実際にオウカ姫からこの家紋入りの印籠を託されたので信用してほしい」


 俺は印籠を皆に見えるように掲げると、再び皆に戸惑いのざわめきが起きる。

 地面に這いつくばったりはしないようだ。

 少し残念。


「それでだ、宣言しておく。今日からこの旅館は俺のものだ。俺の決めたルールに従ってもらう。身分や種族やその他諸々の上下関係は無効とする。俺がここのボス。その他は皆只の従業員だ。つまり俺以外の命令を聞く必要は無い。分らない事や判断に迷ったら全て俺に聞け。俺が全部指示を出す。以上だ」


 副支配人が揉み手をしながら発言した。


「ははは、冗談です、よね?」


「冗談じゃない。マジだけど?」


「そ、それはちょっと……昨日来たばかりのユラリ様では難しいのでは? 旅館の仕事内容も詳しく知らないでしょうし、細かな指示でしたら私が皆に伝えれば済むと思うのですが?」


「まあな、それができればいいんだが、今はできないな」


「ど、どうしてです?」


「お前らが小銭を稼ぐ為にこの旅館を食い物にしているからだ」


 俺の一言で場の雰囲気が変わったな。

 大半の者が関係しているということか。

 副支配人が涼しい顔で弁解してきた。


「なにを根拠の無い事をおっしゃるのです。私たちがそのようなことをするはずがない。証拠はあるのですか?」


 こいつ、動揺した素振りをみせないということは、ばれない自信があるんだろうな。

 実際に証拠があるわけじゃないからな。


「そうだな、証拠は無い」


「でしたらっ!」


「証拠は無いが俺は確信している。それだけで十分だろ? 俺はここの総支配人なんだから」


「それは横暴というものでは?」


「じゃあ面倒だけど説明するか。まず国から支給されている旅館の再建資金の額に比べてここの旅館で提供されるサービスの質が低すぎる。副支配人。お前、旅館の維持費を節約して余った再建資金を横領してるだろ」



「な、なにおっしゃる!?」


「それと、館内に展示されていた美術品が所々無くなっていたのは、売り飛ばして金に変えてるんだろう」


 昨日ロビーでくっちゃべってた柄の悪い男達が反応したな。

 あいつらも一味か。


「まだ、あるぜ。ここの温泉水を過剰に汲み上げて売っている事もある人から聞いた。それでここの風呂は只のお湯で薄めているって事もな」


 副支配人がペティをすごい顔で睨んだぞ。

 俺を接客をしていたペティがちくったと思ったのか。

 お湯の件も副支配人の指示かよ。


「あとは料理についてだ。料理長、前に出ろ!」


 俺が少し強めに命令すると料理人の白い服を着ている、二十代前半の女が歩み出て来た。


「あたいがここの料理長をさせてもらってるカエデだ」


「どうして手を抜く?」


「っ!?」


「お前、かなりの料理の腕前を持っているのに、どうして手を抜いてるんだと聞いているんだ」


 俺は夕食を食べたときに気がついたんだ。

 素材の下ごしらえや調理技術は一流なのに、一番大事な味付けが中途半端にされていたことを。


「そ、それは……」


 カエデは副支配人に視線を送ったが、当の本人は素知らぬ振りだな。

 これも副支配人の指示か。


 大方旅館全体のサービスの質をわざと下げることで来客数を減らし、それに合わせて従業員も減らす。

 そうして旅館の維持費を極限まで下げ、その分使われずに残った再建資金を丸々横領ってところだな。


 経理は何をやっているんだ?

 この国には税務署はないんだろうか。

 ちょっと調べたら分るようなものだが。


 何年そうしてきたかわからないが、相当な額になると思う。

 口止めもかねて今いる従業員の給料を上げたりしているんだろうか。

 どうして今の今までばれなかったんだろうな。

 内部告発もなかったのか?


 この付近の土地を管理している偉い奴も金で丸め込まれているのかもしれないな。

 もしくはその逆かもしれない。


「だが、俺は過去にはこだわらない。今迄のことは全て水に流す。これから俺に従い、俺の命令を聞いて真面目に仕事をするならばな」


 副支配人が作り笑顔をやめた。


「ユラリ様。それはできない相談ですね」


「どうしてだ?」


「あなたに従う者などここには誰一人いないからですよ」


 副支配人は余裕の表情だ。


「さっきも言ったが俺はオウカ姫にこの旅館を任せられてるんだけど?」


「あなたのような勘違いする人が前にもいましたね。ここの従業員全ては私と奴隷契約を結んでいる者達なのです。皆私の指示以外聞きません」


「は? そうなの?」


 俺はペティに目を向け事実なのか聞いた。


「は、はい。その通りです」


 ペティは襟を少し開き首を一回りしている紋様を見えるようにした。




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